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逆進的で問題なのは軽減税率でなく消費税そのものー(植草一秀氏)
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15th Jan 2016 市村 悦延 · @hellotomhanks
国会論議が低調だ。
理由は安倍政権を脅かす大きな存在感のある政党が不在であるからだ。
共産党は安倍政権に対峙する政策路線を鮮明に提示している。
「たしかな野党」
と呼んでよいだろう。
ほかに、生活、社民も基本的には明確な政策方針を示している。
しかし、数の上で多数である民主と維新が迷走しているのだ。
自公と対峙する考えを持たないなら、いっそのこと、自公と合流すればよい。
そのような状況にあることが、この国の政治の行く末を暗澹たるものにしている。
安倍政権に対峙する政策を明示する、主権者多数の支持を受ける、国民政党の樹立が強く求められている。
現在の選挙制度を踏まえるなら、政策を軸に、主権者勢力が結集することが急務である。
民主や維新の対応に問題があることを指摘したが、これらの政党に所属するすべての議員、
議員候補者が自公補完勢力というわけではない。
民主や維新に所属はしているが、自公政治に対峙する政策を明示する政治家も存在する。
民主や維新を解体して、真の主権者勢力の結集を図ることが求められている。
国会論戦で取り上げられたテーマに軽減税率問題がある。
民主党の玉木議員は軽減税率が金持ち優遇であると批判した。
この批判は曲者である。
私は軽減税率に賛成しない。
軽減税率は簡素とするべき税制を極めて複雑にする。
軽減される品目と軽減されない品目の線引きは困難である。
困難であるからこそ、この線引きが利権になる。
安倍政権が軽減税率導入を強行しようとしているのは、公明党が軽減税率を要求しているからだ。
安倍政権は公明党の協力なしに政権を維持できない。
自民党国会議員が多数誕生したが、そのほとんどが公明党、創価学会の支援を受けている。
この支援なくして当選を勝ち得る議員は極めて少数である。
こうした政治的事情で安倍政権は軽減税率導入を強行しようとしている。
この軽減税率について、民主党の玉木議員は金持ち優遇であるとの批判を展開している。
税収減少金額1兆円の多くが高所得者層の納税金額の減少に充当されてしまうことを指摘している。
しかし、この指摘はナンセンスである。
消費税の逆進性を論じるとき、問題にされているのは、
納税金額
ではなく
納税負担率
なのだ。
所得税との比較で考えればこの点が明確になる。
所得税に対して消費税が「逆進的」であると言われる理由は、
所得税率が累進税率であるのに対して、
消費税率は一律であるからだ。
所得税の場合、夫婦子二人(大学生)で働き手が一人である世帯の場合、
働き手の年間収入額が325万円までは納税額ゼロである。
これ以上の収入があると納税の義務が発生するが、
課税所得にかかる税率は所得の多寡によって異なる。
最も収入の多い人は、所得の45%を税金で納めなければならない。
地方税である住民税を加えると55%になる。
所得が多くなるほど税率が高くなる制度を累進税率制度と呼ぶ。
これは、税の負担について、
「応能課税」
という考え方が取られているからである。
「能力に応じた課税」を行っているのである。
所得の多い人に多額の税金を負担してもらい、これを財源にして、各種の社会保障支出などを行う。
これが所得の少ない人の生活を支える財源になる。
これが所得再分配制度である。
消費税でも所得が多い人は消費も多いのが普通だから、消費税負担額は大きくなる。
しかし、その負担の大きさは、所得税の比ではない。
消費税なら税率は8%や10%だが、所得税なら、最高で55%の課税となるからだ。
したがって、玉木議員が「逆進性」を批判するのなら、
批判するべきは、軽減税率ではなく、消費税制度そのものでなければおかしいのだ。
私は軽減税率に反対だが、そもそも、消費税率を10%に引き上げることに反対である。
さらに言えば、8%に引き上げたことにも反対である。
税率を10%に引き上げたら、所得の少ない国民の生活は破たんする。
食料品等の生活必需品は税率ゼロが必要不可欠だ。
しかし、複数税率、軽減税率を採用すると、事務負担が膨大になる。
また、政治利権の温床にもなる。
したがって、軽減税率、複数税率に反対なのである。
そもそも、消費税大増税を強行しておきながら、
所得の少ない国民に対する対応が何も取られていないことが問題なのだ。
財務省は消費税率の10%への引き上げとともに、申告による上限付きの税還付の提案を示した。
しかし、所得の少ない人は、消費金額を証明する事務手続きを取る必要があり、
また、税の還付に極めて低い上限を設定するなどというのは、
国民をなめている対応であるとしか言いようがない。
事務手続きを軽減するために、消費をするごとに、
マイナンバーを使ってこれを算出の根拠に使うなどの提案があったが、
これでは、個人の私生活が丸裸にされるも同然である。
いかがわしい政府に、すべての個人情報を把握させることを容認する国民など、一人もいないだろう。
すべてが、財務省の自己の論理だけで進んでいるのである。
本メルマガでも何度か記述しているが、
2007年11月に、政府税制調査会は、日本の法人の、税および社会保険料負担について、
「諸外国と比較して高いとは言えない」
との調査結果を示した。
国民の税金を使って調査した結果を公表したのである。
財務省はその調査結果をウェブサイト上にも公開している。
この調査結果によると、日本の法人の負担は、米英よりは平均的に見ればやや大きいが、独仏に比べると低い。
独仏の欧州諸国では、企業の社会保険料負担が大きいのである。
税だけでなく、社会保険料負担まで考慮すると、日本の法人の負担は大きくない。
財務省は、
「法人税減税の必要なし」
の結論を示したのである。
この結論がありながら、政府は2012年度以降、法人税率を大幅に引き下げ続けている。
約40%だった法人実効税率は、2016年度には30%割れにまで引き下げられる。
この財源として財務省は、赤字法人への課税強化などの、外形標準課税拡大に突き進んでいる。
つまり、大企業を優遇して、零細な赤字企業を倒産に追い込もうという算段なのだ。
2001年4月に小泉政権が発足して以来、この国の経済状況は根底から改変されてきた。
結果における平等が破壊され、日本社会が、政界有数の格差社会に移行したのである。
一握りの資本家は法外な所得を獲得し、税制上も優遇される。
他方で、大多数の国民が中流から下流へと強制的に押し流されている。
この格差社会を是正するために必要不可欠な対応が、
「応能課税の徹底」
である。
その「応能課税」を実現する最大の方策が
総合所得課税と累進税率制度の採用である。
消費税は、所得がゼロの国民から税金をむしり取るという、非人道的な制度であり、
その採用には、慎重の上にも慎重を期すべきなのだ。
百万歩譲って、仮に低率の税率で消費税制度を併用するというなら、
所得の少ない国民に対する所得保障制度
を確立するべきである。
日本国憲法第25条は、すべての国民に
「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」
を保障している。
すべての国民が、
「健康で文化的な最低限度の生活を営む」
ことができるための所得保障制度を確立するべきなのだ。
消費税率の引き上げを検討するのはそのあとである。
そして、巨大な内部留保資金を溜め込む大資本に対する課税を強化するべきだ。
このような根本の問題にまったく触れずに、
軽減税率が金持ち優遇だと批判するところに、玉木氏の主張のいかがわしさがある。
玉木氏は財務省出身者。
野田佳彦氏は、首相の椅子を手に入れるために、財務省に魂を売った政治屋である。
財務省は庶民を奈落に落とす消費税大増税を強行しながら、
財務省の天下り利権をびた一文削減しようとしない。
逆に天下り利権の拡張に突き進んでいる。
主権者は、この国をダメにしている中核が財務省であることをはっきりと認識しておかねばならない。
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