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コラム:
トランプ勝利と、米国が主導する「世界秩序の死」
11月10日、米大統領選の結果は、リベラルな世界秩序に対する米国の揺るぎない支持が失われつつあることを明確に示したに違いない。写真は、次期米大統領となったドナルド・トランプ氏(写真)。オハイオ州で7月撮影(2016年 ロイター/Mike Segar)
Peter Thal Larsen
[ロンドン 10日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 歴史は都合良く動いてくれるわけではない。だが時として、無視できない日がある。そういう意味では、ドナルド・トランプ氏の次期米大統領選出が確実となった日が、ベルリンの壁が崩壊した記念日だというのはふさわしいように思える。
1989年11月9日は、リベラル、民主主義、そして米国が主に主導し、それ以前の半世紀において世界の大部分を支配してきた「世界秩序の勝利」を象徴する日となった。一方、27年後の同じ日に起きたトランプ氏の勝利は、その死を示している。
リアリティー番組の元スターが、敵対的な選挙公約を政策に実際どのように反映させるかを語るのは時期尚早だ。米国内でトランプ氏は、とりわけ暴君的な大統領の権力を制限するよう作られた憲法の制約を受けるだろう。一方、トランプ氏の行動が、保護主義的で好戦的な同氏の発言通りなのかどうかについて、他の世界はまだ知る由もない。
そうとはいえ、第2次世界大戦後に始まり、ソ連崩壊でピークに達した米国支配の時代は今、終わりを迎えようとしている。このことは、国際秩序と世界経済に憂慮すべき結果を招くことになる。
かつての超大国は、米ドルに支えられて、貿易障壁を下げ、世界の資本の流れに対する規制を緩和することが可能だった。また、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、世界貿易機構(WTO)のような国際機関を支援してきた。これら機関はその正当性を、米国の支援、そして資金に依拠してきた。
米国主導の世界秩序はその軍事力によって支えられ、それは北大西洋条約機構(NATO)や、日本、韓国、サウジアラビアといった同盟諸国との協力に投影されている。またそれは、一連の共通したアイデアの基に成り立っている。民主主義への信頼と、法の支配の尊重である。米大統領選翌日の朝、こうした共有価値を繰り返し語る必要を実感していたのは、次期米大統領ではなく、ドイツのメルケル首相だった。
トランプ氏の勝利は世界全体を脅かしている。同氏はメキシコとカナダと、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉に臨むと約束している。また、中国からの輸入品に関税を課すとしている。NATO加盟国への軍事支援にも疑念を呈している。同氏の選挙戦は、民主主義の原則や司法の独立性、報道の自由、さらには基本的人権といったことへの尊重が全く欠如しているのが特徴であった。
これは、米国覇権の暗い側面を否定するものではない。高尚な理想も、米国が東南アジアにおける破壊的な戦争を追い求めることを防ぐことはできず、皮肉にも第3世界の独裁者たちを支援することになった。最近では、イスラム過激主義との戦いにおいて、同国の原則は繰り返しむしばまれている。一方、貿易や金融に関するルールは、米国の銀行や企業に有利に働きやすくなっていることが多い。
また、米国の影響力がここしばらく弱まっているのも本当のことである。2001年9月11日の米同時多発攻撃は、米国の戦後安全保障への信頼を打ち砕き、同国はアフガニスタンとイラクに対して、高い代償を払うことになる戦争を始めた。2008年9月のリーマンショックに端を発した金融危機は、西側世界をリセッション(景気後退)に陥らせただけでなく、金融・経済界のエリートたちから信念を奪った。
このような失敗によって火が付いた政治的反発はすでに、英国が欧州連合(EU)から離脱するという結果を招いた。そして今、ビジネス界での疑わしい記録と政治経験ゼロという経歴の持ち主である70歳が次期米大統領に選ばれたのだ。
しかし明らかに内向きな米国は、世界の広範囲にわたり影響を及ぼす。保護主義的措置は他国による報復を招くことになるかもしれない。投資家はドルに代わる安全通貨を探し求めるだろう。これまで米軍の傘下で保護されていた国々は再軍備し、地域に緊張をもたらす可能性がある。
米国の代わりとなる覇権国は他にはない。EUは、停滞する経済や押し寄せる移民の波、拡大路線を取るロシアの脅威と格闘している。一部のEU加盟国は来年に選挙を控えており、トランプ氏のような反乱が起きる可能性がある。たとえそうした脅威を乗り越えたとしても、EUは近い将来、域外で大きな影響力を発揮することに苦労するだろう。
一方、中国はアジアで支配力を強化するとみられる。すでにフィリピンとマレーシアは中国に接近している。だが、過去30年にわたる中国の驚くべき成長は主に、米国が秩序を保っている貿易と金融の世界的なシステムにただ乗りする中国の能力によるところが大きい。世界第2位の経済大国が、たとえそれを望んでいたとしても、新たに世界的ルールを構築し、それを実行できる立場にあるとは疑わしい。
米国の有権者は、過去にも孤立主義と保護主義をもてあそんだことがある。未来の大統領が、開放性に対する同国の情熱を再び呼び覚ますことはあるかもしれない。ふたを開けてみれば、「トランプ大統領」は選挙中のときより現実主義者である可能性もある。
そのような考えは、トランプ氏の財政出動を歓迎し、起こり得る貿易戦争についてはそれほど心配していないように見える投資家の早計な結論である。しかしながら、米大統領選の結果は、リベラルな世界秩序に対する米国の揺るぎない支持が失われつつあることを明確に示したに違いない。それが世界にとってどのような意味をもつのか明らかになるのは、またさらに27年後かもしれない。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
http://jp.reuters.com/article/column-trump-demise-us-world-order-idJPKBN13A08T
帝国回帰を夢見るトルコ
2016/11/14
岡崎研究所
10月6日付の米フォーリン・アフェアーズのサイトで、トルコのシリア北部侵攻について、Ryan Gingeras米海軍大学院准教授が、トルコの行動を、オスマン帝国への回帰を指向していることと絡めて論じています。要旨は以下の通りです。
シリアはオスマントルコの一部だった
iStock
8月のトルコ軍による北部シリアへの侵攻は、トルコ・シリア国境地帯におけるイスラム国(IS)拠点の壊滅とシリア・クルド(PYD)の封じ込めという二つの目的を実現するというトルコの安全保障にとって極めて重要な作戦であった。
この作戦については、米ロの支持を受けたとはいえ、政治的にも現実面においても懐疑的な見方がある。今回の侵攻が益々強まりつつあるエルドアン大統領の権威主義指向から目をそらそうとする試みであるとの批判や未遂に終わった7月のクーデター事件の首謀グループとされるギュレン派軍人の大規模な粛清の中で行われたことも理由である。他方、シリアがオスマン帝国の一部であったという過去の事実によって、侵略ではなく寧ろ恩恵をもたらす解放であるとの見方も一部にある。
トルコの近代の対外政策は必ずしもオスマン帝国の歴史を肯定するものではなく、世俗的な国益を重視したものであったが、エルドアン・AKP政権の成立以来、オスマン帝国の過去の栄光を再評価し、現代の地域政策を正当化する論調が広まっている。
しかし、このような傾向は地域の安定にとって重大なリスクがある。特にシリアにおけるクルド系住民・組織(PYD)の意見、トルコとの関係の歴史についての見方である。
PYDがRojava(シリア・クルディスタン)としている地域は、過去においてクルド公国の中心部を形成し、その後オスマン帝国時代にトルコにより併合され、多くのクルド人、アルメニア人住民が殺害された。この記憶は未だ強く残っている。
多くのシリア・クルド人にとってはISよりもトルコの方がより大きな脅威であり、トルコがオスマン帝国の栄光をかざして北部シリアへの介入を強化すれば、クルド、PYDの激しい抵抗を招き、PYDとの直接的な軍事対決を惹起し、同時にトルコ内における不安定化と動乱に発展する可能性がある。
出 典:Ryan Gingeras‘Ottoman Ghosts’(Foreign Affairs, October 6, 2016)
URL:https://www.foreignaffairs.com/articles/turkey/2016-10-06/ottoman-ghosts
今回のトルコ軍による北部シリア侵攻は、昨年来よりエルドアン大統領が追求してきた対IS、対PKK戦同時遂行の必然的な発展です。特にシリアにおけるクルド系(PYD)の勢力伸長に相当な危機感を持つに至ったことがうかがわれます。
オスマン帝国の栄光
この論説は、今回の侵攻を含め、エルドアン大統領による最近のトルコの対外政策を、オスマン帝国の歴史的栄光への回帰を指向する底流と関連付けて論じています。エルドアン大統領およびAKPによる対外政策は、当初は近隣諸国との友好を維持し経済関係の強化等によって地域のバランサーとしての役割を果たし、同時にトルコの経済発展を図るというものでしたが、シリア内戦、イラクの政治的混乱とトルコ国内政治の波乱(選挙における敗北と復権、今回のクーデター未遂等)が情勢を大きく変えました。
しかし、トルコの周辺地域への介入強化、影響力強化の動きはオスマン帝国の再現というような積極的、意図的な政策と言うよりも、エルドアンの政策(主に国内政治的考慮により打ち出された)の正当化のための一つの論調であるとともに、トルコ国内の一種の政治的懐古的ムードを表したものに過ぎないように思われます。
エルドアン大統領は対IS戦と対PKK戦を同時に進める政策を遂行してきていますが、第一の目的はPKKの殲滅であり、今回の侵攻も本論説が指摘するように、PKKと近い関係にあるシリア・クルド(PYD)の勢力拡大を防ぐことが最大の目的でした。今後はユーフラテス西岸地帯を中心に一定の地域を一種の緩衝地帯として確保し、PYDの領域拡大を牽制するものと見られますが、シリア北部における有志連合の対IS掃討作戦を複雑なものとし、米国との調整をどうするか大きな問題となる可能性が大です。同時に、シリアへの介入度を深めることはトルコ国内の治安情勢をより不安定なものとするとの懸念も、論説の指摘する通りです。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8183
ロシア、トルコをつなぐ新パイプラインの意味
2016/11/15
岡崎研究所
フィナンシャル・タイムズ紙エネルギー担当編集長のウォードと、トルコ在住ジャーナリストのパイテルが、10月11日付同紙にて、10月10日にプーチン・エルドアン首脳会談でトルコ・ストリーム・パイプライン建設が合意されたことはトルコ・ロシア関係の強化になると論じ、トルコ・ロシアの接近について警鐘を鳴らしています。要旨は次の通りです。
ロシアとトルコをつなぐ新パイプライン
iStock
ロシアとトルコは、シリアをめぐる緊張を脇に置き、ロシアのエネルギーの西欧への新たなルートを開くガスパイプラインに合意した。10月10日、イスタンブールでプーチンとエルドアンはトルコ・ストリーム・パイプライン建設に合意した。この合意により、ロシアがウクライナを経由せずに、ガスを欧州に送れることになる。
3カ月前のクーデターの試み後、トルコと西側との間の不信が高まる中、この合意はロシアとトルコの関係を強化することになろう。10日の合意では、黒海のトルコ領海海底を通る2本のパイプライン(合わせて年間300億立方メートルの容量)を建設するとしている。1本はトルコ市場向け、もう1本は欧州向けである。
トルコストリームは、ロシア国営のガスプロムにより操業される予定で、2年前プーチンが、ロシアとEU諸国が共同操業するサウスストリームの代わりに提案していた。
交渉は、2015年のシリア国境でのトルコによるロシアのSu-24撃墜で引き起こされた危機を受けて中断していたが、6月にエルドアンがその撃墜に遺憾の意を表明して以来、急速に関係が改善している。10日、プーチンとエルドアンは軍事・諜報協力を緊密化するとした。
エルドアンは7月のクーデター未遂後、欧米が冷淡であるとして、トルコと米欧の関係は緊張している。トルコは、クーデターを計画したと非難しているギュレン師の即時引き渡しを米国が拒否していることに反発、反乱後の弾圧の規模(10万人以上が解雇)についての西側の警告にも憤慨している。
イスタンブールでの会談は、エルドアンとプーチンの3か月で3回目となる会談である。西側では、NATO加盟国であるトルコと伝統的同盟国間の緊張をロシアが利用しようとしているとの危惧が高まっている。
トルコ大統領府の外交責任者は、「トルコの西側との同盟もNATOとの関係もトルコのEU加盟問題も議題に上っていない。新たな同盟の可能性は見られない」とした。しかし同氏は「トルコが外交政策の選択肢を多様化させないということではない」とも付け加えた。
プーチンとエルドアンのデタントにも拘わらず、シリアをめぐる対立は続いている。トルコはアサドの即時退陣の要求を弱めてはいるが、依然としてシリアの反政府軍の重要な支援者であり、一方ロシアはアサドの最も忠実な同盟者である。
10日、プーチンは、トルコとロシアは人道物資供給のため可能なすべてのことをなすべきとの「共通の立場」を見出したとして、アレッポへの支援物資供給の重要性につき両国が合意したと言った。しかし、先月の国連の援助部隊への爆撃でロシアが非難される中、これが実際には何を意味するのかはまだよく分からない。
出典:Andrew Ward & Laura Pitel,‘Russia and Turkey agree gas pipeline deal’(Financial Times, October 11, 2016)
https://www.ft.com/content/52c05b6e-8f1f-11e6-a72e-b428cb934b78
トルコがクーデター事件後の非常事態宣言を延長、大規模な「弾圧」をする中、欧米はトルコへの批判を強めています。そういう中でロシアはトルコへの接近を図っています。今回の首脳会談でプーチンは、トルコによるロシアの戦闘機撃墜以来トルコに課していた経済制裁を撤廃しました。両国はトルコ・ストリーム・パイプラインの建設にも合意しました。このトルコ・ロシアの接近についてどう評価すべきでしょうか。
トルコがNATOから離れていく
両国間の軍事・諜報面での協力も合意されたというのが気になりますが、新しい同盟の可能性はないとトルコ側は説明しています。西側がトルコ・ロシアの接近を過大評価し、「トルコがNATOから離れていく」などと警戒心をもって対応することは逆効果になるように思われます。ロシアによる経済制裁解除は経済関係の正常化であり、トルコ・ストリーム・パイプラインは両者の利害が合致したものと冷静に受け止めるのが正しい対応であると思われます。
エルドアンもプーチンも権威主義的政権の長です。外交政策の展開において、民主主義国の指導者よりもずっと自由に決めることができます。戦闘機撃墜後プーチンは、「エルドアンに後悔させてやる」など、ひどい言辞を弄していましたが、今やエルドアンは盟友扱いです。ただ、権威主義国同士の関係は、指導者の決定による面が強く、振幅が大きいものになります。プーチン・エルドアン関係はその象徴のようにも見えます。トルコは伝統的にロシア不信が強いものです。あまりロシア・トルコ接近を心配する必要はないでしょう。
なお、シリアについては、アサド・ロシアと停戦協定など結んでも意味がないことは証明済みです。安全地帯設置や飛行禁止区域を設定し、実力でその担保をすることが人命の尊重につながるでしょう。軍事力でバックアップされない外交は成果を上げ得ないのがシリアの現状ではないかと思われます。ただ、オバマ政権はシリアでの軍事力行使に否定的であり、アサド、プーチンはその間に現地の状況を有利にしようとしていると思われます。プーチンの人道援助を届ける努力に関する発言は、今後のロシアの行動を見てその内容を判断すればよいと思われます。
http://wedge.ismedia.jp/articles/print/8184
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