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小手先対応では止まらない安倍政権下り坂−(植草一秀氏)
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6th Feb 2016 市村 悦延 · @hellotomhanks
1月30日付ブログ記事およびメルマガ記事
「政治支配下日銀のマイナス金利政策賞味期限」
「黒田日銀のマイナス金利導入政策に関する考察」
に、
「マイナス金利導入で、目先は局面の変化があり得るが、弥縫(びほう)策の域を出ない」
と記述した。
安倍政権が甘利明経済相の「政治とカネ」スキャンダルに伴う閣僚引責辞任で根幹が揺らぐなかで、
安倍政権支配下に置かれている日銀が政治的に動いた。
安倍政権が起用した日銀政策決定会合のメンバーだけが賛成して、マイナス金利導入を決めた。
極めて筋の悪い政策決定である。
その政策決定による円安誘導・株高誘導の効果は3日しかもたなかった。
賞味期限3日の悲惨な政策決定になった。
1月30日記事に記述したように、事態を打開するには、
安倍政権の経済政策路線の根幹を転換する必要がある。
第二次安倍政権は3年の時間を経過して長期政権となっているが、
政権発足以来の「登り坂」はすでに終焉している。
昨年6月から8月が頂点で、すでに「下り坂」に転じている。
この「下り坂」がいつか「まさか」に転じることになる。
振り返って見て、「登り坂」から「下り坂」への明確な転換点を形成したということになると思われるのは、
昨年9月19日の戦争法制=安保法制の強行制定ということになるだろう。
日経平均株価は政権発足の事実上の起点である衆院解散決定の2012年11月14日が8664円。
これが、2015年6月24日に20868円、8月10日に20808円を記録した。
ドル円レートは、政権発足時点が1ドル=78円で、これが2015年6月に1ドル=125年台をつけた。
政権の「登り坂」は、
ドル円が1ドル=78円から1ドル=125円へとドル高に推移し、
日経平均株価が8664円から20868円に上昇した時期と重なることになる。
このドル円と日経平均株価が、昨年6月から8月を境に方向を変えた。
ドル円は1ドル=115円へ、日経平均株価は16000円に反落している。
政権運営の暴走が頂点に達したのが昨年9月19日である。
憲法の内容を憲法改定によらず、憲法解釈の変更によって変えてしまうという、
「立憲主義の否定」=「憲法の破壊」に突き進んだのである。
2月5日、米国の1月雇用統計が発表された。
非農業部門の雇用者増加数は15.1万人にとどまった。
巡航速度での経済成長が維持されている際の雇用者増加数を20万人と考えると、
米国経済も減速傾向を強めつつあることが改めて確認された。
1月29日に発表された米国の2015年10‐12月期GDP成長率は年率0.7%となり、
7−9月期の2.0%から急減速した。
米国では昨年12月に、ついに利上げに着手されたが、
このころから景気の減速が鮮明になり始めているのである。
『金利・為替・株価特報』
http://www.uekusa-tri.co.jp/report/index.html
では、昨年6月以降、ドル円でのさらなる円安進行の可能性が低いことを指摘してきた。
そして、他通貨に対する日本円の変動を見る限り、
「もはや円安ではない」
状況に移行していることを指摘してきた。
安倍政権の政権発足後の「登り坂」は、円安と共に存在したのである。
その円安の一部は、安倍政権が推進した金融緩和によっても促されたものであるが、
主因は米国の金利上昇にあった。
米国金利上昇によるドル高=円安という「波」に上手く乗ることができたことが、
安倍政権の「登り坂」を支えたのであるが、ドル円は購買力平価をはるかに超えて円安に振れた。
陽極まれば陰に転ず、
そして、
陰極まれば陽に転ず
のが世の常である。
為替の基調は「円安」から「円高」に転換している。
このことを明確に認識して経済政策を運営しなければ、日本経済の健全な運営は不可能である。
たそがれのアベノミクス。
根本を変えなければ「下り坂」は止まらない。
拙著
『日本経済復活の条件』(ビジネス社)
に記述したが、
円安=株高
円高=株安
の連動関係は、実は常に成り立っているわけではない。
この関係が観察されるのは、2000年4月以降である。
その前の期間、
具体的には、1996年6月から2000年4月までの期間の連動関係は逆である。
円高=株高
円安=株安
なのだ。
為替と株価の連動関係が正反対なのである。
なぜ正反対の関係が観察されるのか。
その理由については、拙著をご高覧賜りたいが、2000年4月以降の金融市場では、
円高=株安
の関係が観察されている。
このなかで、現在の為替市場では、
円安
ではなく
円高傾向
が観察されているのだ。
円安で株価上昇が生じた基本背景は、円安で輸出製造業の企業収益が急拡大し、
これに連動して株価上昇が生じたということだ。
これが、円高になると逆転現象が生じる。
円高が輸出製造業の企業収益を急速に減少させ、連動して株価が下落する。
円高=株安の傾向を回避することは難しくなる。
現実に企業収益の見通しが矢継ぎ早に下方修正され始めている。
株安の進行は、取りも直さず、安倍政権の「下り坂」を意味することになる。
甘利明経済相の引責辞任で窮地に立たされた安倍政権を、
政治任用された黒田日銀が援護射撃するべく、マイナス金利導入を打ち出した。
そもそもは、このような政府と日銀の関係が不健全極まりない。
政治権力は中央銀行を支配してはならないのだ。
中央銀行は政治権力から独立して運営されるべきである。
日銀幹部の人事は5年に1度である。
政治権力が日銀を支配することになると、日銀幹部の交代時期に、
たまたま存立した政権の意向で、中央銀行の政策路線が振り回されることになる。
これは極めて不健全である。
しかし、その不健全な運営を安倍政権が強行した。
安倍政権は日銀総裁、副総裁の3名を、すべてリフレ派で固めた。
そして、任期満了を迎えた2名の審議委員の後任に、やはりリフレ派の人物を起用した。
今回のマイナス金利導入は、この5人だけが賛成して決定したものだ。
この体制では、常に日銀が政治利用されることになる。
そして、量的金融緩和政策とマイナス金利導入との間には、
金融政策の効果波及メカニズムにおいて、根本的な矛盾がある。
マイナス金利導入は、明らかにベースマネー圧縮のインセンティブを与える施策なのである。
また、マイナス金利の付与幅は極めて限定されている。
大幅なマイナス金利付与は不可能なのだ。
だからこそ、この政策は、わずか3日しか賞味期限を持たなかったのだ。
また、ゼロ金利からマイナス金利に移行することが、所得分配上の不公平をさらに強める。
マイナス金利導入は、預金者から債務者への強制的な所得移転という効果を持つ。
預金者が犠牲を強いられ、借金をしている者が利得を得る。
個人弾圧、企業優遇の側面を有するのだ。
預金者がいよいよ反乱を起こすかも知れない。
マクロ経済政策の組合せ、ポリシーミックスの側面から論じるなら、いま必要なのは財政政策の見直しである。
金融緩和の追加余地が極めて限定的であるという現実を直視しないことが間違いのもとである。
いま必要なことは、超緊縮に振れている財政政策を中立に戻すことだ。
2017年4月の消費税率10%は論外である。
その前に、2016年度の超緊縮財政政策運営を是正する必要がある。
アベノミクスの破綻を認めて、経済政策を根本から修正する。
この路線転換なくして、根本的な事態の改善を見込むことはできない。
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