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[この一冊]国際秩序 ヘンリー・キッシンジャー著 システムの欠陥露呈に強い危機感
現在、第2次世界大戦後の国際秩序は危機に瀕(ひん)しているのかもしれない。ロシアは2014年に力づくでクリミアをウクライナから奪取し、中国は領有権争いのある南シナ海において一方的な埋め立て、建設、軍事基地化を進めるとともに、東シナ海で日本の領海への侵犯を繰り返している。
本書はまさに戦後国際秩序の現状について、強い危機感を滲(にじ)ませながら分析している。
現代において世界秩序として通用しているものは、17世紀半ばに成立したウェストファリア(本書ではヴェストファーレン)・システムと呼ばれるものである。それは主権国家の対等性、内政不干渉、力の均衡などを特徴としていた。ただし、それは本質的には欧米的秩序であり、とくにその宗教的・思想的基盤という点で、普遍性を欠いていた。たとえば儒教の世界では中国文化との近さで序列が決められ、朝貢が周辺各国に要求された。イスラム教は、領域内の平和な世界と、不信心者が住む戦争の世界に世界秩序を二分した。
著者が重視しているのが、アメリカの役割である。アメリカがソ連の前に立ちはだかることを決意した1948年から20世紀末までは、利他的なアメリカの理想主義と、伝統的な力の均衡の概念が融合したものから成るグローバルな世界秩序の萌芽(ほうが)とでもいえるものが、たとえ短い間とはいえ成立した人類史上まれな時代だったのではないかと著者は問いかける。しかし、その構造は現在、重要な欠陥を露呈している。主権国家は内外から挑戦を受け、経済はグローバル化したにもかかわらず、政治は国民国家単位で運営されている。しかも重大問題で大国が意見交換し、場合によっては協力し合う有効な仕組みが存在しない。
このような状況で、アメリカの役割はますます重要である。著者は、アメリカが明確な目的意識を持ち、ウェストファリア・システムを現代化していく役割を担い続けることを強く期待しながら本書を結んでいる。
しかし、戦後民主党より一貫して国際秩序を支える傾向を示してきた共和党が、本年NATOや日米同盟に懐疑的なドナルド・トランプを大統領候補に指名したことは、選挙結果のいかんにかかわらず、国際秩序を支えようとするアメリカの意欲の喪失を示唆している可能性がある。著者が14年に本書を執筆したとき以上に、今日の状況は深刻である。アメリカは今後も国際秩序を支えていくのであろうか。なお、やや訳文が読みにくいのが残念である。
原題=World Order
(伏見威蕃訳、日本経済新聞出版社・3700円)
▼著者は23年ドイツ生まれ。元米国家安全保障問題担当補佐官。元国務長官。国際政治学者。73年ノーベル平和賞。著書に『外交』など。
《評》東京大学教授 久保 文明
[日経新聞8月21日朝刊P.19]
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