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【オピニオン】ローマ法王、いかに世界の左派指導者になったのか
保守派が台頭するなか、格差や気候変動に異議を唱える法王に連帯する動き
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米議会で演説するローマ法王フランシスコ(2015年9月) PHOTO: ANDREW HARRER/BLOOMBERG NEWS
By FRANCIS X. ROCCA
2016 年 12 月 26 日
――筆者のフランシス・X・ロッカはWSJバチカン担当記者
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ローマ法王フランシスコが今年出すクリスマスメッセージは、カトリック教会のトップとしてだけでなく、世界中の多くの左派・進歩主義者を代表する意外なリーダーとしてのメッセージにもなるだろう。
保守的なナショナリスト(国家主義的)勢力があちこちで台頭し、バラク・オバマ米大統領やフランソワ・オランド仏大統領のような政治家が去ろうとするなか、中南米の社会主義者から欧州の環境保護主義者に至るまで左派の多くの人々は、現在80歳の法王に指導力を期待している。
「法王フランシスコは多くの人々を戦う気にさせている。カトリック教会の顔でなかったら、彼はわれわれとともに街頭に出ているだろう」。米フロリダ州タンパの最低賃金運動団体「Fight for $15(15ドルのために戦おう)」の活動家ブルー・レイナ−氏はこう語る。レイナー氏は先月ローマを訪問し、法王が演説した草の根活動家の国際大会に出席した。「法王はわれわれの論点にテコ入れし、道徳の問題にしている」
リベラル派の幾つかの主張に対する法王の支持は、貧者や弱者を気遣う伝統的なキリスト教の姿勢に根ざしたものだ。しかし、結果的にはカトリックの道徳上の教えを否定する勢力とも共闘する形になっている。また法王に批判的な人々は、カトリック教徒たちがさまざまな立場を取るのを許されている政治的な問題で、法王が特定の強い立場を取るべきでないと語る。
フランシスコ法王は各種の問題で大胆な意見を表明してきた。例えば移民、気候変動、経済的な不平等、先住民の権利などだ。2015年6月、環境に関する「回勅」(全世界の司教や信者に宛てて出す公文書)を発表し、化石燃料使用の大幅削減を訴えるとともに、地球温暖化は地上の生命に対する主たる脅威だと表現した。この文書はグローバルな市場経済も糾弾の対象とし、市場経済は貧者と将来の世代を犠牲にして地球を荒らしてきたと述べた。ローマ法王庁は今では、聖職に就こうとする神学生に気候変動を含む環境問題を学ぶよう義務付けている。
「壁」問題でトランプ氏を批判
法王は難民や経済移民に国境を開放するよう事実上求めているが、その見解は今年、米共和党大統領候補だったドナルド・トランプ氏に対する批判にもなった。トランプ氏がメキシコとの国境に壁を構築するよう求めていることについて、法王は「キリスト教徒らしくない」と述べた。11月8日の大統領選の数日前に開かれた草の根活動家大会では、「外国人嫌いのまん延」と「物理的・社会的な壁という偽りの安全」に警鐘を鳴らした。それはトランプ氏への批判と広く受け止められた。
法王は経済的な不平等についても鋭く批判してきた。「土地・住まい・雇用」は「神聖な権利」であるとし、「こう話すと、法王は共産主義者だと結論づける人もいる」と述べた。2015年に米議会で演説した際には、米国の「カトリック労働者運動(CWM)」の創始者ドロシー・デイ(1897−1980)に言及し、「彼女の社会運動、正義や被抑圧者の大義への情熱」を称賛した。
こうした発言を受けて、多くの左派政治家はフランシスコ法王を英雄だとみなすようになった。民主党の大統領候補指名を目指していたバーニー・サンダース上院議員は今年4月、ニューヨーク予備選直前の2日間、選挙運動を中断してバチカンで開かれた会合に参加し、「明晰(めいせき)さ、謙虚さ、そしてビジョンと勇気を持った法王のファンだ」と述べた。
法王の立場は、カトリック教会の社会的な教え(社会教説)の長年の流れに沿っている。それは19世紀末にローマ法王レオ13世が出した回勅に端を発した教えだ。回勅は自由市場の行き過ぎを批判し、労働者の団結の権利を肯定した。
「法王はカトリック教会主流の社会ドクトリンを根本的に変更したわけではない」とローマ法王庁のシルバノ・トマシ大司教(社会的正義問題担当)は語る。「開発途上国における自身の経歴を反映した言葉と優先課題を取り上げているだけだ」
フランシスコ法王は、アルゼンチンで若い聖職者だったころ(当時はホルヘ・ベルゴリオ神父と称していた)、カトリックの「解放神学」というマルクス主義的な学派を忌避し、「人々(主権民)の神学」を支持した。それは物質主義と階級対立を拒否する神学だ。また、アルゼンチンの独裁者だったフアン・ペロン将軍(1895−1974)を家族ぐるみで支持していた。
左派が利用する名声
歴史的に見ると、現代の法王が政治運動に関係した前例はある。第2次世界大戦後、ローマ法王庁はイタリアのキリスト教民主勢力を支持した。1980年代には法王ヨハネ・パウロ2世が母国ポーランドの労働運動「連帯」を支持し、冷戦の終結とソ連の崩壊を早めた。どちらも明確に反共産主義的だった。
フランシスコ法王に批判的な人々は、政治的立場の一方の極に同調しすぎることで保守的なカトリック教徒を疎外する恐れがあると懸念する。今年の米大統領選の出口調査によれば、カトリック教徒の有権者の半分以上がトランプ氏に投票した。
「世界の左派は明らかに、自分たちの大義のために法王の名声を利用できる機会だとみている」。自由市場重視の米シンクタンク「アクトン・インスティチュート」(ミシガン州)の研究ディレクター、サミュエル・グレッグ氏はそう語る。「それは、信徒が自由に異論を唱えられる問題について教会の二極化を招く」
法王は自身の発する見解によって、カトリック教会の幾つかの道徳上の教義に反対しているグループとも結び付いている。多くの環境保護主義者たちは生態系の被害を抑制するため人口制限を支持しているが、カトリックの教義は中絶や避妊を禁止している。法王は同性愛者に対する差別を批判し、トランスジェンダー(心と体の性が異なる人々)への同情と理解を呼びかけているが、同性愛者同士の結婚は受け入れていない。
法王が進歩的な見解で各方面と連帯してもそれほど不自然に見えないのは、性的・医学的な倫理という難問を前面に出さず、経済的な正義や環境保護といった広く共通する問題を強調しているからだ。トマシ大司教は、法王は政治的に左に傾いているとしながらも、「それは法王がマルクス主義者であるからでも左翼支持者であるからでもない。(これらの運動団体が)社会の傷を代表しているからだ」と話す。
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