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北京でフィリピン大使館につながる道路を封鎖する中国の警官(2016年7月12日撮影、資料写真)。(c)AFP/NICOLAS ASFOURI〔AFPBB News〕
裁定が出ても中国が一歩も引くわけにはいかない理由 「無謬性」の虜となった習近平
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47432
2016.7.25 阿部 純一 JBpress
7月12日、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、フィリピンによって提起された南シナ海の国際法上の解釈をめぐる裁定を下した。裁定は中国の主張をことごとく否定する内容であり、中国側の「全面敗訴」と言っていい内容であった。
中国はフィリピンの常設仲裁裁判所への提訴そのものを不当なものとし、裁判への参与も行ってこなかった。事前の予想で、中国に不利な裁定となることは予想されていたが、それは中国も織り込み済みのことであっただろう。
ただし、中国側が主張してきた「古来中国のものであった」ことを根拠に、南シナ海の管轄権の範囲を示す「九段線」についてまで裁定が及ぶとは想定外だったかもしれない。
■裁定が出ても一歩も引かない中国
中国は不利な裁定が出ても対応できるように、中国側の南シナ海をめぐる主張に賛同する国家を多数集める工作に励んできた。同時に、自らの主張の正当性を改めて強調するための「白書」まで多言語版で用意していた。
中国によれば、南シナ海における中国の立場を支持する国は70カ国に上るとされている。だが、その多くが南シナ海の領有権をめぐる問題に関心のないアフリカ、中東、中央アジアの国々である。その中にはインドも含まれていたが、インド政府は「すべての関係国に対し、仲裁裁判所への最大限の敬意を示すよう求める」との声明を発表しており、中国の立場を支持などしていないことが分かる。70カ国の支持というのは、かなりの誇張が盛り込まれていると見てよい。
常設仲裁裁判所の裁定では、中国の主張する九段線の「歴史的経緯」は根拠なしとして否定され、南沙諸島には「島」はなく「岩(礁)」と満潮時には水没する「低潮高地」があるだけであり、「岩(礁)」は領海12海里を宣言できるが排他的経済水域(EEZ)は設定できず、「低潮高地」はどちらもその権限を持たないとされた。要するに、中国の主張する南シナ海の管轄権が否定されたのである。
問題は、中国はいかなる裁定が出されようとも、南シナ海問題で一歩も引かない姿勢を貫く意思を明確にしていたことである。
そこまで中国が決意した背景は何なのか。
それは「党・指導者の無謬性」へのこだわりであり、ひいては習近平主席を「常に正しい判断をする指導者」であることを確保するためであったと言っていいだろう。
■「無謬性」にこだわり過ぎて政策が硬直化
今年3月、新疆ウイグル自治区のネットニュースサイト「無界新聞」に「忠誠なる共産党員」の名で習近平の政策的誤謬を羅列し辞任を求める「公開書簡」が出され、大騒ぎとなったことは記憶に新しい。
民主主義国家では言論の自由があり、政権批判など当たり前の現象だが、一党独裁の中国ではそれが許されない。党とそのトップリーダーは「常に正しい」ことにされているから、党や習近平を名指しで批判することなど許されてはいないのである。
「無界新聞」の件については、当局が血眼になって犯人探しを行ったことは言うまでもないが、いまだに首謀者は見つかっていない。
中国では、現在に至るも「無謬性」の神話が生きている。毛沢東は死後、文化大革命の責任を問われたものの、1981年の歴史決議で「功績第一、誤り第二」の結論となった。ケ小平に関しては、1997年に死去して今年で19年になるが、依然として1989年の天安門事件の責任さえ正式に問われてはいない。
では習近平の場合はどうか。「中華民族の偉大な復興」を「中国の夢」であるとする習近平主席は、東南アジアの「小国」に蚕食された南シナ海、とりわけ南沙諸島を「取り戻す」ことが自らに課せられた歴史的使命であるとともに、東アジア地域秩序を形成する盟主としての中国の地位確立にとってもきわめて重要な事業であると位置づけた。
そのために、これまで台湾やチベットなど「分離独立」の気配のある地域に限って使っていた「核心的利益」という修辞を南シナ海にも援用し、「領土主権に関わる問題について一切譲歩しない」姿勢を明確にしてきた。
つまり習近平政権は、南シナ海の領有をめぐる紛議に関して「退路を断つ」政策を強行してきたのである。南シナ海での中国の政策が「正しいもの」だとする「無謬性」へのこだわりが政策を硬直化させ、状況の変化に対し柔軟な軌道修正をする余裕を失わせてしまったと言える。
■米中の緊張関係はさらに高まることに
今回の常設仲裁裁判所の裁定は、「南シナ海の島嶼が誰のものか」について明確にしていない。もともと裁定の目的はそこにはなかったわけであり、今回の裁定で、中国の南シナ海の島嶼の領有権の主張までは排除されていないのである。これは中国にとって幸いであり、中国にはこれまで通りの主張を展開する余地が残されたことになる。
とはいえ、国際法廷で下された「最終判断」は、それなりに重く習近平政権にのしかかる。いわば「国際的圧力」であり、今後中国が参加する国際会議で繰り返し「裁定順守」のプレッシャーがかけられることになる。
それにもかかわらず、「無謬性」を確保しなければならない中国としては、独自の論理で2つの行動を追求するしかないであろう。
第1に、国内対策である。今回の裁定は、広く国内でも報道されており、政権の主張を「鵜呑み」にすることに慣らされてきた人民に対し、国際社会の圧力に屈する姿勢は見せられない。下手に妥協すれば「裏切られた」人民による政権批判を招くからである。
一方、知識人を中心に、裁定を「中国外交の大失敗」と醒めた目で見る「民意」にも対抗しなければならない。いずれにおいても政権批判を封じ込めるには、習近平政権の「無謬性」を証明するために南シナ海における中国の拡張主義をさらに進めるしかない。
第2に、対外政策である。中国では内政がそのまま外交に反映されるから、外交も強硬路線で突っ走るしかない。領有権問題をめぐって中国は「裁定を棚上げした上での二国間協議」を主張するが、当事国であるフィリピンは言うに及ばず、もはやそんな中国に都合のいい条件で協議に応じる国はないだろう。
南シナ海における「航行の自由」作戦を展開する米国は、裁定を追い風にさらに南シナ海における米軍のプレゼンス強化を目指すかもしれない。また、裁定を歓迎する日本が南シナ海の航行の自由へ参画することを歓迎するであろう。それを嫌う中国は、日本を牽制するために東シナ海で緊張を造成するかもしれないし、南シナ海上空の「防空識別圏」設定を急ぐかもしれない。現状では、中国の空中哨戒能力は十分とは思えないが、域外国の干渉排除のため無理をする可能性は排除できない。
結局、南シナ海をめぐる常設仲裁裁判所の裁定は出たものの、それが南シナ海の緊張を解決するものとはならず、一層緊張を高める結果になりそうである。
裁定は確かに中国を窮地に追い込んだが、だからといって「引くわけにはいかない」中国と、海洋覇権国家・米国との雌雄を決する危険性は裁定前よりも高まっていると言えるだろう。
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