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英ロンドンにある国会議事堂の外で、英国のEU離脱に反対する抗議行動に参加した人々(資料写真、2016年6月28日撮影)。(c)AFP/JUSTIN TALLIS〔AFPBB News〕
英国EU離脱の背景に格差問題あり、は本当か? 格差は数字ではなく、感覚で決まる
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47364
2016.7.18 加谷 珪一 JBpress
EU(欧州連合)からの離脱を決定した英国の国民投票から1カ月が経とうとしている。市場は落ち着きを取り戻しているが、経済的な影響がどの程度になるのかは未知数という状況が続く。
英国のEU離脱の背景には格差問題が存在しているとの指摘があり、こうした問題を解決しない限り、似たような事態が再び発生するとの見方も根強い。確かにグローバル化の進展は格差を拡大してきた面があるが、格差に対する認識は人それぞれであり対処が難しい。
■米英で格差が拡大したのは好景気のせい
格差問題がやっかいなのは、景気拡大が続くと、それに伴って格差が拡大する傾向が強く、政策的に大きな矛盾が生じてしまうことである。多くの人は格差拡大を望まないが、一方では景気の拡大を政府に強く求めるからである。
先進各国の格差はここ20年でかなり拡大してきた。上位1%の所得が全体の所得の何%になっているのかという数字を見ると、1980年には米国が8.2%、英国が6.7%(1981年)、ドイツが10.4%、日本が7.2%であった。各国にそれほど大きな差はなかったといってよいだろう。
だが1990年代に入ると格差の拡大はより顕著となってきた。2010年の段階では米国が17.5%、英国が12.6%、ドイツが13.9%(2008年)、日本は9.5%となっていた。特に米国と英国で格差拡大が著しく、日本ではあまり所得の格差は広がらなかった。以前は格差が大きかったドイツも米英に比べると顕著な上昇は示していない。
格差の拡大には様々な要因があるので一概には言えないが、90年代以降、特に米英で格差が拡大した原因は経済成長である可能性が高い。70年代の米国はスタグフレーションに悩まされ、10年近くにわたる停滞期が続いていた。英国も同様で、当時の衰退ぶりは「英国病」とも言われた。
だが米国ではレーガン大統領が、英国ではサッチャー首相がそれぞれ誕生し、徹底的な規制緩和が実施されたことで両国は安定的な長期成長フェーズに入った。また90年代は、中国などの新興工業国が発展し、国際的な分業体制が確立した時代でもあった。
国際的にもっとも最適なリソース配分が行われた結果、好調な経済はリーマン・ショック直前まで続くことになった。これが格差を拡大させる大きな要因となった可能性は高い。
一方、日本はバブルの後処理に失敗し、世界でも例を見ない長期不況が続いた。日本でそれほど格差が拡大しなかったのは皮肉にも不景気が長く続いたからである。
■港区民の所得がアベノミクスで増加した理由
では景気が拡大すると、なぜ格差も拡大するのだろうか。
それは資産価格の上昇がもたらす影響が大きいからである。景気が拡大するとGDPの成長率も高まるので、労働者の所得も増大する。しかし労働の対価としての報酬は無限大に増加するわけではない。
だが好景気が続くと、資産価格は景気の拡大をはるかに上回るスピードで上昇する。所得が高い人は、相応の資産を保有している割合が高く、好景気が続くと高額所得者は資産価格上昇の恩恵を受けることになる。金融市場の規模が大きい米国や英国で格差が拡大するのはこうしたメカニズムが働いているからである。
日本の場合、投資をする人が相対的に少なく、米英ほどの影響は発生しにくい。しかし好景気による資産価格の上昇には、富裕層の所得を上昇させる効果が見られる。
日本でもっとも平均所得が高い市区町村は東京都港区なのだが、給与所得だけを見ると、他の市区町村と同様、ここ数年間で目立った上昇は見られない。だが株式や不動産の売却益などを含めた総合的な所得でみると、港区民の所得は、同じ期間で1.5倍に拡大している。これは所得が少ない市区町村には見られない傾向といってよい。
つまり港区の住人には、直接的・間接的に株式や不動産へ投資している人が多く、これがアベノミクスの株高によって、所得の伸びにつながったものと考えられる。
ドイツの格差が2000年に入ってから急拡大しているのは、ドイツも自由競争メカニズムに舵を切った影響が大きいと考えられる。ドイツは米英とは異なり、労働者に対する支援を手厚くする一方、経営体力の弱い企業を政府の力で強制的に市場から退出させるなど、国家主導で自由競争を追求している。方向性の違いはあるにせよ、こうした政策は高額所得者に有利に働く可能性が高い
■ジニ係数で見ると英国の格差はあまり拡大していない
だが格差問題というのは、トップ1%という極めて高い所得を得る人の富が増えたのかどうかで決まるわけではない。どの階層とどの階層の差が大きいのかによって国民が受ける印象は異なってくる。また各国にはそれぞれ所得の再配分機能があり、これがどの程度機能しているのかによっても状況は変わってくるだろう。
所得の全体的な偏りを示す指標としてはジニ係数がよく用いられる。ジニ係数は所得の累積と世帯数の累積の関係を示すローレンツ曲線を使って富の偏在を数値化したもので、0に近づけば平等で、1に近づけば不平等の度合いが大きいことを示している。
各国ともジニ係数が年々上昇しており、所得の格差は拡大していると判断できる(OECD)。だが英国は米国と比較するとジニ係数に目立った上昇は見られない。英国はかつて「ゆりかごから墓場まで」と呼ばれる手厚い福祉政策が有名だったが、こうした制度の名残りなのか、所得の再配分は思いのほか機能しているようである。英国の相対的貧困率は10.5%であり、米国の17.6%と比較するとかなり低い。
またトップ1%の割合は日本よりドイツの方が圧倒的に高いが、逆にジニ係数は日本の方が数字が大きく、格差が大きいと評価されている。日本は高額所得者が少ない代わりに貧困層が多く、これがジニ係数を上昇させていると考えられる。日本の相対的貧困率は16%と米国並みにひどい状況だが、ドイツは8.4%と低いことからもこうした状況が推察される。
総合的に考えると、英国は超富裕層の富は増えているものの、全体としてはあまり格差が拡大していない国ということになる。EU離脱問題の背景に格差問題が存在するのだという話については、少し慎重になる必要があるかもしれない。
■大きな影響を与えたのはEUのエリート主義
もっとも、格差問題というのは数字で一意的に表されるものではない。実際の格差がそれほど大きくなくても、国民はそう受け取らない可能性があるからである。
ロンドンは好景気が長期にわたって続いたことから、不動産価格は10年ごとに2倍になる勢いとなっており、もはや中間層の経済力ではロンドン市内には家を持てない状況にある。
こうした象徴的な出来事が続いた場合、実際の格差がそれほどではなくても、政治的には大きなインパクトをもたらす可能性がある。英国のEU離脱の背景に格差問題があるのだとすると、英国は格差問題の政治的な側面が大きくクローズアップされた結果ということになるだろう。
一方、日本は、数字を見る限り貧困問題がかなり深刻な状況となっている。自由競争を徹底した弱肉強食の国である米国と貧困率が同等というのは、相当なインパクトである。
だが、貧困問題がメディアで取り上げられるようになったとはいえ、多くの国民の中ではまだ現実的な問題としてはイメージされていない。いまだに日本は豊かで平等な国という印象を持っている人も多いはずだ(一部では相対的貧困率を用いることの妥当性について疑問視する声もあるようだが、これも一種の平等幻想といってよいだろう。日本の貧困率の高さは、すでにこうしたモデルの特性論争を超えた水準にあるというのが実情だ)。
EU各国において離脱ドミノのような状況を防ぎたいということであれば、格差問題に対する具体的な対策はもちろんのこと、感情的な部分での格差問題に対しても真剣に向き合う必要が出てくるだろう。
ブリュッセルにあるEU本部は、官僚主義を絵に描いたような場所である。ここで働く国際公務員は、日本の公務員以上に公務員的である。エリート主義丸出しで、柔軟性を欠く統治体制が、感情的反発を招いている可能性は否定できない。
筆者は英国の離脱がすぐに危機的な状況を引き起こすとは思わないが、EUの勢力を拡大し、一気に欧州統一政府に向かうという従来型の理想主義は頓挫したとみてよいだろう。
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