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「特権三昧」に浸る中国退職高官の優雅な生活
世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」
超大物の「公費チベット観光」告発には政争の影も
2016年10月21日(金)
北村 豊
10月5日の午後5時12分、ポータルサイト「新浪(sina.com)」が運営する“微博(マイクロブログ)”にハンドルネーム“北外喬木”と名乗る人物が下記の文章を書き込んだ。
この費用は誰が払うのか
“首長(高級幹部)”が引退し、“十一長假(10月1日の国慶節連休)”にチベットを視察して、気晴らしをした。これは理解できる。“警衛(護衛)”、“安保(保安要員)”、秘書、随行員、医師を引き連れていたが、これは特別待遇だろう。これに加えて、娘、娘婿、“外孫(娘の男の子)”、“外孫女(娘の女の子)”、息子、息子の嫁、“孫(内孫・男)”、“孫女(内孫・女)”まで引き連れるとは、これは一体どういう意味か。この費用は誰が出すのか。
上記文章の下には、「劉淇同志一行林芝視察接待具体案」と題する文章の写真が掲載されていて、そこには次のように書かれていた。
(1)時間:2016年10月1日〜10月6日
(2)地点:チベット自治区 巴宜区、米林県、工布江達県
(3)首長一行メンバーリスト(計16人)
劉 淇(17期中央政治局委員、元北京市党委員会書記)、汪声娟(劉淇同志夫人)
劉 錚(劉淇同志娘)、周 騁(劉淇同志娘婿)、周逸安(劉淇同志外孫)、周怡然(劉淇同志外孫女)、劉マ(劉淇同志息子)、李蓉(劉淇同志息子嫁)、劉竹萱(劉淇同志内孫・男)、劉松萱(劉淇同志内孫・女)
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張利民(北京市党委員会弁公庁副主任)、周立農(党中央弁公庁警備局処長、大佐クラス)、範 明(劉淇同志秘書)、張天一(劉淇同志護衛)、陳建立(劉淇同志随行員)、秦明照(北京同仁医院幹部保健科主任)
上記の文章はネットユーザーの注目を集め、大きな議論を巻き起こしたが、10月6日早朝に当局の指示を受けて削除された。
劉淇一行が訪れた“林芝市”はチベット自治区の東南部に位置し、平均海抜は3100mで、ヒマラヤ山脈とニェンチェンタンラ山脈に抱かれた風光明媚な土地であり、“雅魯藏布江(ヤルンツァンポ川)”が形成した世界最深の大峡谷があることで知られている。どんなに屁理屈をこねたところで視察を行う場所とは言えず、今回の旅行は劉淇が一族郎党を引き連れてチベット自治区へ観光旅行に出かけたことは誰が考えても明白な事実である。それでは、その費用は誰が負担するのか。劉淇のように特権階級にあぐらをかく高級幹部が旅行費用を自腹で支払うはずがなく、「視察」を名目に全てを公費で賄うのである。
退職高官に年7250億元
劉淇一行が今回の「視察旅行」でどれだけの費用を使ったのかは定かでないが、北京空港とチベット自治区の林芝空港の間を飛行機で往復するだけでもエコノミークラスで1人当たり7000元(約11万円)ほどかかるから、ファーストクラスなら1人当たり1.2万元(約19万円)かかる。劉淇一族の10人だけがファーストクラスだとしても、16人なら飛行機代だけで少なくとも16.2万元(約250万円)かかる。ましてや“包機(チャーター機)”なら、1000万円以上になるだろう。そうして考えると10月1日から6日までの5泊6日の旅行費用は2000万円近くなる可能性があるが、これらは全て公費で賄われる。これに加えて現地の公安局による警備や護衛の費用がかかるが、そうした費用は現地負担となる。
香港誌「動向」の2014年1月号が報じたところによれば、中国で2012年時点における党・政・軍の退職高官は61万人で、その給与、福利、待遇に関わる年間総支出は7250億元(約11兆2375億円)を上回り、2012年のGDPの1.3%、財政収入の6.2%に相当したという。2012年時点で、給与、福利、待遇が最高の国家主席レベルを享受していたのは元党総書記の“江沢民”だけで、総理レベルが2人、副総理レベルが81人であった。このうち、江沢民の年間総支出は3840万元(約5億9500万円)以上で、副総理級の年間総支出の10倍に近く、81人の副総理級高官の年間総支出は3.2億元(約50億円)であった。上述した2012年時点における退職高官61万人の年間総支出7250億元は、同年の国防支出(6570億元≒10兆1835億円)および“三農(農村、農業、農民)”への投入金(5420億元≒8兆4010億円)よりも大きかった。
ところで、古い話になるが、2004年の「動向」誌は以下の内容を報じている。
止まらぬ厚遇
【1】中国共産党中央政治局常務委員、全国人民代表大会常務委員会委員長、国家副主席、中国共産党中央顧問委員会副主任などの役職を退職した高級幹部の年間総支出は3億2600万元(約50億円)に達し、その1人当たりの平均支出額は2725万元(約4億2240万円)であった。また、これより下位の党政治局委員、全国人民代表大会常務委員会副委員長、副総理、国務委員、党中央顧問委員会常務委員、中央軍事委員会委員などの役職を退職した高級幹部105人の年間総支出は6億7100万元(約104億円)で、その1人当たり平均支出額は639万元(約9900万円)であった。
【2】一方、5537人の退職した“省部級幹部(省指導部および中央政府の部長クラス)”には、各人に3〜5名の職員が配置され、1人当たりの年間公費支出は70万元(約1085万円)〜600万元(約9300万円)に達した。上海市長や党中央顧問委員会委員などを歴任した“汪道涵”(1915〜2005年)を例に挙げると、2004年の公表された支出は947万元(約1億4680万円)で、このうち医療費が500万元(約7750万円)に上っていた。また、北京市、上海市、広東省、浙江省、福建省の“省部級幹部”の1人当たり平均の年間支出は500万元以上であった。
<補足>上述した人民元の金額は2004年時点のものであり、それから12年が経過した現在の貨幣価値なら少なくとも5〜6倍になるものと思われる。すなわち、5倍でも高級幹部1人当たりの平均支出額2725万元は1億3625万元(約21億1200万円)に、平均支出額639万元は3195万元(約4億9500万円)になるのではないだろうか。
【3】最高級の退職指導者は、専用航空機2機、専用軍用機2機、7両編成の専用列車3本を自由に使うことできる。列車が通過する沿線には武装した警備員が配置され、全ての列車は急行であろうと鈍行であろうと最寄りの駅に停車して道を譲らねばならない。これとは別に、“北京解放軍総医院(略称:301医院)”には3つの医療専門家チーム、“上海華東医院”には2つの医療専門家チーム、“広州軍区総医院”には1つの医療専門家チームが万一に備えて待機している。
【4】その他の政治局委員や副総理クラスの退職高官105人には、各人に護衛2名、運転手1名、職員2名、コック1名、保健医師1名が配置され、乗用車2台が配分される。飛行機に乗る際は、ファーストクラスあるいはビジネスクラスの座席6〜8席が貸し切りとなり、列車に乗る際は、一等寝台車1両、あるいはこれに加えて専用車1両が貸し切りとなる。
【5】これ以外に江沢民をトップとする中国共産党の最高指導部の退職者12人は、全国各地に自身の“行宮(行在所)”を持っている。江沢民を例に挙げると、北京市の“釣魚台国賓館”や“玉泉山中央軍事委員会招待所5号楼”、上海市の“西郊賓館”や“大公館”、江蘇省“蘇州市”の“太湖賓館”などである。他の11人も例外なく各地に“行宮”を持っている。たとえば、“李鵬”は北京市、山東省“青島市”、四川省“成都市”に、“朱鎔基”は北京市、上海市、蘇州市に、それぞれ行宮を持っている。
さて、話は劉淇一行のチベット観光旅行に戻る。2012年11月15日に中国共産党中央委員会総書記に選出された“習近平”は、同年12月4日に開催された党中央政治局会議の席上で、政治局常務委員の“王岐山”が提起する形で、中国共産党員に向けた綱紀粛正のための規定である「習八条」<注1>を発表した。習八条には視察旅行に関する明確な記述はないが、視察を名目とした劉淇一行のチベット観光旅行は、第1条の「随行団を質素にし、案内人を減らし、接待を簡素にし、出迎え・見送りの人々を動員したりしてはならない」および第8条の「倹約、節約に努めねばならない」に違反している。習八条は役人の公費旅行や公費飲食を厳しく禁じており、このために多数の高級ホテルやレストランが営業不振に陥ったことは広く知られる所である。
<注1>「習八条」の詳細については、2013年4月5日付の本リポート『「習近平の八カ条」が役人のムダ遣いにメス』参照。
背後に因縁の政争
「トラ退治とハエ駆除」<注2>を標榜する習近平主導の反腐敗闘争は王岐山を切り込み隊長として、開始から3年半を経た現在も推進されているが、今回の劉淇一行のチベット観光旅行は王岐山が推進する反腐敗闘争に真っ向から逆らうものと見ることができる。それと言うのも、王岐山と劉淇は因縁の関係にあるからなのだ。
<注2>トラとは大きな腐敗を行う指導幹部を指し、ハエとは小さな腐敗を行う官僚たちを指す。
2003年に中国でサーズ(SARS:重症急性呼吸器症候群)が蔓延した時、北京市でも多くの患者が発生した。当時の北京市長であった“孟学農”と中央政府の“衛生部長”であった“張文康”はサーズの防疫に無力で、サーズの発生状況を偽ったことにより免職になった。この時、孟学農に代わって北京市へ送りこまれたのが王岐山で、王岐山は北京市党委員会副書記、副市長、市長代理に就任し、2004年2月に正式に北京市長となった。
当時、北京市のNo.1である北京市党委員会書記は劉淇であったが、劉淇はサーズに関する責任を全て孟学農に押し付けて、自分は知らぬ顔の半兵衛を決め込んでいた。孟学農が更迭されたことでサーズ対策の矢面に立たされた劉淇は、従来通り対外的にサーズの発生状況を隠蔽することで、首都・北京のイメージに対する悪影響や外国人が逃げ出すのを防ごうとした。これに対して、北京市のNo.2である市長の王岐山は、サーズの発生状況を隠せば隠すほど、外部の憶測や猜疑心が増大し、人々の不安を煽ると考えて、劉淇と激しく対立した。
一方、劉淇は嫉妬心が極めて強く、当時の総書記である“胡錦濤”に抜擢されて北京市へ送り込まれた王岐山を失脚させようと、人に命じて党中央政治局に宛てて王岐山の罪状を書き記した匿名の告発文を700通以上も送り付けた。これを受けた王岐山も党中央政治局に劉淇の腐敗などの罪状を告発して対抗した。また、王岐山は共産党の“中央規律検査委員会”に対して自宅の電話や市長の専用電話が2年以上にわたって盗聴されていることを告発し、調査の結果、盗聴器は劉淇の指示により据え付けられたことが判明した。北京市のNo.1とNo.2が一つのビルの中で角突き合わせて仕事をしていることで、それぞれの部下たちも反発し合い、当時の北京市党委員会は混乱し、正常な業務ができない状態にあった。
このため、最後は胡錦濤が介入せざるを得なくなり、胡錦濤は北京市党委員会常務委員会の会議に出席して、劉淇を党内で取り調べるよう指示を出したのだった。こうして、2007年10月に開催された中国共産党第17期全国代表大会後に、胡錦濤は“郭金龍”を王岐山に替えて北京市長などの役職に据え,王岐山を党中央政治局委員に昇進させたのだった。
暴露の狙いも藪の中
現在74歳の劉淇は江沢民の故郷である江蘇省の出身で、江沢民グループに属し、江沢民によって北京市長兼北京オリンピック組織委員会主席に抜擢され、2002年に共産党中央政治局委員、北京市党委員会書記に昇進した。こうした経歴から考えると、劉淇が習八条を無視して一族郎党を引き連れてチベット自治区へ観光旅行するのも、江沢民に敵対する習近平への当て付けとも考えられる。
一方、「劉淇一行のチベット自治区観光旅行」を敢えてネット上に暴露したハンドルネーム“北外喬木”なる人物は、純粋に腐敗高官として劉淇を告発したのか、あるいは反江沢民の意図を持って劉淇の告発を行ったのか。その真相は分からない。
中国では常に権力闘争が行われており、習近平、胡錦濤、江沢民の3グループによる熾烈な戦いが陰に陽に展開されている。上記に述べたネット上の告発が純粋に反腐敗を目的としたものとは断定できないところに、中国社会の難しさがある。北外喬朴なる人物は、一体どこから「劉淇(りゅうき)同志一行林芝視察接待具体案」という文章を入手したのか、これも謎である。
このコラムについて
世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」
日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/101059/101900070/
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