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「財政の番人」も、ついに消費増税延期を認めはじめた?〜「その後」を見据えて動き出した人たち
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48242
2016年03月22日(火) 町田 徹「ニュースの深層」 現代ビジネス
■憲法改正のためにも
消費増税の2度目の延期に向けて、安倍晋三首相が自ら、待望論を煽り始めた。舞台は、2人のノーベル経済学賞受賞者を含む内外のエキスパートからヒアリングする「国際金融経済分析会議」だ。
シナリオ通り、先週水曜日(3月16日)、トップバッターとして登場した米コロンビア大学のスティグリッツ教授は、消費増税に対する慎重論をぶちあげた。本稿がアップされる22日火曜日には、米プリンストン大学のクルーグマン教授がダメ押しするだろう。
安倍首相が、こうしたノーベル賞受賞学者による援護射撃を最大限に有効活用するハラなのは明らかだ。5月の伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)で、消費増税の再延期を、混乱する世界経済を安定化させるための日本の主要な対策のひとつに掲げ、議長国としてサミットをリードする戦略という。
さらに、増税再延期に対する国民の信任を得ることを衆議院の解散・総選挙の大義名分に据えるだろう。7月の参議院選挙にあわせて、自民党に有利とされる衆参ダブル選挙を断行し、悲願の憲法改正に繋げる戦略が透けて見える。
安倍首相の念頭にあるのは、自・公の連立与党が議席の3分の2を獲得する大勝利を収めた前回(投開票2014年12月14日)の総選挙だろう。
この選挙で、安倍政権は、2015年10月に予定されていた税率を8%から10%に引き上げる消費増税を2017年4月に延期することを決めたうえで、その判断の是非について国民の信を問うとして解散・総選挙を断行、歴史的な大勝を収めた。
当時から、首相官邸筋は、増税について「責任論で言えば、(増税は)一つの内閣で1回やれば十分。2度もやれば、どんなに国民から厚い信任を得ている内閣でも政権を維持できない」と漏らし、2017年4月の消費増税の再延期も辞さない構えを見せていた。その意味で、増税再延期は早くから想定された通りの展開といえる。
■ジョゲルソン教授招聘の意味
前回と違うのは、増税延期のコンセンサス作りの徹底ぶりだ。
前回の「今後の経済財政動向等についての点検会合」では総勢42人の学者や経営者、自治体首長らから意見を聞いたものの、そのすべてが日本人だった。しかし、今回の「国際金融経済分析会議」には、2人のノーベル賞受賞学者や同賞受賞の有力候補とみられる学者など、大物の米大学教授を3人も招いた。
その人選で、政府が周到な選別をしたことも見逃せない。
会合2日目に意見陳述した米ハーバード大学のジョルゲンソン教授は、世界経済が「上振れして成長する可能性を十分に秘めている」との立場から、日本の税制のあり方に言及。生産性を高める国内改革が必要で、「負担を課す対象を投資から消費へと移して、民間投資を喚起すべきだ」と消費増税を必要とした。
同教授は、ノーベル経済学賞の受賞候補者の最右翼の一人ではあるが、まだ受賞はしていない。
一方、初日にトップバッターで登場したスティグリッツ教授は、2001年にノーベル経済学賞を受賞した学者だ。今や、この分野で、大御所中の大御所である。会合では、「2015年はリーマン・ショック以降で最悪の状況だったが、16年はさらに弱くなる」と危機感を露わにし、消費増税を再延期すべきだと熱弁を振るった。
さらに、スティグリッツ教授は、会合後に首相と個別に会談。その後、記者団に「首相は(増税先送りを)検討するだろう」と語るという、おまけまで付けた。
2008年のノーベル経済学賞受賞者であるクルーグマン教授も、日本の消費増税に反対の立場を採ってきたことで有名な人物だ。22日の会合で意見陳述し、消費増税の再延期に向けたダメ押しをするものとみられている。大物がこぞって消費増税を否定する構図になっているのだ。
■財務省もあきらめモード?
増税再延期を推進する立場に立てば、こうした「国際金融経済分析会議」の議論は、前回の消費増税延期の地ならしの場だった「今後の経済財政動向等についての点検会合」より、遥かに洗練されている。
前回は、数の上でも、財政再建の重要性を根拠に予定通り消費増税をすべきだとの議論が優勢で、延期論を強く唱えたのが首相の経済政策ブレーンの2人(浜田宏一、本田悦朗内閣官房参与)のみだった。にもかかわらず、最後に首相が強引に消費増税延期を表明し、会議そのものに出来レースとの批判が出る結果を招いた。
今回も、経済学者や民間エコノミストの間では、消費増税の是非を巡る意見は依然として割れている。それだけに、「国際金融経済分析会議」の人選を巡って、政府が周到な準備をしたことが目立つ構図となった。
また、「財政の番人」として、時の政権や政治家と対峙することも辞さない財務官僚たちも、今回はお手上げと聞く。すでに増税再延期への抵抗を断念し、いずれ消費増税が実施される際に、セットで軽減税率を導入することと引き換えに、インボイス制度を導入して中小事業者などが受け取った消費税を納税しないで済む益税の道を封じることに闘いの焦点を移しているという。
これまで壊れた蓄音機のように「リーマン・ショックや大震災級の事態にならない限り、予定通り(消費税率を)引き上げていく」と繰り返してきた安倍首相が、先週末(18日)の参院予算委員会で、ついに「経済状況を注意深くみていきたい。経済が失速しては元も子もなくなる」と軌道修正したのは、妥当な判断だろう。本コラムで繰り返してきたように、尋常でない危機には、尋常でない対策が必要だからだ。
サミットの議論をリードするため、「国際金融経済分析会議」に、世界的な経済学者たちを出席させ、日本の消費増税再延期問題への国際的な関心を高めようとすることも意味がある。中国ショックを克服するには、出鱈目な統計の見直しや過剰供給力と不良債権の処理が覚束ない中国に対し、サミット参加国をまとめて圧力をかけていく必要があるからだ。
ただ、消費増税の再延期で過去の経済政策の失敗まで免罪されるわけではないことを、安倍政権は自覚する必要がある。
特に、アベノミクスの3本の矢のうち、政策として短期的な効果しか望めない「異次元の金融緩和」(第1の矢)と「機動的な財政政策」(第2の矢)ばかりに依存し、肝心の潜在成長率を引き上げる「成長のための構造改革」を怠ってきたツケはあまりにも大きい。
外国人労働者の積極的な活用や、弾力的な移民の受け入れといった施策を含めた人口回復策の断行など、抜本的かつ本格的な岩盤規制見直しに、今こそ、取り組むべきである。
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