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甘利問題の本質は本来は禁止されているはずの企業献金にある
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2016年1月30日 ニュース・コメンタリー ビデオニュース・ドットコム
甘利問題の本質は本来は禁止されているはずの企業献金にある
洒落ではないが、甘利問題への反応があまりにもおかしい。
今回の甘利問題の本質は、政治家の口利きとその見返りとしての企業献金であり、断じて秘書による使い込みなどではない。
甘利明経済再生担当相は1月28日の会見で、S社からの金銭の授受を認めた上で、秘書が甘利氏の伺い知れないところでその一部を私的に流用していたことを認め、辞意を表明した。
また、会見の中で甘利氏は、甘利氏自身が受け取った現金も、秘書に「適切に処理しておくように」と指示を出していたと説明し、甘利氏自身は何ら法に触れることはやっていないことを繰り返し強調した。自身に法的な問題はないが、秘書が失態をしでかした以上、その責任を取り、あくまで美学として大臣を辞任する道を選んだのだという。
確かに、業者から受け取った現金を秘書が個人的に使い込み、その分を政治資金収支報告書に記載しなかったことが事実だとすれば、それが政治資金規正法の虚偽記載に当たることはまちがいない。虎屋の羊羹の木箱と一緒にご祝儀袋に包まれていたとされるその「献金」が、「裏金」とみなされた場合、収賄にも問われる可能性はある。
しかし、この問題でわれわれ有権者にとってもっとも重要なことは、そんなことでない。騙されてはいけない。今回の甘利問題には、「全て秘書が悪い」を超えた、政治の根幹に関わる重大な問題が横たわっている。それは口利きと企業献金の問題だ。政局的な理由から、今後、野党も秘書の違法行為を厳しく追及してくるだろうが、有権者としてわれわれはそこに捉われて、本質的な問題を見紛ってはならない。
そもそも甘利氏の会見での説明では、秘書の不適切な行為は認めながらも、政治家が口利きをして、その見返りに企業から政治献金を受け取っても、それが政治資金規正法に則り適切に処理されている限り、何の問題もなかったという前提の上に成り立っていた。たまたま今回は虚偽の報告があったから問題だったというだけだ。
しかし、そこに問題の本質が隠れている。適切に処理された政治資金であっても、政治家が業者のために行政機関やその外郭団体などに政治的な影響力を使って口利きをし、その見返りに現金を受け取ることは、社会の一般常識では賄賂以外の何物でもない。賄賂が言い過ぎであれば、政治の腐敗は堕落と言い換えてもいい。もしそれが違法ではないのであれば、法律の方に問題があることは明らかではないか。
現在の日本の法律では、なんとそれが認められている。違法ではないのだ。政治家は堂々と口利きをして、見返りに企業から政治献金を受け取ることができるようになっている。甘利氏の会見でもその点については全く臆面することなく、当然のことという前提で、説明が行われていた。
しかし、ちょっと待ってほしい。現在日本の政党は政党助成金の名目で総額で320億円を国から受け取っている。自民党が170億円あまり、民主党も70億円以上、その他の政党も議員5人以上という政党要件さえ満たせば、すべての政党が政党助成金名目で多額の税金を受け取っている。おおまかに計算すると、毎年議員一人あたり4000万円程度の税金が、政党助成金の名目で各政党につぎ込まれ、政治活動を支えているのだ。
1994年の政治改革で小選挙区制と同時に政党助成金制度が導入された際、金権政治、とりわけ企業が政治的影響力をカネで買うことによって政治が歪められている、いわゆる「金権政治」が問題とされた。長年政治を揺るがしたリクルート事件や佐川急便事件を受けての大改革だった。
そこで金権政治の元凶とされた中選挙区制を小選挙区制に改めると同時に、企業・団体献金は廃止されることになった。しかし、政治活動を支えるために一定の資金は必要ということから、政党助成金の名目で税金が政党に支払われることになった。
しかし、その後、企業献金禁止の約束は完全に反故にされた。政党助成金は増額されるが、企業献金禁止の約束は完全にどこかに吹き飛んでしまった。
甘利問題を受けた1月28日の参議院本会議の代表質問への当然で、企業・団体献金を廃止する意思を問われた安倍首相は「企業・団体献金は政党に対するものに限定されるなど種々の改革が行われてきた」と答え、現在の制度に問題がないとの認識を示した。
しかし、この「企業献金は政党への献金に限られる」が曲者だ。というよりも、これは真っ赤な嘘だ。それは政党への献金には政党支部への献金も含まれるからだ。小選挙区制の下では、各選挙区に設けられた政党支部には基本的には一人の議員しかいない。例えば自民党東京1区支部にはその選挙区で当選した自民党の議員しかいないため、支部への献金はその議員個人への献金と何ら変わりがない。要するに、企業献金は政党への献金に限るなどと大見栄を切っておきながら、実際は政治家個人への企業献金に立派な抜け穴を作り、事実上企業献金が継続できるようになっているのだ。
今回の甘利氏の金銭授受疑惑については、あっせん利得処罰法などに抵触する可能性があるとの指摘が出ている。それはそうかもしれない。
しかし、あっせん利得処罰法は国会議員が、「議員の権限に基づいて斡旋などの口利きをした見返りに報酬を受け取った場合」という条件が課されており、対象が極端に狭義に限定されている。行政のトップである大臣などと違い、議員の権限は立法権や国政調査権などに限定されるため、口利きが議員権限に基づいたものであることの立証は容易ではない。「国会で質問しないことの見返りに」とか「国政調査権に基づく調査対象から外すことの見返りに」などといった、明示的な議員権限に存在が必要となる可能性が高いのだ。
また、政治家が「秘書が勝手にやった」と主張した場合、政治家本人から秘書への具体的な指示があったことなどが証明されない限り、この法は政治家自身には累が及ばないような立て付けになっており、その意味でも立件は容易ではないという。
繰り返しになるが、この問題の本質はあっせん利得処罰法が適用できるかどうかではない。それはそれで追求したらいい。政治資金規正法違反についても然りだ。しかし、われわれ有権者としては、また毎年300億円を超える政党助成金をむしり取られている納税者としては、そのはるか手前の、そもそも政治家が口利きの見返りに企業から政治献金を受け取ることが認められていることに、疑問を持たなければならないはずだ。そこに今回の問題の本質がある。そして、それは政党助成金の導入時に廃止されることが条件だった企業献金が、未だに事実上禁止されていないことが問題のすべてと言っても過言ではないだろう。
そのことを忘れ、今回のような絵に描いたような口利き疑惑で、あっせん利得処罰法や政治資金規正法の適用云々に一喜一憂しているようでは、われわれ有権者はあまりに健忘症が過ぎる。言うまでもないが、それは政治家の影響力を現金化できる企業献金という美味しい金づるを手放したくない政治家や政党側の、思う壺でもある。
口利きと企業献金という視点から、甘利問題の本質をジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
出演者 宮台真司 神保哲生
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