http://www.asyura2.com/16/kokusai14/msg/139.html
Tweet |
「最も誠実な国」ドイツがトルコに嫌がらせ!100年前のアルメニア人迫害は「ホロコースト」と同格なのか どうなる難民政策
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48810
2016年06月03日(金) 川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信」 現代ビジネス
■世界でもっとも誠実な国民
「虐殺の歴史というのは、無視するものといつでも相場が決まっている。ただ、それ(あるグループの人間全員の虐殺を試み)を告白した国がただ一つある。ドイツだ」(5月27日付ドイツの大手新聞『ディ・ヴェルト』紙のタブロイド版より)
ドイツは、70年間にわたってホロコーストに対する反省と謝罪を国是としてきた。謝罪の歴史は、ドイツ人にとって今や自慢を通り越して、ほとんど快感となっている。
ホロコーストに対する徹底謝罪の裏には、犯罪の規模があまりにも大きく、証拠も出揃いすぎていたため、いまさら否定などしても無駄という事情があった。また、早急に対策を取らなければ、国際社会に復帰できない恐れも強かった。戦争直後のドイツのイメージは、それほど損なわれていたのである。
イメージの改善には徹底的な謝罪しかない、とドイツ人は考えた。
あれだけの殺人を何年にもわたって組織的に行えたということは、ナチに対する国民の協力、あるいは容認があったことは間違いない。だが、しかし、彼らは徹底的な謝罪として、「国民の断罪」ではなく「ナチの断罪」を選んだ。つまり、国民はナチに騙されていただけで、基本的には罪がなかったが、それでも「ナチの罪」をナチに代わって謝罪し続ける、という構図だ。
その努力が、70年かけてたわわな実を結んだ。ドイツ人のイメージは一新し、今では「世界でもっとも誠実でモラルの高い国民」である。前述のジャーナリストをはじめ、ドイツ人が言っているのだから間違いない!
たしかに多くの国民は、国家の思惑などとは無関係に、あるいはそんなことに気づかずに、本当に心から誠実であり、しかも、自分たちが誠実だということをつゆも疑わない。昨年の「難民ようこそ政策」も、この善良で人道的な人々がいてこそ成り立ったことだった。そうでなければ、いくらメルケル首相が発破をかけても、1年で110万人の難民希望者を受け入れたりはできない。
■100年前の出来事を蒸し返す決議案
ただ、ドイツ人の70年をかけた禊は大成功したが、難民政策のほうは半年も経たないうちにほころびが出始めた。いまでは国民の間で不満が噴出し、政府は、多くの間違った決定の辻褄合わせに必死になっているが、なかなかうまくいかない。(これは先週も書いた http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48752)。
メルケル首相の最後の手段はトルコとの共闘だった。トルコが難民問題でEUを助け、その見返りとして、トルコ人のEU入国ビザの廃止や経済援助などが計画されていたのだが、今になってEUは、トルコが言論の自由を認め、民主主義の国にならない限りは、ビザの緩和などありえないと言い始めた。しかし、クルド人問題やIS問題を抱えているトルコが、当局の監視を弱めるような改革などできるはずもない。
さて、このあとの展開がすごい。トルコとの共闘がうまくいかないとわかった途端、ドイツはあたかも嫌がらせのようにアルメニア問題を持ち出してきた。「100年前にトルコ人がアルメニア人を殺したのはジェノサイドである」という決議案を、6月2日に国会で採択する予定だという。
トルコ側はこれまで「ジェノサイド」という言葉を徹底否定している。冒頭に引用した記事は、まさにこのトルコの態度を批判したものだ。当然のことながら、独土関係は今、極端に悪化している。
トルコが行ったアルメニア人の迫害は第一次世界大戦中の出来事で、複雑な事情が絡み合っている。トルコ(当時はオスマン帝国)がロシアを相手に戦っていた最中、トルコ国内のアルメニア人が敵国ロシアに寝返ったという事実もある。もちろんトルコはそれを看過できなかった。
一方、当時、トルコの同盟国であったドイツは現地に駐留しており、積極的に協力していたかどうかは別として、ことの成り行きをつぶさに観察していたことは確かだ。トルコの行ったアルメニア人将校の粛清を、「良いこと」であったと評価しているドイツ軍の記録も残っている。
だから今回の決議案には、当時の自分たちの行動についての反省も含まれるらしい。やはりドイツ人にとって、自らの悪しき過去を認めることは今なお国是で、誠実さの証明なのである。
とはいえ、ドイツの主張はかなり一方的で、トルコの言い分を一刀両断に切り捨ててしまう。
冒頭の記事には、「エルドアンがジェノサイドという言葉を聞くと必ず、異端者を根絶できない異端審問官の怒りが彼の中から噴出する」とか、「ユダヤ人に対するジェノサイドがそうであったように、アルメニア人に対するそれも、この民族が世の中からなくならなければ自分たちの存在が犯されるという強迫神経症の結果」などと悪口雑言が盛り沢山だ。
私は、アルメニア問題とドイツのホロコーストを同格に位置づけるのは無理があると思っている。前者は戦争と関係があったが、後者のユダヤ人虐殺は戦争とは何の関係もなかった。
しかし、同記事はあくまでも両者を比較し、たとえば「欲」が罪の共通の動機であったと主張する。「若いトルコ人は、自分たちが豊かになるために殺戮した。彼らは殺人者であり、盗人であった」と。そうだろうか? アルメニア人の中に、当時のユダヤ人ほど多くの資産家がいたかどうか・・・。
■オバマ大統領の広島訪問の日に
『ディ・ヴェルト』は大手の全国紙だ。それが、大切なパートナー国のことをここまで罵るかと、正直言って大変驚いた(ドイツには、トルコ系移民が300万人おり、彼らのおかげでかつての奇跡の経済成長が実現した)。
トルコがかりに独裁国になりかけているとしても、この国では普通選挙が行われており、エルドアン大統領は国民に選ばれた元首だ。だいたい、世界には他にも独裁国はたくさんあり、ドイツがとりわけ仲良くしているサウジアラビア、イラン、中国も、民主主義国家とは言い難い。しかもこの中には、今なお国内の特定民族を骨抜きにしてしまおうとあらゆる手段で臨んでいる国もある。
なのに、トルコに対してだけは、「ドイツ人は知っている。過去と自己批判的に向き合うことは、外から強制されても完全にはうまくはいかないことを」とは! かなり偏向気味ではないか。
なお、この記事が扱っているのはトルコの「ジェノサイド」だが、掲載されたのはオバマ大統領の広島訪問の日で、まるでそれと関係がないわけではない。いや、大ありだ。なぜなら、この記事が書かれた時点で、オバマ大統領が原爆投下に対する謝罪をしないことがすでに明らかになっていたからだ。
ドイツ人は、原爆投下はホロコーストに匹敵する犯罪だと思っている。なのに、謝罪なしで何の問題もないばかりか、かえって日米関係が強固になるなんて、絶対に面白くないはずだ。
そんなわけで、同日夜のニュースによれば、オバマ大統領が謝罪をするのは、まず、日本が真珠湾攻撃について謝罪してからなのだそうだ。「反省と謝罪」は、ドイツが将来の日米関係に課した宿題か? だとしたら、大きなお世話だ。
そうするうちに、現在、天気晴朗ということで、ふたたびアフリカ大陸から難民ボートがイタリアに向かい始めている。ボロ船なので、先週だけで700人が溺れ死んだという。
難民を非難するのは簡単だ。しかし現実として、彼らは追い詰められ、死んだ思いでボートに乗り込んでいる。あんなゴムボートで外洋に乗り出す恐ろしさを、私は想像できない。そこまでの絶望も知らない。
なのに、こんなときに、100年前のアルメニア問題がジェノサイドであったかどうかなどを議論しているドイツの政治家に、私はいま、かなり腹を立てている。
ドイツ国会は2日、ジェノサイド決議を採択。決議にはメルケル首相、ガブリエル副首相、シュタインマイヤー外相は欠席したが、トルコは即座に駐独大使を呼び戻し、独土関係は 極度に悪化している。
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。