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トランプを押し上げる「高学歴貧困層」の鬱憤
消去法のアメリカ
トランピズムの源流(3) オハイオ州デイトン
2016年10月13日(木)
篠原 匡
4年に一度の一大イベント、米大統領選は残り3週間を切った。民主党のヒラリー・クリントン候補と共和党のドナルド・トランプ候補の戦いは9月後半まで接戦が続いていたが、討論会の直接対決以降、過去のセクハラ発言テープの流出などトランプ氏が自滅している印象が強い。だが、米国民のクリントン嫌いも根深いものがある。まだ予断は許さない。
この連載では、中西部のラストベルトの町と住民をひもときつつ、トランプ氏が可視化した「トランピズム」の断片を見ていく。3回目は航空産業都市、オハイオ州デイトンへ。 (本文敬称略)
デイトンは雇用は伸びているが、稼げる仕事は減っている(写真:The New York Times/アフロ)
トランプの原点とも言えるボンドヒルを北に50マイルほど走ったオハイオ州デイトン――。ライト兄弟が生まれた街として知られ、ライト州立大学やライト・パターソン空軍基地など航空関連の施設が集積した産業都市である。
この街の経済状況は、統計上は悪くない。2010 年に12%を超えた失業率は直近で4.4%まで減少した。労働力人口や雇用者数も着実に伸びている。もっとも、雇用は十分にあるが、増えているのは給料の安い仕事ばかりで、十分に稼げる仕事は減っている。
オバマ政権になって給料は減り、税は上がった
「不愉快なのは、なぜ大学で学位まで取っているのに、今の仕事が食品工場の消毒よりも稼げないのかということだ」
独自動車部品メーカーでカスタマーサービスを担当しているクリス・ショーウェンワイズはデイトンのスターバックスで腹立たしげに吐き捨てた。医療保険が充実しているところは魅力だが、週に40〜50時間の労働で月の収入は3000ドル以下。一時期、飲食店の清掃をしていた時の時給は20ドルで、時給に直せば今の給料よりもいい。
39歳になるショーウェンワイズは経営学の学位を持っているが、そのために8万ドルを超える学費ローンを借りた。現在も毎月600ドルずつ返済しているが、まだ10年近い返済期間が残っている。借金をしてまで取得した"資格"だが、8万ドルのローンに見合うとはとても思えない。
「教育を受けることはとても重要なことだ。だが、学費ローンの問題を考えると、それを簡単には正当化できないな」
実は、ショーウェンワイズ大学を卒業後、ある地域金融機関のプライベートバンク部門に職を得た。当時の給料は月5000〜6000ドル。だが、金融危機後に拠点再編を進めた影響で彼が勤めていた店舗が閉鎖、結果的に職を失った。その後、今の仕事を得たが、同程度の給料を得ることはできていない。
「オバマ政権になって、私の給料は減り、税負担が上がった。学費ローンの他に、住宅ローンや自動車ローンもある。2001年や2003年に乗っていたような自動車にはもう乗れない」
大統領選に出馬したオハイオ州知事のジョン・ケーシックは予備選の過程で、「オハイオ州で40万の雇用を生み出した」と知事としての実績をアピールした。事実、ケーシックが知事に就任した2011年以降、州の雇用は大きく増えたのは間違いない。だが、生み出された仕事の多くは年3万ドル以下だ。それゆえに、多くの住民には豊かになっているという実感がない。
これはオハイオだけでなく、米国全体で起きていることだ。
失業率は低いが、給料も低い
9月の失業率は5.0%と完全雇用に近い。米経済も個人消費を中心に底堅く推移しており、連邦準備理事会(FRB)による年内利上げが目前に迫る。家計所得の中間値も上昇し始めているが、所得自体は金融危機前の水準には届いていない。レイオフされ、仕事を替えるたびに給料が減っていく現実には変わりがない。
その要因は複合的だが、あえて単純化すれば、自動化や海外への生産移管によって既存の仕事が失われる一方で、相対的に給料の低い雇用、特にサービス関連の求人が増えているということなのだろう。2000年代に入って労働生産性の伸びが止まっていることも、賃金の伸びが停滞している理由と考えられる。
もちろん、米国全体を見渡せば、所得が大きく伸びている地域は存在する。
ピュー・リサーチセンターによれば、2000年から2014年の間に米国の大都市圏の大半で、中間所得世帯の成人シェアが落ち込んだ。その中でも下落が大きいのは、オハイオ州やノースカロライナ州、ミシガン州などの製造業を主体とする地域だ。
その一方で、テキサス州やコロラド州など、アッパーミドルクラス層が増えている地域も少なくない。こういった都市はエネルギーやIT(情報技術)、ヘルスケア、バイオなど新たな産業を発展させているエリア。そう考えれば、産業の新陳代謝を進め、より付加価値の高い職を生み出すことが中間層の崩壊を食い止める最善の方法なのは間違いない。
だが、言うは易しでテクノロジーの進化やグローバリズムの拡大に適応することは簡単ではない。うまくキャッチアップできる人間はステップアップできるだろうが、技術の変化やグローバリズムの進展は日々加速しており、振り落とされる人間もそれだけ増える。
失職への不満がトランピズムに転化
実は、2回目で書いたモネッセンのブライアンの父親は炭鉱の作業員だったが、仕事の時の怪我で以前のように働けなくなった。そこで大学に通い直し、プログラミングの学士号を取得した。結果的に、製鉄所のコンピューターを制御するプログラマーとしてレイオフの嵐をくぐり抜け、昨年退職したという。
彼の父親は理想的なケースだが、30年前と今では求められるスキルが全く異なる。今後、AI(人工知能)や自動化が仕事を奪うことを考えれば、職を失った人々が十分に稼げるスキルを身につけるのはさらに難しくなるだろう。だが、失った仕事と同程度、あるいはそれ以上の所得を得る道筋が見えなければ、大統領選の過程で顕在化したトランピズムの霧が晴れることはない。
このコラムについて
消去法のアメリカ
いよいよ米大統領選がラストスパートに入った。この連載では、次期大統領が決まるまでの過程を追っていく。民主党候補のクリントン氏と、共和党候補のトランプ氏が直接対決するテレビ討論会。副大統領候補による論戦。重要なイベントを随時、取り上げる。米大統領に誰になるかは米国民だけの問題ではない。日本を含む世界の将来に大きな影響を与える。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/092900073/101200007
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