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メルケル首相、難民受け入れ政策の重い代償
欧州ニュース落穂拾い
ドイツで凶悪事件が相次ぐ
2016年7月28日(木)
シュヴァルツァー節子
7月22日、ミュンヘン市のショッピングモールで起きた拳銃乱射事件はドイツ国内に大きな衝撃を与えた
7月18日 ヴュルツブルグ近郊での難民による列車乗客傷害事件
7月22日 ミュンヘン市のショッピングモールでの拳銃乱射
7月24日 バーデン・ヴュルテムベルグ州・ロイトリンゲンでの難民による刃物殺傷事件
7月24日 バイエルン州・フランケン・アンズバッハでの難民自爆テロ
7月、ドイツでは国内全土を震撼させる凶悪事件が立て続けにおきた。これほどの頻度で事件が連続発生した例は過去になく、異常とも言える事態だ。中でも7月22日に発生したミュンヘン市北西部のオリンピア・ショッピングモールにおける拳銃乱射事件は、一瞬のうちに、世界の注目をミュンヘンに集中させた。
事件を振り返っておこう。犯人はミュンヘンに生まれ育った18歳のイラン系ドイツ人。事件収束後の23日の家宅捜索では、イスラム国テロへの直接関連を示すものは発見されなかったが、精神異常者による銃の乱射事件(アモック)への関心を示す本・記事収集などの証拠物件が数多く発見された。犯行直前、架空名でフェイスブックのアカウントをつくり、不特定の若者たち宛てに、事件現場となったファーストフード店で無料あるいは格安で飲食できるとの勧誘メッセージを送っていた。
犠牲者は、死者9人、負傷者35人。ドイツ人のほかに、コソボ、アルバニア、トルコ、ギリシャ、ハンガリーからの出身者である。犯人には、鬱病の病歴があった。遺書は見つかっていないが、自ら頭を撃ち抜き自殺した。犯行に使われた9ミリ口径の拳銃「グロック」は、インターネットサイト「ダークネット」を通して入手されたことが明らかになっている。
武器購入費の出どころやリュックに詰めていた300発の銃弾の入手経路は、今も不明だ。25日現在、警察は、犯人といっしょに架空のフェイスブックアカウントで同招待メッセージを発信していたアフガニスタン系の16歳の少年から事情聴取している。
事件現場の様子。花束で埋まり、周囲は静まり返っていた。
自殺した犯人が犠牲者を誘い出した現場近くの様子。
事件発生から3日後、現場を歩いた。通常は、大勢の人々が行き交う歩道は、花束で埋まり、胸がふさがりそうになる。祈祷用の蝋燭独特の香りが漂い、ショックと心痛感で、妙に静まり返っていた。
ミュンヘンに住む筆者は当時、自宅で、ラジオをつけて夕食の支度をしていたところに、同事件のニュース速報が入った。
事件発生直後22日の夕刻、「少なくとも3人のテロリストが逃走」と住民への自宅待機がよびかけられ、ミュンヘンの公共交通機関は、すべて止まった。ミュンヘン市内に入る高速道路も、警察や救急支援車を優先するために一般車の交通は規制された。タクシーも、犯人の逃走に使われる可能性が高いため、運転手は警察当局からなるべく乗客を取らないようにとの指導が入った。ミュンヘン市内は夜にかけて、多数の帰宅できない一般市民や観光客であふれた。
ミュンヘンの事件現場のあるバイエルン州は、周辺州の警察やオーストリアの特別機動隊の支援を受け、2300人体制で事件に対応した。消防救急医療スタッフも総動員され、最終的には4000人体制となった。
後手に回った政府対応
一方で、政府の対応は後手に回った。ベルリンなどがある北ドイツは、夏休みシーズン入り直後だったためだ。休暇を取りやめてベルリンに戻ったメルケル首相は7月23日、事件の犠牲者への哀悼とバイエルン州の警察関係者の貢献をたたえたものの、対応の遅れに対する非難が各方面から出ている。
そして、今後批判が噴出することが間違いないのが、メルケル首相の難民受け入れ策だ。2015年夏以来、中東・北アフリカから受け入れた難民は100万人にのぼる。一方で、ドイツに流入した難民の社会への融合は思うように進んでいない。相次ぐ事件の背景には、難民問題があるとの論調が、事件直後からドイツ各主要紙、その他メディアで目立つようになっている。
「将来への希望が持てず、社会不安が募ると、暴力行為が頻発に起きる。ドイツ社会から落ちこぼれる移民たちが増えるほど、差別意識は高まり、暴力がさらにエスカレートするリスクがある。100万人という規模でドイツに存在する移民問題に慎重に対処しないと、こうした事件はさらに増えるだろう」。ビーレフェルド大学のアンドレアス・ツィック社会学教授は地元のメディアに語っている。
立て続けに起きた凶悪事件
残念ながら、現実はツィック教授の指摘どおりになった。
7月24日、ドイツ南部のロイトリンゲンで、シリアからの難民認可申請中の男性が、ポーランドの女性を刃物で殺害。通りかかったドイツ人たちにも傷を負わせた。同じ日、今度はミュンヘンの北200kmに位置するアンズバッハ中心街のコンサート場入り口で、シリア難民が自爆した。来場者たちが多数巻き込まれ負傷している。死亡した犯人は、正式に難民認可がとれず、期限付き滞在許可を得ていた。鬱病歴があり、警察の犯罪リストにも登録されていた。最新の捜査情報では、過激派組織ISとの関係が、確認されている。
戦禍で祖国を追われ、困窮している難民の滞在を認めることは、人道上、誰もが認めなければならない。一方で、大量の難民が一度にドイツ社会に押し寄せ、様々な問題を引き起こしているのも事実だ。これまでにない凶悪な事件が頻発したことで、ドイツの難民受け入れ政策は、岐路に立たされていると言っていい。
メルケル首相の所属するキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は、党として何度も、彼女に方針転換を促している。これまでメルケル首相に理解を示してきたヨアヒム・ガウク・ドイツ連邦大統領も、「もう受け入れるキャパシティがない」と発言し始めた。
バイエルン州に本拠地があるCSUは、メルケル首相は、首相として、第一にドイツ国民を守るべきだと主張している。難民流入に対し連邦として国境警備もおこなわず、貧しく生活保護を受けるドイツ人の食糧まで、難民に回すことは、ドイツの基本法(憲法)に反するとして、すでに連邦最高裁に訴えを起こしている。
7月26日には、ドイツ連邦各州の内務大臣たちが、自主的に国内治安維持会議をもち、難民登録の厳格化を検討した。今後は、犯罪歴のある難民への滞在許可条件を厳しくしたり、2000人以上のコンサートは、必ず主催者と警察が安全性をチェックしたりするなどの具体案を話し合っている。
メルケル首相は今のところ、これらの意見を聞く姿勢は見せていない。
トルコに頼りすぎた難民対策
しかし、メルケル首相も徐々に追いつめられてきている。最大の問題は、難民対策として頼りにしてきたトルコの政情不安だ。メルケル首相が事実上采配するEUは、トルコに対してビザ無しでEU圏に入国できる案を提示、さらに60億ユーロ(約7000億円)以上の支援金を拠出する見返りとして、ギリシャに滞留している難民をトルコで収容するように依頼している。
ところが、トルコではクーデター未遂がおき、トルコ国内はそれどころではなくなってしまった。
タイミング悪く、6月2日に、長年ドイツ連邦議会で懸案であった「オスマントルコのアルメニア虐殺」を認定したため、エルドアン大統領の機嫌を損ねており、ISに備えてNATO軍としてトルコに駐屯しているドイツ兵士たちを、ドイツの国防相が、訪問さえできない状態になっている。
昨年9月に、難民を受け入れの寛容策を発表し、世界から賞賛を浴びたメルケル首相。しかし、その計画性のない難民受け入れ策が、ドイツ全体を苦しめている。今回の悲惨な事件は、図らずもその重い代償となってしまったといえる。
メルケル首相は記者会見で、「犠牲者に哀悼の意を表します。治安安定のために、警察官を増やします」という表現を繰り返すことが多くなった。「難民」という言葉は、なるべく避け、問題の本質から目を背けているように聞こえる。
このコラムについて
欧州ニュース落穂拾い
IT 機器をちょっとクリックすると、すぐに情報が世界中に広がってしまう昨今。世界中、発信される情報は即座に翻訳され、地球を一回りしてしまいます。しかし、情報の内容ーー何よりもその信憑性ーーを見極めて理解し、これからの展望に役立てることに時間をとる読者は少なくなりました。確かに、広大な農地で作物を大型機械でざくっとフルスピードで収穫するかのように、情報の世界も即座の発信受信も大切です。一方で、落穂を拾うように、じっくりと情報を手に取るように読み込み、貴重な情報、興味ある話を探索してみることは大切です。短い情報でも、はっと目を見張るような解釈のできるものもあります。
このコーナーでは、ドイツをはじめとする EU 加盟国の政治経済社会動向について、各報道メディアの情報を収集分析。信頼できるドイツ経済分析研究所とのコミュニケーションをとりながら、今後のドイツ・欧州について興味ある情報を紹介してゆきたいと思います。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/061600046/072700002/
ポケモンと南シナ海が炙り出す強硬な中国の真相
中国生活「モノ」がたり〜速写中国制造
炎天下の上海で幻のポケストップを探し回って悟ったこと
2016年7月28日(木)
山田 泰司
筆者のiPhoneに上海でインストールしたポケモンGOの画面。最初の3匹も勢揃いしている
日本で「ポケモンGO」の配信が始まった7月22日、私も上海で早速、自分のiPhoneにダウンロードしてみた。先行配信された欧米で大変なブームになっているというニュースを見ていたときには、ゲームを全くやらないこともあってさほど関心がなかった。
それが先週、夏休みを利用して上海に訪ねてきてくれたゲーム好きの中国人大学生の説明を聞いているうちに、柄にもなく「上海の町角にポケモンやピカチュウが隠れているのを見つけたらかわいいし楽しいだろうな」と思ってしまったのだ。それに、ポケモンGOが配信されていない中国で試してみたらどうなるかを知りたくもあった。
中国では未配信だが……
今書いたように、中国でポケモンGOは配信されていないし、今後されるかどうかも分からない。ポケモンGOアジアのフェイスブック公式サイトでは、「中国、韓国、北朝鮮、台湾、キューバ、イラン、ミャンマー、スーダンではポケモンGOはできません」とある。遊ぶにはグーグルマップやアカウントが必要だが、グーグルは数年前、中国から撤退してしまい、中国もグーグルのサービスへのアクセスを遮断しているので、検索やGmailなどを使うにはVPN(仮想ネットワーク)を通す必要がある。
中国で最も高い高層ビル・上海中心を背景に、中国伝統建築の黒い瓦屋根の家並みの上を跳ねるゼニガメ
ただ、私のiPhoneは日本のソフトバンクで契約したものなので、ポケモンGOのアプリはApp Storeに並んでおり問題なくインストールできた。アプリを立ち上げ、VPNを介してグーグルアカウントでサインインすると、既にすっかりおなじみになったポケモンGOの画面が現れ、自分のキャラクターと、3匹のキャラクターが登場した。ゼニガメ、ヒトカゲ、フシギダネである。3匹の中から1匹を選ぶと、「現実世界を背景にしてみましょう!」の表示が現れたので「はい」を選んで自宅のベランダに出ると、見慣れた上海の家並みの屋根の上に、選んだヒトカゲがちょこんと乗っかっており、時折ジャンプしたりする。
これだけですっかり嬉しくなってしまった私は、梅雨明け以降、最高で40℃の暑さが続く炎天下で黒いTシャツを吹き出した汗の塩で白く染めながら、高層ビル群や明代の庭園など、いかにも上海な風景の中にポケモンGOを連れだし画面のキャプチャを撮っては喜んでいた。この幸せがいつまでも続くのだと思い込んで。
ところが、さてそろそろ1匹捕まえてみるかとフシギダネにボールを投げて捕獲、成功したご褒美にニックネームをつけることを許され、シルバーグレイのアニメのオヤジに「いいニックネームだ」などと褒められてヤニ下がっていたのもつかの間、残りの2匹が金輪際、登場しなくなってしまった。
延々と続く荒野
慌てて調べてみると、どうやら捕獲できるのは3匹のうちの1匹だけということなので、そこまではいい。ただ、画面に現れる風景が、歩けども歩けども荒野が広がるのみになってしまったのだ。自分のキャラクターが画面の端にポツンといるというビジュアル的効果も相まって、途方に暮れる感がハンパない。現実世界への切り替えもできなくなってしまった。
愚かなことだがこの時に至って初めて私は、「ポケモンGOは中国ではできません」の意味を悟った。中国にはスタート時点で出てくるあの3匹以外のポケモンや、ポケモンをおびき寄せるポケストップがいたりあったりしない、ということなのだと。インストールに成功し、グーグルの地図が使えればできるというわけではないらしい。
ポケモンGOの面白さを私に力説してくれた大学生に聞くと、彼も自分のアンドロイドのスマホにアメリカ経由でアプリはインストールでき、最初の3匹は出てきたもののそこからは何もできない、と私と同じ状況だという。ただ、「なぜだか分からないけど、新疆ウイグル自治区と内モンゴル自治区では遊べるらしい」という情報を教えてくれた。
再び調べてみると、グーグルに地図データを提供していないためやはりポケモンGOができない韓国でも、38度線より北に位置する束草という港町などプレイが可能な一部の町に若者たちが押し寄せているということが伝えられているが、同じことが新疆ウイグル自治区や東北の遼寧省などいくつかの土地で起こっているとの中国メディアの報道が多数あった。遼寧省のある公園に出現したポケストップに若者たちが大挙して集まりスマホをかざしている様子を写した動画もあった。新疆も遼寧省も国境に接する省なので、グーグルをブロックするエリアから漏れているところがあるということらしい。
そこで、上海にもポッカリそんなエリアがないものかと、中国の検索最大手バイドゥ(百度)にあったポケモンGO掲示板で情報を漁ってみた。私同様、「インストールしたものの荒野が広がるのみ」「原っぱしか出てこない、助けて!」と絶望する書き込みの海をかき分けながらスクロールしていくと、上海のポケストップを地図上にマークした、という画像を見つけた。
ポケストップにあったのはショベルカーだった
ポケストップは名所旧跡に置かれることが多いそうだが、地図にマーキングされた5カ所の上海のポケストップにもオブジェやモニュメントがあるそうで、番地まで載せた詳しい住所とともに目印のオブジェの写真まで載せてある。これはありがたいと地図と写真をスマホに取り込み現地に向かった。
ポケストップがあるはずの場所には目印の彫像の代わりにブルドーザーが(左)。同じ場所の画面には茫々たる荒野が広がるのみ
最寄りの地下鉄駅でポケモンGOを起動する。アニメの画面は相変わらず荒野のままだが、現実に川があると画面も川、交差点にさしかかると画面も交差点と、地図は正常に作動しているようだ。それに意を強くして最初のポケストップにぐんぐん近づくも、やはり画面は荒野が続く。そして地図ではあと数10メートルで目的地という時点で、新築マンションの工事現場に入ってしまい、ポケストップがあるはずの場所にはショベルカーが停まっていた。情報ではそこにはゴルフをするオヤジの像が建ってるはずなのに。周辺を歩き回ってみたが、やはり画面は荒野のままで、ポケストップもポケモンも出てきやしない。私を投影したキャラクターは現実の私同様、けなげに歩いている。違うのは 画面の中の私が汗ひとつかかず涼しい顔なのに、現実の私は汗みずくで、午後2時に39℃の高温下、多少めまいがしていたところか。
気を取り直して2番目のポケストップに向かったが、そこも租界時代に建てられたアパートを取り壊し再開発の工事をしている最中だった。あるはずの地球儀を模したようなオブジェは影も形もない。改めて書くのもイヤだが、画面は荒野のままだ。
騙されたってこと? という疑念が頭をかすめたが、いやいや、両方工事中だったってことは、地図や写真のアップデートが間に合わなかっただけかもしれないと半ば強引に思い込み、3カ所目に向かった。
地図通りの場所にオブジェはあったが、夜に再訪してもやはりポケストップはなかった
結果から言えば、3〜5カ所目にはいずれも地図の番地通りの所に写真通りのオブジェがあった。ただ、そのいずれにもポケストップはなかった。無駄だと思いつつ、なけなしの道具の中から「おこう」をたいてポケモンをおびき寄せてみた。しかし、もう書くのも飽きたが、画面には相変わらず、荒野が広がるだけだった。
中国でポケモンGOが公開される見込みがあまりないと言われていることも手伝って、中国では既に本物を模した「都市精霊go」などといった同様のアプリがある。iPhoneのApp Storeにも並んでいるから、ニセモノというのは言い過ぎだが、パクリとは言ってもいいだろう。ポケストップの地図と写真だとして私が見たのは、それらパクリアプリのスポットなのかもしれない。ただ、私が訪れた5カ所の付近をスマホの画面に目を落としてウロウロしている人も他に見かけなかった。いくら酷暑の昼下がりとは言え、学生は夏休みに入っているのだから、本物のポケモンGOやパクリアプリのポケストップが本当にあるのならば、1人や2人は探している人を見かけてもいいはず。いずれにせよ、私はまんまとしてやられた、ということなのだろう。
ポケモンGOと南シナ海問題の共通点
ところで、中国におけるポケモンGOのことを調べていく過程で、ある興味深いことに気付いた。それは、ポケモンGOを巡る掲示板やソーシャルネットワーキングサービス(SNS)上における中国人の反応に、南シナ海問題といくつかの共通点が見られる、ということである。
南シナ海問題とは言うまでもなく、中国が南シナ海で主張する権利について、ハーグの仲裁裁判所が7月12日、国際法上の根拠がないという司法判断を下した件のこと。フィリピンの主張を全面的に支持する判断に、中国当局や政府高官が「判決は紙くず」「茶番」などとして激しく反発した。
ハーグの司法判断が出た当日からしばらくの間、中国のネットにも司法判断に反発する書き込みが溢れた。中国最大のSNS「WeChat」には、「モーメンツ」という項目があり、「朋友圏」すなわち友達・知り合いとして登録している人たちが不特定多数に向かって発したつぶやきを載せるスペースがあるのだが、司法判断直後から数日にわたって、この欄には知人らの愛国を叫ぶ声、中国の領有を主張する声、フィリピン、仲裁裁判所、米国、そして日本を非難する意見が飛び交った。
ところが、これら司法判断に反発する意見を書き込む人たちや、その一方で沈黙を守っている人たちを眺めているうちに、共通する背景を持つ人たち同士が、同じような意見を発する(あるいは沈黙する)傾向にあることに気付いた。
例えば、彼ら彼女らを年代で切り取ってみると、同じ20代であっても、司法判断に反発する人もいれば、沈黙する人もいる。ただ、反発する人にほぼ共通する背景として、「大学に進学していない」ことが、沈黙を守る人には「大学に在学中、あるいは大卒」が多いことが分かった。
では、大卒であれば年代に関係なく沈黙なのかと言えばそうではなく、50〜60代の大卒はむしろ、どの一群に比しても激しく司法判断に反発し、フィリピンや米国を非難しているのだ。この、現在50〜60代にある人たちのことについて少し説明を加えると、彼ら彼女らは国の機能がマヒした文化大革命(1966〜76年)の時代に学齢期を送り、「人生を台無しにされた」という意識が極めて強い。このため厭世的、虚無的な傾向が強く、行動も発言も無責任で、物事に対して見境なく常に怒り続ける、言葉を換えると当たり散らす傾向があるという特徴を持つ。文革末期に再開した大学入試に、省で数人というような気の遠くなるような競争を勝ち抜いて進学したという人も少なくないため、この世代の大卒はとんでもなく優秀で知識も豊富な人が多いのだが。
ハーグ裁定に反発するのは「国に残らざるを得ない人」
さて、話を戻すが、南シナ海問題についての司法判断に反発していた人たちのことを、もう1つ大きく括ることができる枠がある。それは、「今後も恐らく中国に居続けるしかない人たち」というものだ。一方で、SNSで南シナ海問題に沈黙していた人たちは、「留学や移民で国を出て行く可能性がある人たち」だということ。
私は、大学や大学院に在籍している若い世代の中国人の友人たち、その中でも比較的付き合いの長い人たちに会い、話が南シナ海問題になると、決まって彼らに言うことがある。それは、「国力が上がってきたことで、中国に誇りを持つ人が増えるのは当然の流れだと思うし、強気の背景には経済力に裏打ちされた自信があるのだと理解している。それらを背景に、国の中でどう振る舞おうと、それは中国の自由だ。でも、外に出て同じ振る舞いをしたら、周囲の国や人たちから必ずしも理解を得られるとは限らないということについては、常に認識しておくべきだ。とりわけ今後、外国や外国人と接する機会が増えるだろうあなたがた教育のある若い世代の人たちは」。
こう言って、さて、どれだけ彼らから反発されるのだろうと身構えるのだが、拍子抜けするほど「その通りですよね」というような答えが返ってくることがほとんどなのだ、と言ったら、日頃、メディアを通じて強面の中国を見ることが大半だろう日本の読者は信じてくれるだろうか。いずれにせよ、大学に進学した若者たちがこのように穏健な考えを持ち、自らと国を客観視できるということは、進学することで中国以外のものに触れる機会が増えることが大きいのだと思う。
国内派の妬みと国外派の逃避
さて、そこでポケモンGOだが、先に紹介したポケモンGOの掲示板やSNSで、数日前から「国を愛するのであればポケモンGOはやるな」という愛国論や、日本や米国のものを排斥しろという意見が飛び交うようになっている。そして、愛国論、日米に対する非難、批判を展開しているのが、南シナ海問題で裁定に反発したのと同じ人たちなのである。
愛国論の発端は、既にポケモンGOが配信された欧米や日本に留学や仕事で居る中国人たちが、「あれ、中国に居る人たちは、まだポケモンGOができない? 早く飛行機に乗ってやりに来ればいいのに」と揶揄したことに、中国国内の一部の人たちが反発したことにある。この「飛行機に乗る」というのは2つの意味があり、1つは文字通り、飛行機に乗って別の場所に行くこと。もう1つは中国のゲーム用語で、中国で禁じられているゲームに手を加えプレイできるようにすることを指すのだそうだ。つまり「できないできないと騒いでないで、ゲームを改造するなり外国に行ってやるなりすればいいのに。あ、でも、中国に残っている人たちは、お金も環境も整わないからゲームを改造するのが関の山で、外国になんか行けないでしょうけどね」とバカにする意味が込められているのだという。
南シナ海問題に沈黙していた人たちは、この「飛行機論争」も取り合わずに沈黙した。いずれ自分たちも、外に出て行くかもしれないからである。一方で、南シナ海問題の司法判断に激怒した人たちは、ポケモンGOの飛行機論争に敏感に反応、怒り狂い、愛国と日米製品の排斥を叫んだのだ。
注意したいのは、南シナ海の問題で、国と違う意見を持っているだろうと思われる人々は、その意見をSNSで決して発表はせず、おしなべて「沈黙」しているということである。「国の言ってることは、ちょっと違うよなあ」とは思っていても、発言しても個人の得には何一つならない。であれば、黙っていて、条件が調い次第、外に出ていけばいいだけのことだという思いが彼らにはある。
国内向け要素が濃厚な国の発言
もちろん、国もそうした背景は十二分に分かっている。体制を維持するためには、「国を出て行く・出ていく可能性の高い人たち」よりも、「国に残る・あるいは残らざるを得ない人たち」に向けたメッセージを発する必要がある。中国が国として表に出す態度や意見は、こうした国内の事情を考慮し、必要以上に強硬に見せかけているという側面が大きい。
一方で、国に残らざるを得ない人たちが、愛国、強硬、日米に反発で凝り固まっているのかと言えば、そこも疑わしい部分はある。ポケモンGOの愛国論争、飛行機論争を見ると、国を出て行く派に対する妬みや、自分の将来に対する不安や焦りなどの感情を、愛国や排斥という姿を借りてぶちまけているだけだという人も、相当数いるだろう、というのが、彼らと接してみての私の実感だ。
中国については、強気の姿勢や発言を全面的に真に受けず、少し引いて考えてみることが肝要。南シナ海問題とポケモンGOの登場を機に、改めてそんなことを考えた。
このコラムについて
中国生活「モノ」がたり〜速写中国制造
「世界の工場」と言われてきた製造大国・中国。しかし近年は、人件費を始めとする様々なコストの高騰などを背景に、「チャイナ・プラス・ワン」を求めて中国以外の国・地域に製造拠点を移す企業の動きも目立ち始めているほか、成長優先の弊害として環境問題も表面化してきた。20年にわたって経験を蓄積し技術力を向上させた中国が今後も引き続き、製造業にとって不可欠の拠点であることは間違いないが、一方で、この国が世界の「つくる」の主役から、「つかう」の主役にもなりつつあるのも事実だ。こうした中、1988年の留学から足かけ25年あまり上海、北京、香港で生活し、ここ数年は、アップル社のスマートフォン「iPhone」を受託製造することで知られるEMS(電子機器受託製造サービス)業界を取材する筆者が、中国の街角や、中国人の普段の生活から、彼らが日常で使用している電化製品や機械製品、衣類などをピックアップ。製造業が手がけたこれら「モノ」を切り口に、中国人の思想、思考、環境の相違が生み出す嗜好を描く。さらに、これらモノ作りの最前線で働く労働者達の横顔も紹介していきたい。本連載のサブタイトルに入れた「速写」とは、中国語でスケッチのこと。「読み解く」「分析する」と大上段に構えることなく、ミクロの視点で活写していきたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/258513/072700034
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