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原発の絶対安全を目指していない安倍政権ー(植草一秀氏)
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13th Mar 2016 市村 悦延 · @hellotomhanks
東日本大震災、福島原発事故から5年の時間が過ぎた。
いまなおその後遺症は深刻に広がっている。
犠牲になられた方のご冥福をお祈りするとともに、
いまなお厳しい状況に置かれている方々に心からお見舞いを申し上げたい。
日本は世界有数の地震国であり、過去に巨大津波による大被害を受けてきた国だ。
人間は自然の力には逆らえない。
地震や津波と共に生きてゆくしかない。
その自然環境を踏まえたとき、日本で原発利用を考えること自体に無理がある。
福島原発事故の原因はいまなお明らかにされていない。
その理由は、日本の原発稼働を不可能にする可能性があるからだ。
東日本大震災では津波による被害が大きかったが、
それ以外に、当然のことながら地震の揺れによる被害も大きかったのである。
東京電力福島原子力発電所は、この地震および津波によって過酷事故を引き起こした。
原子力事故評価基準で最悪にランクされる過酷事故を引き起こしたのである。
幸いなことに、その過酷事故は、あとほんのわずかな相違で、
現状とは比較にならないほど深刻なダメージを日本全体に与えるところだった。
福島原発の立地が日本列島の東側海岸であったために、
原発から放出された放射性物質の多くは太平洋側に流された。
2011年3月14日に事故発生以来初めて降雨があったタイミングでは、
原発周辺の風向きが北西であった。
このために浪江町や飯館村の放射能汚染が深刻になったのである。
また、原子炉の爆発がさらに大規模なものになっていたら、
日本の歴史はここで潰えてしまっていたかも知れない。
それほどに重大な事故が発生したのだ。
原発の危険性が高まり、東電関係者が現場から全員退避することが
現実に検討される事態が生じていたのである。
まさにかすかな可能性をつないで、最悪の事態が回避されただけなのだ。
その事態の重さを権力者はまったく認識していないように見える。
このような事態は、絶対に二度と引き起こしてはならないのである。
ところが、安倍政権の基本姿勢は異なる。
「事故は発生し得ることを前提に」
原発再稼働を推進しているのだ。
このことは、過去の
「原発絶対安全神話」
を前提にした原発利用拡大の方針の上に立ったものとされる。
過去においては、
「原発は絶対的に安全な存在」
であることが前提とされていた。
原子炉は五重の防護壁に守られているから、絶対に安全なのだとされてきた。
しかし、この絶対安全神話は、あまりに杜撰なものだった。
原発が電源を失い、炉心の冷却が不可能になれば、五重の防護壁はいっぺんに壊滅してしまうのである。
冷静に考えれば誰にでも分かる原理が存在しながら、
「絶対安全神話」
を流布してきた罪は深い。
いまの安倍政権は、
「原発事故は発生し得るとの前提に立って」
原発再稼働を進めている。
「原発絶対安全神話」
は成立しないことが明白になったから、今度は、
「原発事故は発生し得る」
ことを前提に原発稼働を進めると言っているのだ。
これは筋違いも甚だしい。
原発事故が再度発生することを前提に原発を再稼働させるべきではない。
原発の規制基準は、絶対安全を確実に確保するレベルに設定される必要があるのだ。
「絶対安全」はないのかも知れないが、
「絶対安全」を確保するレベルで規制基準が設定される必要があることは当然のことなのだ。
ところが、安倍政権下で推進されている原発再稼働容認の基準は、卒倒するほどに低いのである。
私は原発利用そのものを断念するべきであると考えている。
しかし、安倍政権が推進する現実は異なる。
原発の絶対安全を確保するどころか、
原発の普通の安全を確保しないレベルで原発再稼働に突き進んでいる。
鳩山友紀夫元首相は、3月11日にツイッターで次のようなメッセージを発表された。
「2011年3月11日に発生した東日本大震災より5年が経過致しました。
この大震災により亡くなられた方々の無念さと、
最愛の肉親を失われた御遺族の深い悲しみに思いを致しますと、
誠に痛恨の極みであり、哀惜の念に堪えません。
改めて犠牲となられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、
福島第一原発事故により、故郷を離れざるを得なくなった方々、
また、故郷に戻られてもご不自由をされておられる方々を含めて、
すべての被災者の方々に心からお見舞い申し上げます。
時を同じくして、9日、大津地裁が、福井県の高浜原発3、4号機の運転差し止めの仮処分決定を下しました。
この意味は、稼働中の原発に対する初の運転差し止めであり、
そして、司法が原子力規制委員会の新基準に対して、安全とは言えないという、
極めて正当な判断をしたことです。
福一事故の直接の被災者の皆さまは当然ですが、
地震国・火山国日本における原発の安全性や再稼働に対して、
多くの国民が不安や不信感をもっていることは、否めない事実です。
政府は一刻も早く国民の声に耳を傾け、原発再稼働を止めさせるとともに、
エネルギー政策を大きく転換すべきです。」
これが良識の声というものだ。
鳩山元首相の言葉にある、
「司法が原子力規制委員会の新基準に対して、安全とは言えないという、極めて正当な判断をした」
という部分が極めて重要である。
原発を再稼働させる新基準として、何よりも重要なことは、
地震への備え
と
津波への備え
だろう。
そのうち、地震への備えでは、地震の揺れに原発施設が耐えられるのかどうかが焦点になる。
地震の揺れの強さは、
ガル
という単位で測る地震動
によって表示できる。
つまり、
何ガル
の揺れにまで耐えられる構造が原発設備に必要なのかを考えることがポイントになる。
この問題を考える際には、日本でどの程度の強さの揺れが発生する可能性があるのかが重要になるだろう。
関西電力大飯原発の運転差し止め訴訟で運転停止命令を示し、
高浜原発の運転差し止め仮処分を決定した元福井地方裁判所長の樋口英明氏は、
この点について明確な判断基準を示した。
判決要旨には次の記述がある。
「大飯原発には、1260ガルを超える地震は来ないとの、確実な科学的根拠に基づく想定は、
本来的に不可能である。
むしろ、
1 我が国において記録された既往最大の震度は、
岩手宮城内陸地震における4022ガルであり、1260ガルという数値は、これをはるかに下回るものであること、
2 岩手宮城内陸地震は、大飯でも発生する可能性があるとされる、内陸地殻内地震であること、
3 この地震が起きた東北地方と、大飯原発の位置する北陸地方、ないし隣接する近畿地方とでは、
地震の発生頻度において有意的な違いは認められず、若狭地方の既知の活断層に限っても、
陸海を問わず多数存在すること、
4 この既往最大という概念自体が、有史以来世界最大というものではなく、近時の、我が国において
最大というものにすぎないことからすると、1260ガルを超える地震は、大飯原発に到来する危険がある。
関西電力は大飯原発の耐震性能を1260ガルとしている。
樋口裁判長は、つい最近4022ガルの地震動が観測されているのだから、
1260ガルの耐震性能では、原発の安全性を確保することはできない、と指摘しているのだ。
重要なことは、樋口判決のキモと言える、この部分が世間にまったく伝えられていないことだ。
全国の原発に新しい規制基準ができた。
安倍政権は
「原発事故を踏まえて世界でもっとも厳しい基準を設定して、この基準をクリアした原発を再稼働させる」
と説明する。
しかし、
世界でもっとも厳しい規制基準
は
原発の安全性を確保する規制基準
ではない。
新しい規制基準でも、耐震性能基準はほとんどの原発で、
500〜800ガル
に過ぎない。
5000〜8000ガル
というのなら分かる。
しかし、現実は
たったの
500〜800ガル
の揺れにしか耐えらえられない設備で原発の再稼働を進めているのだ。
それでもこれは、世界で一番厳しい規制基準なのだ。
なぜなら、地震の巣の上に原発を立地する国などないからだ。
すべての者が強固な地盤の台地にビルを建てているときに、
沼地の跡地にビルを建てる者が、
うちの基礎工事は他のどの業者よりも厳しい基準で設計したと言っても、このビルが安全とは限らない。
こんなことだ。
主権者は、原発再稼働に関する何よりも重要な情報を正確に知り、
原発再稼働を阻止することに力を注がねばならない。
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