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勝負あり! 迷走をはじめたトランプ陣営
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160829-00010005-wedge-int
Wedge 8月29日(月)12時22分配信
現地リポートの3回目は、「迷走するトランプ陣営」です。ウクライナの親ロシア派ヤヌコビッチ前大統領が率いた与党「地域党」から1270万ドル(約12億7000万円)の資金を受領した疑惑が浮上すると、トランプ陣営の選対議長ポール・マナフォート氏は、一旦事実関係を全面否定しましたが、結局辞任しました。
本稿では、ベテラン政治コンサルタントマナフォート氏に対する不動産王ドナルド・トランプ候補の心境と機能不全に陥ったトランプ陣営を分析します。
■自己愛と注目度
トランプ候補は、共和党候補指名争いにおいて政治的配慮に欠いた率直な発言で話題を集めて支持を得てきました。ところが、イラクで戦死したイスラム教徒の米軍人の遺族を非難した発言は、民主党支持者のみならず共和党支持者からもまったく受容されませんでした。政治的配慮の欠如も甚だしい発言だったのです。同候補は、米軍人の遺族に対する中傷で、以下の4つの致命的な過ちを犯してしまったのです。
第1に、米軍最高司令官になる資格がないという印象を与えてしまいました。米国では大統領が軍人の遺族に対し敬意を払うのは至極当然のことです。第2に、南部に住む多くの退役軍人に対して発言がどのような影響をもたらすのかを考慮に入れなかったことです。共和党候補指名争いでトランプ候補は、退役軍人から熱烈な支持を得てきました。その退役軍人の家族を批判してしまったのです。第3に、有権者の間に同候補の反イスラム教徒のイメージが、一層強化され固定化されてしまいました。第4に、戦士した兵士の母親に対して、感情移入ができなかったことです。共和党全国党大会における演説で、子供たちが人間愛のある父親として同候補を描きましたが、感情移入のできない過度に自己愛の強い人間であると自ら証明してしまったのです。
南部バージニア州フェアファックス市の選挙対策事務所開きに参加した白人の大学生が、両親について筆者に語ってくれました。
「私は民主党支持者ですが、両親は共和党支持者です。両親はトランプには投票しないと言っています。軍人の遺族を攻撃するのは共和党の価値観ではないとトランプを批判しています」
トランプ陣営は、米軍人遺族に対する中傷によって生じた危機的状況に直面している時に、さらなる問題を抱えることになったのです。それが、上で述べたマナフォート氏の巨額資金の受領疑惑でした。米メディアは、連日マナフォート氏を多く取り挙げるようになったのです。自己愛的人格を持つトランプ候補は、マナフォート氏ではなく、常に自分に関心と注目が集まることを望んているのです。選対の中に、自分に対する注目度を低下させる人物は必要がなかったのです。
■候補者の失言と「ブレンド」
選挙戦の流れを変えたトランプ候補の米軍人遺族に関する失言に対して、政治コンサルタントのマナフォート氏は、即座に効果的な対策を打つことができませんでした。巨額資金の受領疑惑及びトランプ候補の自己愛的人格に加えて、同氏の対応のスキル不足も辞任の要因として見逃せません。
候補者の失言を正当化すると、逆効果になる場合がります。では、どのようにして対応すれば良いのでしょうか。
選挙手法の1つに、「ブレンド」があります。種類や品質の異なったコーヒー豆を混合することにより、薄めていくやり方です。候補者は、一旦、自分の発言に対して後悔の表明ないし謝罪を行います。その後で、相手候補は自分が犯したミスに対して謝罪をしないと攻撃し、「ブレンド」をするのです。トランプ候補がマナフォート氏に代わり、選対本部長に昇格させたケリアン・コンウェイ氏は正にこの選挙手法で危機を乗り越えようとしています。その反面、マナフォート氏は大物政治コンサルタントと言われながらも、コンサルタントしての役割を果たせなかったのです。
■異変する激戦州とスケジュールミス
本来ならば、オハイオ州、ペンシルベニア州、バージニア州、ノースカロライナ州、フロリダ州及びコロラド州は激戦州ですが、オハイオ州とノースカロライナ州を除き、クリントン候補がトランプ候補を約10ポイント引き離しています。従来の激戦州が、激戦州ではなくなっているのです。
ロアノーク・カレッジの世論調査によれば、バージニア州ではクリントン候補がトランプ候補を16ポイントもリードしています。クイニピアック大学の調査では、コロラド州でクリントン候補はトランプ候補を10ポイント引き離しました。
その結果、クリントン陣営は、バージニア州並びにコロラド州におけるテレビ広告を一時停止し、新たな激戦州となっているジョージア州及びアリゾナ州にスタッフや選挙資金をつぎ込んでいます。ジョージア州では、共和党が1996年から5回連続で勝利を収めています。一方、アリゾナ州では、1952年から2012年までの大統領選挙において民主党が勝利したのは、1996年のわずか1回のみです。共和党が圧倒的に強い両州において、トランプ候補のリードは5ポイント以下なのです。その背景には、ヒスパニック系やアジア系など非白人の人口増加が影響を与えているとみられています。
激戦州で苦戦を強いられているトランプ陣営は、投票日まで約13週間になった段階で、東部コネチカット州で集会を開いたのです。コネチカット州は、1992年から6回連続して民主党が勝利を収めており、前回の米大統領選挙でオバマ大統領がミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事を17ポイントも差をつけて破った州です。
トランプ陣営は、従来の激戦州及び苦戦している南部の州にあくまでも焦点を当てるべきなのです。コネチカット州での集会の開催は、正に同陣営が迷走している証だったのです。
海野素央 (明治大学教授、心理学博士)
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