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米フロリダ州オーランドで開かれた選挙集会で演説する米大統領選民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官(2016年9月21日撮影、資料写真)。(c)AFP/Brendan Smialowski〔AFPBB News〕
テロリスト扱い?軍人はこんなにヒラリーが嫌い 大詰めの大統領選、軍人票がトランプを押し上げる
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48030
2016.10.5 部谷 直亮 JBpress
いよいよ大詰めを迎えている米大統領選挙。ここに来て、米軍内部の最新の世論調査結果が公開された。
その内容は驚くべきものだった。共和党のドナルド・トランプ候補、リバタリアン党のゲーリー・ジョンソン候補が米兵の熱烈な支持を受けており、民主党のヒラリー・クリントン候補は三番手だというのだ。おまけに支持率は2人の半分しかない。
この調査結果は何を意味しているのだろうか。
■将校たちの間ではジョンソン候補が第一位
9月21日に公表された、米軍向け軍事紙「Military Times」とシラキュース大学による、2200人の米兵を対象とした共同調査によれば、トランプ候補に投票すると答えた割合は37.6%、ジョンソン候補36.5%、ヒラリー候補16.3%、緑の党のスタイン候補は1.2%、その他3.2%、いずれの候補にも投票しないという答は約5%だった。
将校団と下士官・兵隊では支持する候補が異なっている。幹部である将校たちの間では、なんとジョンソン候補が第1位の38.6%、クリントン候補が27.9%、トランプ候補は26%の支持率だった。他方、下士官・兵隊の間ではトランプ候補の人気が高い。トランプ候補が39.8%、ジョンソン候補が36.1%、クリントン候補が14.1%である。
軍種ごとに見ると、陸軍はトランプ候補が40.6%、ジョンソン候補が35.6%、ヒラリー候補が14.2%と、トランプの人気とヒラリーの不人気が目立った。海兵隊はさらに強烈で、トランプ候補が50.4%、ジョンソン候補が26.7%、ヒラリー候補が10.2%となった。
一方、海軍と空軍はジョンソン候補を強く支持している。海軍はジョンソン候補が42.3%、トランプ候補が28.4%、ヒラリー候補が21.2%。空軍はジョンソン候補が37.8%、トランプ候補が34.8%、ヒラリー候補が18.3%となった。
■際立つヒラリー候補の不人気ぶり
これらの結果が示しているのは、ヒラリー候補の飛び抜けた不人気ぶりである。
ジョンソン候補は、内政面はともかく、外交や安全保障面は不得手である。実際、ニュース番組で、内戦中のシリア・アレッポの人道危機を尋ねられた際に、「アレッポって何?」と答えたことは記憶に新しい(注:アレッポは、現在シリア政府軍とロシア軍に空爆を受けているシリア北部の都市)。
また、この調査の少し前の7月、トランプ候補は、息子がイラクで米兵として戦死したムスリム夫妻を中傷した。トランプ候補の発言は英雄の遺族を批判するものとして、激しい世論の指弾を受けた。米軍将兵にとっても許しがたい事件だった。
それでもなお、多くの米軍人がヒラリーよりもジョンソンとトランプを支持しているのだ。いかにヒラリー候補の人気がないかがお分かりいただけよう。
■ヒラリーは米国の「内なる脅威」?
実際、米軍人のヒラリーへのネガティブな評価を裏付ける騒動も発生している。
今年8月、フォート・レオナード・ウッド陸軍基地の部隊が教育用に作成したパワーポイント資料が大問題となった。作戦上の機密保護に関する教育資料として作られたものだが、米国の「内なる脅威」の1人してヒラリー候補の名前が挙がっていたのである。
他に脅威とされていたのは、米国の情報収集活動を暴露したエドワード・スノーデン、ウィキリークスに大量の機密文書を漏洩させたチェルシー・マニング元上等兵、テキサス州フォートフッド陸軍基地で13人を殺害したニダル・ハッサン、2013年にワシントン海軍工廠で12人を殺害したアーロン・アレクシス、不倫および情報漏えい事件を起こしたペトレイアス元陸軍大将などである。そうしたいわくつきの人物たちと同列で、メール問題を引き起こしたヒラリー候補はやり玉に挙げられていた。
司令部の「TRADOC」(米陸軍訓練協議コマンド:訓練や戦術を開発する組織)は「本件はあくまで現場の人間による逸脱であり、陸軍としての見解ではない」と弁解した。だが、1部隊が作った1枚のスライドについてわざわざTRADOCがコメントしたことに、本件の事態の大きさが表れている。
■接戦州は軍人票でトランプ候補が有利に?
そもそも、軍人の票は大統領選挙に対してどのような影響力をもっているのだろうか。
近年では、米軍人の選挙に与える影響はそれほど多くないという主張がある。現役および予備役兵が投票者集団の1%に過ぎないからだ。実際、過去の大統領選挙でも、2008年のマケイン候補、2012年のロムニー候補は、オバマ大統領よりも多くの軍人の支持を得ていたが敗北している。
しかし、大統領選の雌雄を決するのは接戦州である。要するに、民主党の金城湯池たるカリフォルニア州等や、共和党のそれであるテキサス州等ではなく、双方の支持が拮抗しているフロリダ州やペンシルベニア州等が戦略的に重要だということである。
この点で見た場合、「Military Times」が指摘するように、今回の大統領選挙に軍人票が与える影響は大きいと見なすべきである。フロリダ州やヴァージニア州のような選挙人の数が多い接戦州には、数多くの軍人が居住しており、有権者に占める割合が大きいからだ。
そして、これらの州ではトランプ候補とヒラリー候補の激戦が続いている。その意味で、これまでに述べたような米軍内部のヒラリー嫌悪は注目しておく必要があるだろう。
■ヒラリー候補は決して「優勢」ではない
軍人に限らず、ヒラリー支持からジョンソン支持に転じる米国人は増えているようである。
コロラド州、ネバダ州、ヴァージニア州といった接戦州の最近の世論調査では、ヒラリー候補の票がジョンソン候補に吸収されてしまっている傾向が出ている。また、サンダースを支持していた若者票がジョンソン候補に流れているとの分析も出てきている。
特にニューメキシコ州の最新の調査では衝撃的な結果が出ている。9月27〜29日の最新の世論調査では、ヒラリー候補35%、トランプ候補31%、ジョンソン候補24%、スタイン候補2%となっている。ジョンソン候補が24%も獲得していることも驚きだが、より注目すべきは、民主党の勢力が強いこの州でヒラリー候補とトランプ候補が競っていることである。
しかも、このジョンソン候補の高い支持率の背景には、この地域のヒスパニック系の票を集めていることがあるという。要するに、この州ではヒラリー候補の票がジョンソン候補に奪われた結果、接戦になっているのである。
そして最近になって民主党がジョンソン候補を標的としたネガティブキャンペーンを開始したことも、注目に値する。大統領選挙が佳境を迎えたこの時期は、少しでも共和党候補に対する攻撃に集中すべきであり、普段ならば歯牙にもかけないリバタリアン党候補を相手にする余裕はないはずだ。にもかかわらず、あえてジョンソン候補を攻撃するのは、それだけ票を奪われているという危機感があるのだろう。
日本の報道では、ジョンソン候補はほとんど注意を払われず、ヒラリー候補の優勢ばかりが伝えられる。だが、以上で見てきたように、実際はヒラリー候補の選挙戦は巨象が薄氷を踏むが如きの危ういものなのである(ヒラリー候補には健康不安説もある)。
筆者は昨年末よりトランプ候補優勢を主張してきたが、やはり、最終的にトランプ候補が大統領になる可能性はまだ高いのではないだろうか。少なくとも、ヒラリー候補が「優勢」とは言い難い。今回の米軍人を対象とした世論調査を見て、その思いはさらに強くなった。
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