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ユーラシアニズム チャールズ・クローヴァー著 ナショナリズムの思想と陰謀
陰謀論は厄介である。反証が困難であるのに加えて、この世は陰謀に満ちていると主張し、それを暴こうと試みる議論は、陰謀の9割が虚偽でも、残りに真実の陰謀が混じっていれば途端に全体の信憑(しんんぴょう)性を増してしまう。
本書の著者はロシアに渦巻く陰謀論の真実を探ろうと、大変な努力を注ぎ、いくつかに真実の陰謀を見出(みいだ)したのだろう。その結果、ロシアに渦巻く陰謀論の大半が真実であると信じるようになった。「ロシアの陰謀論に関する陰謀論的解釈の書」が本書である。
本書によれば、第1次と第2次両世界大戦の戦間期に、ロシアからの亡命知識人トルベツコイ等の手によってはじめて主張された「ユーラシアニズム」(ユーラシア主義)は、西欧とは異なるロシアの独自性を主張する思想で、ソヴィエト時代にはソ連の歴史家・哲学者グミリョフの手によって担われ、現代ではドゥーギンという学者が主唱者であり、ロシアのナショナリズムの思想的支柱になった。その支柱になる過程で、ドゥーギンらが政権に取り入るため行った様々な工作や、政権による情報操作の多様な試みがあったことを主張する。最終的には、政権による操作の手を離れ、この特殊な思想が政権を振り回すようになったという。
近年、ロシアにナショナリズム感情が強くなったことはしばしば指摘されるし、本書も一つの見方として成立しなくもない。また、ジャーナリストによる文章は、学者の生硬な文章ではなく、読みやすく楽しい。とはいえ、疑問も多く残る。まず、トルベツコイ、グミリョフ、ドゥーギンの間の思想的連関に関して、前2者がドゥーギンに与えた影響の有無は、本書からは全くわからない。異質な思想を「ユーラシアニズム」の下に無理やりまとめている感さえある。また、現代に関する部分では「ユーラシアニズム」ともナショナリズムとも関係の薄い陰謀の試みに多くの紙幅を割いている。そして、そのほとんどの陰謀はよくわからないが、存在した疑いが濃厚だという筆致になっている。いくつかの陰謀の存在を確信した結果、他の陰謀もすべて信じ込んでしまったようだ。根拠がどこにあるかわからない断定も数多く含んでいる。
思想としてのユーラシア主義に関して、学問的な関心のある方には邦語で学術書が出ているのでそちらをお薦めしたい。しかし、陰謀論が好きな方には、本書はスパイ小説のような楽しみを与えてくれるであろう。
原題=Black Wind,White Snow
(越智道雄訳、NHK出版・3300円)
▼著者は米国人ジャーナリスト。英紙のモスクワ支局長を務めた。
《評》慶応義塾大学准教授
大串 敦
[日経新聞11月13日朝刊P.21]
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