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震える世界 英EU離脱を聞く
(1)支配層への拒絶明らかに
国際政治学者 イアン・ブレマー氏
――欧州問題を今年のトップリスクのひとつに予想し、的中しました。
「欧州連合(EU)からの離脱を問う英国の国民投票は事前予想が拮抗しており、大きなリスクだった。さらに、テロやギリシャ危機、難民問題、ポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭など問題が山積みで、明らかに不安定だとみていた」
「英国民が離脱を選んだ背景には移民や主権の問題もあるが、それ以上に国から大切に扱われず『社会契約』が途絶えたと感じる人々の抗議という側面が大きい。投票結果はEUへの拒絶と同時に、支配階級層に対する拒絶も意味している」
――英国のEU離脱が世界の金融市場に与える影響をどうみますか。
「離脱決定直後の動揺は比較的早く収束したが、2008年の金融危機と違うのは、今後何年にもわたって市場が荒れたり、落ち着いたりという時期を繰り返す問題だということだ。英国とEUの新たな関係は不透明であり、最終的な影響は現時点では見通せない。先々の市場混乱の引き金となり得るのは、周辺国の国債金利にEU崩壊の兆候が表れた時や、為替変動や成長鈍化のショックがアジア、特に中国を襲った場合だろう」
――EUに対する懐疑的な見方は、他のEU加盟国にも広がりますか。
「欧州大陸全体に広がっていくとみている。難民問題や(格差拡大による)中間層の空洞化の問題を解決する力は、今の欧州のリーダーには乏しい。国境検査なしで域内を移動できる『シェンゲン協定』や単一通貨ユーロをより強固にしていく国と、それ以外の国との分断が広がっていくだろう。共通の価値観を持ち、超国家的なアイデンティティーを持つというEUの野心的な実験は失敗に終わった」
――秋に大統領選を控えた米国でもポピュリズムの台頭がみられます。
「(英国のEU離脱による)米大統領選への影響は小さい。米国はロンドンを除く英の大部分よりも多文化・多民族な国家だ。そして米国の有権者が直面しているのは共和党のドナルド・トランプ氏と民主党のヒラリー・クリントン氏という著名な2人の人物の選択であり、EUのような顔を持たない組織との抽象的な関係の行方ではない」
「とはいえ米国でも支配階級層とそれ以外との対立は強まっている。クリントン氏が支持を固めきれない理由はそこにある。同氏が大統領に選ばれたら、トランプ氏が選挙戦の間にかき立てたポピュリズムの問題を解決していく必要がある」
――欧米以外の大国にも政治的、経済的な影響が広がりますか。
「英国のEU離脱における明らかな勝者はロシアだ。ロシアには貿易分野での影響は小さい。EU弱体化で(ウクライナ問題で欧米に科された)制裁の緩和を実現しやすくなるうえ、個別の国々とエネルギーや防衛の関係を築きやすくなる」
「中国は貿易や安全保障で悪影響を被る。世界の秩序が乱れるため、英国のEU離脱を歓迎していないだろう。中国が目指す持続的な経済成長のためには、強い米国と強い欧州が必要不可欠だ」
――世界のパワーバランスは変わりますか。
「同時テロや金融危機を経て米国が世界を引っ張る構図が弱まり、世界はリーダー役を欠く『Gゼロ』の状態にある。グローバリゼーションの影響に対する人々の怒りをおさめる指導者の不在で、一段と不安定な状況になるだろう」
(聞き手はニューヨーク=平野麻理子)
Ian Bremmer 国際政治学者。米調査会社ユーラシア・グループ社長として、企業に政治リスクの分析を提供する。著書に地政学リスクと米外交のあり方を提言した「スーパーパワー」など。46歳。
[日経新聞7月2日朝刊P.1]
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