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スティーブ・ジョブズを「ペテン師」と呼ぶ男 強烈に生き抜いたカリスマの“実像”
時効スクープ 〜今だから、聞けた
2016年10月11日(火)
久保 健一、片瀬 京子
スティーブ・ジョブズ、スタンフォード大学卒業式でのスピーチ
スティーブ・ジョブズ。iMac、iPod、iPhoneなどを世に送り出し、人々を魅了し続けた男が逝って5年。カリスマを失ったアップルは業績の如何にかかわらず、「ジョブズのいないアップル」として不安の目を向け続けられることになった。亡き後もなお、その存在感は衰えることを知らない。
生前のジョブズは新製品を発表するたび、聴衆を前に自信たっぷりに語った。彼がつくった製品がいかに革新的か、いかにその後の世界を変えるのか。
人々は彼の言葉に頷き、発売日には一刻も早く手にしたいと長蛇の列を作った。その言葉は、聴く者たちの心を揺さぶり、行動を起こさせる力を持っていた。
“Stay hungry, Stay foolish”
そのジョブズの最も有名な演説は、2005年6月12日のものだろう。
“Stay hungry, Stay foolish”
若き日のジョブズの心を捉えたその言葉で締めくくられたスタンフォード大学卒業式でのスピーチには、3つのテーマ「点と点をつなぐ」「愛と喪失」「死」があった。
成功者のスピーチに耳を傾けていた人々の多くは、その輝かしい成功譚が語られることを予想し、裏切られた。しかし、それは落胆とはならなかった。
式に出席していた卒業生のひとりは言う。
「本当に感動したよ。成功者の彼だって、僕らと同じ人間なんだと感じたんだ」
当時50歳のジョブズが2万人の聴衆を前に行ったスピーチは、10年後の今も人々の心を放さず、スタンフォード大学の公式映像の再生回数は2500万回を超え、ユーチューブなどにアップされた動画を合わせれば1億回を超える。人々はいまなお繰り返し耳を傾け、そこから何かを感じ取ろうとしている。
さて、かつてジョブズと一緒に仕事をしていた人たちは、どう聞いたのか。
ある男は、こう答えた。
「あれは最高のスピーチだよ。あれ以上のものはないね」
ある男は、こう答えた。
「あいつはペテン師だ。みんな騙されているんだよ」
会社を追われたどん底時代のジョブズを証言するピクサー創立者のアルヴィ・レイ・スミス
発言の主はアルヴィ・レイ・スミス。ルーカスフィルムから独立した当時のピクサーの経営者だ。ピクサーとはもちろん、アニメ『トイ・ストーリー』などで知られる映像制作会社のこと。ピクサー設立からしばらくして、ジョブズはピクサーの経営に関わるようになった。
ジョブズと共に働くようになった日のことを、スミスはこう振り返る。
「素晴らしい日だったよ。スティーブ・ジョブズって奴が、まだ本当はどんな奴かわかっていなかったからね」
ルーカスの離婚と、ジョブズの追放と
なぜここまで嫌うのか。その理由はスミス自身が明かしていく。
その頃のスミスにとって、フルCGの映画をつくることが長年の夢だった。それだけの腕があることも自負していた。そこへ、自ら設立したアップルを追放されそうになったジョブズが声をかけてきた。「一緒に、やってみないか」と。
スミスの側にも、ジョブズと組みたい理由があった。ルーカスフィルムの先行きが不透明になっていたのだ。
「ジョージ・ルーカスが離婚したんだ。カリフォルニアでは離婚すると双方の財産を折半する。で、一瞬でピンときた。ジョージは財産を半分失う。もう養ってくれない。それどころかお荷物だと思っている。これはきっとクビになるぞ!とね」
それを見越してスミスたちが独立のためにつくった会社がピクサーだ。設立直後、アップルを追放されたジョブズが1500万ドルをピクサーのために投資した。
それは明日をも知れないスミスたちにとって、この上ない朗報だった。
「私はあの男のことは大嫌いだけど、感謝はしている。彼がお金を出してくれていなければ、私たちは解散していた」
その後も、ピクサーが赤字になればジョブズが補填をする、その繰り返し。ジョブズはスタッフに「すごい作品をつくれ」とだけ言い続けた。
ところが徐々に、ジョブズが経営していたもうひとつの会社、NeXTの経営が悪化する。教育市場向けに開発したコンピューターは高額のために売れず、在庫の山を築いた。
NeXTの不振と、スミスの屈辱と
するとジョブズはピクサーの内部で「すごい作品をつくれ」以外のことも口にするようになった。
スミスは屈辱の日々を振り返る。
「彼のところへ行って、“この赤字野郎”とか言われながら小切手を切ってもらうのが私の担当だったんだ」
そして決裂の日を迎える。
ジョブズはスミスたちにいつになったら収益を出せるのかと迫り、ジョブズとの交渉ばかりに時間を取られ作品づくりができていなかったスミスの側は売り言葉に買い言葉で「NeXTのほうはどうなんだ」と切り返す。
そこからスミスは“人生最悪の経験”をする。激化した口論の果てに、ジョブズが大事にしてきたあるルールを犯したのだ。
「ああ、もう彼と一緒に人生を過ごすことはないだろうなとわかったよ」
スミスはピクサーを去り、新たにアニメに関するソフトを開発した。
「そうしたらその会社にスティーブが投資してきたんだ(笑)。儲かると思ったんだろうな、まったく、人を能力でしか判断しない男だよ!」
その後、ピクサーは『トイ・ストーリー』を公開、大ヒットする。ジョブズはその成果を手にアップルに復帰し、最期のときまでアップルを率い続けた。
ナビゲーターに沢尻エリカを迎えた『アナザーストーリーズ』では、スミスの他にも、ジョブズの各時代に側にいた人たちへインタビューを行っている。そこからは、なぜジョブズがあのスピーチのテーマに「点と点をつなぐ」「愛と喪失」「死」を選んだかが見えてくる。
強烈に生き抜いたカリスマの実像
『アナザーストーリーズ』プロデューサーの久保健一は番組を作りながら、ジョブズをどう見たのか。
「強烈な野心と情熱を持って、一切の妥協なく事に当たる――。そう言葉にはできますが、実際にそれを貫くのは大変です。
容赦なく人を切る。そこから生じる恨みつらみなど気にかけない。ある時は自分も切られる。自ら火だるまになることも辞さない。
ジョブズを崇める人たちであっても、では実際に自分もジョブズのようにできるかといえば難しいでしょう。
多くの人は『力を結集して事を成そう』という時、『今ここにいる人(点)をつないで最大限の力を発揮させよう』とします。それが間違っているわけではないし、現実的な方法でしょう。
私たちは、掌中にあるものを手放したり、つながっているものを切り離したりすることを躊躇します。今の状態であり続けることに安住しようとしがちです。
せっかくそれらしい形になっている点のつながりをバラバラにして一から作るのは大変だから、という怠け心が頭をもたげたり。もしかしたら、それらしい形の点のつながりをもう作れないかもしれない、という不安を感じたり。
見方を変えればそれは、自らの『点をつなぐ力』を絶対的には信じていないということかもしれません。
他方、ジョブズの中には『点は必ずつながる』という確信があるように感じました。ジョブズのやり方は、容赦なく点を潰してしまう乱暴さが目を引くわけですが、残った点をつないだ先に、抜きん出たものを生み出してきた実績は揺るぎのないものです。自らの才を頼みに容赦なく人を切り、返り血を浴び、自らも血を流しながらも、実は、人が持つ『つなげる力』を心底信じていたのは、ジョブズその人だったのかもしれない…。
『神』と崇められるばかりのジョブズではなく、容赦なく人を罵倒するばかりのジョブズでもなく、マルチアングルで迫ったその姿から改めて、強烈に生き抜いたカリスマの実像を感じていただければと思います」
アップルでiphoneをプレゼンするスティーブ・ジョブズ
放送はNHK BSプレミアムで10月12日水曜21時から。
(敬称略)
新刊『今だから、話す 6つの事件、その真相』
好評発売中
当連載『時効スクープ〜今だから、聞けた』でご紹介してきたNHK-BSプレミアム「アナザーストーリーズ 運命の分岐点」の数々のストーリー。そこから選りすぐりの6つの事件を収録した書籍ができました。番組ディレクターたちの「現場の声」とともに、事件の新たな一面に光を当てます。
当時は話せなかったが、今なら話せる。いや、「真実」を話しておくべきだ――。過去に埋もれた「思い」を掘り起こすと、「知られざるストーリー」が浮かび上がってきました。
<改めて知る、6つの事件>
●日航機墜落事故 1985 レンズの先、手の温もり、「命の重さ」と向き合った人々
●チャレンジャー号爆発事故 1986 悲しみを越えて、「夢」を継ぐ者たちがいる
●チェルノブイリ原発事故 1986 隠されたはずの「真実」は、そこに飾られていた
●ベルリンの壁、崩壊 1989 「歴史の闇」を知る者が静かに、重い口を開いた
●ダイアナ妃、事故死 1997 作られたスクープ、彼女の「最後の恋の駆け引き」
●大統領のスキャンダル 1998 翻弄し、翻弄された3人の女と、2人のクリントン
このコラムについて
時効スクープ 〜今だから、聞けた
「スクープ」とは誰よりも早く取材し、いち早く発信するもの…のはずですが、いわば「時効」を迎えたような過去の出来事からスクープが掘り起こされることがあります。当時は話せなかったことを、今なら話せる。いや、真実を話しておくべきだ。そんな思いも引き受けながら、「今だから、聞けた」話によって、知られざるストーリーが紡がれる――。NHKーBSプレミアム『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』はそんな番組です。当連載では、その番組の裏側にフォーカスします。「ニュース」ではなく「トゥルース」に、時を経たからこそ、たどり着けた。ダイアナ妃の事故死、ベルリンの壁崩壊、チェルノブイリ原発事故など、その題材をなぜ選んだのか、どんな準備をし、どんな取材をし、どのように難題をブレークスルーしたのか。制作を指揮するプロデューサーに「“アナザーストーリーズ”のアナザーストーリー」を聞きます。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/070300016/100700039
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