http://www.asyura2.com/16/kokusai14/msg/690.html
Tweet |
左から、米共和党の大統領候補ドナルド・トランプ氏(Photo by Marc Nozell)、英国のボリス・ジョンソン外相(Photo by Foreign and Commonwealth Office)、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領(Public domain)、中国の習近平国家主席(Photo by Foreign and Commonwealth Office)。
世界的な無秩序への道を描く出来事 トランプから南シナ海まで、国内政治のけんか腰が国際舞台に波及
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47455
2016.7.26 Financial Times
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年7月22日付)
ドナルド・トランプ氏が米共和党の大統領候補に正式に指名された。トルコでは軍事クーデターの試みが失敗した後、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が権威主義的な締め付けを強化している。フランスは恐ろしいテロ攻撃に再び見舞われ、多くの人が命を落とした。
英国が国民投票で欧州連合(EU)離脱を決めて西側諸国の結束に打撃を与えたことや、中国が南シナ海での領有権主張に関する国際的な裁判所の判決を拒絶したことも、このリストに加えていいだろう。
これらの出来事は一見無関係だ。恐らく、トランプ氏は中国の九段線のことなど聞いたこともないだろう。英国のボリス・ジョンソン外相は、トルコの民主主義が蝕まれないかということよりもトルコからの移民を閉め出すことの方に関心を示している。ニースの大量殺人の動機には、自称イスラム国(IS)の勧誘と同じくらい、実行犯の精神状態の混乱が影響していた可能性がある。狂気と悪行はいずれ終わる。
しかし、じっと目を凝らして観察すると、不愉快なパターンがいくつか浮かび上がってくる。台頭するナショナリズム、アイデンティティー政治、制度を軽蔑する態度、そしてルールに基づく国際システムのひび割れだ。政府は物事を制御できなくなり、市民の信頼を失っている。国内政治におけるけんか腰が国際舞台にも波及している。ホッブズの「自然状態」の世界とまではいかないが、世界がどちらの方向に向かっているかは明白だ。
欧州の左右両派のポピュリズムは、2008年の金融危機に端を発した経済的苦境と、中東やアフリカの戦争や国家破綻から逃れてきた移民に対する恐怖心を糧にして勢力を伸ばしてきた。フランスならイスラム教嫌いの国民戦線(FN)、イタリアなら五つ星運動、スペインならポデモス、ドイツなら比較的最近登場したドイツのための選択肢(AfD)がそれに当たる。小さな政党の台頭で、中道右派と中道左派の政党が代わる代わる政権を担う戦後のパターンがひっくり返されている。
ただ、トランプ氏の大統領候補指名と英国のEU離脱を決めた国民投票はケタが違う出来事だ。11月の本選挙でどんな結果が出ようとも、トランプ氏はすでに共和党を押さえており、世論調査によれば、排外主義や孤立主義、経済ポピュリズム、そして反エリート主義を根っこに持つ公約を米国人の5分の2が支持している。
また英国には以前から欧州懐疑派が存在していたが、今回の国民投票はもっと幅広い層の幻滅に訴えかけた。EUはグローバル化や移民、経済的地位低下の張本人だという汚名を着せられた。
トランプ氏は、自分の敵に「パンチ」を食らわしてやりたいと語っている。大統領になったら、メキシコからの移民を何百万人も追放し、イスラム教徒の米国入国を禁止する。腕力をちらつかせた孤立主義で米国は再び偉大になるという。
また、英国の強硬なEU離脱派は、英仏海峡に壁を築くと約束している。トランプ氏について言えば、外国人は脅威だ。英労働党所属の下院議員でEU離脱派のギセラ・スチュワート氏は、もし国民投票で残留が決まったら、大切な国営医療制度(NHS)の門戸が何百万人ものトルコ系移民に開放されてしまうという誤った主張をし、抑圧された不満を言葉で表現した。
ポピュリストの信条は、愛国心をナショナリズムと置き換え、昔からある制度を軽んじる態度を助長する。「専門家」と称される人間は全員、エリートとぐるだ。自分自身の「事実」を作る権利は誰にだってある。大企業、銀行、グローバル化。これを何と呼んでもいいが、連中は白人労働者階級の敵だ――。この道をあと数歩進めば、我々は1930年代の「ユダヤ陰謀論」に引き戻されてしまうだろう。
不安を覚える有権者を責めることはできない。多くの人が感じているのは正当な不満だ。自由資本主義は富める者に有利に作用してきた。平均所得は伸び悩んでいる。グローバル資本主義の新たな巨人たち――アップル、グーグル、アマゾン、フェイスブック――は、税金とは自主的に納めるハンディキャップだと考えている。政界のエスタブリッシュメント(支配階級)は慢心するようになった。
しかし、例外なく対立的で悲観的かつ内向きなポピュリストたちの処方箋は、明らかにインチキだ。トランプ氏が大統領になれば米国は貧しくなるだろうし、EU離脱も英国に同じ影響をもたらすだろう。
ストレスはほかの場所でも見受けられる。エルドアン氏はかつて、欧州の一員になることがトルコの運命だと考えていた。ところが先日は、権威主義的な支配を強めようとしている中で、失敗に終わったクーデターは「神からの授かりもの」だと言い放った。また、同氏は市場経済よりも国家(そして縁故)資本主義の方を好み、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とよりを戻しつつある。もう遠慮はいらない。欧州は自らの世俗主義、社会的多元主義、法の支配を維持すればいい。
ニースで革命記念日を祝っていた何の罪もない人々の中にトラックで突っ込んでいった男は、別の種類のアイデンティティー政治にその身をささげた。中東やマグレブでは国家が崩壊している。世俗的なナショナリズムは宗教的な急進主義に取って代わられている。しかし、西側諸国で残虐行為に走るジハード(聖戦)主義のテロリストの目的は、ナショナリストたちから反応を引き出すことにある。その意味でテロは成功している。ニースの事件で最も得をしたのは、実はマリーヌ・ル・ペン氏のFNかもしれない。
ゼロサムのナショナリズムは西側諸国のポピュリズムの専売品ではない。南シナ海の領有権主張の有効性に関する仲裁裁判所の判決を拒否した際、中国政府の高官は、主権の主張を撤回すれば世論が許さないだろうと語った。この発言は、中国は再び大国になった、大国に戻る前に書かれたルールに縛られる義務はもうないというメッセージなのだ、と解釈する人もいるかもしれない。
筆者は先日、ある西側の外交官が、中国の判決拒否は第2次世界大戦後の秩序に対する脅威だと語るのを耳にした。確かに一理ある。そしてその後、オハイオ州での共和党大会で行われた演説のいくつかに耳を傾けた。米国を再び偉大にするという公約には、国際法の尊重は入っていない。もちろん、一方が他方を正当化するわけではない。しかし、足し合わせると、この2つの出来事は我々が向かっている方向について警鐘を鳴らしている。
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。