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米首都ワシントンで行われた「トランプ・インターナショナル・ホテル」のオープニングセレモニーで、娘のイヴァンカさんにキスする米大統領選共和党候補の不動産王ドナルド・トランプ氏(2016年10月26日撮影)〔AFPBB News〕
大統領選敗北でも世界へ拡大するトランプ現象 白人が謳歌した「過去」への回帰を求める少数勢力
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48246
2016.10.31 高濱 賛 JBpress
■「クリントン大統領」確率、ついに85.4%へ
米大統領選まであと1週間に迫った。
9月以降、10数年前の「わいせつな言動」が暴露されて、共和党大統領に指名された不動産王、ドナルド・トランプ氏はあれよあれよという間に失速。ラストスパートでの巻き返しも功を奏さず、ヒラリー・クリントン民主党大統領候補に大きく水をあけられてしまった。
的中率抜群の選挙予測機関「Five Thirty Eight」は、10月26日時点でクリントン氏の当選確率85.4%(トランプ氏14.6%)という数字を弾き出している。
世界の投資家が注目している予想会社「Predictwise」も同26日午後時点でクリントン氏の当選確率90%、トランプ氏10%と予想している。
「よほどのこと(例えばクリントン氏が病気で倒れるとか、2009年の米同時多発テロのようなテロ攻撃があるとか)がない限り、暴言と奇抜な主張で世界を唖然とさせた風雲児トランプ氏の大統領になる芽はほぼなくなった」(米主要紙政治コラムニスト)。
選挙の焦点は、そのトランプ氏がどのくらい票を獲得するか、言い換えればクリントン氏はトランプ氏にどれくらい差をつけて圧勝するか、に移ってきている。
■「トランプ現象」とは何だったのか
さて、そのトランプ氏が巻き起こした「トランプ現象」とはいった何だったのだろうか。言い換えると、ここまで有権者の一部を引きつけてきたトランプ氏の政治スタンス、「トランピズム」とは何だったのか。
米国の大方のジャーナリストや学者たちは、以下のように解説している。
<これまでカネに物を言わせて不動産業で稼いだカネをホテル、ゴルフ、カジノ経営に注ぎ込み、私生活でもしたい放題の人生を送ってきた男。その男が若い頃から夢に描いていた大統領になろうとする一世一代の賭けごとにすぎない>(リベラル派大学教授)
<バラク・オバマ黒人大統領の7年余にうんざりした低学歴、低所得中流下層の白人大衆が、既成共和党主流保守には目も向けず、体制打破を唱えるトランプを支持、あれよ、あれよという間に大統領選の舞台にまで担ぎ上げてしまった>(保守派シンクタンク研究員>
つまり「トランピズム」は、トランプ氏が大統領選で大敗すれば、終止符を打つ一過性のものだった、と結論づけている。
■「トランピズム」は英国でも起こっている
ところが「トランピズムとは、トランプを超えて生き続けるだろう」(Trumpism will survive Trump)と予言する新進気鋭の米学者が現れた。
トランプ支持者たちを対象に6か月間行なった聞き取り調査結果を徹底分析し、支持者たちがなぜトランプ氏を支持したか、その社会的、政治的、文化的状況を徹底追求している。そして得たのがこの「予言」だ。
しかも「トランピズム」はなにも米国だけに限らず、欧州連合(EU)離脱の是非を国民投票に託した英国でも起こっていると、この学者は主張している。
本書、「The New Minority」(新しい少数民族勢力)の著者、ジョージ・メイソン大学のジャスティン・ゲスト博士だ。ハーバード大学を卒業後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス(LSE)に留学、博士号を取得している。
専門分野は移民政策、少数民族の政治動向。2010年には欧米各国に住むイスラム教徒の政治動向を分析した「Apart: Alienated and Engaged Muslims in the West」を上梓、欧米学界で高く評価されている。
ゲスト博士が研究対象として目をつけたのは、「ラスト・ベルト」(錆ついた工業地帯)に住むトランプ支持者たちだ。
「ラスト・ベルト」とは、米中西部イリノイ、インディアナ、ミシガン、オハイオから大西洋岸中部のペンシルバニアに至る脱工業化が進んでいる地域を指す。時代遅れの工場や機械に依存してきた地域だ。「ラスト」(金属の錆)は使われなくなった工場や機械を具現化したものだ。
■社会・政治的地位を失い始めた白人ブルーカラー
ゲスト博士は、この「ラスト・ベルト」に住む典型的な白人中流ブルーカラーでトランプ支持をしてきた有権者に聞き取り調査した結果、以下のような実態を突き止めている。
「これまで米社会のバックボーン(中核)と自負してきた白人男性ブルーカラー(肉体労働者)は、激増する移民やヒスパニック、黒人、アジア系が急増する中で自分たちは、(有権者としての)政治的な地位だけでなく、社会的な地位まで失い始めたと考えている」
「自分たちは、米社会の中心から隅に追いやられてしまったと、やり場のない憤りを持っている。かっての米国の中心的プレーヤーだった白人の男たちは、今や『ニュー・マイノリティ』(新しい少数勢力)になり下がってしまった」
ちなみに同博士の聞き取り調査結果によると、ラスト・ベルトでトランプ氏を支持すると答えた白人は30%、草の根保守「茶会」を支持すると答えた白人は33%、民主、共和両党以外の第三政党を支持すると答えたものは23%だったという。
つまりトランプ氏の「わいせつ発言」があろうと、「大統領としての品格」が問題視されようと、反移民、反イスラム、反グローバル化を唱える「白人男性候補」は最後まで支持するという「少数民族」がいるというわけだ。
こうした傾向は何も「ラスト・ベルト」に住むブルーカラーだけではない。
ロサンゼルス・タイムズと南カリフォルニア大学が共同で全米レベルで実施した世論調査でも中高年層、低学歴、低所得層の白人男性の半分以上がトランプ氏を支持している実態が明らかになっている。
トランプ氏が選挙中掲げてきたスローガン、「Make American Great Again」(米国をもう一度偉大な国に)の「その心」は「白人ブルーカラーが謳歌できる米社会を再び作り上げる」にあるわけだ。
■共和党に突きつけられた抜本的な政策転換
では、そのトランプ氏を担いで大統領選では敗北した「ニュー・マイノリティ」はこれからどうするのか。どのような動きを見せるのか。
ゲスト博士は、次のように指摘している。
「トランピズムは、共和党にとっては極めて重要な政治現象だった。これを共和党が一時的な異常現象と見るか。あるいは共和党の伝統的基盤に潜む政策上の問題があると見るか」
「トランピズムをトランプという『人』ではなく、保守派有権者の『メッセージ』と受け止めるのであれば、共和党は抜本的な政策転換が必要だ。さもなければ、伝統的な白人保守票は共和党から離れ、第三政党へ流れるだろう」
「同じ現象は今英国で起こっている。保守票の一部が英国独立党(UKIP)という右翼政党へ流れている」
米国の「ニュー・マイノリティ」と英国独立党支持層の共通項は、反移民、反外国人、反グローバル化、反異教徒(非キリスト教徒)の堅持だ。
「クリントン大統領」という米史上初の女性大統領誕生が近づく中で、「トランピズム」が今後どのような政治勢力を形成していくのか。オバマ政権下で8年間続いたリベラルな政策はクリントン政権に引き継がれ、最低4年は続く。
そうした中で「古き良き白人の米国」を追い求める白人ブルーカラーたちの「ニュー・マイノリティ」が米政治にどのようなインパクトを与えられるのか、注視して損はない。
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