貯蓄率減少は本当なの? 家計の貯蓄率をグラフ化してみる(2015年)(最新) 2015/03/30 08:26 日銀の公式データを基に四半期ペースで更新している【日米家計資産推移】などいくつかの家計データを精査する記事の中で登場する「貯蓄率」。元々貯蓄が好きだと言われている日本人にとって、気になるテーマではあるが、他人の貯金の中身を知る機会など滅多にあるはずもなく、ぼんやりとしたイメージしか思い浮かベられない人がほとんどのはず。一方でやや古いデータとなるが、【なんだか気になる他人の貯金額・「20代のうちにとりあえず貯めたい貯金額ランキング」】や【この先でお金や時間をかけるもの、若者「貯蓄」団塊は「レジャー」】などのように、若年層の間では高まる将来への不安を少しでも和らげるべく、貯蓄をしようとの気概が増加している調査結果が出ている。「本当に貯蓄率は減少しているのだろうか」との疑問を解消すべく、今回は複数のデータを探し出して検証を行うことにした。 スポンサードリンク 国民全体で勘案してみる…内閣府の国民経済計算 【年金生活をしているお年寄り世帯のお金のやりくりをグラフ化してみる】などでも解説している通り、「家計貯蓄率」と呼ばれるものには大きく3つある。考え方としては「一か月の収入のうちどれだけを貯蓄に回せるか」なるものだ(冒頭で記した『貯蓄率』とは少々概念が異なる。要は収入のうちどれだけを蓄財に回せるか、その余裕を示す指針の一つの様なもの)。 ・内閣府の国民経済計算における「家計貯蓄率」 ……家計全体の可処分所得から、家計全体の最終消費支出をマイナスし、年金基金準備金の増減を調整。その値を可処分所得と年金基金準備金の増減の合計で割ったもの。マクロ的な考え方によるもので、高齢者、無職世帯など、勤労所得者以外も含んでいる。2013年度ではマイナス1.30%。 ・総務省の家計調査における「平均貯蓄率」 ……貯蓄純増(預貯金と保険の純増減の合計※)/可処分所得×100 ※この合計額は経済学で通常呼ばれる「貯蓄」とは概念が異なる、との意見が多い ・総務省の家計調査における「黒字率」 ……可処分所得から消費支出をマイナスし、それを可処分所得で割ったもの。経済関係の文献では家計貯蓄率、あるいは貯蓄率として、「黒字率」のうち、特に勤労者世帯の「黒字率」を指している事が多い。 ※非消費支出……税金・社会保険料など 消費支出……世帯を維持していくために必要な支出 可処分所得……実収入から非消費支出を引いたもの まずはこの一番上、国民経済計算における「家計貯蓄率」を精査してグラフ化を試みる。この値は数年前、OECD発表値がきっかけで世間をちょっとばかり騒がせたものでもある。 最新の「国民経済計算」の【確報値はこちら(国民経済計算)(GDP統計))】。ここからデータを概略的にまとめている、同ページの下の方「国民経済計算確報 平成25年度国民経済計算確報 報道発表資料(フロー編)(平成26年12月25日)」を元に、「(3)家計貯蓄」の部分を再構築して出来たのが次のグラフ。元資料では家計貯蓄率は少数点第一位までの掲載だが、算出元の値が判明しているので計算をし直し、第二位まで導き出してグラフに反映している。 ↑ 内閣府の国民経済計算における「家計貯蓄率」 ↑ 内閣府の国民経済計算における「家計貯蓄率」 今件データは「日本国全体としての家計可処分所得や家計貯蓄額」を元に算出したもの。高齢者、無職世帯など、勤労所得者以外も含んでいる。2000年前後に家計可処分所得はじわりと減ったがその後はやや横ばい。しかし一方で家計貯蓄そのものは減少しており、直近2013年度ではマイナスに転じている。結果として家計貯蓄率も減少し、マイナスに移行。この面、つまり国全体で見れば、貯蓄率は減少していることは間違いない。 しかしこのデータは年金生活者(年金は雑所得扱いにはなるが、年金のみの生活世帯は勤労者世帯には該当しない)や無職世帯も含まれる。これら、特に前者が増えれば、国全体としての家計貯蓄の積み上げも減るから(年金のみの生活者はむしろ貯蓄を切り崩して生活している)、家計貯蓄率が減少するのは当たり前の話となる。 グラフ化は略するが、「(3)家計貯蓄」に掲載されている「家計貯蓄率の対前年度差に対する寄与度」を読むと、サブプライムローンショックやリーマンショック「など」の不景気時期においてむしろ貯蓄率が上昇した理由を読み解くことができる。この数年間は「消費要因」がプラスとして貯蓄率に貢献していた。つまり消費を抑え、その分を貯蓄に回すとの守りの家計動向が見受けられる。他方「強制的社会負担」(税金や社会保険料)はほぼマイナス値を示している。これはつまり貯蓄率を下げる、可処分所得が削られる割合が増加していることを意味する。これらの動きは【収入と税金の変化をグラフ化してみる】で解説した家計内の収入と税金の関係とほぼ一致しており興味深い。高齢化社会の到来で、医療を筆頭に社会保障負担が増えている状況が、貯蓄率の面でも家計に影響を与えている実態が把握できる。 ちなみに直近の2013年度(2013年4月から2014年3月)において家計貯蓄率が大きく減っているが、これは消費が増え、税金が増え、社会保険料が増えたのが要因。所得(雇用者報酬や財産所得)も増えているが、特に社会保険料などの負担増加が重くのしかかっている。また家計最終消費支出が大きく増加し(281.5兆円→289.2兆円と2.7%の増加)、これも大きく影響している。 勤労者で精査する…家計調査 さて「国全体ではなく、自分ら(働いている)世帯単位での家計貯蓄率の変化はどうなのだろうか?」との考えから確認していくのが、総務省統計局の【家計調査】。「平均貯蓄率」では経済学の概念と違うとの意見が多いなどの理由から、今回は「黒字率」を精査する。【家計調査報告(家計収支編)速報値】から「二人以上の世帯」「年次一覧」、そして各年を選択。そこから「3-2 世帯主の年齢階級別」を選び、「二人以上の世帯・勤労者世帯」のデータから「勤労者世帯の黒字率」を各年齢階層ごとに抽出し、精査を行う。 まずは全体平均の経年データ。これはあくまでも「二人以上世帯のうち勤労者世帯」を対象としたものであり、先の「国民経済計算」の「家計貯蓄率」とは母体が異なることに留意を要する。例えば年金と貯蓄の切り崩しで生活している、年金生活の夫婦世帯は該当しない。 ↑ 総務省統計局データによる、世帯主の年齢階級別1世帯あたりの黒字率(全国・二人以上世帯のうち勤労者世帯)(全体平均) ↑ 総務省統計局データによる、世帯主の年齢階級別1世帯あたりの黒字率(全国・二人以上世帯のうち勤労者世帯)(全体平均) 2001年以降においては直近2014年の24.7%が最少、2001年の27.9%が最大。いずれにしても「可処分所得」に占める「消費支出」の割合は、先の「国民経済計算」の「家計貯蓄率」におけるような下げ方は見せていないことが分かる。ただし中期的に見れば10年程度で2%ポイント程度の減退を示しているようだ。 続いてこれを世帯主の年齢階層別に見てみることにする。まずは若年層。 ↑ 世帯主の年齢階級別1世帯あたりの黒字率(全国二人以上勤労者世帯)(若年層) ↑ 世帯主の年齢階級別1世帯あたりの黒字率(全国二人以上勤労者世帯)(若年層) 24歳未満の値で2005年以降減少の一途をたどり、2008年に急減したのが目立つ。恐らくは不景気・雇用情勢の悪化をダイレクトに受けたのだろう。しかし直後の2009年では大きく持ち直し30%を超え、後述する熟年・高齢者層と比べても負けるに劣らない黒字率を見せている。可処分所得が減少する中でも、若年層は必死に将来へ向けた蓄積を続けている。 また興味深いのは20代後半、30代前半では多少の起伏はあるものの、黒地率はほぼ安定している。特に30代前半の安定感が頼もしい。一方でそれ未満の世代になると、若い層ほど起伏が大きい。 直近2014年では20代前半以下と30代後半で上昇、20代後半で下落の動きを示している。もっともいずれもボックス圏内の流れでしかなく、イレギュラーな上昇・下落には値しない。むしろ20代前半以下ではここ数年に限れば上昇中とも読むことができる。 なお今データは前述したように「二人以上の世帯のうち勤労者世帯」を対象としたもの。「結婚するほど財力がないから単身者が多い。だから貯蓄率が上がったのでは?」との推測は当てはまらない。 続いて中堅(熟年)層。 ↑ 世帯主の年齢階級別1世帯あたりの黒字率(全国二人以上勤労者世帯)(熟年層) ↑ 世帯主の年齢階級別1世帯あたりの黒字率(全国二人以上勤労者世帯)(熟年層) 意外にもこの世代では特にコメントすべきような動きは見られない。景気後退が見られた2007年あたりから一部の階層で減少傾向が見られるが、ぶれの範囲でしかない。ここ数年に限れば、40代後半と50代後半が漸減し、その分50代前半が上昇している。特に50代前半はボックス圏の下限付近にあり、来年以降も下落を続けるようなら、トレンドに変化が生じたと判断しなければならない。この世代ならば可能性としては、早期退職を経て非正規雇用として再就職したことで手取りが減った人が増えている状況が考えられる。実際、この世代の正規雇用者数は減少し、非正規雇用者数は増加ている。いずれにせよ、現時点では貯蓄率が大きく変動した動きは無い。 最後に高齢者層。 ↑ 世帯主の年齢階級別1世帯あたりの黒字率(全国二人以上勤労者世帯)(高齢層) ↑ 世帯主の年齢階級別1世帯あたりの黒字率(全国二人以上勤労者世帯)(高齢層) 60歳以上のいわゆる「年金生活者」のうち、再雇用などもあわせて就労している世帯に関するデータ。年金だけで生活している高齢層世帯とは違い、一応黒字率がプラスを維持している(年金のみの収入による生活者においては、貯蓄を取り崩して生活しているので、年間収支における黒字は有り得ず、貯蓄率も算出のしようがない)。ちなみに年金受給をしている高齢層の就業率は、【高齢者の就業(総務省統計局・統計トピックス)】によれば2013年時点で正規・非正規・役員合わせて636万人(65歳以上)が就業しており、年金受給者は【平成25年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況(PDF)】によると重複分を除けば3950万人だから、大体16%ほどになる。 さて高齢者層においては他の層と異なり、就労世帯においても中期的に見れば明らかに黒字率は減少を見せている。直近2014年では65歳以上が大きく伸びたものの、60代前半ではゼロを示してしまった。これは非消費支出や消費支出の増加と共に、実収入が減少したのが大きく響いている。この実収入の減少は、再就職に伴う非正規化で手取りが減った人の割合が増加したことが大きい。 まとめてみると、国全体として考えれば「国富」観点(マクロ的視野)においては、確かに貯蓄率(≒貯蓄変化額)は減少している。しかし中期的に生じている「可処分所得の減少」も一因ではあるが、それ以上に「貯蓄率が低い、あるいはマイナスの高齢者の絶対数・人口そのものに占める割合が増え、結果として全体の貯蓄率を減退させている」との表現が、より現実を的確に表している。
さらに人口比を増している高齢者において、貯蓄率が低下しているのだから、ますます全体に占めるマイナスへの影響力が増加するのは当然の話。マクロ的視野の数字で「貯蓄率が減った」のは事実であるが、すべての世帯で等しく貯蓄率が減ったわけではない。ましてや現役勤労世帯において貯蓄率の平均がマイナス云々の話ではない。くれぐれも注意してほしい。 http://www.garbagenews.net/archives/1325243.html
|