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トランプ氏の別荘で見た格差と「社会主義」のいま[日経新聞]
シリコンバレー支局 兼松雄一郎
2016/6/10 3:30
6月7日夜、米カリフォルニア州サンタモニカ空港の古びた飛行機格納庫で米大統領選の集会が開かれた。地鳴りのような「革命」コールが響くなか、「民主社会主義者」を自任する民主党のバーニー・サンダース上院議員が登壇し、「真の変革は下からわき起こるものだ」と聴衆に語りかけた。ロビンフッドの帽子をかぶった同氏の顔の巨大パネルが揺れる。ロビンフッドは資産再分配のシンボルだ。
駆けつけた作家のトッド・シュワルツ氏(60)は「サンダース氏の影響で自分は『社会主義者』になった。深刻な格差もあり資本主義の国、米国が社会主義を受け入れ始めている」と語る。エルサルバドル系移民の共産党組織に所属する運動家バーニー・モト氏(49)も「移民を中心に構成員は数百人規模まで増え続けている」と話した。
米国で資産の共同所有、再分配を主張する人々と出会うのはもはや珍しいことではない。
トランプ氏の別荘前で抗議するためやってきた毛沢東主義者を名乗るヘンリー・キャラウェイ氏(右)。拡声器とトレードマークの毛沢東バッグを愛用する。
米大統領選予備選の趨勢がほぼ決まった3月1日の「スーパーチューズデー」。共和党のドナルド・トランプ候補はオハイオなど各地での遊説を終え、金色の字で自分の名前が刻まれた自慢の自家用機「トランプジェット」でフロリダのパームビーチ空港に降り立った。パトカーを前後に従え自慢の別荘「マール・ア・ラーゴ」に向かう。勝利宣言する記者会見を開くためだ。
■トランプ氏は「格差の象徴」
別荘の前にはトランプ氏が来ると聞きつけ抗議に来た青年の集団がいた。毛沢東の顔がついたカバンと小さな拡声器を持ったリーダー格、ヘンリー・キャラウェイ氏は19歳。自らを「毛沢東主義者」だと名乗った。地元のツアーコンダクターの仕事をこなしながら運動家としての活動を始めたところだ。労働者運動が激しかった英国から来た父親の影響を受けたという。
大躍進運動や文化大革命について知っているのか尋ねると「誰しも間違いはある。現代の激しい格差を是正するためには生産設備や様々な資産の共同保有が必要」と主張した。キャラウェイ氏にとってはトランプ氏こそがまさに否定されるべき激烈な格差の象徴なのだ。
マール・ア・ラーゴの庭には巨大な星条旗がはためく。景観保護のため看板や旗を高く掲げることを禁じている地元の条例をトランプ氏は無視。「表現の自由」と主張し続けて自治体に認めさせたものだ。
「トランプはカネがすべて。地域のことなど何も考えていない」。
近くを通り過ぎる住民は一様にトランプ氏への不満を口にするが、名前は名のりたがらない。
歴史的建造物であるマール・ア・ラーゴを手に入れるため、トランプ氏は建物の前の美しい砂浜をまず買い占め、他には売りにくくさせた。そして壁をつくって海が見えないようにすると脅し、1985年に破格の安値で買い取った。「壁と脅し」は同氏の得意技だ。
マール・ア・ラーゴは空港に近い。上空は飛行機の通り道だ。トランプ氏は騒音被害で空港に訴訟を仕掛け、代償として空港が所有する一部の土地のリース権を手にした。この土地はいま、同氏の名前を冠した豪華なゴルフ場になっている。週末に自家用機で別荘マール・ア・ラーゴに来て、「トランプ国際ゴルフクラブ」に行くのが同氏のお気に入りのコースだ。
トランプ氏が所有するゴルフ場前のバス停。ガラスが割られ、地面に粉々の破片が積もったままだ(米フロリダ州ウエストパームビーチ)
ゴルフ場の警備は厳しい。周囲は二重の生け垣の間にフェンスもはさんだ3重の高い壁が部外者を寄せ付けない。
ゴルフに来る富裕層が決して使わないであろうゴルフ場前のバス停のガラスは割られ、飛び散っている。その横には空のビール瓶が転がる。ゴルフ場の向かいは公立図書館。固定通信契約を持たない貧困層がインターネットを使うたまり場になっている。富める者1%とそれ以外が高い壁を隔てて同居する米国の今を象徴する世界がそこにはある。
■入り交じる愛憎の念
フロリダは温暖な気候も手伝い、老後の人気移住先だ。65歳以上の人口比率は2割近くに達し、全米で最も高いが、フロリダは米国でも貧富の差がより見えやすくなっている場所の一つだ。あふれる移民や貧困層の姿に政府による支援が必要だと強く感じる人々が増えると同時に、治安や雇用に対する不安、壁をつくる必要性を感じる人々もまた増える。
「トランプ氏はビジネスで実績のある強い個性を持ったリーダー。不法移民を追い出し、製造業を米国に戻して雇用を生み出してくれる」。
トランプ氏の熱烈な支持者ヤヌス・ビスクペク氏(50)はそう語る。建設業に従事する同氏にとってはトランプ氏が唱えるメキシコ国境の壁や外資系企業を阻むビジネス上の壁はどちらも大歓迎だ。
別荘の庭園を清掃していたヒスパニック系従業員は「トランプ氏は好人物。ここの仕事は待遇もいい」と語った。「不動産王」として知られる同氏はホテルやリゾート開発など、自身のビジネスで大きな雇用を生んできた。この実績が同氏の売りである雇用創出政策の説得力につながっている。
別荘前で抗議集会に参加していた活動家ウェス・マレン氏(19)は「ずぬけたビジネスの才覚、富と名声。悔しいが米国人が好む特徴を兼ね備えている」と敵対勢力ながらトランプ氏を冷静に評価する。
4月29日、トランプ氏が参加したカリフォルニア州の共和党集会が開かれたサンフランシスコ空港近くの高級ホテル、ハイアットリージェンシー。同ホテルの前では反トランプデモが開かれていた。警官隊が防御に使っていたホテル前の生け垣の壁をヒスパニック系の若者を中心とする参加者が次々と乗り越えていく。
■社会主義団体「経済危機以降、会員増えている」
ここにメンバー集めのために来た社会主義団体PSLの活動家エステバン・ヘルナンデス氏(27)は「経済危機以降、会員は増え続けている。ウォール街占拠運動や黒人の権利向上運動などを吸収し、次々に新たな社会主義団体が生まれている」と語る。PSLも2004年にこの新しい社会主義の波に乗ってできた団体だ。同氏は「社会主義にはチェ・ゲバラのかっこいいイメージがある」という。
冷戦が終結してすでに四半世紀が過ぎた。若者にとって社会主義はファッショナブルな存在に映るようだ。
2010年の世論調査では特定の集団で社会主義的な傾向が強まったことが分かっていた。この時には黒人の55%、リベラルな民主党員の59%が社会主義が好ましいと回答した。最近では米調査会社ギャロップが、1980年以降に生まれたミレニアル世代の約7割が大統領選で社会主義者の候補に投票してもいいと回答したとの調査を発表している。これはミレニアルの親の世代に比べ倍以上の水準だという。生産設備の接収まで主張する毛沢東主義者は極端な例だが、社会主義的な考えを持つ若者は確実に増えている。
トランプ氏が移動に使う自家用機「トランプジェット」は、格差を際立たせる
トランプ氏への激しい愛憎と若い社会主義者たちの増加。これらが映すのは「内向き」になった米国の姿だ。経済危機と都市化という二つの大きなうねりの中で、米国は国外の脅威よりも移民と貧困層という「内なる他者」により強い関心を持つようになってきた。それを雇用や治安を脅かす存在とみるか、友好的に支援すべき対象とみるかは同じコインの裏表だ。
教育などで無料の公共サービスの大幅な拡充を掲げるサンダース氏は今月7日、ヒラリー・クリントン氏の指名獲得が確定した後も、7月の党全国大会まで選挙運動を続ける意向を示した。サンダース氏の躍進に象徴されるように、米国でも社会主義者は奇異な存在ではなくなってきている。無料公共サービスを増やし、国が雇用の面倒を見るべきだという意見を持つ人が増えている表れだ。それはおそらく資本主義の牙城である米国の社会構造の変化を映したものであり、若者の間に一時的に流行する単なる青臭い理想主義として終わるようにはみえない。
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO03264450W6A600C1I00000/?dg=1
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