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[グローバルオピニオン]世界混迷、プーチン氏に有利 米ユーラシア・グループ社長 イアン・ブレマー氏
生まれながらにして幸運な指導者がいる。自ら幸運を作り出す指導者もいる。そしてロシアのプーチン大統領のように、幸運が転がり込んでくる指導者もいる。最近の対外的な出来事が同氏にどれほど有利に働いているか考えてみたい。
米国には、国家の支援を受けたロシアのハッカーが米民主党全国委員会や民主党の大統領候補、ヒラリー・クリントン前国務長官の陣営から電子メールを盗んだと非難する向きがある。その確認や反論は専門家に任せるが、ロシア政府が米国の機密情報を入手し、それを利用して米大統領選を不正に操作するかもしれないという不安の広がりにプーチン氏はほくそ笑んでいるに違いない。
米共和党の大統領候補、不動産王ドナルド・トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)への関与を縮小するとしている。同陣営の選挙対策本部長はかつて、親ロシア派のウクライナのヤヌコビッチ前大統領の下で働いていた。
プーチン氏は2011年にモスクワで発生した自分に反対する抗議デモを扇動したのは当時のクリントン国務長官だと考えている。米国が旧ソ連やロシアで政治的混乱をあおってきたと長年疑念を抱いてきたプーチン氏は、今年の米大統領選挙に自分が一役買っているという疑惑が引き起こす不安を心ゆくまで楽しむだろう。
英国が国民投票で欧州連合(EU)離脱を決めたことは、欧米の対ロシア制裁とウクライナにおけるプーチン氏の工作を巡る緊張緩和の一助となるとみられる。
ロシア、ベラルーシ、カザフスタンで構成する、プーチン氏主導の「ユーラシア関税同盟」が、やがて崩壊の危険が高まるEUの代替になり得るというロシアの主張が説得力を持つようになるだろう。ロシア国内で、将来欧州の一部になるという目標を持つ価値はないというプーチン氏の主張を後押しすることにもなる。
トルコのクーデター未遂を受けたエルドアン大統領による国内の敵(実際の敵も、想像上の敵も)の弾圧も、プーチン氏に有利に働く。トルコ国内では数千人が逮捕され、ジャーナリストが拘束された。エルドアン氏は死刑の復活にも言及している。
欧州の首脳は、こうした弾圧はトルコのEU加盟にマイナスと警告するが、エルドアン氏はひるまない。欧米の批判とトルコ政府に対する欧米の意図に不信感を抱くエルドアン氏は、すでにプーチン氏に傾いている。プーチン氏は戦略的に重要なNATO加盟国であるトルコに喜んで政治・経済的支援をするだろう。
中国もロシアに手を差し伸べる理由がある。仲裁裁判所に南シナ海を巡る主張を退けられたことに激怒している中国はロシアを合同軍事演習に招待した。トルコと同様、ロシアと中国の協力には限界がある。両政府は協力より競合関係にある場合の方が多い。しかし両国は、米国や欧州との関係が悪化した際にはお互いを援護できるし、今後もそうするだろう。
ロシアは依然として多くの問題を抱えている。原油価格が近く回復する見込みは薄く、ロシアにとって長期的懸念の源泉となる。経済の近代化は遅々として進まず、信頼できる友好国は少ない。しかし今のところ、さまざまなことがプーチン氏の思い通りに動いており、同氏は可能な限り、降って湧いたこの幸運を利用しようとするだろう。
Ian Bremmer 世界の政治リスク分析に定評。ユーラシア・グループは米調査会社。著書に「スーパーパワー――Gゼロ時代のアメリカの選択」など。46歳。
[日経新聞8月15日朝刊P.7]
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