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コラム:英離脱、次の波及先はどこか
[ロンドン 8日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 英国で始まったことは、英国にとどまらない。国民投票で欧州連合(EU)離脱を決定してから約2週間が経過したが、その経済的・金融的影響は、シンガポールの銀行から米金融市場まで広範囲に及んでいる。
以下に挙げる5カ国を含め、一部の国はこれから厄介な問題に直面することになるだろう。
<ドイツ>
英国のEU離脱決定は、メルケル独首相の危機管理能力を試す最大の試練となるだろう。欧州統合は、ドイツの経済的利益と政治的アイデンティティーの中心をなす。その救済は、大規模な経済刺激策とともに、過剰な緊縮財政との決別を必要とするかもしれない。
EUの事実上の「顔」として、英離脱がユーロ圏の成長にもたらすダメージを食い止める責務がメルケル首相の双肩にかかっている。それは、大規模な財政出動を意味するかもしれない。
ドイツ、フランス、イタリア、スペインというユーロ圏メンバー4大国が開始したインフラへの経済刺激プログラムは、信頼し得る効果的なシグナルと言えよう。ドイツの主要シンクタンクIMKは、同4カ国の国内総生産(GDP)の約1%に相当する刺激策が必要だと試算する。
最大の障壁は、均衡予算に対するドイツの過剰なまでのこだわりだろう。リーマン・ショック後の2009年にメルケル首相が打ち出した景気刺激策は、必要とあらば、ケインズ主義的政策に立ち戻る意欲のあることを証明してみせた。公的借り入れを多少増やすことになる代替手段、あるいはEUの未来に対する脅威に直面しているメルケル首相にとって、選択するのはそう難しくはないはずだ。
<アイルランド>
アイルランドは、英国の複雑なEU離脱のなかで板挟みになっている。英EU離脱は2国間貿易に打撃を与え、約20年ぶりに北アイルランドが英国を離脱し、アイルランドへの統合を目指す可能性もある。アイルランドにとっての最善策は、英国との関係において、これまでのパートナーから競争相手へと変わることだ。
アイルランド経済は、欧州各国のなかで最も英国に依存している。EU離脱を決めた英国民投票が行われた6月23日以降、アイルランドの株式市場は14%下落する一方、英国のFTSE100種総合株価指数は上昇している。
アイルランドのケニー首相は英離脱決定後、寛大な姿勢を見せていたが、現在アイルランド政府が公式に示している方針は、英国に向かっていたであろう外国からの投資を呼び込み、英金融街シティを離れることを検討している金融サービス企業に秋波を送るものだ。
アイルランドは国益を守るのに最適な位置にいるわけではない。他の欧州諸国に対する交渉の窓口であった英国なくしては、論議を呼んでいる自国の12.5%の法人税をめぐって、仏独からの圧力に一段とさらされることになる。アイルランド首都ダブリンは、オフィスや賃貸物件も不足している。ブレグジット(英国のEU離脱)はアイルランドにとって好機だが、自ら招いた経済危機から今なお回復途上にある同国は、その好機をつかむには時期尚早かもしれない。
<イタリア>
英国のEU離脱から得るものも失うものも最も大きい国は、恐らくイタリアだろう。多くのイタリア人はブレグジットは良いことだと考えている。なぜなら、ユーロ圏の指導層に活を入れ、イタリアに非常に欠けている成長と雇用を促進することを余儀なくさせるからだ。つまりそれは、緊縮財政よりも投資を増やすことを意味する。ただし投資増加がイタリア経済の助けとなる一方で、同国の債務負担は対GDP比130%超に相当し、欧州委員会によって厳しい規制下に置かれている。
英国のEU離脱決定はまた、イタリアで10月に実施される憲法改正案の是非を問う国民投票にも影響を及ぼす可能性がある。イタリアの有権者が触発されて、上院の権限を縮小し、権力を強化しようと試みる政府にノーを突きつけることになるかもしれない。そうなれば、選挙が前倒しされ、政治停滞を引き起こしかねない。
あるいは逆に、ブレグジットの副産物がイタリアの有権者を怖気づかせるのであれば、事を荒立てない方を選択する可能性はある。そうすれば同国は、急速な成長と政治的安定の両方を享受し、欧州の政策決定において影響力を増すことになるかもしれない。
<オマーン>
ブレグジットは中東のアラブ産油国にも影響を与える可能性がある。EUのような集団的自衛や税制、開かれた国境や共通通貨の創設を推進する湾岸協力会議(GCC)6カ国において、とりわけオマーンは消極的な姿勢を見せている。同国外務省の公式ツイッターアカウントは、英EU離脱について「勇気ある決断」とつぶやいている。
1981年に設立されたGCC内では、イランに対しどう対応するかがネックとなっている。オマーンは、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)よりも融和的なアプローチを取る。イスラム教スンニ派が支配するオマーンは、イランが支援するシーア派武装組織「フーシ」を鎮圧するためのイエメンでの紛争にGCC構成国で唯一巻き込まれていない。オマーンは2020年末までにイランとの2国間貿易をこれまでの10倍に増やすことさえ望んでいる。
GCCに主権の多くを委ねることはまた、米国のような世界の大国に対する重要性など、自国の世界的な戦略的役割を損ないかねない。米国は中東地域で軍事作戦を展開する際、オマーンの領土を使用している。GCC内で最大の産油国だが、石油輸出国機構(OPEC)には加盟していないオマーンは、GCCにとどまるべきかどうか見直すうえで、ブレグジットに刺激を受けるかもしれない。
<ロシア>
ロシアのプーチン大統領は、英EU離脱決定において手の内を見せていない。キャメロン英首相の失敗については多少勝ち誇ったような態度を見せはしたものの、「プラスかマイナスかは時がたてば分かるだろう」と述べるにとどめている。制裁や通貨ルーブルの切り下げ、ウクライナでの軍事活動により悪化した海外からの投資の大きな落ち込みによっていまだに圧迫されているロシアにとっては、どちらにも転びかねない。
ブレグジットは、ロシアが国益にかなう機会を提供している。ロシアの駐英大使館のツイッターアカウントは、国民投票前に、EUの対ロシア制裁の一部でいることは英国経済にとって損失であるということを示すのに、「#WhatBritainLost(英国が失ったもの)」というハッシュタグを使った。
その一方で、ロシア当局者は英国との2国間関係、特にこれまで停滞していた分野において改善していくことに前向きな姿勢を示している。たとえEUが制裁を解除しなくても、ロシアはブレグジットによって英国から投資を呼び込むことができれば、経済的な恩恵にあずかることが可能かもしれない。
ロシアにとってブレグジットの最も不快な一面は、それが指導者の意に反して国民によって決められたことだろう。これは重要なポイントだ。プーチン大統領がクリミアで国民投票を実施した時、自身が望む結果を確実に得ようとして、まずは部隊を派遣した。分離主義は非常に慎重を要する問題だ。ブレグジットを契機としてドミノ倒しが起きれば、プーチン大統領はブレグジットを心から喜べなくなるだろう。
*筆者のOlaf Storbeck、Carol Ryan、Neil Unmack、Andy Critchlow、Sarah Hurstは「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
http://jp.reuters.com/article/column-brexit-next-idJPKCN0ZS07R
コラム:英離脱ショックで見えた欧州の断層=加藤隆俊
国際金融情報センター理事長/元財務官
[東京 12日] - 英国民投票での欧州連合(EU)離脱選択が国際金融市場や世界経済に与える影響については、議論百出といった印象を受けるが、実際は五里霧中との表現が正鵠を射ているのではないか。世界各国の市場参加者や政策担当者は今後、かなり長い期間、この問題の解釈をめぐって楽観と悲観の間を行ったり来たりすることになりそうだ。
突き詰めて考えるに、視界不良の最大の理由は、よく指摘されていることだが、英国がいったいいつ離脱するのか(それとも将来的に離脱を翻意する可能性は本当にないのか)、離脱するにしてもEUとの関係がどうなるのか、現時点では全く分かっていないことだろう。恐らく当事者たる英国の意思決定層自身、確信を持って回答できる人はいないのではないか。
周知の通り、EU離脱協議が始まるためには、まず英国側がEU側にその意思を通達する必要がある。キャメロン英首相はすでに辞意を表明し、通達は次の政権に委ねるとしている。しかし、次期首相(メイ内相が13日に保守党党首および首相に就任の見通し)の下で、スムーズに事が運ぶかは不透明だ。
EU離脱を定めたリスボン条約第50条第1項には、いずれの構成国も憲法上の要件に従って、離脱を決めることができると記されている。英国民投票の実施でこの項目をクリアしたとの見解がある一方で、成文憲法のない英国では、議会での採決が必要なのではないかとの見方もある。
仮に議会で採決するとなれば、残留派が多い下院では国民投票と逆の結果が出ないとも限らない。常識的に考えれば、解散総選挙となろうが、英国では2011年に首相の解散権を制限する「議会任期固定法」が成立しており、議会の自主解散には定数の3分の2以上の議員の賛成が必要だ(下院議員の5年の任期は原則守られることになっており、次回選挙は2020年5月の予定)。
また、離脱を通達したとしても、EUとの交渉は長期化が必至だ。前述のリスボン条約では、離脱交渉期間は2年と定められているが、たとえ期限が過ぎてEU法の適用除外になったとしても、同条約はEUに対して隣国との関係規定を義務付けているため(また英国側からしても世界経済の2割強を占めるEU経済と何ら通商協定を持たない状況は考えられないため)、交渉はその後も続くことになる。
欧州自由貿易協定(EFTA)に加盟したうえで、EUと各種個別協定を結んでいるスイスは、EUとの協議に10年を費やしたと言われる。2020年代に入っても、英国のEU離脱交渉はまだ決着していない可能性がある。
<最大の懸念は市場の過剰反応>
問題は、英離脱問題をめぐる霧が立ち込めるなかで、欧州で以前からくすぶっている様々なリスクの導火線に火がつきかねないことだ。
英離脱ショックを通じて改めて認識された欧州の火種は、大きく分けて3つある。第1に、難民・移民問題。第2に、グローバリゼーションの利益を享受している層と、そうでない労働者階級との間に存在する分断。第3に、若者と高齢者の経済面での世代間格差だ。むろん、いずれも欧州にとどまらない問題だが、日米欧中で比較すれば、欧州において特に強く意識されているように思える。
英国に次ぎ、政治的な混乱が懸念される国は、10月に憲法改正案の是非を問う国民投票が予定されているイタリアだろう。同国ではすでにローマやトリノなどの地方選で、与党・民主党(PD)が反体制派勢力の「五つ星運動」に相次ぎ敗れるなど、政治の不安定化が進んでいる。
レンツィ伊首相は、これまで国政の停滞を招いた原因とされる上下両院の平等原則を見直し、上院の権限を制限する憲法改正案を国民投票にかけ、否決されれば、辞任すると表明している。仮にそうなれば、政治的混迷がさらに深まるのは必至だ。
ただでさえ、イタリアは、銀行部門で不良債権償却のコスト分担問題の結論を出すことが焦眉の急となっており、これが欧州の金融株全体に悪影響を及ぼしている。
私は、英離脱問題を契機とする、こうした悪材料への過剰反応、換言すれば自己実現的なセンチメントの悪化が、世界経済にとって一番懸念されるシナリオだと考える。そもそも冷静になれば、各国のエコノミストたちが言う通り、英離脱の実体経済への影響は震源地の英国で数ポイントあるとしても、米欧日ではせいぜいコンマ数ポイントでしかないはずだ。しかし、センチメント悪化を通じた投資や消費の冷え込み、そして市場の混乱を通じて、影響度合いが増幅されてしまう恐れはある。
そうした不安を抑えることができるかどうかは、ひとえに英独仏など欧州大国の意思決定層の手腕にかかっている。特に、ユーロ圏で一人勝ちの状態にあるドイツの姿勢は大きなカギを握る。同国が今までと同じようにせっせと経常収支黒字と財政収支黒字を貯め込み、後はユーロ圏各国の自助努力を求める姿勢を強調するばかりでは、EUの亀裂が深まるリスクは解消しないのではないか。
欧州統合のスピードが英離脱を機に減速するのは仕方ないが、万が一の「離脱ドミノ」を招かないためには、財政も含めた内需拡大で域内経済を支えるような方向にドイツをはじめユーロ圏全体がより軸足を移していく必要があるだろう。
<国内景気の舵取りには新たな視点が必要>
最後に、英離脱の日本経済への影響について言い添えれば、主な経路は市場の混乱(特に円高・株安)を介したチャネルになると思われる。
大幅な円高・株安は確かに景気への不安材料である。他方、足元の有効求人倍率は1.36倍(5月)と24年7カ月ぶりの高水準にある。街に失業者があふれているという状況からは程遠い。それでも個人消費が振わない一番の原因は将来への不安ではないか。
その意味では、参院選後の経済対策は、1)社会保障制度の持続可能性への不安を軽減する、2)所得配分を若い世代に移転する、3)外国労働者の活用など働き手を増やす、といった視点を重点に組み立てられることを期待したい。
*加藤隆俊氏は、元財務官(1995─97年)。米プリンストン大学客員教授などを経て、2004─09年国際通貨基金(IMF)副専務理事。10年から公益財団法人国際金融情報センター理事長。
*本稿は、加藤隆俊氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。(聞き手:麻生祐司)
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
http://jp.reuters.com/article/column-takatoshi-kato-idJPKCN0ZO0V2
イタリア銀「危機にあらず」、救済には投資家負担も=ユーロ議長
[ブリュッセル 11日 ロイター] - ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)のデイセルブルム議長(オランダ財務相)は11日、イタリアの銀行が抱える問題について、直ちに危機に発展する公算は小さいと述べた上で、銀行の救済にあっては民間投資家も一定の損失を負うべきだとの考えを示した。イタリア政府が公的資金による銀行支援を計画していることにコメントした。
イタリア政府は現在、モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(モンテ・パスキ)(BMPS.MI)など、国内行への公的資金を利用した支援実施の可否について、欧州委員会と協議している。欧州連合(EU)のルールによると、実体経済に「深刻な混乱」が発生するなど、例外的なケースにのみ銀行セクターへの公的支援が可能と規定されている。
デイセルブルム議長は、ユーロ圏財務相会合の合間に記者団に対し「重大な危機ではない」と指摘。「イタリアの銀行は不良債権問題を抱えているが、これは特に目新しい問題ではない」との見方を示した。
EUの規定ではまた、一般投資家に損失を負担させる「ベイルイン」を公的資金による銀行救済の条件としている。ただ、イタリアでは昨年、銀行を救済した際に預金者に損失が発生、大規模なデモや自殺があったことから、政府はベイルインに慎重な姿勢を示している。
デイセルブルム議長は、一定の状況の下では公的資金による支援も可能だと述べたが、民間投資家も「一定の」損失を負うべきだと強調。「ベイルインでは、好調な年に投資家は利益を手にし、不調な年には損失を被る。非常に理にかなった経済原理だ」との見方を示した。
http://jp.reuters.com/article/dijsselbloem-italy-bank-idJPKCN0ZS08T
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