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米ペンシルベニア州フィラデルフィアで開催された民主党全国大会で、イラクで死亡した息子について演説するキズル・カーンさんと、寄り添う妻のガザラさん(資料写真、2016年7月28日撮影)。(c)AFP/Timothy A. CLARY〔AFPBB News〕
トランプの劣勢に胸をなでおろすフランスメディア 「永遠の同盟国」は米大統領選をどう伝えているか
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47654
2016.8.22 山口 昌子 JBpress
米国の大統領選の投票日まで、いよいよあと約3か月となった。フランスのメディアも米大統領選に強い関心を示し、連日トップの扱いで報じている。
現在、共和党候補のドナルド・トランプ氏は、民主党候補のヒラリー・クリントン氏に支持率で平均8ポイントの差をつけられている。フランスメディアはクリントン氏の優勢がこのまま続くと見ている。最近の各紙の見出しは次のような具合だ。
「(トランプ)終わりの始まり」(右派系の「フィガロ」8月18日付)
「トランプ、ファンの中だけの勝利」(中立系の「ルモンド」8月18日付、ウイスコンシンでの集会が大盛会だったことを皮肉っている)
「トランプ、思想テスト」(左派系の「リベラシオン」8月16日付、イスラム過激派と戦う方法としてトランプが提案した移民の思想チェックに疑問を投げかけている)
■フランスが米大統領選に大きな関心を寄せる理由
フランスが米国の大統領選に強い関心を示すのは、米国が「世界で唯一の超大国」であるという理由のほかに、米仏が一度も交戦したことのない「永遠の同盟国」だからだ。
米国は日本・ドイツとは第2次世界大戦で、イギリスとは独立戦争で、中国・ロシアとは冷戦で戦った。しかし、米国とフランスはこれまでずっと民主主義を基盤にした同盟国として足並みを揃えてきた。
フランスは、ラファイエット将軍がアメリカの独立戦争を支援したことをいまだに自慢の種にしている。一方、米国は、第2次大戦中に連合軍を率いてノルマンディ上陸作戦を敢行、多数の犠牲者を出しながらフランスをドイツ・ナチスの占領から解放した。だから、イラク戦争でフランスが参戦を拒否した時、米国は「恩義を忘れたのか」とカンカンに怒ったのである。
現在もフランスと米国は、英国などと共にシリア、イラクに派兵して「イスラム国(IS)」と交戦中だ。米国の次期大統領が誰になるかは、自国の外交政策、安全保障政策にに直接関係してくるだけに、フランスが大きな関心を寄せるのは当然だろう。
■「差別主義者」に厳しいフランス
さて、トランプ氏の劣勢を伝える最近のフランスのメディアの報道から伺えるのは、一種の安堵感である。本来なら共和党候補を応援するべき右派系の「フィガロ」も、トランプ氏の支持率低下は当然の結果と捉え、「(民主党びいきが多い)米報道機関のバイアスがかかっている」というトランプ氏の主張を「幻想」だと切り捨てている。
トランプ氏が昨年6月に予備選への出馬表明をした頃は、まさか共和党候補になるとはどのフランスメディアもまったく予想していなかった。トランプ氏がイスラム教徒を排除する発言を繰り返していたことが、その大きな理由である。
そもそもフランスは「差別主義者」に厳しく対処する国だ。フランスでは憲法第1章で、「出身、人種、または宗教の区別なしにすべての市民の法の前の平等を保障する」と宣言している。刑法でも「出身、性別、民族、国家、人種、宗教によって人と人とを区別する行為」を禁止し、「差別」は「個人の尊厳に抵触する犯罪」と明白に規定している。極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン氏党首が、「外国人排斥」を標榜した父親のジャンマリ・ルペンと異なり「反欧州」を標榜しているのも、「人種差別者」のレッテルを貼られてしまったら大統領選で勝ち目がないからだ。
トランプ氏が大方の予想を裏切って予備選で圧勝し、クリントン氏が予備選で足踏みしていた頃は、一時的にトランプ氏に好意的な報道が目立った。左派系週刊誌「ヌーベル・オプセルヴァトール」までが、表紙に彼の家族の写真を掲載して、私生活などに関する特集を組んだ。トランプ氏は「『暴言』が多いが、常識的な人間である」ことを強調する内容だった。その記事からは、「トランプ大統領」をできるだけ“安全”な人物として受け入れたいという願望が伺えた。
■トランプ氏の「暴言」と戦術を分析
だが、8月に入ってトランプ氏の支持率は急激に下降線をたどり始める。イラク戦争で息子が戦死したイスラム系のキズル・カーン氏が民主党大会でトランプ氏を強く非難したことがきっかけとなった。トランプ氏の勢いに陰りが見えるようになると、フランスメディアの報道のトーンも一変する。トランプ氏の「暴言」がなぜ米国の国民に受け入れられたのか、その客観的な分析が試みられるようになった。
例えば「リベラシオン」は、8月初旬からアメリカの有色系作家たちによる「私のオバマ時代」という連載を開始した。筆者の1人に、グアテマラからの移民2世でピューリッツァー受賞者のヘクタール・トバール氏がいる。トバール氏はオバマ政権の8年間に白人の貧困層が急激に増加したことを指摘し、「白人労働者のオバマに対する憎しみがトランプ陣営を支えている」と分析した。
トバール氏が在住するロサンゼルスでは、8年間で家の価格が61%値上がりし、ホームレスが19%増加したという。オバマ大統領の「インチキ政治」(トランプ氏の表現)によって、多くの白人貧困層が生み出された。そうした怒れる白人貧困層が「トランプ支持」に回っている。外相として大統領を支えてきたクリントン氏はオバマ氏と同罪とみなされ、敵視されているのだという。
ルモンドはトランプ氏の「演説の流儀」について分析している。ルモンドによると、トランプ氏は思わせぶりな発言をすることが多いという。
例えば銃規制に関する発言だ。トランプ氏は8月9日のノースカロライナ地方の集会で、「ヒラリーは憲法修正第2条の廃止にするだろう」「それでも、修正第2条の支持者にできることはある」と述べた。この発言は暗に「ヒラリー暗殺」をほのめかしているとして大きな批判を浴びている。
しかし、実際にはクリントン氏は憲法修正第2条を廃止するとは発言していない。「銃規制」はクリントン氏にとって命取りになりかねない問題だからだ。
トランプ氏がこうした策を弄する話し方をするのは「不動産業だから」(「オピニオン・インターナショナル」8月16日配信)との指摘もある。つまり、不動産業は口八丁、手八丁がものを云う世界だというわけだ。トランプ氏の「暴言」や相手への「嘲弄」「威嚇」は不動産業で見につけた一種の戦術であると分析している。
■苦渋の選択を迫られる米国民
2002年に冬季五輪が開催された米国ユタ州・ソルトレイクシティは、モルモン教徒が60%を占め、伝統的に共和党支持者が多い。だが、今回は「人種差別」を口にするトランプ氏への投票を躊躇する住民が多数いるとみられる。かといって、同性婚や人口中絶を認めるクリントン氏も全面的に支持されているわけではない。
この傾向は他の州でも同様である。米国の選挙民は「軽蔑するトランプ」か「憎らしいクリントン」かの苦渋の選択を迫られそうだ。
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