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ルイ・ヴィトンを魅了する男の苦言「中国と機能性で競ったら、必ず追いつかれる」
誰がアパレルを殺すのか
2016年10月11日(火)
杉原 淳一
日経ビジネス10月3日号「買いたい服がない アパレル“散弾銃商法”の終焉」では、日本のアパレル業界が抱える問題点を指摘した。その中でも特に深刻なのが、アパレル産業の川上を支えるモノ作りの衰退だ。工場の閉鎖や従業員の高齢化など、凋落の事例は数多くある。
だが、そんな日本にも世界のトップブランドを魅了する高品質のモノ作りが確かに生き残っている。その代表例が、福井県の第一織物だ。
福井駅からタクシーで20分ほど走った場所に同社はある。従業員は52人(4月時点)。資本金2000万円の中小企業に、海外の高級アパレル企業が足しげく通う。
仏ルイ・ヴィトンや伊モンクレールなどを顧客に抱える同社の吉岡隆治社長に、日本アパレルのモノ作りがどんな問題を抱えているのか聞いた。
「完成品にラベルを付けて売るだけのビジネスに変わってしまった」
第一織物の吉岡隆治社長(写真:try do camera、以下同じ)
日本のアパレル企業が不振から抜け出せません。モノ作りを担う企業として、この現状をどう見ていますか。
「うちの生地は70%以上が海外企業に買われていきますが、これは望んでこうなったわけではないんです。本当は日本で売りたいんですよ。国内のアパレル企業に生地を販売して、それが国内で製品になって世界に出ていく、という流れが理想なんですが…」
「日本はこれまで内需が期待できました。だから、海外ブランドのライセンス輸入が多かった。そして、いつの頃からか、生地を買ってアパレル企業が縫製する形ではなくなってきました。出来上がった製品を買ってきて、それにラベルを付けて売るビジネスに変わっていったように感じます」
「最も疑問に感じるのは、クールジャパンだ、日本はオシャレだ、と言われていても、その中に日本製品はあるのか、ということですよ。コーディネート力はあるんでしょうね。でも、生地も縫製も染色も、日本ではない。95%以上が海外縫製です。だから、うちの生地を使おうと思うと、一旦、海外に送って、縫製したものを逆輸入する格好になる。『第一織物の生地は輸出入の手間がかかるので3万円ですが、現地で似たような生地を調達すれば1万5000円で済みます』という話になってしまうんですね」
「ユニクロが5年後、日本で何かを作っていると思いますか?」
おっしゃるように、安易なOEM(相手先ブランドによる生産)への丸投げが流行したことで、日本のアパレル商品は個性を失ったように見えます。
「海外ブランドはデザイナーの方と直接お話ししているんです。日本では誰と話をすればいいのか、どういう経過を経てうちの生地が使われるのかも分からない。昔は日本のデザイナーの方もよくこちらに来て、我々の知らないことを教えてもらったりしたもんです。それで我々も勉強しました。最近になってようやく、日本のアパレルの方が福井まで来てくれることも増えてきました。素材から差別化しないとダメだ、と分かってくれたんじゃないでしょうか」
中国やアジア諸国への生産拠点の流出が止まりません。
「例えば、ダウンジャケット用の生地の質は、中国やアジア勢が段々と追い付いてきています。どれだけ設備投資したか、が左右する世界なので、資本力があって後から参入すれば、それだけ最新鋭の物が作れます。さらに、ダウンジャケットは機能性が要求されます。『この生地は高密度なので、中のダウンが抜けません』みたいなことが売りになるわけです。こうなると、中国は必ず追いついてきます」
「社員にはいつも、『五輪種目のような商品は日本に残らない』と言っています。つまり、どこまでも機能性を競っていくような商品ですね。個人的には、『生地中の糸の密度が100本から101本になった』なんて、それを優位性だと言うこと自体が愚かしいと思います。機能性を打ち出していくような商品は、生産のレスポンスから価格まで含めて、日本に残る道理はないでしょう。ユニクロが5年後、日本で何かを作っていると思いますか?100%それはないと思いますよ」
第一織物の工場。写真では伝わりにくいが、隣に立っている人と会話が出来ないくらいの大音量で織機が稼働している
「求められるのは『ローテク高感性』」
では、生地など素材作りにおいて、日本が生き残る道はあるのでしょうか。
「今後も残るのは、感性の商品だと考えています。この世界は、繊維に長く携わってきた日本人らしい感性が要ります。中国やアジア諸国が追い付いてくるのに何十年もかかるでしょう。言うなれば『ハイテク高機能』ではなく、『ローテク高感性』です」
「ローテクというのは、最新鋭の機械だけでなく、そこに人間の技がないと作れないという意味ですね。うちの商品で言うなら、ポリエステル100%なのに綿のような手触りを持つ生地や、麻にしか見えない軽やかな生地などがあります。見え方や質感など、人間の感覚に訴えかける商品ですね。これは簡単にはコピー商品が作れないので、世界中のブランドに採用され続けています。例えば、あるブランドのコートに採用された生地は15年間、ずっと使われています。中国で同じものが作れるなら、わざわざ日本で作って高い値段をつけるのは間違いです。でも、現実は日本でしか作れない」
「福井県の織物は、アパレルのレディースからメンズ、次にスポーツ用を経て、最後に産業資材を目指してきた歴史があります。そして、アパレルを捨てていきました。その時の合言葉が『ハイテク高機能』。私が社長になった34年前、うちの商品は100%、産業資材だったんです。それが25年前にスポーツ用をやり始め、次にメンズのアウターを手掛け、今ではレディースのアウター、そしてインナーまで扱おうとしている。時代とまったく逆行することで、生き残ってきたんです」
「例えば、福井県に大手総合商社の支店はないんです。かろうじて石川県とかですね。だから、我々のような小さい会社が自分で作ったものを自分で外に売りにいくようになった。こんな小さい会社だからこそ、生地の販売機会を多く確保するために、世界中に出ていくことが最大のリスクヘッジになったんです。これが米国だけとかアジアだけに販路を絞っていたら、今のようにはなっていないでしょうね」
当連載は、日経ビジネス10月3日号「買いたい服がない アパレル“散弾銃商法”の終焉」との連動企画です。あわせてこちらもご覧ください。
このコラムについて
誰がアパレルを殺すのか
昨年頃からアパレル業界の不振に関するニュースを目にする機会が増えた。確かに10年前と業績を比較すれば、その苦境は明らかだ。だが、ここで一つの疑問が生まれる。「なぜここまでの状態に陥ってしまったのか」という点だ。取材を通じて見えてきたのは、高度経済成長期の成功体験から抜け出せず、目先の利益にとらわれて競争力を失った姿だった。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/092900020/100700010
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