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安保の新秩序、構築急げ:欧米主導近代世界の終焉
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投稿者 あっしら 日時 2016 年 10 月 19 日 00:33:15: Mo7ApAlflbQ6s gqCCwYK1guc
 


[FINANCIAL TIMES]安保の新秩序、構築急げ
チーフ・ポリティカル・コメンテーター フィリップ・スティーブンズ

 豊かな民主主義諸国は、冷戦後も自分たちが中心の世界秩序が続いていくとついこの間まで思っていた。だが今や先進的な政治活動のモデルとしての民主主義への信頼が揺らいでいる。

 冷戦後の新秩序は次の3本の柱によって形づくられるはずだった。米国は良心的な覇権国として国際平和を保つ責任を引き受け、自由民主主義の普及を促進する。欧州は従来の国家主権重視の概念を超えて各国が密接に協力し合うという統合モデルを広く他の国々へも輸出する。その結果、東南アジア諸国連合(ASEAN)も遠からず欧州連合(EU)のようになると考えられた時期さえあった。そして衰退するロシアも、中国や他の新興諸国と一緒に欧米が設計した国際体制に加わることが自国の国家的利益につながると認識する――。
 

米国の力に限界
欧州統合も停滞

 だが、こんな前提はこの間までの話だ。米国は今もかろうじて覇権国ではあるが、11月の米大統領選でヒラリー・クリントン候補とドナルド・トランプ候補のどちらが勝つにせよ、新大統領の下で間違いなく内向きになる。

 欧州は自分たちの統合プロジェクトに入ったひびを埋めるのに忙しすぎて、よそで起きていることに注意を払う余裕がない。ユーロ圏危機と移民流入問題に加え、英国のEU離脱決定など数々の危機に見舞われ、今や戦略的に考える能力を失っている。一方、中国とロシアは米国が作ったルールを受け入れる気がない。

 なぜこんな事態に至ったのか。イラク戦争は米国の力がいかに広範囲に及ぶかを見せつけるはずだったが、その限界をさらした。世界金融危機は、自由資本主義の弱点を残酷なほど露呈した。欧州統合の夢は、金融危機が招いたユーロ圏の混乱によって打ち砕かれた。中国は誰の予想をも上回るペースで成長し、世界の中の勢力の再配分を加速させた。

 今、各国に共通するのはナショナリズムの広がりだ。米国では「米国を第一に考えよう」というスローガンが生まれた。その孤立主義は米国民の怒りに勢いを借りたものだとみる向きもある。ロシアのプーチン大統領にとって自らの強さを誇示できる手段は、軍事的な失地回復主義だけとなった。

 ポピュリズム(大衆迎合主義)が台頭し、ハンガリーのオルバン首相のようなちっぽけな独裁者を抱える欧州は、自分たちの歴史から学んだはずの教訓を忘れ去っている。中国は100年間の屈辱の記憶を消し去ろうと必死だ。つまり、どの国も自国の主権を重視し、相互内政不干渉を大原則とするウエストファリア体制の支持者のようだ。

 筆者はこのほど、北京で毎年開催されるアジアの安全保障に関する国際会議「香山フォーラム」に参加し、各国間に存在する誤解と不信感の大きさを再認識した。この会議は中国の軍部と政界のエリートが世界に向けて話す場だ。欧米のスピーカーが優遇されることはない。東ティモールやカンボジア、モンゴル、そして中国の便宜上の同盟国ロシアの代表者たちと同じように、壇上での時間を割り振られる。

 今年のテーマは「国際関係の新モデル」の追求だった。その底流にあるメッセージは、古い秩序が通用した時代が終わり、欧米諸国は新たな秩序を中国とともに作り上げる必要があるというものだ。

 欧米諸国は既存の秩序に中国を取り込めばいいと考えているが、今必要なのは全く新しい秩序だという理解が欠けている。とりわけ、東アジアでは事実上のアウトサイダーである米国は、新たな現実に適応する必要がある。20世紀後半に欧米が築いた同盟システムは、中国の台頭という地政学的リスクに対応していない。
 

覇権国との衝突
回避したい中国

 会議で中国は南シナ海の領有権と権益を守ろうと厳しい言葉を何回か発したものの、言葉遣い自体は至って穏健だった。中国はゼロサムゲームではなく、総和がプラスになる「ポジティブサム」の協力関係を模索している。自らが台頭する中で、かつての覇権国と衝突するような事態は何としても避けようという姿勢だ。だが、新秩序は従来とは全く異なるものとなるはずだ。

 では、どんな秩序なのか。19世紀前半の「ウィーン会議」で復活した国際体制のような大国同士が協調する可能性を探る声も聞かれる。米国と中国を頂点に据えた地域別パワーバランスかもしれない。また、ある程度の秩序は保たれるが、無秩序が支配的になるというやや厳しい見方もある。

 もう一つ、現実主義、あるいは運命論的と呼べるかもしれないが「できることは何もない」という考え方もある。現在、複数の国や地域が勢力を持って並立しているが、様々な対立や紛争などを経ればいずれ新たな均衡が生まれるというものだ。

 問題は「いずれ」では遅すぎるかもしれないことだ。中東では戦争の火が燃え上がり、ロシアは冷戦後の欧州の体制を覆したがっている。だが最も危険な火種は東アジアにある。東シナ海、南シナ海では既に各国が対立している。ここに北朝鮮の核開発計画が加われば、米中間の競争が対立へと発展し、さらに悪化する可能性は十分ある。

 
ポスト冷戦体制
今や機能不全に

 世界は今、重大な転換点にある。圧倒的な覇権国だった米国と欧州が作った様々な国際機関や多国間ルール、規範を軸にした冷戦後の体制は、すっかりさびついている。覇権を巡る争いは法の支配を重視しないし、国際平和は風前のともしびだ。

 紛争が生み出すのは敗者だけだが、各国が互いに経済的に依存していれば、土壇場で窮地を脱することができると考える人もいる。だが、力学は反対方向にも作用し得る。国際通貨基金(IMF)が発表した最新の年次報告書が、世界経済に対する最大の脅威として政治的リスクを挙げているのは偶然ではない。自由主義経済のシステムはとりわけ世界的な安全保障の秩序に大きく依存しているからだ。

(14日付)

[日経新聞10月16日朝刊P.13]

 

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