過食130キロ・「処刑してやろうか」…不安募る正恩氏 ソウル=牧野愛博2016年1月9日22時57分 シェア 1301 ツイート list ブックマーク 46 スクラップメール印刷 続きから読む 写真・図版 主な幹部の粛正・失脚と、8日の韓国軍による軍事宣伝放送の内容 2011年末に誕生した北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)政権。数多くの高官を粛清し、2度の核実験を行った。強硬路線の裏で、最高指導者は自らの力量に強い不安を感じているとみられる。生き残りを図るため、核・ミサイルの開発に突き進んでいる。 「米国と追従勢力は心理戦放送を再開するとして、戦争の瀬戸際へと導いている」。北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞(電子版)によると、金己男(キムギナム)党書記が8日、平壌での核実験を祝う集会で演説した。 金正恩氏の誕生日の8日、韓国軍は軍事宣伝放送を再開。指導者として「能力不足」などと痛烈な言葉を浴びせ、幹部の粛清で100人超が処刑されたと主張した。北朝鮮軍に武力挑発の兆候はみられないが、党幹部が放送再開を非難する姿勢を明確に示した。 32、33、34歳との説がある正恩氏について韓国政府は、行き詰まった内政や外交への焦り、年齢や経験不足による党幹部たちへの劣等感などから、強いストレスを抱えていると分析する。体重は11年末の権力継承時、約80キロだったとみられるが、ストレスによる過食から130キロ以上になったとみている。 韓国の朴槿恵(パククネ)大統領は統一政策を強く打ち出しており、韓国政府は、正恩氏が米韓の軍事力を強く意識しているとみる。韓国の専門家の一人は「南に吸収統一されるのではないかという危機感を抱いている」と語る。北朝鮮関係筋は正恩氏らの軍事戦略について「だからこそ、核とミサイルは手放せないと信じ切っている」と語る。6日の核実験も、こうした危機意識と5月の党大会を前に求心力を高める政治的な思惑から出たものとされる。 北朝鮮の内情を知る専門家らによると、ストレスを抱えた正恩氏の振る舞いは内部を混乱させている。 ログイン前の続き「気分次第で怒る」「即興で指示を出す」。平壌市民の間に流れている正恩氏の執務スタイルだ。韓国の国家安保戦略研究院の李寿碩博士によれば、正恩氏は「俺が壁を門だと言えば、開けて入る姿勢が必要だ」と指示。高級幹部らに「この野郎」「処刑してやろうか」などの暴言を吐く。 ■指示に難色、直ちに処刑 14年10月、正恩氏は平壌市中心部の金策工業総合大学の教職員住宅を視察した。46階建ての高層ツインタワー。喜んだ正恩氏は「同じものを(市中心部の)蒼光(チャングァン)通りに十数棟建てろ」と指示した。資材不足から難色を示した平壌市の建設担当書記は、直ちに処刑されたという。 昨年10月、平壌の高級幹部用アパートから、崔竜海(チェリョンヘ)朝鮮労働党書記の一家が突然姿を消した。正恩氏の側近で、崔氏はパルチザンの英雄を父に持つ。「革命化教育を受けるため、地方の農場に送られた」とのうわさが流れた。 近所の人々は首をかしげた。「よほど元帥様の怒りを買ったのか」。革命化教育は、職務執行に問題がある党幹部らが受ける。復帰を前提にした措置で、本人だけが対象のはずだ。だが、正恩氏の李雪主(リソルチュ)夫人と同じ歌劇団出身の崔氏夫人までいなくなったという。 このうわさはそれ以上、広がらなかった。国内の動揺を恐れた北朝鮮当局が、厳しい情報統制を敷いているからだ。 思想統制は厳しい。正恩政権を批判する落書きやビラが発見された場合、地域一帯が捜索されるという。犯人が見つからない場合、周囲の人々は同罪と見なされる。北朝鮮関係筋は「皆おびえている。現状報告から結論までウソで塗り固めている」と話す。 側近として知られる黄炳瑞(ファンビョンソ)軍総政治局長は最近、軍内部で「アラッスムニダ(わかりました)」という歌をはやらせているという。 ■生き残りのため共存路線 最近、韓国の専門家の一部が注目しているのが、北朝鮮の「ツーコリア(二つの朝鮮)政策」だ。北朝鮮は昨年8月、標準時を30分遅らせた平壌時間の設定を発表。昨年は、朝鮮の表記を「KOREA」ではなく、19世紀まで使われた「COREA」が適切とする論文も発表されたという。 康仁徳(カンインドク)・元韓国統一相は5月にある36年ぶりの労働党大会で、北朝鮮が党規約を変える可能性を指摘。「事実上、二つの国家を認め、軍事境界線を国境とするのではないか」と語る。北朝鮮は韓国の解放を唱える統一政策が原則だが、体制存続のために事実上の共存路線にかじを切るとの分析だ。 北朝鮮は生き残りのよりどころとして核・ミサイル開発を続ける。情報関係筋によれば、金正恩政権になり、核・ミサイル関係の情報統制は厳しくなった。関係者の一人は「不気味な動きだ」と懸念する。米韓は6日の核実験で、具体的な実施の兆候を事前に十分つかめなかったという。 米韓が追う北朝鮮の軍事技術の一つに、潜水艦発射型の弾道ミサイル(SLBM)がある。米韓は昨年12月下旬、SLBMを搭載した北朝鮮軍の潜水艦が東部の港を出港した様子を捉えたが、その後見失った。 昨年5月に北朝鮮が「SLBM実験に成功した」とした映像では、ミサイルが斜めに上昇していく姿が映っていた。米韓は、ミサイルを包む防水カプセルを潜水艦から垂直に射出し、水面に出てからミサイルに点火する仕組みとみている。この実験では、カプセルが垂直に水面に到達せず、失敗したとみられる。 昨年11月末、米韓はSLBMの実験の様子をつかんだ。カプセルの射出がうまくいかず、失敗したとみられた。米韓関係筋は語る。「金正恩が小型船舶で実験を見ていた。担当者はひどく叱責(しっせき)されただろう」 核兵器もSLBMも技術力で見劣りする北朝鮮だが、開発をあきらめない。 北朝鮮の朝鮮中央テレビは8日の記録映画で、正恩氏がSLBMの発射を視察する姿を放映した。12月に行われた可能性がある。韓国軍関係者は9日、短距離ミサイルの発射場面との合成映像だとの見方を示したが、カプセルが垂直に射出された可能性は認めた。この韓国軍関係者は「国家の技術力を結集すれば、3〜4年以内に戦力にすることも可能だろう」と語った。 韓国政府は、北朝鮮が12年までに核・ミサイル開発に30億ドル(3500億円)以上を投入したとみている。韓国の専門家は6日の核実験について、「失敗の可能性があるが、技術力は進歩している」という見方で一致している。 北朝鮮の国営メディアは、「水爆実験の成功」を集会や花火、演奏会などで祝う様子を伝えている。(ソウル=牧野愛博) 関連ニュース なぜだ? 北朝鮮美女楽団、北京から突如帰国 「この国には未来がない」 金正恩政権下の庶民の暮らし 「こんな状況いや」 韓国・軍事境界線の町、高まる緊張 脱北者、日本への感謝語る 北京の日本人学校駆け込み 韓国軍、軍事宣伝放送を再開 北朝鮮が最も嫌がる心理戦 アジア・太平洋 記事一覧 .http://digital.asahi.com/articles/ASJ195WS6J19UHBI01B.html
|