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《告発スクープ》安倍首相〈河井克行〉 補佐官の暴力とパワハラ 秘書への傷害事件で刑事告訴も〈証拠写真入手〉
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「週刊文春」2016年3月10日号 :東京新報
「地球儀外交」を掲げる安倍首相の手足というべき首相補佐官に重大な疑惑が浮上した。元秘書は「あの人だけは許せない」と過去の暴行事件を実名告発。別の秘書へのパワハラや記者へのセクハラも発覚した。この男に日本を代表して外交の舞台に立つ資格はあるのか。
今年一月、首相官邸四階にある「補佐官室」に罵声が響き渡った。
「アンタ、俺がいったい誰だか分かってんのか!」
罵声の主は、「ふるさとづくり推進および文化外交」担当の首相補佐官、河井克行氏(52)。相手は、内閣府の沖縄担当政策統括官である。
「怒りだした原因は、河井氏に対して沖縄振興策についての説明がないから、だとか。外交通を自認する河井氏は、沖縄にかなり入れ込んでいて、一昨年の沖縄知事選でも頻繁に沖縄入りしてます。ただ補佐官としての担当には沖縄そのものは入ってないのに、沖縄振興担当部局の事務方トップである統括官を怒鳴りつけるのは異様なこと。ましてや統括官が菅義偉官房長官の信任が厚い人物だったこともあって、霞が関で話題になりました」(官邸関係者)
だが、河井氏にとっては、こんなことは日常茶飯事とある官僚は証言する。
「霞が関では、河井=役人を怒鳴る政治家という位置づけです。恫喝すれば役人を動かせると信じているようなところがあります」
いったい河井氏とはいかなる人物なのか。
「松下政経塾出身で、広島県議を経て、一九九六年の衆院選に自民党公認で立候補して初当選しました。すでに当選六回の中堅議員。政治の師は橋本龍太郎元首相で、広島県議である妻の案里氏との結婚式の仲人を務めてもらったほどです」(政治部記者)
鳩山邦夫氏が会長をつとめる政策グループ『きさらぎ会』の幹事長でもある。
「二〇一二年の自民党総裁選で鳩山氏とともにいち早く安倍支持を打ち出した論功行賞で昨年十月、補佐官に就いた。安倍官邸が掲げる地球儀外交の尖兵として、米国議会と関係を構築し日本の外交政策への理解を広げる役回りです。一方で外務省が官邸の意向を無視して勝手な動きをしないかを見張るという裏の役割もあるそうです」(同前)
そうした背景もあってか、外務省は河井氏に秘書官を出していない。
「異例なことに、秘書官の一人は内閣情報調査室からの出向です。河井氏は内調トップの北村滋内閣情報官と親しく、北村氏から得た情報を『最新情報だ』と得々と吹聴して歩き、“永田町の梨元勝”を自称していたほど。この史上初の人事も北村氏に頼んで実現した。ただ、河井氏がパワハラまがいの苛烈な要求をするため、秘書官も相当追い込まれているとも聞きました」(別の官邸関係者)
では、その河井氏は補佐官として実際に何をしているのか。
「松下政経塾在籍中に米国で研修したこともあって英語は堪能。『月の半分は外遊している』と本人が豪語するほど、頻繁に海外に足を運んでいます。今年一月には、安倍首相の名代として訪米し、慰安婦問題をめぐる日韓合意を米国政府関係者に説明して回ってます」(前出・政治部記者)
とりわけワシントン訪問には補佐官就任前から熱心で、一三年からの三年あまりでその回数は十八回。
「本人は外相になることを目指しているらしく、その布石のつもりで力が入っています」(同前)
■運転中に後部座席から「蹴り」
だが、ワシントンの日本大使館関係者からはこんな声があがる。
「アポをやたら詰め込みたがり、次の面会に遅れると大使館員を怒鳴り散らす。しかも、米国や中国の政治経済などについてのグローバルな知見がないので、議会関係者や研究者との話も盛り上がらず、深いネットワーク作りにつながっていない。何をしにこれほどワシントンにやってくるのか理解できません」
河井氏が後援者に配っている冊子「月刊 河井克行」をみると、マイケル・グリーンCSIS副所長やクリストファー・ジョンストンNSC日本部長ら米政府要人とのツーショット写真が目白押しだ。
とここまでであれば、秘書や官僚へのパワハラは問題があるにせよ、「チーム安倍」の外交パートを担う人間として、それほど大きな瑕疵(かし)があるとはいえない。
だが、ある国会議員は、信じ難い話を披露する。
「河井氏の秘書に対する暴行の跡が一目でわかる“写真”が存在します。実際に私もこの目で見ました」
これが事実だとすれば、安倍首相の補佐官としての河井氏の適格性が問われることになる。そこで小誌取材班が取材の結果、手に入れたのが、下に掲載した写真である。
「あの人だけはどうしても許せんのじゃ」
記者にそう話すのは、広島市に住む中村秀雄氏(74)。九九年四月から七月にかけて河井氏の秘書兼運転手を務めた中村氏こそ、問題の写真に写った本人である。河井氏に暴行を受けた時の状況をこう説明する。
「あの人は私が車を運転しとると、運転の仕方や言葉づかいが気に入らんと言っては、『このやろう』と罵声を浴びせかけ、ハンドルを握る私の左腕めがけて後部座席から革靴のまま蹴ってきよるのです。こちらは運転中じゃけん、よけることもできん。私が運転手になった直後から暴力が始まり、毎日のように蹴られたのです」
たまりかねた中村氏が病院に駆け込み、診てもらった病院の看護師に撮ってもらったのが、問題の写真だという。医師の診断は全治十四日間だった。
だが河井氏による仕打ちはこれだけではない。同じ年の六月二十九日のこと。
「この日は広島に大きな被害をもたらした豪雨災害の日だったのでよう憶えとります。河井氏を乗せて山道を走っていると、いつものように些細なことで怒鳴り始めたんです。ついには『おまえ、車から降りい』と言い出したので、私は運転を代われという意味じゃと思って車を降りたところ、河井氏は運転席に乗り込むなり私を置いてそのまま車で走り去ったのです」
豪雨のなか、傘もないまま山道を一時間も歩いてようやくJRの駅にたどり着き、ずぶ濡れのまま列車に乗って帰ったという。
「あの時のみじめさは決して忘れられんのです」
そう振り返る中村氏は河井氏よりも二十二歳も年上。秘書と国会議員という立場とはいえ、親子ほど歳の離れた相手にこの仕打ちである。さらに河井事務所の秘書は、犯罪行為にも加担させられたという。
「私が秘書をしていた当時、河井氏の選挙区である広島三区には強力な対立候補がいました。河井氏は私が運転する車で選挙区内を夜中に回り、相手陣営のポスターを見つけるたびに破棄するよう指示したのです。剥ぎ取ったポスターは事務所でゴミに出すと問題になる恐れがあるけん、河井氏の母親が近くで経営しちょった薬局からゴミとして出していたのです」
ひとたび秘書となったからには長く勤め上げなければならないと踏ん張っていた中村氏も、「三カ月が限度」と秘書を退職した。中村氏はその後、広島県警に傷害罪で河井氏を告訴し、県警はこれを受理。さらにポスター剥がしについても、器物損壊罪で告発した。
だが、退職後の二〇〇〇年、その中村氏自身が河井氏の選挙ポスターをカッターナイフで切り裂くなどしたとして器物損壊の現行犯で逮捕されてしまう。
「私にはどうしても我慢がならなかったのです。今となれば、私がやった行為について深く反省しています。私が逮捕されてしまったことで、告訴した件も立ち消えになってしまいました」
中村氏の行為は当然責められるべきであろう。だがその一方で、元秘書をして、そこまでの行動に走らせたものは何だったのだろうか。
■休職一週間後に急死した秘書
中村氏が受けた仕打ちはレアケースではない。小誌では十人以上の河井氏の元秘書に取材を行ったが、口々に河井氏によって受けた暴力について明かし、秘書に対するパワハラが日常化していたことを証言した。
その一つが〇五年に公設第二秘書として在職中に心筋梗塞で亡くなった男性のケースだ。男性は早期退職した後、地元の体育協会で副会長を務め、少年ソフトボールの監督などをしていた。当時五十九歳。健康そのものだったという。
男性の妻は、涙ながらに小誌記者にこう語った。
「秘書になってからは、毎晩十二時を過ぎないと帰って来なくなりました。仕事の内容を聞いても詳しく話さないのですが、ある晩、全身ずぶ濡れになって帰ってきたので『どうしたん?』と聞くと、『河井に水かけられた』と。私はただ驚くだけでした。そのうち『眠れん』としきりに愚痴をこぼすようになったので、辞めるよう勧めたのですが、『ああ』と答えるだけ。あの時にもっと話を聞いてあげれば、あんなことにならなかったのです」
男性が本格的に体調を崩したのを見かねて、休職を勧めたのは河井氏の父親だったという。だが自宅で療養に入って一週間後、男性は高熱を出し、帰らぬ人となった。
「葬式には河井先生の奥さんは来ちょったんですが、本人は今に至るまで一度も手を合わせに来てくれたことがありません。自分の秘書が在職中に亡くなったのに。夫の遺品の中に手帳があり、見てみると、先生にどんな仕打ちを受けたかびっしりメモしてありましたが、夫がこんな目に遭っていたのかと思うと辛くて燃やしてしまったのです」(同前)
妻は記者にこう呟いた。
「政治家って皆あんな人なんですか」
河井氏のあまりの傍若無人ぶりに事務所を離れる秘書は後を絶たない。
「私が河井事務所に入った時に『あなたがこれで二百何十人目だったっけ』と言われました。ブラック職場として有名になり、一時は職安に求人を出すこともできないほど。なかには最短で五分しかもたなかった秘書もいます。初日に運転手をやって、先生を送り出すなり、すぐ戻ってきて『辞めます』ですから。
また別の秘書が退職を申し出たので、『辞めるなら何か理由を書いてからにしては』と勧めました。次の日の朝、事務所に来たら、壁一面に『恨みます』と書いた紙が貼ってあったのです」(元秘書のA氏)
河井氏に苦しめられたのは秘書だけではない。
「河井さんには往生したんじゃ」
そう語るのは、地元の「第一タクシー」の会長だ。
「運転する秘書がいないということで、うちの乗務員を出すようになったんじゃけど、誰を出しても三日ともたん。人を人とも思わずゴミのような扱いをする。何か気に食わんと後ろから運転席を蹴るし、助手席に乗ったら手で叩いてくる。暴言を吐くわ、無理難題を言うわ。『スピードを出せ』と怒鳴るから『法定速度を守るよう会社から言われています』と答えると『捕まったら俺がどうにかするから走れ』という。しまいには百二十人いた乗務員の誰もやりたがらなくなり、断るようなった」
女性記者に対するセクハラ行為も発覚した。
〇九年、河井氏行きつけの六本木の店で初めて食事をした記者の証言だ。
「食事中、いきなり『広島の県議にならないか』と聞いてきたんです。その気がないと答えると、『政令指定都市を選挙区にする県議はいいぞ。何もしなくても年収一千万だ』と。それだけならまだしも……」
■「俺には君ぐらいがちょうどいい」
セクハラがあったのは二次会のカラオケでのこと。
「私の横にピッタリ座るなり膝を『の』の字を書くようにさすってくるんです。クッションを間においても、それを除けてまた密着して、気持ち悪い手つきで肩を揉んだり。『俺には君ぐらいがちょうどいいんだ』と手を握ろうとしてきたこともありました」
夫をめぐる一連の問題を、妻で広島県議である案里氏はどう見ているのか。
――秘書の入れ替わりが激しいが、暴力やパワハラが原因なのではないか。
「暴力ということは一切ありません。(元秘書の)中村さんは主人を訴えましたが、事実無根なのでこちらも弁護士を立てて対応しました」
――ではパワハラは?
「秘書の入れ替わりが激しいのは事実なんですが、パワハラかどうかは受け止め方にもよりますよね。確かに厳しい仕事ですから」
記者の質問に淡々と答えていた案里氏だが、女性記者に対するセクハラについて問うと、途端にメモを取りながら、こう言った。
「それは気持ち悪い思いをしたんでしょうね。ハハハ。事実なら申し訳ないことですね。私が行ってお詫びしたいくらい、ごめんねって」
小誌は、河井氏本人に対して、再三再四に渡って取材を申し込み、説明を求めたが、これに応じることはなかった。代わりに弁護士を通じて以下のような「回答」が寄せられた。
〈(河井氏が)事務所に勤務していた者らに対し、暴力を振るった事実はありません〉
〈(河井氏の)暴力により中村氏が怪我を負った事実もありません〉
女性記者へのセクハラについては、〈相当以前のことであり、その時の詳細についての記憶は定かではありません〉として、〈膝を撫で回したり、肩を揉んだりした記憶はありません〉。
そのうえで、中村氏については、こう記す。
〈中村氏は、通知人(*河井氏)の言動を警察に被害申告等したり、通知人に対する迷惑行為により逮捕、起訴されて有罪になった前科を有していたりする人物であり、同氏が、通知人に対して強い怨恨の情を有しているであろうことは想像に難くなく、その供述の信用性については極めて慎重な検討が必要であることは明白です〉
だが、中村氏と同時期に河井氏のもとで秘書を務めていた人物はこう証言する。
「私は中村さんが河井氏に蹴られているのを何度も目撃しています。これは一二〇パーセント、事実です」
河井氏が小誌の取材から逃げ続ける中、こんな騒動もあった。
「文春で記事が出ることを知った“大物フィクサー”が、河井氏の事務所に『オレがやっているネット番組で取り上げるから、弁解を聞くために会いたい』と連絡したそうです」(別の官邸関係者)
小誌は三月一日、本会議に出席する河井氏を国会内で直撃。「被害者がウソをついているんですか」と尋ねたが、河井氏は、頑なに記者と視線を合わせず、無言で議場へと消えて行った。
そして本会議後、河井氏は羽田空港から“外遊先”のカナダへと飛び立った。
「外遊は前々から決まっていたようですが、議運に出された日程では現地でのアポまで結構な空き時間がある。与野党問わず『文春から逃げるために前倒しにした』と非難の声があがってます」(国対関係者)
河井氏は果たして、日本政府の代表として外交を担うにふさわしい人物なのか。
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