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米大統領選は嫌われ者同士の「史上最低の戦い」(ダイヤモンド・オンライン)
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投稿者 赤かぶ 日時 2016 年 7 月 30 日 07:53:30: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

米大統領選は嫌われ者同士の「史上最低の戦い」
http://diamond.jp/articles/-/97258
2016年7月30日 降旗 学 [ノンフィクションライター] ダイヤモンド・オンライン


 アメリカの有力なシンクタンク『CSIS(戦略国際問題研究所)』のジョン・ハムレ所長の言によると、今回のアメリカ大統領選は“かつてないほど異常であり、史上最低の戦い”になるのだそうだ。

“小さな政府”を志向する共和党は、色もの扱いされ、泡沫候補と言われたドナルド・トランプ氏があれよあれよという間にライバルをなぎ倒し、大統領候補に指名されるに至った。ジョージ・ブッシュ元大統領の実弟ジェブ・ブッシュ氏やキューバ移民の息子マルコ・ルビオ上院議員、なんやかんや言っても最終的に大統領候補に選ばれるのはオバマを追い詰めたこの人だろうと言われていた“ティーパーティー”の英雄テッド・クルーズ上院議員らを破っての指名だから、トランプ氏の選挙戦略はお見事だったと言うしかないのだろう。

 対して、オバマ・ケアに見られるように、政府支出を大きくしても弱者のための社会保障を充実させる“大きな政府”の民主党は、大本命と言われながら三月の“スーパーチューズデー”でも指名を勝ち取れず、ぎりぎりになってようやくヒラリー・クリントン氏が大統領候補に指名された。大統領選は、彼女にとってはこれが二度目の挑戦だ。もう後がないと言われている戦いでもある。

 この二人の大統領選を、ハムレ所長は“異常にして史上最低の戦い”とこき下ろした。

 理由は簡単だ。共和党内には、いまだにトランプ指名を認めようとしない共和党員がいて、民主党内にも、いまだヒラリーにノーを突きつける民主党員がいるからだ。トランプは一部の共和党員から大統領に相応しくないと思われ、ヒラリーもまた一部の民主党員から大統領に相応しくないと思われているのである。

 もっと下世話な言い方をすれば、かつて奴隷を解放した伝統の共和党が指名したのは暴言と失言しかできない政治経験ゼロのトランプで、平等を謳う民主党が指名したのは平等とは名ばかりの嘘つきで高慢ちきで何よりもおカネが大好きなヒラリーだったことが、今回の大統領選を史上最低のものにした……、と言っていいのかもしれない。二人とも嫌われ者なのだ。

 トランプ氏の暴言は、かねてより報道されたとおり。曰く――、全てのイスラム教徒の入国を禁止する。メキシコ人はアメリカに麻薬と犯罪を持ち込む強姦魔だ、不法入国を防ぐためにメキシコ国境には万里の長城を築いてやる、建設費はメキシコ持ちでな。ばか、間抜け。アメリカから守ってもらっている日本は、在日米軍の駐留経費を全額負担すべきだ。応じなければ米軍を撤収させる。何だったら核武装もありだ。世界は私を中心に回っている。私を嫌うものは愛国者ではない。私が大統領になれば必ず“強いアメリカ”を取り戻してみせるエトセトラエトセトラ。

 自身が設立したトランプ大学が詐欺罪に問われると、事件を担当したメキシコ系の判事を名指しで批判したりもした。私がメキシコ人を批判したからメキシコ系の判事は私に不利な判決を下すとか何とか。

 また、KKK(クー・クラックス・クラン)元幹部のデイビッド・デューク氏がトランプ支持を表明したことから、トランプ氏には“差別主義者”のレッテルが貼られたりもした。ジョークと受け止めるにはあまりにも下品な女性蔑視発言もある。

 評論家たちの予想に反し、言いたい放題のトランプ氏が失速しなかったのは、オバマ政権への失望とヒラリー氏への嫌悪が背景にあったからだろう。

 オバマ氏はリーマンショックの翌年に大統領に就任するが、大きな政府として彼がやったことは政府の支出だった。自動車産業・金融機関の救済、そしてオバマ・ケア(国民皆保険制度)を進めたが、そのために国債を発行し、アメリカの債務は瞬く間に上限の十八兆ドルに達した。

 小さな政府を掲げる共和党がこれを黙っているわけがなく、彼らはティーパーティー運動を展開する。二〇一四年年の中間選挙で与党・民主党は歴史的な大敗を喫し、上下両院を野党・共和党に支配されるという結果を招いた。

 その大立役者の一人がテキサス州選出の上院議員テッド・クルーズ氏だった。記憶にも新しいのが、オバマ・ケアを廃止しなければ予算を成立させないと訴え、映画『スミス 都へ行く』ばりに予算審議の場で二一時間もぶっ続けの演説を続け、とうとう時間切れで予算を成立させなかった逸話だ。

 だから、本来なら共和党はテッド氏を選ぶべきではあったのだが、残念というべきか、これが共和党の限界と言うべきなのか、テッド氏は妥協というものを知らず、あまりにも強硬に過ぎた(=オバマ大統領が打ち出す政策にことごとく反対・阻止したため、今度はティーパーティー主導の法案にオバマ大統領が拒否権を発動。政策は“大統領令”で実施された)こともあって、共和党の重鎮たちにテッド支持を躊躇わせてしまった。その間にトランプ氏が支持を集め、テッド氏は撤退を余儀なくされたという経緯がある。

 ではヒラリー氏はどうかというと、アメリカ人に“ヒラリーと聞いて思い浮かべる言葉は?”と訊ねれば、もっとも多く返ってくる答えが“嘘つき”という、こちらも困り者な候補者だったりする。ヒラリー氏からは、利権の臭いがぷんぷんと漂ってくるのだ。

〈一九八九年に不良債権を抱えて倒産した貯蓄金融機関マディソン・ギャランティーに対して支払われた公的な援助資金を、ビル(クリントン)が知事選挙に当選した一九八七年、ヒラリーや友人と共に設立・共同経営していた不動産開発会社「ホワイトウォーター開発」を通じて、不正に政治資金などに流用したというものだ。その手引きをしたのが「顧問弁護士だったヒラリーではないか」と疑われた〉

 検察当局が下した判定はシロだったが、疑惑はいまなお根強く残っている。一九九六年一月、ニューヨークタイムズ紙の名物コラムニスト・ウィリアム・サファイア氏も「悲しい現実だが、我々の大統領夫人(ヒラリー)は生まれながらの嘘つきだ」と批判したほどだった。

 また、ヒラリー氏は、国務長官時代にTPP(環太平洋経済連携協定)を推進していたはずなのに、民主党を支持する労働組合がTPPに反対した途端、手のひらを返したように反対派に寝返った。バーニー・サンダース氏が貧富の格差を取り上げて支持を集めると、いつの間にかヒラリー氏も“格差是正”を訴え始めていた。

 だからか、ヒラリー氏は、顔だけは温厚な池上彰さんにすら“変節”“露骨”“節操がない”と酷評される始末だ。

 そしてヒラリー氏が何よりも嫌われるのが、舛添要一前都知事ばりのガメツさだ。

 ウォール街が大好きなヒラリー氏は、ゴールドマンサックス社で三回の講演をして計六七万五〇〇〇万ドル(日本円で七四〇〇万円)の“講演料”を得ているのだそうだ。退陣したニクソンが初めてインタビューを受けた際、インタビュアーのデビッド・フロスト氏に五〇万ドル(当時のレートで約一億四〇〇〇万円)要求したそうだけど、それに近いものがあるかも。

 ヒラリー氏がおカネが大好きな模様は映画『クリントンキャッシュ(米国で七月二四日公開)』に詳しいが、映画によると、クリントン夫妻は『クリントン財団』という慈善団体を持っている。

 海外からの政治献金は禁じられているが、財団への寄付は自由に行なわれるため、クリントン財団には海外の企業からべらぼうな額の寄付金が集まるとのことだ。

 たとえば、カナダの企業から二億五八五〇万円とか、サウジアラビアから十一億円とか。すると、財団に寄付した企業に何らかの動きが見られる。カナダの企業をロシアの国営企業が買収してさらに五〇万ドル(五五〇〇万円)が寄付されたり、アメリカ国務省は最新戦闘機をサウジアラビアに売ったり。夫のビル・クリントンに講演料七十五万ドル(約八二五〇万円)を支払った企業は何故か経済制裁を受けているはずのイランで事業ができたりするらしい。

 これらはいずれもヒラリー氏が国務長官だったときのことだ。大きな政府は大きなお金を使うが、ヒラリー氏のもとにも大きなお金が転がり込んでくるのである。民主党の大統領候補都に指名されたヒラリー氏には、こうした疑惑がつきまとう。

 テレビを見ていると、評論家の方々は“ヒラリーのほうがまだマシ”的な発言をされているが、私は、トランプのほうがまだマシなのではないかと思っている。トランプは確かに暴言を吐くが、前言を修正したり撤回する姿勢も見せている。振り幅が小さくなっているのだ。CNNのインタビューには、

「大統領になったら発言を慎むつもり」

 と応えてもいる。

 ファーストレディや国務長官を経験したヒラリー氏と比べ、ビジネスマンのトランプ氏には政治経験がないが、経験がないぶん、好転の可能性を秘めている。たとえば日本や韓国から米軍を撤収させた後、中国・ロシアがどんな行動に出るかを予測できれば、日本に軍費の全額負担なんてばかなことはもう言わないはずだ。もちろん“アメリカが第一”という思想は、極東で何が起きようが、そこで中国とロシアが手を結んで何をしようが我関せずではあるのだが。

 でも、それをしたら、トランプ氏はオバマ大統領以上に無能な大統領と呼ばれることになる ← 二〇一三年九月十日、オバマ大統領は“アメリカは世界の警察ではない”と発言し、シリアへの武力介入は行なわないことを明言。世界の警察が武力介入しないと言った途端、イスラム国が勢力を拡大し、大量の難民が流出してヨーロッパ諸国は混乱した。そして、オバマ大統領の発言から半年後にロシアはクリミア半島を併合し、中国は南シナ海で埋め立てを加速した。

 トランプ氏のほうがマシだと思うもうひとつの理由は、自民党との相性は民主党より共和党のほうがいいからだ。まだ覚えている方もいるだろうが、三菱自動車のセクハラ裁判とかブリヂストン社のタイヤが原因で事故が起きたとかトヨタのハイブリッド車はアメリカの特許侵害を犯しているとかマットが折れたレクサス訴訟とか、最近ではタカタのエアバッグの大量リコールとか、民主党が与党になると日系企業の訴訟やリコール問題が噴出し、共和党政権になるとそれがピタリと止まる。不思議ですね。ヒラリー氏の夫、ビル・クリントン政権時にも東芝や旭化成、米国トヨタ等がターゲットにされました。

 いちゃもんのような理由をつけられて莫大な和解金や賠償金を支払わされるのであれば、関係が良好な共和党政権を望むのが筋というものではないだろうか。

 ヒラリー氏が大統領になれば、それはアメリカ初の女性大統領の誕生でもあるが、ヒラリー政権の取り組みは、ともすればオバマ政治の“大いなる焼き直し”になるような気もする。己の懐だけを肥やすことに余念がない政治家に、党是の“平等”を実現できるわけがない。

 夫のビル・クリントンには兵役逃れの留学疑惑や留学先でのマリファナ吸引疑惑、そしてモニカ・ルインスキー氏との“不適切な関係”が取り沙汰された。映画『クリントキャッシュ』が公開されたいま、ヒラリー氏にも多くの疑惑が待ち受けているだろう。

 ところで、作家の林真理子さんはアンチ・トランプのようである。年明けのエッセイには“もしかするともしかするかもしれない、という恐怖がひたひたと迫ってくるようになった”とお書きになっているのであるが、トランプ氏が大統領になると戦争になると思い込んでおられるみたいなのである(林センセイのエッセイ風に“である”を多用しました)。

〈アメリカの方々、たぶんこれ(エッセイ)を読んでいないと思いますが、本当によろしくお願いいたします。ちょっと落ちぶれたといっても、アメリカは世界一の大国。そこの大統領を選ぶんですよ。毒舌のコメディアン選んでるわけじゃないんですよ。こんなにキナくさいことになっている地球を守るためにも、本当によろしくお願いいたします(中略)

 若いコたちに言いたい。スマホいじっても何もわからないよ。その間に戦争が始まるかもしれないよ。トランプが大統領になって、何処かにミサイル飛ばしてるかもしれない〉

 林センセイが何を怖れているのかは不明だが、嘘つき女と暴言親父が演じる史上最低の大統領選は、十一月八日――。

 その前に、日本では初の女性都知事が誕生しているだろうけど。

参考記事:週刊文春1月21日・5月19日・6月9日号
新潮45・8月号他

 

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