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犯人が野放し?レイプ犯罪にこんなに甘い米国社会
「熊手を持って立ち上がれ!」〜怒れる米国の女性たち(後篇)
2016.7.22(金) 老田 章彦
レイプ犯への甘い判決に怒った女性ブロガーが「熊手(ピッチフォーク)を持って立ち上げれ」と女性たちに決起を促した(写真はイメージ)
前回(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47374)は、スタンフォード大の花形水泳選手が引き起こしたレイプ事件の詳細と、全米を驚かせた判事の決定について記した。
被害者エミリー(仮名)の陳述内容とともに、裁判の結果が知れわたったとたん、「正義は行われなかった」という怒りの声が全米に広がった。声をあげたのは、主に女性たちだった。
「熊手を持って立ち上がれ!」
ふだんは結婚や子育てについてのブログを綴っているクリステン・メイは、エミリーの陳述書を読んだ翌日、「熊手を持って立ち上がれ」と題した記事を書いた。アメリカの熊手(ピッチフォーク)は、鋭い3〜4本の切っ先を備えたフォークのような形をしており、武器として十分に使える。ピッチフォークという言葉からアメリカ人が思い浮かべるのは、民衆の一斉蜂起だ。
エミリーがこうむった取り返しのつかない損失に比べれば、加害者の失われた将来など「屁でもない」と怒りをあらわにするクリステンは、水泳部員時代のターナーの写真を貼りつけ、名前を連呼した。
「お前の名はブロック・ターナー。そう、ブロック・ターナーだ。おや、写真が1枚あったぞ。そうだ、これがブロック・ターナーだ」
「私たちはお前の名前と顔をソーシャルメディアに拡散させてやる。そうすれば、すべての女性がお前のそばで酒を飲んだり、それどころかうっかり近寄ったりもしなくなるだろう」
ターナーがわずか6カ月、実際には3カ月で釈放されることを知ったクリステンは、ターナーを永久に監視しようと読者に呼びかけたのだった。
「エミリーだけではない、すべての女性のための正義が損なわれた。熊手と松明(たいまつ)を持って集結し、ブロック・ターナーに相応の罰を与えよう。正義が私たちを守ってくれないのなら、どんな手を使ってでも自衛するしかない」
このブログへの反響は大きく、フェイスブックだけでも57万回以上共有され、全米に拡散していった。
判事の罷免を求めて署名が殺到
クリステンがブログを書いた同じ日、フロリダに住むマリア・ルイーズは、「軽すぎる量刑」を決定したアーロン・パースキー判事を罷免するための活動を開始した。
社会変革のためのオンライン署名サイト「Change.org」を通じ、カリフォルニア州議会が判事を弾劾するための公聴会を開催するよう求めたのだった。マリアはこう訴えた。
「白人で名門大学のスター選手だからといって寛大に扱われるべきではないという見識が、パースキー判事にはありませんでした。さらに判事は、性的暴行が犯人の社会階層や人種・性別などあらゆる要因にかかわらず法律違反であるというメッセージを社会に送ることをしませんでした」
署名者は数日のうちに120万人を超えた。
マリア・ルイーズは矢継ぎ早に動き、この件をホワイトハウスにも訴えた。ホワイトハウスには、署名者が10万人をこえる請願についてはこれを受理し、なんらかの対応をする仕組みがある。パースキー判事の罷免を求める請願の署名者は、数日で10万人を突破した。
自警団は危険な風潮だとする声も
「正義が行われなければ自衛あるのみ」といってブロック・ターナーを永久に監視しようとたり、「十分な刑罰を与えなかった」パースキー判事の罷免を求めたりする動きには異論もある。
オンラインマガジン「スパイクト」の編集者で弁護士のルーク・ジトスは、「スタンフォード事件の署名者が求めているのは正義ではなく復讐」と題した記事で、加害者の家族や判事を叩いても社会は良くならないと主張した。
「それどころか、こうした動きは誤った情報の流布や自警団的な正義を助長させ、犯罪に公正に対処す力を社会から奪ってしまいます」
ここで言う「自警団的な正義」は、法の秩序よりも市民感情が優先される危険な状態を意味する。裁判の結果が気にくわないからといって加害者を執拗に吊し上げたり、裁判官のクビを切ったりしていては法治国家は維持できないという警告だ。
一方、女性ライターのセイディ・ドイルは、「ブロック・ターナー事件で注目されるオンライン自警団」という記事で、自警団的な正義の危うさを認めつつも、それは必然的な流れだと主張した。
レイプ犯のうち投獄されるのは100人のうち1人に満たないことや、性犯罪者の再犯率の高さを指摘しつつ、彼らから女性が身を守る手段は自衛以外にないとドイルは言う。
「ブロック・ターナーが問題なのではありません。アメリカにいる無数のブロック・ターナーが裁判を逃れ、罰も受けず、ニュースにもなっていないことが問題なのです。ある日そういう危険人物が私たちの目の前に現れても、そうと気づくことはないのですから」
アメリカには何人のエミリーが必要なのか
判事の罷免を求めるホワイトハウスへの請願がどのように取り扱われるかは分からないが、副大統領からは今回の事件についての明確な考え方が示された。被害者エミリー(仮名)の陳述書に感銘をうけたジョー・バイデン副大統領は、「勇敢な若き女性への公開書簡」で、彼女の決断を讃えた。
「犯人からされたことのすべてを振り返り、追体験することは、身を切るほど辛いことだったに違いありません。しかしあなたは、ほかの誰かを同じ犯罪の被害者にしてはならないと、力をふりしぼりました。あなたの勇気には称賛の言葉しかありません」
副大統領は、毎年5人に1人の女性が大学構内で性的な暴行を受けており、過去20年間それが改善されていないことを指摘し、レイプ犯罪に甘い社会の風潮を断罪した。
「合意なき性行為はレイプです。誰がなんと言っても、それは犯罪なのです」
同じように考える多くの男性が、「熊手を持って立ち上がれ」と呼びかけたブロガー、クリステンのフェイスブック宛てに賛同意見を送ってくるという。だがその多くは誰の目にも触れるウォールの書き込みではなく、クリステンだけが読めるダイレクトメッセージだという。「同性の目を気にして、大っぴらには私たちの考えを支持できないのでしょう」と、クリステンは社会風潮の根強さを感じている。
女性だけが目覚めても社会は変わらない。男性優位、性犯罪に甘い風潮が変化するまでに、アメリカはいったい何人のエミリーを必要とするのだろうか。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47375
なぜだ!米スタンフォード大のレイプ犯に大甘判決
「熊手を持って立ち上がれ!」〜怒れる米国の女性たち(前篇)
2016.7.20(水) 老田 章彦
米スタンフォード大学の性的暴行事件、軽い量刑に非難続出
米スタンフォード大学のロゴ(2015年2月13日撮影、資料写真)。(c)AFP/NICHOLAS KAMM〔AFPBB News〕
アメリカでは性的暴行事件が2分に1回発生し、年間28万人の被害者が出ている。これほど多くの事件がおきる背景には、「暴行してもつかまらない」という戦慄すべき実態がある。
こうした事件では、取り調べや裁判の過程で被害者の心の傷が深まる「セカンドレイプ」や、加害者からの報復を恐れて被害者が口をつぐむケースが多い。性暴力の防止活動をする団体RAINNは、加害者のうち警察に通報されるのは34%、逮捕されるのは6.3%、実刑判決をうけて刑務所に入るのは0.6%にすぎないと推計している。
レイプ犯100人のうち投獄されるのは1人に満たないのだとすれば、この国では性犯罪者が野放しになっていると言っても過言ではないだろう。
全米に波紋を広げた名門大学のレイプ事件
事件は2015年1月、カリフォルニア州の名門スタンフォード大学のキャンパスで起きた。1年生のブロック・ターナー(当時19歳)が、学生寮でおこなわれたパーティーで泥酔した女性(当時22歳)を屋外へ連れ出し、大型ごみ箱の陰でレイプした。
2人の大学院生が現場を通りかかり、被害者に覆いかぶさっているブロック・ターナーを取り押さえたとき、被害者は完全に意識を失っていた。2016年3月に開かれた法廷では、陪審員による全員一致の評決でターナーの有罪が確定した。
6月、この裁判で被害者が読み上げた異例の陳述書が全米に波紋を広げ、それに反応した女性たちが強い怒りの声をあげ、ついには法治国家の根幹をめぐる議論が巻き起こった。
本稿(前編)では、12ページ7000語におよぶ陳述書が明らかにした被害者の悲惨な体験を共有したい。
法廷で悲惨な体験を語りつくした被害者
6月2日、ブロック・ターナーの量刑を決める法廷が開かれた。証言台に被害者エミリー・ドゥ(仮名)が立ち、陳述書を読み上げた。それは事件の夜、遠方に住む妹が久しぶりに帰宅していたこと、パーティーに参加するという妹と一緒に過ごすことにし、地味な色のカーディガンを着て出かけたこと、パーティーでは学生たちとの年齢差を埋めるため陽気に騒ぎ、お酒を飲みすぎてしまったいきさつから始まった。
「学生時代と比べてまったく飲めなくなっていたことを忘れ、早すぎるペースで飲んでしまいました」
飲みすぎの事実をエミリーは認めているが、たとえそうだったとしてもレイプ犯の責任がわずかでも減じられることはない。
酩酊状態になった被害者を、ブロック・ターナーは寮の外へ連れ出し、地面を引きずってゴミ箱の陰へ連れ込み、洋服を下ろし、性器に異物を挿入するなどの乱暴をした。地面に落ちていた松葉が体内に大量に押し込まれた。
「その次に記憶があるのは、担架の上に横たわっていたことです」
エミリーは、病院に搬送された数時間後に酩酊状態から覚め、傷だらけの体の検査を受けた。
「何本もの綿棒を性器と肛門に挿しこまれ、いろんな注射を打たれ、クスリを飲まされ、開かれた両脚のあいだにはニコンのカメラが向けられていました。長い膣鏡が押し込まれ、膣内には擦過傷を見つけるための冷たく青い塗料が付着しました」
エミリーは呆然としながらも、自分がレイプされたという現実を理解し初めていた。
「数時間後にシャワーが許されましたが、湯が肌を流れ落ちるのを見ながら、『もうこんな体はいらない』と思いました」
「何日かしたらHIVの再検査を受ける必要があるが、今日はとりあえず帰宅して『普通の生活』に戻りなさいと指示されました。そんなふうに言われて、いったい誰が平常心を保って暮らせるでしょうか」
その後のエミリーは、事件を心から追い出そうとしても「重すぎて、話せず、食べられず、眠られず、誰とも関われない」状態におちいった。生活は崩壊し、フルタイムの仕事を辞めざるをえなくなった。
追い打ちをかけたのは裁判だった。エミリーへの反対尋問をおこなったターナーの弁護士は、彼女が実質的なアルコール中毒であり、男性をあさる目的でパーティーに出入りする女性であるという印象を陪審員に持たせようとした。
「私はこのような質問に答え続けなければなりませんでした。年齢は? 体重は?(中略)学生時代に飲酒経験は? パーティー狂いだったというのは? 記憶が飛んだ回数は? 男子学生寮のパーティーで飲んだ経験は? 彼氏とは真剣に付き合っている? 彼氏とは日常的にセックスをしている? 浮気を考えたことは? 浮気をしたことは?」
セカンドレイプどころかサードレイプともいえる悲惨な実態が、被害者の口からこれほど詳細に語られることは稀だ。エミリーの勇気ある行動は全米に波紋を投げかけた。陳述が行われた翌日にその全内容を掲載したウェブメディア「バズフィード」の記事は、数日でアクセス500万回に達し、本稿執筆時点では1700万回を超えている。
重大な会話を「思い出した」加害者
実はエミリーの陳述書は、判事ではなく加害者ブロック・ターナーに向けて読み上げられたものだった。ターナーが自分の行動の結果を素直に受け入れるよう、エミリーは強く求めた。
それはターナーが裁判のあいだ一貫して罪を認めなかったからだ。3月に有罪が決まって以降は、量刑を軽減しようとする動きを強めていた。事件の夜、寮から連れ出されて暴行されるまでの記憶がエミリーに一切ないことを知ったターナーは、彼女とかわした「重大な会話」を思い出したと主張するようになった。
それは、彼女の体にさわり、キスをし、服を脱がせるすべての過程で自分はエミリーに許可を求め「イエス」の答えをもらったというもので、ターナーはそのやりとりと再現してみせた。行為はあくまで合意のうえのものであり、2人が地面に横たわっていたのはつまづいて転んだせいだと主張した。
ターナーは、未成年の飲酒と、酔って行為が乱暴になったことについては「深い反省」を表明したものの、レイプの事実を認めることは最後までなかった。
花形選手に下された驚きの量刑
エミリーは加害者に正面から向き合い、人間として目覚めるよう強く促すと同時に、罪の重さに見合う罰を判事に求めた。
ターナーは、最高で刑務所に14年間投獄される可能性があった。しかしエミリーの陳述の直後に判事が下した決定は、軽犯罪者を収容する郡刑務所でのたった6カ月の拘禁だった。
罰が軽すぎるという批判が全米で噴出した。そして判事の決定にはターナーが一流大学に籍を置く花形スポーツ選手だったことが影響しているのではという指摘が相次いだ。
ブロック・ターナーは、大学水泳の名門であるスタンフォード大学の水泳部に所属し、オリンピック出場も期待される有望選手だった(事件後に退学処分)。裁判で弁護士は、ターナーが夢の実現のため厳しい練習に打ち込んできた真面目な青年であることを繰り返し強調した。
ターナーの父親は判事に向けた陳述書で、有罪判決をうけた息子が人生の大きな夢を奪われ、笑顔が消え、食事も喉を通らない様子を綴ったあと、こう訴えた。
「(刑務所行きは)息子の20年あまりの人生のうち、20分間の行動の対価としては高すぎます」
「行動」は、父親が述べた "20 minutes of action" を訳したものだが "action "はたいへん軽いニュアンスでセックスを意味することが多く、日本語でいえば「エッチしちゃった」という程度の響きだ。
この陳述書を受け取った判事は、「ブロックの悔悟が明白である」こと、長期にわたる投獄が「20歳の若者に深刻なインパクトを与えることが懸念される」ことを理由に、6カ月の拘禁にとどめたのだった。なお、ターナーは6月2日に収監されたが、郡刑務所は9月2の釈放を予定しているため、実質的には3カ月の刑となる見込みだ。
スタンフォード大学のミッシェル・ドーバー教授(法学)は、パースキー判事の個人的な価値観が量刑を大きく左右した可能性を指摘した。
「判事はこの事件に全力を尽くす必要があったが、犯人と出自が似ているため判断が甘くなったのではないか」(NBCニュース)
出自が似ていると指摘されたパースキー判事は、ブロック・ターナーと同じスタンフォード大学出身。在学中はラクロス・チームの主将を務め、卒業後も熱心に後輩の指導に携わるスポーツマンだった。このため同じくスポーツに打ち込んできたターナーにたいして必要以上に同情的だった可能性があるというのだ。
エミリーの陳述内容が爆発的に拡散すると同時に、判事の決定を疑問視する声が全米に広がった。それからわずか数日のうちに大きなムーブメントが引き起こされ、論争の火種となった。次回はその詳細について紹介したい。
(つづく)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47374
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