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米ニューハンプシャー州の選挙集会で、ヒラリー・クリントン前国務長官(右)と並んで出席者らに手を振るバーニー・サンダース上院議員(2016年7月12日撮影、資料写真)〔AFPBB News〕
4分裂が進む米社会、大統領選で亀裂が具現化 敗戦の将・サンダース、本流リベラル派育成に動き出す
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47618
2016.8.16 高濱 賛 JBpress
■ヒラリー当選の確率は89.2%に
まだ大統領選投票日まで150日あるというのに、米国内には「史上初の女性大統領」を想定内のこととして受け止める空気が広がっている。
過去の大統領選結果を的中させてきた選挙専門メディア「ファイブ・サーティ・エイト」(Five Thirty Eight)のネイト・シルバー氏は、8月12日段階で、ヒラリー・クリントン氏が大統領になる確率は89.2%との予想を打ち出した。
選挙人数548人中369.3人を獲得し圧勝するというのだ。
「史上初の女性大統領」を誕生させる米国にとって今回の大統領選はどのような意味を持つのだろうか。
米主要シンクタンクの上級研究員の1人は筆者に興味深いコメントをしてくれた。「2016年の大統領選は、『分裂国家』を象徴する、三つ巴ならぬ四つ巴の内戦だった」と。
同研究員によれば、「四つ巴」とはこういうことだった。
民主党サイドでは――。
1.クリントン氏が主張するバラク・オバマ政権の継続と安定を求める党内エスタブリッシュメント(既成権益勢力)+オバマ路線を継承したいリベラル中道勢力。
2.1930年代の伝統的な民主党のリベラル路線への回帰を目指すリベラル改革派勢力+ミレニアム世代の理想主義的リベラリル勢力。バーニー・サンダース上院議員を支持し続けた原動力だ。
それがクリントンvsサンダースの対決構図だった。
共和党サイドでは――。
3.ホワイトハウス奪還を目指す共和党党内エスタブリッシュメント+東部白人エリート保守派勢力。
4.共和党を支配するエスタブリッシュメントに反発する南部、中西部を中心とした保守層+低所得・低学歴の白人草の根保守派勢力。
それがトランプvsエスタブリッシュメント候補者たちの対決構図だった。
興味深いのは、「サンダース支持層」と「トランプ支持層」には反エスタブリッシュメントという共通項があることだ。ともにエスタブリッシュメントに不満を持ち、現状打破を望んでいた点だ。
億万長者、贅沢三昧のトランプ氏はエスタブリッシュメントのはずだ。が、不動産業者、カジノ経営者、いわゆる「ウォールストリート」的エスタブリッシュメント本流ではないことで、支持者は同氏を「体制派」とは見なさない。その辺が面白い。
前回、「トランプ氏を支持する米有権者」の声を代弁した2冊の本を紹介した。
■サンダース支持者の6%はトランプに投票か
今回は、予備選でサンダース氏を支持した有権者に目を向けてみたい。この人たちは本選挙でクリントン氏に投票するのだろうか。
前述の「ファイブ・サーティ・エイト」が各種世論調査結果を基に分析したところによると、サンダース支持層で11月8日にクリントン氏に1票を投ずるのは3分の2だという。つまり3分の1はクリントン氏以外に入れるというのだ。
さすがにトランプ氏に票を入れるというものは少ないようだ。
たとえ反エスタブリッシュメントで共通項があったとはいえ、一応、保守主義者(共和党主流派の中には「トランプ氏は共和党でもなければ、保守主義者でもない」と言い切る者もいるくらいだが)のトランプ氏にリベラル派が票を入れるのは気が引けるのだろう。
リバタリアン党のゲリー・ジョンソン候補や「緑の党」のジル・スタイン候補に入れる者もいる。
それでもCNNやフォックス・ニュースなど各種世論調査ではサンダース支持者のうち平均値6%がトランプ氏に投票すると答えている。
「トランプ氏に入れるサンダース支持者は『ヒラリーを蛇蝎(だかつ)のごとく嫌っている者』に限られる。どうせヒラリーが勝つならいっそのことトランプに入れるという、やけっぱちリベラル派がいてもおかしくはない。
大統領選挙は政治哲学や政策よりも候補者が好きか嫌いかで投票する人もいるからだ。ミレニアム世代の中には意外と多いのではないだろうか」(米大手紙政治記者)
■予備選では23州で勝ち、代議員43%を確保した実績
当初から泡沫候補と見られながら予備選初段階ではクリントン氏を圧倒、予備選・党大会では23州でクリントン氏に勝利した。予備選での得票数は130万票。ちなみにクリントン氏は158万票だった。
民主党では大統領経験者や上下両院議員、州知事、地方議員らが「特別代議員」(Super Delegates)として、一般党員による投票結果に全く左右されないで自由に大統領候補を選べるシステムになっている。
サンダース氏はこれに激しく抗議、結局全国党大会後、特別代議員制度改正を審議する特別委員会設置が決まった。
代議員総数は4767人。そのうち15%は「特別代議員」だ。その大半がクリントン氏に流れる中でサンダース氏が獲得した代議員43%は一般党員による直接投票で選ばれた代議員だった。
これはただ単にサンダース氏が公立大学の授業料無償や学生ローン改善を唱えたために若者がご利益宗教的に支持したからではないことの何よりの証明だった。
サンダース氏を熱狂的に支持した民主党のリベラル派が唱えていた政治思想とはいったいどんなものなのか――。
■サンダースは40年前、反戦ヒッピーだった
本書、「Why Bernie Sanders Matter」(なぜバーニー・サンダースは重要なのか)はサンダースという政治家を知るうえで貴重な1冊だ。
著者は、過去40年間サンダース氏を追い続けてきた「ワシントニアン」誌の政治ジャーナリスト、ハリー・ジェフ氏。
サンダース氏は1941年9月、ニューヨークのブルックリンに生まれた。両親はポーランド移民。親戚の中にはホーロコストの犠牲者もいた。
シカゴ大学を卒業後、ニューヨークに戻り、代用教員、精神科医助手、大工などの職に就いた。
1968年には「グリーン・マウンティン・ステート」の愛称で呼ばれるバーモント州(人口60万人)に移住。大工として働くかたわら、教材用のフィルム制作や左派系雑誌に寄稿していた。
学生時代にはベトナム反戦や公民権運動を中核だった「非暴力学生調整委員会」(SNCC)幹部としてデモ集会に参加し、逮捕されたこともある。いわば、1960年代全米を席巻した反戦ヒッピーの1人だった。
バーモント州に移り住むと同時に、「リバティ・ユニオン党*1」に入党。1976年、同党から州知事選に立候補したこともある。
*1=「リバティ・ユニオン党」は1970年、バーモント州限定で結成された左翼政党。
サンダース氏は1979年同党を離党、その後36年間インディペンダント(無党派)として政治活動を続けてきた。そしてバーモント州バーリントン市市長(81年〜89年)、下院議員(91年〜2007年)、上院議員(2007年〜現在)を歴任してきた。
それにしてもかって反戦ヒッピーだったサンダース氏がどうして市長や上下両院議員に選ばれてきたのか。
バーモント州は、全米で2番目に人口の少ない州。元々共和党州とされてきたが1980年代以降、ニューヨーク州都市近郊などからリベラル派住民が移住したこともあって大統領選では民主党候補が勝利するようになった。
■「民主社会主義者」を受け入れる東部小州の土壌
著者によれば、バーモント州は農業従事者、ヒッピー、リベラル派、リバティリアンといった無党派層が選挙では大きな影響力を持ってきた。
低所得層だが低学歴ではなかった。リベラルだが、大企業や労組のようなリベラル派エスタブリッシュメント(既成権益勢力)とは一線を画す「人種」だった。
つまり、バーモントという州には、「サンダース氏のようなニューディール*2型のプログレッシブ(進歩的)な政治家」(ケイト―研究所のマリアン・タピィ上級研究員)を受け入れる土壌があったのだ。
■サンダースの強みで弱みは「主義主張がぶれないこと」
著者はサンダース氏についてこう書いている。
「私がサンダースを知ったのは1976年、大学を出たばかりの駆け出し記者の頃だ。ブルックリン訛りの眼鏡をかけたサンダースと名乗る男が『リバティ・ユニオン党』から何と知事選に立候補したのだ。選挙結果は惨敗だった」
「それ以来、サンダースは言うことに一切ぶれがない。大企業や富裕層から税金はがっぽり取れ、大学を出ても職のない若者に仕事を。退職しようと思ってもできない中高年層を助けろ。結婚したばかりの若いカップルの支援を――」
「政治家は往々にして階段を上るたびに言っていたことが変わっていく。一貫性がない。ところがサンダースは終始一貫言ったことがぶれない。それが彼の長所でもあり、政治家としては短所かもしれない」
サンダース氏を全米的に有名にしたのは、2010年、上院本会議場でジョージ・W・ブッシュ大統領が署名した富裕層優遇是正措置の延長に反対してフリバスター(議事妨害)を行使したことだった。
その後、持論の大企業優遇是正廃止、地球温暖化防止、性的マイノリティ合法化、イラク戦争反対、米国愛国者法反対などを訴え続けてきた。
*2=ニューディールとは世界恐慌からの克服を目指してフランクリン・ルーズベルト第32代大統領(民主党)が行った一連の経済政策。「全米産業復興法」では各企業に対して生産調整を要求するなど社会主義的政策も盛り込まれていた。
そうした中でサンダース氏が他のリベラル派議員と一線を画してきたのは銃規制問題だ。同氏は憲法修正第2条の重要性を強調し、市民が銃を保持することへの規制には終始反対してきた。
著者によれば、その理由は、バーモント州の風土だった。
同州は銃規制州法のない数少ない州。農村地帯に行けば、どの家のクローゼット(押入れ)にもライフル銃が転がっている。「銃文化」が極めて当たり前な環境に置かれているためだった。
著者はその一方で、サンダース氏の国防外交についての認識の欠如についてこう指摘している。
「サンダース氏にとって軍事問題や外交というものは第一義的な議題ではなかった。米軍最高司令官としては最も適さない政治家だった。これまでの政治経験の中で扱ったことのない議題だったからだ」
「だがそれはバラク・オバマ氏も同じだ。彼も外交軍事問題を直接扱ったことはなかった。それでも大統領になって以後、見事こなした」
トランプ氏は、国防・外交について「熊さん、八っさん的発言」を繰り返して世界の失笑を買った。それに反してサンダース氏は知らない国防・外交では深入りを避け通した。
環太平洋戦略的経済連携協定=TPP=反対発言はあるが、これは米農業従事者の立場からの声を代弁していたにすぎない。
■大統領選後直後に新著「われらの革命」を発刊
サンダース氏は大統領選投開票日の1週間後に新刊本を出す。タイトルは"Our Revolution: A Future to Believe in"(我らの革命:我らが信ずる未来へ向けて)。
上院議員任期は2019年1月までだが、大統領選での戦いを踏まえて、2つの団体を創設する。
1つは、「アワー・リボリューション」(Our Revolution)。サンダース氏の政治哲学、政策に共鳴して連邦、州、地方各議会や州知事、市長を目指す候補を発掘して物心両面から支援する政治団体だ。
もう1つはサンダース氏の政治哲学や政策を全米国民に伝え、啓蒙するメディアの設立だ。名称は「サンダース・インスティチュート」(Sanders Institute)。
元反戦ピッピーを支えるミレニアム世代のリベラル派勢力は今後も米国の方向性に一定の影響力を与え続けることだけは間違いなさそうだ。
そして「四つ巴」の戦いは、これからも続く。
上下両院が共和党エスタブリッシュメント派とトランプ派に牛耳られれば、クリントン大統領は厳しい政権運営を迫られるだろう。その意味ではサンダース支持派も無条件でクリントン政権のありとあらゆる政策に協力するとは思えない。
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