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暴走が懸念されるトランプ軍事チーム
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8384
2016年12月5日 WEDGE Infinity
今回のテーマは「トランプ政権の人事構想を読み解く」です。共和党ドナルド・トランプ次期米大統領は、中西部オハイオ州で支持応援をしてくれた有権者を対象に「感謝集会」を開催しました。そこで同氏は、国防長官にジェイムズ・マティス退役大将を起用すると発表しました。次の注目は国務長官の人事です。本稿では、これまでのトランプ政権の人事構想から見える同氏の思考と手法を中心に述べます。
■反「チーム・オブ・ライバルズ」
読者の皆さんはチームを形成するとき、自分とものの見方や考え方が類似した仲間をメンバーに入れたいと思いませんか。価値観や意見が異なる競争相手をチームメンバーに加えようとしますか。
オバマ米大統領は、2008年民主党候補指名争いでライバルであったヒラリー・クリントン氏を国務長官に任命しました。それに加えて、ブッシュ前政権の国防長官であったロバート・ゲイツ氏並びに本選を戦ったマケイン陣営のジョン・ハンツマンユタ州元知事を自分のチームに入れて驚かせたのです。同大統領は、ライバルはチームメンバーに加えて自分の手元に置くというリンカーン元大統領のとった手法を取り入れたのです。尊敬するリンカーン元大統領のライバルで構成されたチームを作るという「チーム・オブ・ライバルズ」のアイデアに基づいて、同大統領は閣僚人事を進めたのです。
それに対して、共和党ドナルド・トランプ次期米大統領は新政権における人事において「チーム・オブ・ライバルズ」を重視しているとは言えません。右派のニュースサイト会長スティーブン・バノン氏を大統領主席戦略官兼上級顧問、ジェフ・セッションズ上院議員(共和党・アラバマ州)を司法長官、マイケル・フリン元国防情報局長を国家安全保障問題担当の大統領補佐官にそれぞれ任命しました。3氏はライバルどころか、共和党候補指名争いにおいてトランプ氏に対して忠誠心が高かった人物です。しかも3氏の思考は白人優先、反移民及び親ロシアで、トランプ氏のそれと類似点が多く存在しているのです。
■集団思考の罠と新政権
チームの形成において「チーム・オブ・ライバルズ」のアイデアにはどのようなメリットが存在するのでしょうか。ホワイトハウスでの記者会見で、オバマ大統領はメディアから元ライバルをチームに加えた理由について尋ねられたとき、「集団思考の罠」を阻止するためだとその意図を説明したのです。集団思考は、エール大学の社会心理学者アーヴィング・ジャニスの概念です。
ジャニスによりますと、集団思考とは「凝集性の高い集団でみられ、集団内の意見の一致を重視するあまり、とりうる可能性のあるすべての行動を評価しなくなる思考様式のこと」です。集団思考の罠にはまった凝集性の高いチームでは、メンバーを互いにひつけあう力が過度に働いており、次のような病的現象が観察できるというのです。
@ 不敗神話並びに無敵幻想を持つ
A 決定の正当化を過度に行う
B 決定についての倫理観を検討しない
C 敵は悪魔であるような極端なステレオタイプ(固定観念)を用いる
D 反対者に対しては、集団的に同調をするように直接圧力をかける
E チームのコンセンサスから逸脱していないか自己検閲を行う
F 他のメンバーの沈黙を同意と誤解し、全員一致の幻想を持つ
G 集団性を維持するために、反対者が反対意見を出さないように阻止する役割を担うメンバーが存在する
集団思考の概念を借りれば、たとえば軍事力増強を目指すトランプ氏率いる安全保障チームは過激派組織「イスラム国」(IS)に対し無敵幻想を抱き、プーチン・アサド両政権と協力して本格的に壊滅作戦に出る可能性は否定できません。その際、テロリストとイスラム教徒を同等に扱い、すべての同教徒を悪魔のように扱うのです。テロ対策としてイスラム系移民の登録制度の導入に関しても過度に正当化を行い、その倫理観について検討しない危険が充分あります。
次に経済チームです。トランプ氏は米財務長官にゴールドマン・サックス出身のスティーブン・ムニューチン氏、米商務長官に投資家のウィルバー・ロス氏を起用しました。両氏とも白人の超富裕層です。さらに米メディアによりますと、ゴールドマン・サックス社長兼最高執行責任者(COO)ゲーリー・コーン氏を米行政管理予算局(OMB)局長に起用することが検討されています。仮に同氏が行政管理予算局局長に任命されますと、バノン氏並びにムニューチン氏を含めてゴールドマン・サックスの経験者が3人も主要ポストに就くことになります。
仮に多様性に欠けた経済チームが集団思考の罠にはまりますと、通商政策において保護主義的な立場を過度に正当化するようになります。チームの求心力を維持するために、保護主義的な政策はグローバルな利益をもたらさないという反対議論を出さないようにする役割を果たすメンバーが出てくるのです。反対意見を出すメンバーに対しては同調するように圧力をかけて従わせるのです。その結果、集団思考の罠にはまったチームでは健全な議論ができないのです。トランプ新政権は、無敵幻想、過度な正当化、倫理観の軽視、極端なステレオタイプ並びに同調圧力により、かなり極端な立場をとり間違った方向に米国を導く可能性があります。
■ロムニーのリスク
トランプ新政権における国務長官の候補に2012年米大統領選挙の共和党候補ミット・ロムニー氏の名前が挙がっています。選挙期間中、ロムニー氏は不法移民対策として「自主退去」を提案しました。州の移民法を厳しくすれば不法移民は自主的に国外へ退去するというのです。16年米大統領選挙ではトランプ氏は米国とメキシコの国境における壁の建設を一貫して主張してきました。対中政策では、ロムニー・トランプ両氏とも中国を為替操作国として批判しています。不法民及び中国との通商問題に関して両氏は強硬派で共通点が存在しています。
一方、対ロシア政策に関してはトランプ・ロムニー両氏の間にかなりの温度差が存在しています。トランプ氏とは異なり、ロムニー氏は反ロシアの立場をとってきました。仮にトランプ氏が党内融和を最優先して国務長官の職をロムニー氏に与えた場合、同氏は国家安全保障問題担当の大統領補佐官フリン氏と衝突し、ロシア政策を巡って「ホワイトハウス対国務省」の構図が明確になるでしょう。ロムニー氏の国務長官起用には高いリスクが伴っているのです。
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