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アベノミクス、その失敗の本質 「一撃講和」か「立て直し」か
http://mainichibooks.com/sundaymainichi/column/2016/03/27/post-756.html
サンデー毎日 2016年3月27日号
倉重篤郎のサンデー時評 連載92
金利というものを意識したのはいつからであったか。今から30年前、住宅ローンを組んで、ささやかな中古マンションを購入した時であった。当時は金利が6%台。借金返済計画が記された蛇腹表を広げながらため息をついたものだ。完済まで先は長いな、と。
と同時に二つのことに気が付いた。一つは、金利効果が馬鹿(ばか)にならないことである。1000万円の借金ではあったが、6%金利、35年償還で最終的に払う元利合計が3000万円を超えること。二つ目に、毎月同額を返済するわけだが、その元利割合を見ると、最初はほとんどが利子(2000万円)部分の返済に向けられており、元金(1000万円)部分の返済にはなかなか行きつかないことだ。いかにせっせと返済しても肝心の元金部分の借金がちっとも減らない仕組みとなっている。
ナルホド。金融資本はこうやってもうけるのだ。金利というのは馬鹿にならないな、とつくづく感じたものである。
金利との二度目の出合いは、経済部に出向し公定歩合の上げ下げを取材した時だった。中央銀行(日銀)が民間銀行に貸し出す基準金利を公定歩合といい、景気が過熱すればこれを上げ、不況になればこれを下げる、という極めて重要な景気調整機能を担っていた。当然、その数値の変動はトップクラスのネタであり、その抜きつ抜かれつに身をやつしたものである。
今でも思い出す。プラザ合意後の円高デフレを恐れて日銀が公定歩合を2・5%にまで引き下げた1987年2月のことである。今では信じられないが、2・5%でも当時は超低金利と呼ばれ、これを2年3カ月続けたことが経済活動、特に投機を活性化しすぎ、その後のバブル経済の原因とされた。
こういった金利時代の記者からすると、今は異常である。ゼロ金利になって久しいが、それでも経済活動が大きく動かないのだ。
金利はなぜ生じるか。それはカネ(資本)が利潤を生むからだ。利潤はなぜ生まれるか。それは労働の成果である生産物に付加価値が生じるからである。それが資本主義というものだ、と教わってきた。ということからすると、現代は、金利が発生しない、つまり、生産過程で利潤を生みだす力の弱い異形の資本主義だといえる。
◇金融政策の縮小 政治の役割の放棄 経済に現れた「戦争の体質」
もう一つ、今の日本経済の特徴は、少子高齢化と経済活動の成熟化、そして若年層の貧困化により、潜在的な消費需要が著しく減退していることである。
アベノミクスは、この現代資本主義の構造矛盾と、日本的消費減退化という二つの本質的課題に無為無策だというのが私の見立てである。本来は、生産過程にメスを入れ、労働力を質量ともにレベルアップ(教育投資+移民政策)して潜在成長率を上げ、一方で、高齢者からより消費能力の高い若年層に資源を優先配分する政策が必要なのに、株価と為替で目先の成長幻想を求める政策に終始した。
その最たるものが日銀が民間から大量に国債を買い取る異次元緩和である。国債の対価としてカネがジャブジャブ流れ、そのことが円安、株高につながり、日本が誇る輸出型製造業の収益を改善したのは事実である。しかし、そこまでである。カネは企業の内部留保として滞留、投資と賃金には回らない。消費減退化には当然の企業行動だろう。いきおい内部留保が全くトリクルダウンしてこないのだ。
塩漬けは内部留保だけではない。日銀が買い取った300兆円の国債も出すに出せない。日銀が国債を出す(売る)となったとたんに国債暴落と金利暴騰が発生し、日本経済のメルトダウンにつながってしまうからだ。かくして、アベノミクスは金融政策のフリーハンドを極端に狭め、スポイルした。この罪は重い。マイナス金利は、国債のさらなる購入が困難になった手詰まり感の現れでもある。
アベノミクスのもう一つの欠陥は、時には国民に対して負担を求める、という政治本来の役割を放棄したことだ。民主党政権下、税と社会保障の一体改革が自公民で合意された。現役世代が自らの負担と痛みによって将来世代へのつけ回しを回避しようという画期的な政策合意だった。しかし、その努力は政権交代により、安直な金融ばらまき政策にとって替わられた。しかも、この一種の麻薬政策は、政権支持率を維持することで、時の権力者の悲願である別の政策(集団的自衛権の行使容認と改憲)を実現させる手段として取られた疑いが強い。目先の経済負担は先送りされたが、将来的な軍事負担は確実に増えたといえる。
さて、今後のアベノミクスである。加藤出(いずる)・東短リサーチ社長のたとえが恐ろしく秀逸だ。加藤氏によると、異次元緩和政策は、2年で2%物価上昇という目標が達成されなかった段階で、すでに敗戦濃厚である。そろそろ落としどころ、つまり講和を模索すべき時期なのにマイナス金利という徹底抗戦の姿勢を強めている。
加藤氏はこれをあの大戦に重ねる。まさに「作戦計画が間違った時に直ちにこれを立て直す心構えが全くない」という『失敗の本質』(中公文庫)を地で行っている。あの大戦では、今一度米軍に反撃してから講和に持ち込む「一撃講和論」を採用したが、その結果講和が遅れ戦死者が60万人増えた(全体で310万人)。
そしてこう結んだ。「一撃講和実現のために、限界を超えて国債等を購入し、マイナス金利をどんどん引き下げていけば、日本の金融市場は破壊し尽くされてしまう。冷静な判断が望まれる」(日本記者クラブでの会見などから)。
肝要なのは本土決戦に持ち込まぬことだ。作戦計画を静かに、抜本的に立て直す時期と考える。
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