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米ロサンゼルスのカリフォルニア大学ロサンゼルス校でトランプ氏勝利に抗議する学生たち(2016年11月10日撮影)。(c)AFP/Frederic J. BROWN〔AFPBB News〕
トランプ新大統領に心底恐怖を感じるユダヤ人青年 差別と暴言でアメリカに憎しみをばらまいた男
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48379
2016.11.14 老田 章彦 JBpress
大統領選挙に当選したドナルド・トランプ氏が「我々は今こそ、この分断の傷をいやし、共に結束していく時だ」と厳かな表情で語るのを、パキスタン人のジシャン・アルハッサン・ウスマニ氏(38)はどんな気分で見ていただろう。
ウスマニ氏はつい最近まで、妻と3人の息子と共にノースカロライナ州フェイエットビル(人口20万)に住んでいた。ウスマニ一家を取り囲む空気は、トランプ氏がイスラム教徒を敵視する発言を繰り返してきたこの1年たらずの間に、目に見えて悪化した。
6月には、一家が通っていたモスクに白人男性が乱入し「イスラム教徒は殺してやる」と脅し、イスラム教徒が不浄として忌む豚肉をモスクの玄関に投げつける事件があった。7月のある深夜には、ウスマニ家に近所の住民が押しかけて差別的な言葉を叫び、「アメリカ人の作法と暮らし方」を教えてやるといって騒ぐ事件が起きた。9月には、かつてウスマニ氏がフロリダに住んでいたとき通っていたモスクが放火された。
■テロ防止に献身してきた科学者がテロリスト?
家族にも実害が及んでいた。8歳の次男は、父親のウスマニ氏が濃い髭を生やしていることから、クラスメートから「テロリスト」と呼ばれた。
14歳の長男もつらい体験をした。あるときクラスメートが、父親が南米から買ってきた珍しいナイフを学校へ持ちこみ、生徒たちの間で話題の中心になった。それを見た長男は、父親のパキスタン土産のナイフを学校へ持って行った。ところがこれを教師に見とがめられた。学校が緊急閉鎖される騒ぎとなり、長男は6カ月の停学処分を受けた。テロ行為の準備をしたと疑われたのだ。
皮肉なことにウスマニ氏はテロの防止技術を研究するコンピューターサイエンティストである。フルブライト奨学金を得てアメリカで学び、博士号を取得。IS(イスラム国)にリクルートされやすい若者の傾向をビッグデータを駆使して探る技術のほか、国連のプロジェクトに協力して、自爆テロによる建物の被害(すなわち人的被害)を軽減するためのミュレーションソフトなどを開発してきた。
ウスマニ氏が突然家族をパキスタンに帰したのは10月のことだった。原因は、7歳の息子アブドゥル君が学校からの帰りに受けた集団暴行だった。アブドゥル君はスクールバスから降りたところでクラスメートに囲まれ、「お前の名前はバカにつける名前だ」などと罵られ、顔や体に殴る蹴るの暴行を受けた。腕をねじあげられ、骨折した。
学校側は、アブドゥル君の怪我がいじめによるものだったかどうかについて調査を開始した。だがウスマニ氏は、家族をこれ以上の危険にさらすことはできないと判断し、事件の数日後に妻と息子たちをパキスタンへ帰した。
■全米で頻発してきたイスラム教徒への敵対行為
米国内に暮らすイスラム教徒は330万人(2015年、ピュー・リサーチセンター調べ)であり、総人口の1%にすぎない。たったこれだけのマイノリティーに対して、どれほど敵対的な行為が行われているのか。
全米のメディアが報じた事件をハフィントンポストが集計したところ、今年1月から9月末までの275日間に289件の敵対的な行為が発生した。これは新聞やテレビで報じられたものに限っての話だ。289件のうち、路上でいきなり殴り倒されたり、モスクに放火されたりといった暴力事件のほかに目立つのは、社会的な影響力のある人たちによる敵対行為だ。
9月の後半だけでも以下のことが起きた。
19日、トランプ氏の息子ドナルド・トランプ・ジュニア氏は、米国への入国を希望するシリア難民をキャンディに例え、「ボウル一杯のキャンディのうち3個が毒入りだとしたら、君は手を出すかい?これがシリア難民問題ってやつだ」とツイートし、難民をテロリストと結びつけた。さらに「アメリカ第一主義を損なうようなポリティカリーコレクトな話し方はもう終わりにしよう」とも呼びかけた。
その3日後の22日には、反イスラム教徒活動家のジョン・グアンドロ元FBI捜査官がラジオ番組に出演し、「不自然なほど大勢のイスラム教徒が各地のホテルで働き、全米のガソリンスタンドを買収しているのは、彼らが米国内で戦争を起こそうとしている証拠だ」と語った。
26日には、アラバマ州でトランプ陣営のトップをつとめるエド・ヘンリー州議会議員が、クリントン候補の銃器規制政策に反発し、「イラン、イラク、ISなどイスラム国家はすべて過激派であり、我々を殺したがっている」、それにもかかわらず武器を市民から遠ざける政策は間違っているとツイッターで主張した。
29日には、ケンタッキー州の州議会に立候補したダン・ジョンソン候補(共和党)が、「あなたの州にイスラム教の禁止を要求しよう。州は、この宗教の皮をかぶった犯罪結社を法的に禁止することができる」とフェイスブックで呼びかけた。これは、信教の自由を保障した合衆国憲法に違反する主張であり、共和党からも厳しく批判されたが、ジョンソン候補は謝罪や書き込みの撤回の要求に応ずることはなかった。
■ユダヤ人青年のおびえ
トランプ氏の当選が決まった9日の朝、首都ワシントンの景色は暗かった。低く垂れこめた雲と降りしきる雨のせいもあったが、道行く人々の多くの服装が黒づくめだったせいだろう。彼らは何を思ってそうしたのか。
ワシントンは人口の半分をアフリカ系が占めるほか、首都圏にはヒスパニックやアジア系も多く、全米で最も多民族・多文化な地域の1つだ。人々には互いの価値観を尊重し合う気風が強く、LGBTなどマイノリティに対して寛容だ。今回の選挙ではワシントンの有権者の93%がクリントン候補に投票した。それだけに今回、マイノリティへの憎悪をむきだしにする大統領の誕生にショックを覚えた人が多い。
筆者の知己であるユダヤ系のD君はこの朝、ひどく表情がさえなかった。さえないどころか抑鬱状態といえるほどの落ち込みぶりの理由を、D君は重い口で語った。
「僕はトランプ大統領の出現に心底恐怖を感じているんだ」
彼の父親は、学生時代をワシントンで過ごした。1970年頃、近郊のボルチモア(メリーランド州)へ出かけたとき、ユダヤ人を敵視する男たちに囲まれて殴る蹴るの暴行を加えられ、大怪我をした。すぐに警察に訴えたが、事件の概要を知った警官はまともに取り合ってくれなかったという。その数年前の1964年に公民権法が制定され、法のうえでの人種差別は撤廃されていたが、人々の心には根強い差別感情が残っていた。
1990年生まれのD君は、父親のこの体験を聞かされて育ち、マイノリティとして差別を受けやすい立場にあることを強く意識している。そしてトランプ氏がマイノリティへの憎悪をふりまきながら支持者を増やしていくさまを苦い気持ちで見てきた。
D君は、今のアメリカは第2次世界大戦前夜のドイツに似ていると考えている。
不況にあえぐ大衆の不満を吸い上げ、ナショナリズムを鼓吹すると同時に「内なる敵」を作り上げ弾圧する政治手法は、人道上の惨禍へとつながった。たとえ21世紀のアメリカであっても、国家のリーダーがマイノリティに対して非寛容な態度を続ければ、危険な状況はいずれ必ず訪れる。そのようにD君は危惧しているのだ。
■小学生の心にも刻み付けられた憎悪の言葉
10月、息子の大怪我を契機に家族をパキスタンへ帰した科学者ウスマニ氏は、米メディアから家族をアメリカへ呼び戻す時期について問われ、「トランプ候補が落選し、安全を十分に確信できるようになったら考える」と答えていた。
トランプ氏の乱暴な言葉は選挙用のポーズにすぎず、今後は穏当になるのではと期待する人もいる。だがそうであったとしても、彼が全米に撒き散らした憎悪が容易に消え去ることはないだろう。たとえば「イスラム教徒はテロリスト」という言葉は、多くの大人ばかりではなく、小学生の心にも刻み付けられているのだ。
イスラム教徒やユダヤ人・黒人、LGBTのようなマイノリティ、そして女性の多くが「トランプ時代」の到来におびえている。暴力を受けたり、尊厳を侵されたり、機会を奪い取られたりする危険を予感しているからだ。けっして大袈裟な物言いのつもりではなく、筆者の周囲の空気から強くそう感じている。
憎しみをばらまき、寛容を否定することで分断したアメリカを、どうしていくのか。今後のトランプ氏の一挙手一投足から目が離せない。
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