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米ノースカロライナ州ケナンズビルの選挙集会で演説するドナルド・トランプ氏(2016年9月20日撮影)。(c)AFP/MANDEL NGAN〔AFPBB News〕
「トランプ大統領」という国際秩序への脅威 激しやすく、衝動的な最高司令官が招き得る大惨事
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47977
2016.9.27 Financial Times
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年9月23日付)
米国大統領候補のドナルド・トランプ氏がロシアのウラジーミル・プーチン大統領を称賛していることは、意外でも何でもない。両者とも権威主義的な傾向があり、多国間の約束を軽視し、生々しい力の政治を志向するところも共通している。特に重要なのは、政治の理念よりも損得を重視する点だ。取引は国際的なルールや共通の価値観に縛られず、狭い意味での国益によって形作られる。
プーチン氏は、旧ソビエト連邦の崩壊という屈辱を晴らしたいと思っている。片やトランプ氏は「米国を再び偉大に国にする」と公約している。プーチン氏とバラク・オバマ米大統領との個人的な関係が良好でないのは、超大国の均衡という幻想に酔いしれることをオバマ氏が厳しい言葉で拒んでいるからだ。恐らく、トランプ氏の方がロシアの心理をよく理解しているのだろう。プーチン氏を決断力のある強い指導者として褒めたたえることを決してやめない。
クレムリンに取り入るのは、共和党の大統領候補だけではない。欧州諸国のポピュリストたち――マリーヌ・ルペン氏率いるフランスの国民戦線(FN)、ファシスト政党のヨッビク(ハンガリー)と黄金の夜明け(ギリシャ)――もモスクワに敬意を表している。プーチン氏のシンパは左派にもいる。英国労働党のジェレミー・コービン党首は、ロシアの失地回復政策をとがめるよりも米国の「帝国主義」を糾弾する方がしっくりくる。
最近まで、外交政策分野のエスタブリッシュメントたちは、ヒラリー・クリントン大統領の誕生に対応する準備をひそかに進めていた。トランプ氏が候補者になったことは悪夢であり、投票日翌日の11月9日には間違いなく醒めると考えていた。しかし、ムードは変わった。世論調査における両候補の差が縮小したことから、共和党も民主党も、トランプ氏が米軍の最高司令官になったらどうなるかを想像し始めたのだ。
米軍の将軍たちがたたく軽口――核攻撃の許可を出す道具、いわゆる「核のフットボール」については、トランプ氏に手渡す前に回路の基板を外しておこう、というもの――は、以前ほどには笑えなくなった。
今では、「シャイ」なトランプ支持者が世論調査に応じていないかもしれないとか、クリントン氏に反感を抱く中道派が棄権するかもしれないとか、労働者階級の白人がエリートを罰すると決断し、高い教育を受けた白人、ヒスパニック系、アフリカ系の3グループが手を結ぶオバマ氏の必勝パターンを打ち砕くかもしれない、といった不安が語られている。またトランプ氏の虚言癖、女性嫌い、そして人種差別についての説得力のある証拠を目の当たりにして、「彼は本気でそんなことを言っているわけではない」と答える人があまりに多い。
世界のほかの国々がそろって認識しているのは、世界のほぼどこにおいても重要な国は米国だけだという事実だ。もはや1990年代の「超大国」ではなくなっているとはいえ、激しやすく衝動的に行動する米大統領が大変な災難を起こす可能性があることを考えるとぞっとする。
そのため、この国のチェック・アンド・バランスのシステムがトランプ氏を押しとどめてくれるだろうと考えて自分を納得させようとする人が、首都ワシントンには大勢いる。ただ、筆者が先日いろいろな人と交わした会話から判断するに、この取り組みは成功していない。
気分屋のトランプ大統領は危機の最中に怒り出すのではないか、という不安があることは明白だ。ロバート・ゲーツ元国防長官(共和党)は、トランプ氏は「最高司令官には不向きだ」と簡潔に語っている。実際、先日ニューヨークで起きた爆弾事件への反応はそのパターンに合致していた。米国は「連中をこてんぱんにやっつけなければ」ならない、そして「向こうでは大々的にやらねば」ならないと語ったのだ。ちなみに、「連中」とは誰のことかは曖昧なままで、「向こう」は中東を意味している。
また、これ以上に大きな危険がトランプ氏の撤退公約には潜んでいる。すなわち、さまざまな貿易協定を破棄し、中国に対して貿易障壁を作り、気候変動問題に対処するための「パリ協定」やイランとの核合意も認めず、東アジアと欧州の安全を保障する責任も放棄するといった公約だ。
同氏の政策は矛盾だらけだが、好戦的な孤立主義は一貫している。米国は誰とも組まない、というわけだ。これを「超リアリズム」だと呼ぶ向きもあるが、「危険だ」と表現する方が適切だろう。
現代の世界の秩序――1945年に成立して冷戦終結後に拡大された、自由でルールに基づくシステム――は、前例のない緊張にさらされている。グローバル化は後退している。英ディッチリー財団米国支部がニューヨークで開催した会議で、米国のある高名な老政治家は、世界がこれほど多くの動乱や危機に一度に見舞われた時代を自分は知らないと述べていた。
このリストには、聞き覚えのある項目が並ぶ。プーチン氏は欧州の国境線を書き換えようとしており、中東は炎に包まれている。欧州諸国の連帯にはひびが入り、ジハード(聖戦)という名のテロが拡大し、専制主義が社会的多元主義に挑戦している。中国は南シナ海の現状に異議を唱えており、それを受けて近隣諸国が軍備を再び強化しつつある。先進国ではポピュリストが民主主義の砦を攻撃している。
こうした状況に対するトランプ氏の答えは、米国の撤退だ。同氏は壁を作りたいと思っている。太平洋に広げた安全保障の傘にも疑問を呈している――ということは、日本と韓国は自前の核兵器を持つべきなのだろうか。またトランプ氏は、北大西洋条約機構(NATO)による欧州防衛の信頼性も低下させている――ということは、バルト3国にロシアの軍隊が入ってきても、米国は黙って見ているだけなのだろうか。
こうした答えにはいずれも、米国の安全は同盟と国際秩序によって守られているという意識が完全に欠落している。
世論調査の結果を信じるなら、トランプ氏は大統領選挙戦でクリントン氏の勢いをもぎ取ったことになる。だからといって、11月8日の投票日にトランプ氏が勝つとは限らない。大統領選挙人団の構成を見ると、トランプ氏をホワイトハウスに導く道は非常に細い。また、今後はテレビ討論会も3回行われる。
だが、考えられないことが、すでに起こり得ることになった。我々はこの上なく心配すべきだ。トランプ式の孤立主義に傾くことを認めるゆとりは、米国にも世界にもないのだから。
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