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内部告発をやるなら、甘利事件の告発者の手法に学ぶべし
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47770
2016年02月06日(土) 山崎 元「ニュースの深層」 現代ビジネス
■読売新聞を読めば分かること
アイドルグループSMAPの事務所離脱騒動が話題を集めた時、ネット界隈では「この騒動で一番得をしたのは、ベッキーではないか」という声が上がった。タレントのベッキー氏がミュージシャンの川谷絵音氏と不倫交際していた問題が、SMAPの話題の影に隠れたからだ。
しかし、ベッキー氏には気の毒なことだが、この問題には世間の関心が高く、関連報道は収束せず、同氏は実質的に休業状態に追い込まれた。
SMAP・ベッキー問題と似た話が聞こえてきたのは、甘利明・前TPP担当大臣の辞任発表(1月28日)の翌日に、日銀が「黒田バズーカ第3弾」とも呼ぶべきマイナス金利政策を発表して話題を集めたことだった。マイナス金利を巡る報道で、甘利前大臣の辞任の印象が薄れたとの見立てだ。しかし、こちらの問題も、まだまだ収束しそうにない。
甘利前大臣を巡る報道は極めて具体的であり、証拠となる物が揃っているような印象を受ける。捜査当局も、何もしないわけには行かないだろうし、もちろん野党も国会でこの問題を追及するだろう。
もっとも、甘利氏の問題が話題を集めて時間を食う場合、追及されていた別のより小物の大臣が、この問題に隠れて得をするのかもしれない。
根拠の示しようはないのだが、甘利大臣の辞任は、発表の数日前から既定路線だったのだろうと、筆者は感じていた。理由は複数あるのだが、一つ例を挙げると、25日月曜日の『読売新聞』朝刊が、甘利氏は早く辞任した方がいいという与党の参議院議員(匿名)の声を報じており、甘利氏を突き放した印象の記事を書いていたからだ。
安倍政権が物事をどう判断しているかが鍵になる問題は、政権に批判的な論調が多い『朝日新聞』よりも、読売新聞を読む方がよく分かることが多い。読売の論調に変化が見られたり、朝日が書いていないことが読売に書かれていたりする場合、それが政権内の重要な動きに対応していることが多い。複数の新聞にアクセス可能な方は(オフィスや図書館などで)、両紙を比較してみると、参考になる場合が多いはずだ。
■甘利告発に踏み切った理由は?
さて、ベッキー氏の問題も、SMAPの問題も、「センテンス・スプリング」こと『週刊文春』の報道が突出していたし、甘利前大臣の問題は、与野党共に「事実の確認は週刊文春待ちだ」と言われるほど、同誌が独占的に報道している。
結論から先に言うと、筆者は週刊文春の報道を支持するが、本件に関する同誌の立ち位置は相当に微妙だ。
週刊文春は、甘利氏及び同氏の事務所に金銭を提供し口利きを依頼した建設業S社の一色武氏に密着して、現金授受の現場や接待の現場などを写真撮影するなどの取材を行っているが、これは、まさに犯罪を行おうとしている現場に立ち合っていることになる。
こうした取材に対しては、「悪い事をしようとしているのに、なぜ止めないのか」という声があり得るし、S社或いは一色氏がどのような意図で文春に情報を提供していたか分からないが、文春がある種の共犯的な協力関係にあった、または文春の存在が無ければ、追加的な金銭の提供と口利き依頼は生じなかったのではないか、という疑義があってもおかしくない。
ちなみに、週刊文春の2月4日号によると、週刊文春が一色氏から甘利事務所の口利きに関する具体的な話を聞いたのは、昨年8月27日のことだという。同誌は、その後に長期間に亘って裏付け取材を行った。
決断の理由は推測するしかないが、週刊文春は、自身が微妙な立場に立つことも考慮に入れつつ、甘利大臣の問題を世間に対して報じることに、より大きな「公共の利益」があると判断したのだろう。
結局、いわば「釣り師」たる一色氏が撒く餌に魚は寄ってきて、大魚が釣れたところを、釣りカメラマンたる文春は写真に収めることが出来たし、その作品は傑作だった。あれは意図的に釣ったものだし、まして写真に撮られる予定など無かったと、餌を食ってしまった魚の方で文句を言っても後の祭りである。
■政治家への「見せしめ」だった?
本件の告発者である一色氏は、週刊文春の記事で、同氏に対するバッシング的な意見や報道に「実名で告発することは不利益こそあれ、私にメリットなどありません」と反論している。第三者から見た損得はその通りだ。
記事によると同氏は、口利きを依頼して甘利氏にお金を渡していることの悪さについて、「ほめられたことをしいるわけでないのは承知しています」と十分認識している。同時に、「ただ、甘利氏を『嵌める』ために三年にわたる補償交渉や多額の金銭授受を行うなんて、とても金と労力に合いません」とも語っている。
では、一色氏が本件を告発した意図、ないし原因は何だったのだろうか。
S社は総務担当の一色氏を使って甘利事務所に接触し、金銭を提供しつつ口利きを頼んで2013年にUR(独立行政法人都市再生機構)から2億2千万円の補償金を得た。その後、産業廃棄物撤去を巡る補償交渉で再び甘利氏或いは事務所の口利きを期待して、特に甘利事務所の秘書2人(公設第一秘書の清島健一氏、政策秘書の鈴木陵充氏)に対して接待と金銭や接待の提供を続けたが、これが難航したと報じられている。
同氏は週刊文春に「六〇を過ぎた私が、年の離れた彼らに何度も何度も頭を下げてきましたが、情けないことに、結局騙されていたことにようやく気づき始めたのです」と語っている。
この文脈では、告発の大きな原因が、甘利事務所の秘書たちの「タカリ」に腹を立てた、私憤のように読める。
或いは、本当にそうだったのかもしれない。「大臣ともあろう者が、こんなことでいいのか」という公憤は、後から湧いてきたものだという可能性はある。決して甘利氏と同氏事務所の肩を持つわけではないが、そうだとすれば、自分達の強い立場を過信して、個人の感情の変化を見落とした甘利事務所はうかつであった。
もちろん彼らにとっての教訓の第一は「悪い事をしてはいけない」であるべきだが、第二の教訓は「一人の人間を心底怒らせてはいけない」ということだろう。
甘利氏としては、部下である秘書の管理が不行き届きだったとも言えようし、秘書達としてもこのように告発されるに至ると、おそらくは今後生活の基盤も社会的地位も失うのだから、一色氏を財布代わりに使った行動は、ひどく高くついた計算違いだったことになる。
もっとも、本件の直接的な当事者である甘利氏と関与した秘書達にあっては、今後に生ずる諸々を含めて「自業自得」と整理していいが、事務所の他の関係者、支持者など、甘利氏の周囲の方々にとっては、大変迷惑で気の毒な話だ。
単純な私憤とは別の可能性として、金銭を受け取りながら口利きに応えない政治家及び事務所に対して、S社ないし業界が「見せしめ」を行う目的で、一色氏が告発に至ったという可能性を考えることは一応できるだろう。
但し、S社は、本件が明るみに出ることで、甘利事務所という影響力のチャネルを失うし、法的にも罪を犯したことになる公算が大きく、経済的にも社会的にも損をすることになるだろう。一色氏がいわば捨て石になることで、トータルな利益を得ることができる、という経済合理的な背景を考えることは不可能ではないが、そのためは相当に大きなスケールの利害が存在しなければならない。
今後、一色氏が被るであろう個人的な不利益を後に、あるいは、別の場所で十分埋め合わせする会社なり業界なりがあるとすれば、一色氏の行動は、経済的な利害で説明出来るのだが、現段階ではその手掛かりは見えていない。
■告発の流儀
一色氏は、今回の告発にあたって、相当に周到に証拠固めをしたようだ。また、相手は有力政治家なので、逮捕や私的な暴力などで、証拠を奪われ、事実をもみ消されることがないように、おそらく証拠の多くを、第三者、この場合は週刊文春と共有していたと推察される。
普通のサラリーマンなどが告発によってより幸せになるケースは残念ながら本当に少ないので、告発を積極的に勧めることは憚られるが、読者が、公共の利益のために、或いは抑えがたい私憤のために、やむなく問題を告発する場合、証拠を確保することと、証拠が失われないようなバックアップを取ることは、告発の成功のためにも、自分の身を守るためにも、大変重要なことだ。
例えば、サラリーマンが社内の問題を告発する場合に、証拠の確保が不十分なまま、社内の目安箱的な窓口を安易に信じてこれを行った場合、問題をもみ消されて、自分は左遷されるというようなケースがあるが、これは告発のやり方が不用意なのだ。
筆者は、例えば、セクハラ被害を社内の告発窓口だけに告発して、自分の側がクビになった女性の例などを知っている。告発者は、性善説では目的を十分に達することが出来ないばかりか、自分自身がひどい不利益を被る場合がある。
あるいは週刊文春のアドバイスがあったのかもしれないが、今回の告発は、模範的な方法で行われている。読者が将来何らかの問題の告発に関わることがあれば、一色氏のやり方を参考にされるといい。
付け加えると、ポイントは、証拠を確保することと、複数のチャネルを常に持つことだ。週刊文春にかぎってそのような事はあるまいが、告発のチャネルとして期待したメディアが相手の側に寝返る可能性を想定しなければならない場合もある。
■実は貴重な参考事例だった
ところで、S社が甘利事務所の口利きを期待した30億円規模の補償話は、仮にこれが上手く行っていた場合に、事態はどうなったのだろうか。一色氏は告発を思いとどまったのだろうか。この場合、一色氏が、週刊文春に情報を提供してしまったがために告発を止めることが出来なくなった、と判断する可能性もある。
また、仮定の話だが、週刊文春が取材を始めてから、口利きが行われて、補償話がS社の思う通りに運んだらどうなっていたのか。一色氏は、告発を取り下げたのか。また、その場合に、週刊文春は報道を止めるのか、或いは、一色氏の意図に反してでも事実を報じるのか。
不正を知って報じないのも問題だし、情報提供者に対する信義の問題もあるので、このケースは、週刊文春にとっても難しい判断になっただろう。
週刊文春の記事には、一色氏が「録音やメモなど詳細な記録を小誌に提供したのは今年一月のことだった」とある。
この時まで、報道を可能にする決定的な証拠が一色氏のコントロール下にあって、この時点で告発を行うことを決意したのか、あるいは、証拠の保存と自身の身を守るために文春に証拠を提供したのか、その時の状況と一色氏の意図は興味深いところだが、告発にメディアを使おうとする場合、メディアは必ずしも自らの意図通りに動いてくれないかもしれない、という可能性を想定することも重要だ。
今回のケースは、個人が何らかの不正を告発して戦うことを決めた場合の参考事例として貴重である。
最後に繰り返しておくが、本件の告発及び報道は、結果的に国民が知るべき情報を広く明るみに出したという点において、「公共の利益」にかなっている。筆者は、一色氏の告発と、週刊文春の報道を支持する。
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