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トランプ始動前に既成事実作りに励むプーチン
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8292
2016年11月24日 小泉悠 (財団法人未来工学研究所客員研究員) WEDGE Infinity
■アサドは悪い奴だが……
2016年11月、大方の予想を覆して米国次期大統領にドナルド・トランプ氏が選ばれると、ロシアの国内世論は概ね歓迎ムードとなった。「孤立主義的」と言われる同氏が政権の座に就くことにより、米露間の懸案であるウクライナ問題やシリア問題での圧力が弱まるだろう、という期待感がその背景にはある。たとえばロシアの国営宣伝放送である『スプートニク』は、選挙期間中にトランプ候補が行った対外政策に関する発言を抜き出した「トランプ外交特集」を組んだが、ここにはロシアのトランプ政権に対する期待が色濃く現れている。
たとえばシリア問題についてはこんな具合である。
「私の政権は、ISISを打倒し、イスラム原理主義テロリズムを止めるために強調しようといういかなる国とも協力する。そこにはロシアも含まれる。もし彼らがISISをやっつけるために我々の側に立つなら、それはいいことだ」
「アサドは悪い奴だ。(中略)だが、もし彼ら(反体制派)がアサドを倒すなら、そいつらはアサドと同じくらい悪い奴だが、結果はアサドより悪いことになる」
この言葉通りであれば、アサド政権を「必要悪」として認め、対ISISでロシアと米国が強調するという、ロシアが従前から求めてきた構図ということになる。
■鍵を握るトランプ政権人事
もっとも、こうしたトランプ氏の発言がそのまま外交政策に反映されるかどうかは未知数の部分が多い。「アメリカをもう一度偉大な国に」というトランプ氏のスローガンは、大部分が経済の再建に向けられたものであり、外交・安全保障政策には疎いということは選挙期間中からつとに指摘されてきた。それどころか、実際にトランプ次期政権入りが取りざたされている顔ぶれを見ると、外交・安全保障分野ではボルトン元国連大使やウールジー元CIA長官など、対露強硬派や積極介入派が目立つ(両名はイラク戦争を積極的に支持した人物として知られる)。ロシアとしては、これまでの発言だけを見てトランプ政権を手放しに歓迎できるわけではなさそうだ。
一方、トランプ政権ではフリン元DIA局長が安全保障担当補佐官に指名されいるが、同人はロシアとの関わりが深いとされる。
■シリアへの介入を強めるロシア
こうしたなかで、ロシアはシリア介入戦略にも微妙な強弱をつけている。米国大統領選挙終盤、ロシアは、内戦の焦点となっているシリア北部のアレッポ市への攻撃をアサド政権軍とともに一時的に手控えた。「市民の自由通行と傷病人の避難、戦闘員の撤退のため」というのがその理由であるが(10月18日付ロシア国防省発表)、多数の民間人被害を出しているアレッポ空爆を続ければ米国世論が強硬化し、ロシアのシリア介入に批判的なクリントン候補への追い風となることを警戒したという側面はあろう。アレッポ空爆をめぐってはこれまでロシアとの仲介役を務めていた独仏も人道的立場から姿勢を硬化させ、新たな制裁まで示唆しつつあったため、欧州向けのポーズという側面もあったと思われる。
一方、トランプ候補の勝利が確実となった後の11月11日になると、ロシアは約3週間ぶりにアレッポへの大規模攻撃を再開した。昨年11月からほぼ1年ぶりとなる爆撃機からの巡航ミサイル攻撃に加え、東地中海に展開させた空母アドミラル・クズネツォフもロシアの歴史上始めて、艦載機による空爆を実施。また、同じく東地中海からは黒海艦隊の新鋭フリゲートによる巡航ミサイル攻撃を行ったほか、地上には射程が300kmに及ぶ最新鋭のバスチョン超音速地対艦ミサイルシステムを展開させ、これを対地モードで発射した。
また、11月21日はフメイミム基地に新たな滑走路や地対空ミサイル陣地などを建設する近代化計画を2年半から3年掛けて実施するとの計画をロシア国防省が発表した。ロシアはシリア政府との間でロシア空軍の恒久的な駐留に関する協定を締結したほか、10月10日にはロシア海軍の拠点があるタルトゥース港を拡張して恒久化する計画をパンコフ国防次官が明らかにしている。すでにシリアにはタルトゥース港の拡張工事に使用されると見られるクレーン船が出発しており、シリアにおけるロシアの軍事プレゼンス恒久化を早々に実施する構えである。
■防空体制強化で米国をけん制
ロシアはシリア上空における防空体制も強化している。10月初頭にはタルトゥース港に長射程のS-300防空システムが配備されたほか(すでにフメイミム基地にはより新しいS-400ミサイルが配備されていた)、空爆再開後には、これまでの主力基地であった北西部のフメイミム基地ではなく北部中央のクウェイリス基地にMiG-31BM迎撃戦闘機を配備したと見られている。
ロシアが懸念していたのは、クリントン政権が成立した場合、米国がシリア北部に飛行禁止空域を設定してロシア軍やアサド政権軍による空爆を封じられる可能性だった。米国内では、シリア問題に対する「プランB」として飛行禁止空域設定を求める声が高まっており、クリントン候補もこのオプションを真剣に検討していたと見られる。そうなれば米露直接対決の危険が生じる、というのがロシア側の言い分であったが、実際には米国がそこまでの決意を示してきた場合にはシリアへの介入を後退させざるを得ない、という懸念のほうが大きかったのではないか。ISISも反体制派も航空戦力を持たない中で防空体制の強化に走ってきたのは、トランプ政権が「プランB」に走ることがないようけん制する狙いがあったと思われる。
この意味で鍵を握るのがトルコの動向である。シリア北部への飛行禁止空域設定にせよ、安全地帯の設置にせよ、もともとはトルコが言い出した話であり、今年9月のG20サミットでもエルドアン大統領はこの構想を改めて提案している。
トルコとロシアの関係は昨年11月に発生したロシア空軍機撃墜事件によって一時期最悪の状態に陥っていたが、今年6月にエルドアン大統領が突如としてロシアに対する謝罪の意向を表明し、8月にはエルドアン大統領が訪露して関係正常化を宣言した。さらにロシアはトルコへの天然ガスパイプライン敷設計画を再開させ、最新鋭のS-400防空システムの供与まで計画している。一方、人権問題でEUから非難を浴びているエルドアン大統領は今月20日、トルコが中露主導の上海協力機構に加盟する可能性を示唆するなど、ロシアに接近するそぶりを見せるようになった。
■シリア空爆は今後も続く
このように、ロシア側は、トランプ政権の成立を見込んでシリアへの介入を強化し、トルコとの接近も進めつつある。トランプ政権が実際にどのような対外政策を打ち出すにせよ、今のうちにアサド政権の延命を確実なものとし、対ISIS作戦でロシアの主導権を確立することがその狙いと考えられよう。いずれにしてもアレッポの陥落は時間の問題と見られており、それまでは民間人の被害には顧慮することなく空爆は続くと見られる。
ただ、これがロシアの望む通り、米露の協調による「対テロ戦争」という形にまで持っていけるかどうかは、前述したトランプ政権の具体的な陣容に大きく影響されることになろう。
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