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軽減税率に関して流布されている二つの風説−(植草一秀氏)
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8th Jan 2016 市村 悦延 · @hellotomhanks
昨年12月初を起点に日本株価が急落している背景に三つの事情がある。
第一は、中国株価調整である。
上海総合指数は2014年7月に2000ポイントだったが、これが2015年6月に5178ポイントに急騰した。
わずか1年で2.6倍の水準に大暴騰したのである。
中国人民銀行の周小川総裁が
「バブル」
と表現したように、とりわけ2015年3月から6月にかけて
上海総合指数は3000ポイントから5178ポイントの高値へと急騰した。
その後、信用取引規制の強化などの株価抑制策が打ち出され、株価が急落に転じた。
株価は2850ポイントにまで下落したのち3500ポイント水準を回復したが、再び下落傾向を強めている。
8月以降、世界の株価は中国株価に連動する推移を示しており、
中国株価下落が日本株価下落の一因になっている。
第二の要因は、地政学リスクの高まりである。
中東では、シーア派国家のイランとスンニ派国家のサウジアラビアの対立が急激に激化している。
サウジは、米国がイランとの核合意を成立させ、イランに対する経済政策を解除する方針に反発している。
サウジはシーア派指導者を処刑し、これにイランが猛反発した。
さらに、イエメンのイラン大使館がサウジによって襲撃され、両国間の緊張が急激に高まっている。
イスラム国(IS)はイラクを追われたスンニ派勢力が核になっていると見られ、
サウジがISの重要な資金源であるとの指摘がある。
米国の産軍複合体は、新しい戦争の大義名分を必要としており、
中東におけるシーア派勢力とスンニ派勢力との緊張関係の強まりを誘導しているとの見方もある。
また、北朝鮮が4度目の核実験を実施したことも、
日本の地政学リスクを高めるものと受け止められている。
北朝鮮は、日本の国政選挙、あるいは、
沖縄での重要な選挙がある局面で軍事的脅威を誇示する行動を示す傾向があり、
日本における安保法制等への反対勢力を牽制するかのように北朝鮮が動く背景に、
北朝鮮と米国産軍複合体の何らかの関係が存在するとの指摘もある。
世界、あるいは日本を取り巻く地政学リスクの高まりが、
日本株価が下落傾向を強めている背景の一つである。
第三の要因は、安倍政権の経済政策運営スタンスが、緊縮財政の傾向を強めていることだ。
補正予算の規模3.3兆円は最小規模である。
補正予算の中身はバラマキ中心で無駄が多いが、補正の規模としては、経済に対する圧迫要因になる。
このなかで、安倍政権は2017年4月の消費税率10%への引き上げ方針を堅持している。
中低所得者層にとって過酷な増税が強行されようとしている。
本ブログ、メルマガで何度か紹介してきているが、日本の税制は過去25年間に激変した。
1990年ころの税収構造は
所得税 27兆円
法人税 19兆円
消費税 3兆円
だった。
これが2015年度には
所得税 16兆円
法人税 11兆円
消費税 17兆円
に変わる。誰が減税されて、誰が増税されているかは一目瞭然である。
徹底的な庶民いじめ、資本家=金持ち優遇の政策が強行されてきた。
2015年度に17兆円の税収を見込む消費税の税率を、2017年度にさらに、10%に引き上げるというのだ。
「超緊縮」、「中低所得者直撃」の財政逆噴射が日本経済の先行き見通しを一気に悪化させている。
安倍政権の超緊縮財政政策スタンスが、日本株価が下落している第三の要因なのである。
消費税収は17兆円から21兆円強へと拡大する。
その際に、食料品の税率を8%に据え置くことが提案されており、
増税規模は4兆円から3兆円に圧縮されるのだという。
この件に関して、奇妙な風説が流布されている。
一つは、
「軽減税率を採用する財源がない」
という話。
もう一つは、
「軽減税率は金持ち優遇である」
という話だ。
軽減税率を導入すると、
増税の規模が
4兆円から3兆円になる
ときに、
この話のどこに、1兆円の財源不足という話が出てくるのか。
軽減税率を導入したとしても3兆円という巨大な増税が実施されるのであり、財源は3兆円も膨らむのだ。
4兆円の増税を3兆円の増税にするから、1兆円の財源不足だという話は、あまりにもおかしすぎる。
子どもがお年玉を10万円もらう予定を立てているときに、
お年玉が8万円しか入らなったから、親に差額の2万円を要求するような話なのだ。
また、軽減税率をめぐる「金持ち優遇」の話もおかしすぎる。
高所得者は低所得者に比べて消費金額が大きい。
したがって、軽減税率による消費税額の減少は低所得者よりも多くなる。
しかし、所得に対する消費の比率が高所得者と低所得者では平均すると異なるのだ。
低所得者は所得の大半を消費に回さざるを得ない。
その際、食料品の比重が大きくなる。
その食料品の税額が軽減されると、
所得全体に対する軽減税率による税額減少分の比率は、
高額所得者の税額減少分の比率よりは高くなるのである。
税軽減の金額の多寡ではなく、税軽減の所得に対する比率が重要なのだ。
いずれの風説も、流布している主体は財務省である。
財務省は飽くなき増税を追求し、軽減税率を嫌っている。
軽減税率は税制を複雑にして、新たな利権の温床になるから、筋の悪い施策であり、
本来は、所得の少ない階層への大規模な所得保障政策が必要なのだ。
しかし、財務省は大規模な所得保障を実現する考えを持たない。
そうであるなら、生活必需品は非課税にする程度の施策が必要なのである。
それよりも何よりも、本来は、消費税増税を中止し、消費税率を5%に戻すことを検討するべきだ。
その際、財源として検討するべきは、大企業に対する課税強化、所得税の累進強化、総合課税化である。
「金持ち優遇」を批判するなら、
消費税減税
所得税・法人税増税
こそ検討するのが筋道である。
税制の全体で、激しい「金持ち優遇」を実行しながら、
消費税の軽減税率の話の時だけ、
理屈としても筋が通らない説明で「金持ち優遇」を唱えることは、笑止千万と言うほかない。
このような奇妙な風説が流布されることについて、
メディアがまともな批判を加えないところに、現代日本の言論空間の劣化が如実に表れている。
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