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米首都ワシントンにあるハワード大学の卒業式で演説するバラク・オバマ大統領(2016年5月7日撮影)〔AFPBB News〕
卒業式スピーチが示す米大学の強さと進取の気性 2016年夏、各界の著名人が卒業生に贈った言葉
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47525
2016.8.5 松井 範惇 JBpress
5月末頃から6月は毎年、米国の大学では卒業式が行われる。多くのカレッジや大学の卒業式は、1人の卒業に家族・親類縁者・友人が総出でやって来るし、大学も2〜3日かけて行事を行う。この時、同時に卒業10周年、20周年や50周年記念の同窓会なども賑やかに行われる。
私の送り出したある学生は、ちょうど彼のお爺ちゃんが卒業50周年の同窓会だったことがある。15周年、25周年、30周年なども行われる。これらは大学にとっては格好の寄付金集めの機会となっており、同窓会係の職員が遺言書での大学への寄付の書き方や節税の仕組みなども説明する。
卒業式、学位授与式はほとんどのところで、学長あるいは学部長から一人ひとり証書が手渡しされる。
学部長や教務担当副学長から名前が呼ばれると、一人ひとり壇上に上がって行き、家族や友達に手を振ってから学長の前に出て、証書を読み上げてもらって証書を受け取る。四角いアカデミック・キャップの房を左から右へ移すと、これで学位を受け取ったという印である。
■昼食会、夕食会で教授陣と家族が交流
いろいろなやり方があるが、式の前日には教員・職員と卒業生・家族の夕食会が持たれたりする。式当日は午後の式の前には、大昼食会があるところもある。
大きな大学では各スクールごとに卒業式があり、1週間かけて毎日午前に1つ、午後に2つ、例えば、ある日の午前には医学校(メディカル・スクール)、午後にリベラル・アーツ(一般教養)・スクールと工学部、という具合に行われる。
一連の行事の中の1つのハイライトは、外部から著名人や有名同窓生、政治家や成功した企業家などに来てもらって、卒業生へのはなむけのスピーチをしてもらうことだろう。
学内で卒業生が投票で選んだ教授のこともあるが、大学当局が全米からの有力者を招請して、社会へ出て行く「新大人」への教訓や名言を与えることも多い。
大学はこの時、スピーチの引き受け手には名誉博士号などを与え、社会とのつながりを強めようとする。学生たちもそのスピーチを楽しみにしているし、各地の大学で誰がどういう話をしたか、大学関係者の間では評判になる。
今年のいくつかのスピーチから、要点を紹介しよう。
●マイケル・ブルームバーグ氏(CEO, 元ニューヨーク市長)、ミシガン大学(ミシガン州アナーバー市)
(今年の大統領選挙で共和党と民主党が非難合戦を深めていることについて)
「真実は、相手を非難することで我々の直面する問題の解決にはなりません。我々全員は1つであり、共に解決策の一部とならなければなりません」
「世界における米国の力は、壁を築くことではなくドアを開けることから来るのであり、成功を打ち砕くことではなく新たな機会を構築することから来るのです」
●スティーブン・スピールバーグ監督、ハーバード大学(マサチューセッツ州ケンブリッジ市)
「さて、ここで皆さんの直感と良心とは別物であることを確認しておきましょう。これらは一緒に働きますが、次のような違いがあります」
「良心はあなたが何をすべきかを叫びます。一方、直感はあなたに何ができるかを囁きます。あなたに何ができるのかを言ってくれる心の声をしっかり聞いてください。あなたの人格を決定づけるのはそれであって、それ以外の何物でもありません」
●ポウル・ライアン(米国下院議長)、カーサージ・カレッジ(ウイスコンシン州)
「現実とは、あなたの人生の最善のプランを紙裁断機でズタズタにしてしまうことがあるということです。人生の望みの仕事を手に入れることはできないかもしれない。もし手に入れたとしても、それは悪夢に変わってしまうかもしれない」
「しかし、それはあなたが何か別の仕事をする方が良いということを意味しているのかもしれません。あなたにとって大破滅のように見えることは、実は素晴らしいチャンスであるかもしれません」
●ジョン・ケリー(国務長官)、ノースイースタン大学(マサチューセッツ州ボストン市)
「環境保護と経済成長のどちらかを選ばなければならないという主張に騙されてはいけません。それは偽りです」
「維持可能なエネルギーの潜在力を開発すれば、多くの仕事が創られ、ビジネスが構築され、富が蓄積されるのです。私の希望は、皆さんの多くがその将来を共有してくださることです」
●ハンク・アザリア(俳優、タフツ大学卒業生)、タフツ大学(マサチューセッツ州ボストン市)
「社会の法を無視したり、ルールや良識など無視しろと言っているのではありません。すべてのことをやる時に、善悪について皆さんに語りかける教科書、マニュアル、先生やアドバイザー、インターネットなどを信じるなと言うつもりもありません」
「しかし、自分自身を信じて、自分の考え、感じることを大事にしてください。自分の好きなこと嫌いなこと、怖がること、怒りたくなること、恐ろしいことなど、何が感動させてくれるのか、何を嬉しいと思うのか、自分に正直になってください」
「これらの感情こそが、本能なのです。それらを無視して良いことは何もありません」
●ロレッタ・リンチ(連邦最高裁検事総長)、スペルマン・カレッジ(ジョージア州アトランタ市)
「今日、ここに卒業して社会に出て行く皆さんに、社会の遺産の力強さを受けて出て行くことを勧めます。小さな一歩が果てしなく大きな変化をもたらすことを疑ってはなりません」
「世の中に出て行って、世界を広げる科学を試し、世界を動かす経済を、私たちを自由にする法律を実際に試してみようではありませんか」
「同時に、私たちがそのために働いている仲間を見失ってはいけませんし、私たちを支えてくれる信頼感をなくしてはいけません。あなたは自分のできる変化は何かを見つけ、それを追求する人生を生きてください。これが私の皆さんへの願いです」
これらは米国の大学の卒業式スピーチのほんの一部でしかない。様々なテーマで、様々な社会人が新しい卒業生、新社会人となる若者に託す言葉を、希望を、願いを、自分の失敗の思いを投げかけている。毎年、各地で行われるスピーチは時代を反映する。
最後のロレッタ・リンチは最高裁の検事総長としては初めての黒人女性である。アトランタ市のスペルマン・カレッジは黒人女性のための質の高い大学として有名である。
それぞれの話は各人の体験、経験、経歴などから強烈な個性を感じられるものとなっている。だからこそ、若者の心を打つのだろう。
時代は、今や冷酷だ。しかし、気を取り直して立ち上がれ、苦境に陥ったら柔軟に跳ね返せ、失敗を恐れるな、リスクを取れ、などと伝える大人の意気込みを感じてほしい。
マーケットは不安定、政治は混乱続きで、雇用情勢も明るさは見えない中で、米国の大人たちは新社会人に、暗闇と失望の中でも、決して諦めるな、と熱を込めて伝えている。
問題を抱えながらも米国が持つ底力は、こういうところから来ている。日本でもあらゆる機会を使ってもっと若者に語りかけたいと思う。
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