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サウジ、王位継承をめぐる従兄弟同士の戦い
息子を次期国王に据えたいサルマン国王と、立ちはだかる皇太子
The Economist
2016年9月30日(金)
サウジアラビアのサルマン国王(中央)と、ムハンマド・ビン・ナエフ皇太子(左)、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(右)(写真:代表撮影/Abaca/アフロ)
10年前のサウジアラビアでテレビのニュース番組を見たとしたら、画面には王国の未来を守ろうと決意し、改革に熱心な比較的若い王子の姿が映っていただろう。当時、ムハンマド・ビン・ナエフ王子は一族の前面に立ち、サウジにとって最大の緊急課題だったテロリズムの対策にあたっていた。同王子は聡明でマスコミ通なうえ、野心家でもあった。彼が王座に就きたがっていることはほとんど疑う余地がなかった。
昨年の4月、同王子の叔父にあたるサルマン王が国王に即位してから4ヵ月後、同王子は皇太子となった。これはサウジアラビアがそれまでの伝統と決別したことを示す劇的な出来事だった。
これまでの国王6人(第2代から現国王まで)はすべて、建国者である初代国王の息子だ。息子たちは今も数人が健在であり、王位継承者の列に加わっている。だが、ムハンマド・ビン・ナエフ王子の立太子により、今後の王位は初代国王の孫世代となる「第3世代」が継承していくことが遂に決定された。こうした経緯があり、現在57歳のムハンマド・ビン・ナエフ皇太子(外交官の間では「MBN」と呼ばれる)が正式な王位継承者となった。
副皇太子が異例の活躍
だがこの皇位継承順位が少し怪しくなってきたようだ。この1年の間に、「ムハンマド」という同じ名前の別の王子が突如、表舞台に躍り出てきたのだ。ムハンマド・ビン・サルマン王子(「MBS」)である。同王子はサルマン国王の実子で31歳、ムハンマド・ビン・ナエフ皇太子よりもずっと若い。国防大臣と副皇太子の座に就き、現在、サウジアラビアを石油依存体質から脱却させる使命を帯びている。
革新的な一連の改革を提案して注目を集め、従兄であるムハンマド・ビン・ナエフ皇太子の存在を霞ませるほどの勢いだ。サルマン国王は、ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子を自らの後任者に据えるべく育てているようにも見える。
しかし、ムハンマド・ビン・ナエフ皇太子も黙って引き下がるつもりはないだろう。同皇太子はこれまでに幾度となくピンチに見舞われた。暗殺されそうになったことも何度かある。
2003年、同氏は自分の下に投降してきた国際テロ組織アルカイダの指導者を受け入れ、評判を高めた。
ところが2009年、同様に投降を申し出た人物と会った時には命を落としかけた。暗殺未遂の犯人は更生したとされるテロリストで、直腸に埋め込んでいたと見られる爆弾を、ムハンマド・ビン・ナエフ氏に謁見した際に爆発させた。
世界の指導者たちが集う国連総会が9月18日から米ニューヨークで開催された。ムハンマド・ビン・ナエフ皇太子はサウジアラビア代表として出席し、「副皇太子が有利になるよう、正式な立場から外されたのでは」という憶測を一掃した。
2人の王子が散らす火花
サウジアラビア国内ではご法度となっていることだが、それでも人々は複雑に絡んだ王室の人間関係についての噂を囁きあっている。両王子は公の場では互いを尊重する態度を見せているものの、両者間で緊張が高まっている兆しはそこここに見られる。
サウジが主導するイエメンへの空爆を例に取ろう。これは昨年、ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子が国防相に就任してわずか数週間後に始めた戦争だ。同副皇太子は最初、将官たちと会ったり外国政府を訪問したりして、自身のリーダシップを誇示していた。こうした機会には常に報道陣を従えていた。
だがイエメンへの介入がうまくいかなくなるにつれ、この政策が集団的な決定事項だったことにした。つまりは連帯責任というわけだ。米国のシンクタンク、ブルッキングス研究所のブルース・リーデル氏は「これに対してムハンマド・ビン・ナエフ皇太子はただちに同意することはなかった。このことは注目に値する」と指摘する。
王族からの人気が高い皇太子
昨年の12月、ムハンマド・ビン・ナエフ皇太子は機嫌を損ねていたのか、アルジェリアに赴きそのまま6週間滞在して本国での任務を放置した。それ以来、王室は王族間に調和が保たれていることを示す努力を続けている。
だがムハンマド・ビン・ナエフ皇太子が国王になれば、ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子を失脚させる可能性がある。サルマン国王が我が子である副皇太子に王座を譲りたいのであれば、迅速に手を打たねばなるまい。現在80歳の国王の精神力や判断能力は衰えつつあると言われている。
だが、国王が動くのは容易なことではないだろう。サウジアラビアは伝統的に王族の総意によって統治されてきた。ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子が序列を飛び越えて王位に就くことを快く思わない王子も多い。イエメンへの軍事介入は、同副皇太子に一生ついてまわる汚点となっている。彼が推し進める経済改革は大きな痛みをもたらしてもいる。
そのうえムハンマド・ビン・ナエフ皇太子の人気は高い。サウジの王族や西側の外交官たちは同皇太子を「真面目で勤勉」だと称賛する。サウジ国民は「自分たちを守ってくれる存在」と見なしている。この9月にはメッカ巡礼を監督し、事故のない穏やかな巡礼を実現して高い評判を得た(昨年の巡礼は人々が殺到し死者が出る惨事となった)。
ただし、人権擁護グループらはムハンマド・ビン・ナエフ皇太子をそこまで評価してはいない。例えば、今年の1月にシーア派の宗教指導者をテロリストだとして処刑したことを取り上げて非難している。それでもムハンマド・ビン・ナエフ皇太子の立場はムハンマド・ビン・サルマン副皇太子よりも安泰であるように見える。
サウジアラビアの経済が大変革を迎えようとするこの時代、どちらが国を率いることになるかは誰にもわからない。ただひとつ言えるのは、その人物の名がムハンマドであることだけだ。
© 2016 The Economist Newspaper Limited.
Sep 24th 2016 | RIYADH | From the print edition
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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