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米オピオイド危機、犠牲になる子供たち
(前編)
親が薬物中毒で死亡、祖父母に引き取られるケースも
両親がヘロイン中毒だったベン君は生まれながらに中毒症状を抱えていた。現在はオハイオ州の里親のもとで養育されている PHOTO: MADDIE MCGARVEY FOR THE WALL STREET JOURNAL
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JEANNE WHALEN
2016 年 12 月 20 日 14:33 JST 更新
3年前、米オハイオ州にあるミカヤ・フュットさんのアパートの部屋に踏み込んだ警察官は、ゴミや汚れた皿、嘔吐(おうと)物が入ったプラスチック容器が一面に散らばる光景を目にした。
当時3歳と2歳の幼い兄弟は、警察官が母親の腕に注射痕があるのを確認する様子をじっと見ていた。室内のどこにもない食べ物を探しながら――。
ミカヤさんが今年の夏、オピオイド系の薬物「カーフェンタニル」の過剰摂取で死亡した時、兄弟はすでに祖父母のもとで暮らしていた。それでも母親が薬物中毒になり、生活が荒れ果てた体験はこの先何年も影を落とすはずだ。母親と一緒だったときはたいていおなかをすかせ、汚れた格好をしていた。母親の交際相手にベルトでぶたれたこともあったという。
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オピオイド中毒の親を持つ多くの子どもたちが過酷な状況に置かれ、心に深い傷を負っている(英語音声のみ)
享年24歳のミカヤさんの葬儀で、弟のリード君は棺おけに横たわる母親にしがみついたという。「単なるハグではなかった。胸が張り裂けそうだった」と祖父のチャック・カランさん(63)は振り返る。
米国では強力なオピオイドの乱用が広がり、過剰摂取による死亡者数が過去最高に達している。それは数万人の子どもの心にも傷を残している。里親に引き取られる子どもが多くの州で急増し、ソーシャルワーカーや裁判所は悲鳴を上げている。
オピオイド中毒の親と暮らす子どもたちの多くは過酷な状況にさらされる。母親や父親が薬を過剰摂取し、トイレの床で息絶えるのを目にする。電気も食料も暖房もない生活を送ることもある。学校に行くのをやめ、必需品を手に入れるため盗んだり略奪したりすることを覚える。
ヘロインやその他のオピオイド系鎮痛剤による強烈な薬物依存症は、子どもを慈しむ親としての最も強い本能さえも奪い去ると、医師やソーシャルワーカーは口をそろえる。
最近はヘロインの何倍も効果が強いフェンタニルやカーフェンタニルといった合成オピオイドが闇市場で簡単に入手できるため、危機的状況が悪化の一途をたどっている。
犠牲になる子どもたち
左:オハイオ州で親戚や里親に引き取られる子どもの数、右:親の薬物中毒に関連して初めて里親制度を利用する件数
https://si.wsj.net/public/resources/images/NA-CM762A_OPIOI_16U_20161214182106.jpg
オハイオ州の児童サービス機関の関連団体によると、同州では2010年以降、親元から保護され、親戚や里親の家庭で養育される子どもが19%増加。バーモント州児童家族局によると、同州でも2013年から16年にかけて40%増加。いずれも主因はオピオイドだという。
フェイスブックで中毒者の子どもを育てる祖父母を支援するグループには、全米で現在2000人が登録している。ミカヤさんの子どもを引き取った祖母ミシェル・カランさん(47)もその1人だ。
カランさん夫妻はオハイオ州コロンバス郊外に退職後住むための家を建て、そこで暮らしている。車で2時間ほど離れた町に住む娘のミカヤさんは、美容師になる学校に通いながら子どもの面倒もよく見ていたと話す。
クリスマスツリーの飾り付けをするカランさん一家。弟リード君は家族の絵を描き、兄レーン君は祖父に甘えるPHOTOS: MADDIE MCGARVEY FOR THE WALL STREET JOURNAL(3)
約3年前、ミシェルさんは娘のアパートや子どもたちの身なりが乱れ始めたのに気づいた。ミカヤさんは絶えずお金の無心をするようになった。
ある日、留守中の子どもの世話を頼まれて訪問したとき、当時3歳の兄レーン君が注射器やスプーン、粉末状物質が詰まったブリキ缶を手に持って歩いているのに気づいた。後日ヘロインであることがわかった。「どこから持ってきたの?と聞くと、案内してくれた。娘の寝室の引き出しに入っていた」とミシェルさんは振り返る。
ミシェルさんは娘に子どもたちを連れて帰ると告げた。2週間くらい休んではどうかと話すと、ミカヤさんは同意した。一方、アパートの管理人は室内がひどく不潔だと警察に通報していた。
母親のアパートに戻る日、弟のリード君は部屋に近づくと「震えて泣き出した」とミシェルさんは話す。「もうここに戻らなくていいと言ったのに!」と叫んだという。
到着すると、すぐに警察もやってきた。ミカヤさんの注射痕を確認し「どうやって子どもたちの面倒を見るというんだ? どこに食料があるんだ? ここで一体何が起きているんだ?」と警察官が続けさまに尋ねたのをカランさんは思い出す。台所のキャビネットを開けると、中は空だった。嘔吐物が入ったプラスチック製の牛乳容器が散らばっていたのは、お金が尽きて薬物が買えなくなり、禁断症状に苦しんでいる兆候を示していた。
裁判所はカランさんに緊急養育権を認めた。ミカヤさんがリハビリ施設を出たり入ったりし、何度かホームレスになったため、養育期間は次第に長期化した。
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実家にあるミカヤさんの写真。ミカヤさんは幼い息子2人を残して薬物の過剰摂取で今夏死亡した PHOTO:MADDIE MCGARVEY FOR THE WALL STREET JOURNAL
カランさん夫妻と暮らすうちに、レーン君はミカヤさんの交際相手にぶたれたことを打ち明けた。兄弟はその後も長い間、祖父母のそばを片時も離れなかった。「置き去りにされるのを恐れていた」とカランさんは話す。
空腹の心配もしていた。2人は「食料保管庫を絶えずチェックし、空いた場所があるとパニックになった。彼らを落ち着かせるため、食料を常に前列に移動しなくていけなかった」とカランさんは話す。夜になると翌日の朝食と昼食の用意があるのか聞かれたという。
今年7月、リハビリの試みもむなしくミカヤさんはフロリダ州のホテルの部屋で死亡した。彼女の血液からはカーフェンタニルと微量のヘロインが検出された。
現在7歳と5歳になった兄弟は、祖父母の家でスパイダーマンとティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズの絵柄のパジャマを着て、夜食をとりながら母親の写真と遺灰の入った骨つぼを眺めていた。
レーン君(7)とリード君(5)は祖父に寄り添い、祖母は洗濯物を畳んでいるPHOTOS: MADDIE MCGARVEY FOR THE WALL STREET JOURNAL(2)
レーン君は海岸で過ごす母親の写真を見せ、「お母さんは体を治すためにフロリダに行ったんだよ」と話した。
カランさん夫妻は2人の養子手続きをするが、不安も抱えている。妻ミシェルさんはクレジットカード関連会社で働き、夫チャックさんは自動車工場の管理責任者だが定年が近づいている。「大学の費用をためようにも限界がある」と話し、兄弟が10代後半に達したとき、面倒を見る余裕があるか心配している。
米オピオイド危機、犠牲になる子供たち(後編)
親の影響で生まれながらの薬物依存、PTSDも
両親がヘロイン中毒だったベン君は生まれながらに中毒症状を抱えていた。現在はオハイオ州の里親のもとで養育されている PHOTO: MADDIE MCGARVEY FOR THE WALL STREET JOURNAL
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JEANNE WHALEN
2016 年 12 月 20 日 14:28 JST
※(前編)はこちら>>
育児放棄された子どもはソーシャルワーカーが親戚に保護を求めるのがふつうだ。一方で多くの自治体が里親制度の充実にかじを切り始めている。オハイオ州ルーカス郡でも今年、里親を募集する広告看板を掲げ、パレードやイベントで一斉にビラを配った。
親元から保護した子どもの数が今年20%増加したことから、里親制度の登録家庭を2倍以上の約650に増やしたいと同郡児童サービス局のロビン・リーズ氏は話す。
同氏によると最近、里親家庭にいる子どもの実の親が1週間に2人、薬物の過剰摂取で死亡した。
「正直言ってこのままでは1世代分の子どもを失いかねない」とリーズ氏は言う。「孤児院を復活させたくはないが、児童養護システムではもう対応しきれない」
養父母であるホートンさん夫妻と自宅でくつろぐベン君(7)PHOTOS: MADDIE MCGARVEY FOR THE WALL STREET JOURNAL(2)
オハイオ州バタビアに住むホートンさん夫妻は2009年、ベンという名の乳児の里親になった。実の両親がヘロイン中毒者で、ベン君も生まれながらの薬物依存。震えや激しい鳴き声といった痛ましい禁断症状を脱するのに数カ月かかった。
実の母親はすぐ育児を放り出したが、実父のデービッド・マッキントッシュさんは薬物依存から離脱し、ベン君が1歳8カ月のときに養育権を回復した。
ベビーシッターを務めていたホートンさんによると、健康なときのマッキントッシュさんは温かく愛情にあふれる父親だった。しかしそれは長続きしなかった。
ベン君は父親が薬物を注射し、時に失神する様子を見ていた。ベン君はおなかがすくと台所のカウンターによじ登って食べ物を探したという。また父親がヘロインを使う手順を事細かにホートンさんに話したという。
1年半後、ホートン夫妻はベン君の養育権を再び取得した。昨年には養子にし、3人の実子と一緒に育てている。実父のマッキントッシュさんは今年の春、フェンタニルとモルヒネの過剰摂取で死亡した。
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「もう1人のパパ」と呼ぶ実父とつかの間の時間を楽しんだ時の写真を眺めるベン君 PHOTO:MADDIE MCGARVEY FOR THE WALL STREET JOURNAL
7歳になったベン君は最近のある朝、実父の写真アルバムのページを繰っていた。「もう1人のパパ」と呼ぶマッキントッシュさんが亡くなる1年前、監視付きでベン君を訪問したときの写真だ。コミックを一緒に読んだり、フットボールをしたり、カメラの前でおどけたりした。
自宅で死亡した日のことをホートンさんが話すと、ベン君は途中で遮り、誰かが父親の命を助けようとしたかどうか質問した。
「手遅れだったのよ。いい? 心臓が止まっていたのよ」とホートンさんは答えた。
「手遅れだった」とベン君は繰り返し、下を向いた。「とても優しいパパだった」
ベン君はこの4年間、シンシナチ子ども病院医療センターのトラウマ(心的外傷)を抱える子ども向けの特別プログラムでカウンセリングを受けている。担当セラピストはホートンさんの家族が与える愛情や安心感が大きなプラス効果をもたらしていると話す。ただ、これまでの経験は依然として大きな心の負担になっている。
ベン君はインディ・ジョーンズやハリー・ポッターなど架空のキャラクターに強い執着心を示すPHOTOS: MADDIE MCGARVEY FOR THE WALL STREET JOURNAL(2)
1年生になった彼は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しんでいる。セラピストやホートンさんによると、発作的に躁(そう)状態が起き、攻撃的になって同居する兄弟の顔をひっかくことがある。薬がないと夜ぐっすり眠れないことが多い。興味のあること(スーパーヒーローやハリー・ポッター、インディ・ジョーンズなど)には自制心が効かず、他の子どもを無視してノンストップで語り続ける。
薬物を使う実父のことを話すとき、テレビで見たホラー映画のイメージと混同することがある。ホートンさんはこんな風に言う。「『彼が具合が悪くなって気を失った時、ナイフを握った男の手が家のドアを突き破った』とベンが言えば、それは彼にとって本物の記憶なのだ」
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http://jp.wsj.com/articles/SB11484601320931144569304582507560006796648
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