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フィリピン大統領来日!日本人専門家、暴言の裏にある意図を語る[スプートニク日本語]
オピニオン
2016年10月26日 16:03(アップデート 2016年10月26日 20:28)
徳山 あすか
25日、フィリピンのドゥテルテ大統領が来日した。到着早々に行われた在日フィリピン人の集会では熱烈歓迎を受け、会場に入りきれないほどの聴衆が集まった。滞在は3日間で、安倍首相との首脳会談や経済フォーラム、天皇陛下との会見も予定されている。
ドゥテルテ大統領と言えば「米国と決別する」「(オバマ米大統領へ向かって)地獄へ落ちろ」などのセンセーショナルな発言を繰り返し、麻薬撲滅戦争で密売人の殺害を容認するなど、その過激なキャラクターに注目が集まっている。大統領は東京に着いた途端、フィリピンの麻薬犯罪対策に批判的な米国やEUをさっそく「バカども」扱いし、喝采を浴びた。彼のフィリピンにおける人気は絶大で、すでにフィリピンという国に世界の関心を集めることに成功している。
ドゥテルテ大統領とはどのような人物で、彼の発言はどこまでが真意なのか。フィリピンの政治に詳しい名古屋大学大学院・国際開発研究科の日下渉(くさか・わたる)准教授がインタビューに答えてくれた。スプートニクの「暴言はもしかすると米国の出方を探るための戦略なのか」という問いに対し、日下氏は「暴言は練りに練った戦略ではない。ドゥテルテ大統領の個人的な資質による部分が大きい」との見解を示した。
では、なぜそこまで米国を標的にして暴言を繰り返すのか。 日下氏「ドゥテルテ大統領が大学に通っていた1960年代、フィリピンでも学生運動がありました。彼は日本で言うところの団塊の世代にあたり、左翼ナショナリズムの洗礼を浴びています。当時の彼の恩師は、後にフィリピン共産党(CPP)を作るホセ・マリア・シソンという人です。学生運動から来た左翼ナショナリズムのイデオロギー、それが彼のアイデンティティのひとつなのです。彼には『米国の影響力から抜け出たフィリピンを作りたい』という思想があります。
もともと米国との関係はそこまで悪くなく、米国は重要なパートナーだと言っていた時期もありました。しかしドゥテルテ大統領が推進する、国内の麻薬問題対策を米国が強く非難し、これが彼の反米精神に火をつけたのです。米国は、フィリピンに対し上から説教をするような態度で接しました。
ドゥテルテ大統領からすれば、『俺をリスペクトしない、つまりフィリピンをリスペクトしていない』という気持ちが高まり、更に反発心が出てきました。
ドゥテルテ大統領は先月、ラオスでの米比首脳会談の前に暴言を吐き、そのためオバマ大統領が会談をキャンセルしました。ドゥテルテ大統領はすぐ謝罪したものの、その2日後の東南アジア諸国連合(ASEAN)と米国の首脳会議には出ませんでした。こうした積み重ねによって、ドゥテルテ大統領の中で『米国はフィリピンを対等に見ていない』という思いが強くなったのです。
米国は、フィリピンを20世紀初頭に武力で侵略して以来、政治・経済・軍事的な影響力を行使してきました。いわば、親米路線は揺らがないだろうと、釣った魚に餌をやってこなかったわけです。今、米国はその魚に逃げられてしまい、大変なことになっています。ラオスで1回でも会談をしておけばこのようなことにはならなかったはずです。中国を封じ込めるための最先端にあるのがフィリピンなのですから、そこのトップに逃げられたというのは、オバマ大統領の大失態です。ラオスでの会談をキャンセルしなければ良かったと、今頃後悔しているのではないでしょうか。」
また日下氏は、ドゥテルテ大統領の反米的な発言の背後には、米国と組まなくても経済的にやっていけるのではないか、という勝算があると見ている。
日下氏「フィリピンにとって米国との貿易は相対的に減っており、中国、日本、ASEANとの交易が増えています。もともとフィリピンでは、国内の大地主がサトウキビのプランテーション・ビジネスを通じて、砂糖を米国に売り、それによって富と権力を蓄えた人たちが政界を牛耳ってきたわけです。前大統領のアキノ氏もその一味です。ドゥテルテ大統領は、国内政治で、そういう100年以上米国と付き合って富を蓄えてきた既得権益者とも戦っているのです。 ドゥテルテ大統領には、中国との関係を強化することで、フィリピン国内のエリートの経済基盤を変えたいという目論見もあると思います。ドゥテルテ大統領が今月訪中した際に100人もの実業家が同行しました。そのなかには、民主化以降に台頭した華人系の新興実業家も多かったです。彼らも、フィリピンを伝統的に支配してきた財閥とは違う、新しい回路を作ろうとしているのではないかと思います。
南シナ海の権益についての裁判で、ハーグ仲裁裁判所は中国の主張を退け、フィリピンの主張を認める判決を下しました。フィリピンはそれをむしろ武器にして、中国から最大限に利益を引き出したいと考えています。そして、中国と日本をフィリピンへの投資や開発支援で競わせる。おそらく、そのようなシナリオにもっていけば、米国不在でもやっていけるという目論見があるのでしょう。ただし、こうした相手の弱みにつけこむ瀬戸際戦術は、フィリピン政府が練りに練った政策ではありません。むしろ、ドゥテルテ大統領が天性の本能でやっている面が強いです。閣僚もドゥテルテ大統領の発言について事前に相談を受けていなかったと頭を抱えるケースが多いです。そういうこともあり、大国を手玉に取ろうとする彼の目論見が上手くいくかはわかりません。」
ドゥテルテ大統領の発言の中にはロシアにシンパシーを感じるようなものもある。例えばラオスでメドベージェフ露首相に会った際、米国に対する不満を話したら、同首相の賛同を得たという。また、米国の外交政策に同意しない露中と組んで、何かしらの政治機構を作りたい考えだ。
日下氏「ドゥテルテ大統領の、これからは中国とロシアとフィリピンで組んで世界と戦うのだという旨の発言は、フィリピンでも驚きをもって受けとめられました。彼は強いリーダーに対して憧れや、信頼感を持っています。20年間にわたってフィリピン大統領だったマルコス氏のような人、あるいはロシアのプーチン大統領のような、強いリーダーシップを良しとするのが彼の信念です。しかし、フィリピンがロシアとどういう風に繋がっていこうとするのか、まだ見えてきません。」
フィリピンを筆頭に、米国と距離を置き始める国が出てきていることについて、日下氏は次のように分析している。
日下氏「トルコのエルドアン大統領も然りですが、小国の大統領で感性の鋭い人たちは、『米国の手先、尖兵でいることはあまり良くない。むしろ露中と手を組んだ方が有利ではないか』と感じているのではないかと思います。これまで、米国の国際戦略のなかで、トルコは中東のイスラーム諸国、フィリピンは中国を封じ込める尖兵として役割を与えられてきました。しかし米国は、内政に関して人権などの理念を押し付けてきたりするわりに、軍事・経済的な支援は十分ではない。他方、ロシアや中国とは、経済的な利益のみで交渉できて付き合いやすいという感覚が、彼らの中に芽生えてきたのだと思います。」
さてドゥテルテ大統領は、日本に対し好感をもっているようだ。24日に行われたNHKの単独インタビューでは「温かい兄弟のような関係を続けたい。私は特に日本の意見は聞く」と発言し、25日の都内の講演でも「日本は最大の支援者、悪く言うところは何もない」などと述べている。しかし日下氏は、日本はドゥテルテ大統領との関係構築にあたって難しい立場に立たされていると指摘している。
日下氏「今回のドゥテルテ大統領訪日において、日本のミッションは重いものです。米国はフィリピンとの関係が悪化していますので、日本を通じてフィリピンに対する影響力を維持したいと思っています。安倍首相も米国から、フィリピンが中国に寝返らないように何とかしてほしいと頼まれているでしょう。他方で、アメリカの肩を持ちすぎてドゥテルテ大統領を刺激すると、完全に中国の方に行ってしまう恐れがあります。フィリピンを繋ぎとめつつ、米国の要求をフィリピンに聞いてもらうという、なかなか難しい役回りです。
今回、日本政府は天皇陛下との面会というカードも使っています。そのカードを使ってまで、ドゥテルテ大統領を歓待するという態度を示し、フィリピンに敬意を見せようとしているのです。」
到着初日の夕食会では日本からの支援への感謝を表明し、岸田外相に「来月もよかったら日本に呼んでくれ」と述べたドゥテルテ大統領。しかし奇想天外な彼の思考は読みきれず、日本訪問の直後にロシアを訪問しプーチン大統領に面会するという話もささやかれており、フィリピン外交の行方はまだわからない。
https://jp.sputniknews.com/opinion/201610262944281/
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