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イギリス、欧州連合離脱を支持する国民投票の結果に残留派が猛抗議(「Press Association/アフロ」より)
英国、EU離脱で国家解体へ…経済的利益なし、「偉大なる大英帝国」復活という妄想
http://biz-journal.jp/2016/06/post_15673.html
2016.06.29 文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授 Business Journal
■今回の国民投票についての基礎的理解
イギリスの国民投票で欧州連合(EU)から離脱することが支持されたが、今回の国民投票に法的拘束力はないので、あくまで実際に離脱するかどうかは残留派が多数を占める国会で決定される。
また、2020年の総選挙まで政権は変わらない可能性が高いので、基本的に現保守党政権内の離脱支持派からの首相選定になる。しかし、現在議員は残留支持派が多い。イギリスの総選挙は11年に成立した任期固定制議会法によって5年ごとに行われることになり、20年までは下院の総選挙は行われない。確かに任期固定制議会法では議員の3分の2が同意すれば解散できるが、残留派だけで3分の2を取るのは現状では難しい。
イギリスのEU離脱が経済的には合理的判断といいがたいことは、IMF(国際通貨基金)やOECD(経済協力開発機構)をはじめとして、多くの機関や論者が述べている。実際に離脱派勝利の報を受けて、英国ポンドは対ドルで急落して1985年以来の安値につけた。また、世界的な株安も進行し、グローバル化した金融市場は今回のイギリスのEU離脱を歓迎していない。
■主権の回復という「歴史の針の巻き戻し」は現実的か
離脱推進派の中心人物であるジョンソン前ロンドン市長は、「経済での目先の不利益は主権回復に必要なコストで、長期的には離脱が国益にかなうはずだ」と述べており、保守党のEU離脱派は、EU加盟によって失った国家支出や政策決定における自己決定権をEU離脱により取り戻すという「主権回復の戦い」であると主張している。ジョンソン氏がいう国益が経済的な意味であるとすると、EU離脱に伴う悪影響を克服して長期的に経済成長するといえる論拠は乏しい。
EU離脱派は、過去の栄光である「偉大なる大英帝国」復活への第一歩と言って、「歴史の針の巻き戻し」を行おうとしているように思える。そもそも、主に高齢のイギリス人の歴史的認識では、イギリスと欧州大陸は別であり、イギリスは欧州大陸の一部ではないので、離脱支持派にとってEU離脱は英国本来の欧州大陸との関係に戻るだけであろう。そうであれば、19世紀末にジョセフ・チェンバレンが自国民を鼓舞する演説で用いて流行語となった「光栄ある孤立(Splendid Isolation)」というこの時代のイギリス外交を象徴するフレーズが、今後、再び多用されるようになるのではないか。
■歴史の針は巻き戻せない
1991年のソビエト連邦崩壊による冷戦の終焉後に進行し始めた、急速な技術進歩と融合した現在のグローバル化とは、これまでにないレベルでの時間と空間の「圧縮」であり、地球規模での社会・経済・政治・文化(行動規範)領域における結合と相互依存の持続的強化である。
グローバル化が国際化と呼ばれない理由は、グローバル化は国家を必ずしも前提には置いていない世界のネットワーク化であり、グローバル化が急速に進みだして四半世紀がたつ今、国際協調が主権行使の前提となり、国家は主権を単独で自由に行使できない状況にある。権力の代名詞といえる国家主権ですら、その実効的支配力とそれを支える権威の両方が弱まってきている。
グローバル化のパラダイムシフトは、脱中心、脱境界、脱堅牢であり、この3つはすべて主権国家に対してマイナスに働く。事実、個人や企業の国家に対する認識とその重要性は変わってきている。つまり、国家主権はその行使力と権威において超越的な存在ではもはやなく、集合的個人や集合的企業(市場)と共にグローバル化する社会を形成するひとつの権力プレーヤーでしかない。この意味で、国家も集合的存在となり、一国が優位性を強化していくことは難しい。
国際政治学者のイアン・ブレマーは、これを「Gゼロの世界(主導国のない世界)」と呼んでいる。イギリスが大英帝国として圧倒的な経済力と軍事力で世界を支配していた19世紀とは、国家の意味合いと行使力など国家を取り巻く環境は大きく異なる。EU離脱派が主張する主権の回復(完全な主権の獲得)によって強力な主権国家に戻ることで、大英帝国の復活という「歴史の針の巻き戻し」を図ることは、時代の変化を理解できていない時代錯誤であり、ほぼ不可能といえよう。
■スコットランド独立の現実化はイギリスの解体
今回の離脱派勝利を受けて、EU残留支持派が6割を超えたスコットランドから、さっそく独立の是非を問う住民投票を行うという動きが出ている。14年の住民投票ではかろうじて残留派が過半数を超えたが、今回はおそらくイギリスからの離脱を決定してEUに加盟し、イギリスという国家が解体される可能性が高い。
これは、EU離脱によってイギリスという国家の完全な主権回復を手にした途端に、イギリスという主権国家が解体されるという矛盾を内包している。さらに北アイルランドもスコットランドに倣う可能性があり、EU離脱がイギリスの下方分散を加速化させるという皮肉である。望んだ「完全な主権の回復」を得た途端に、国家の主権の絶対力が減衰し、イギリスではなくイングランドになるという皮肉である。「歴史の針を巻き戻す」のではなく、イギリスという国家の歴史的解体という「歴史の針を先に進める」ことになるであろう。
イギリスのEU離脱支持派の勝利をみて、EU加盟国内で脱EUの機運が盛り上がっていると報じられているが、その一方で、スコットランドに留まらず、首都ロンドンにおいても、数万人のロンドン住民がイギリスからの離脱を求めて署名したと報じている。イギリスという国家の求心力の急速な低下である。これは、国家主導の再分配を前提とした経済成長によりミドルクラスが成長し、豊かになれば、国民のコンセンサスを確立できるという近代国家の民主主義の原則はもはや幻想であり、多数決の限界を示す。
小差で多数を占めたEU離脱派を、国民の総意といわざるを得ない一方で、主権をたてに国民のコンセンサスを得ることが極めて困難であるということを示した今回の国民投票は、まさに、国家主権の液状化というパンドラの箱を開けたといえるかもしれない。
次回は、英国のEU離脱をめぐる今後の展開を予想したい。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)
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