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蒸し返される9.11関与疑惑
米・サウジ関係窮地に
2016年05月26日(木)岡崎研究所
4月21日付のワシントン・ポスト紙で、同紙コラムニストのファリード・ザカリアが、米・サウジ関係はいろいろと問題があるが、米国はサウジとの同盟関係を維持した方がいい、と述べています。その論説の要旨は以下の通りです。
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9.11関与疑惑で訴えられるかもしれないサウジ
米議会は近々、9.11の死亡者の親族がサウジ政府を訴えることを可能にする法案を成立させるかもしれない。また、これら親族は、オバマ政権が、「9.11」へのサウジの関与についての議会報告の骨子を公表することを要求している。「9.11」委員会の事務局長は、報告には厳しく吟味されていない資料が含まれ、十分調査が行われないまま関係者に罪をきせる恐れがあると述べている。
イスラムの残酷、不寛容で過激な解釈が広まったことには、サウジ政府にも、少なからず責任があると思うが、Gregory Gaugeが述べているように、事情はそう簡単ではない。彼によれば、「サウジは1980年代に世界の過激派の運動を抑止できなくなり……1990年代以降、サウジ政府自体が過激派運動の標的となった」。つまり米国がアルカイダの第1の標的で、第2の標的はサウジであった。
サウジのワッハーブ主義のイスラムは、1950年代にはイスラム世界の1~2%でしか信奉されなかった。それが石油ブームの到来で、サウジがワッハーブ主義をイスラム世界全体に広めた。それに伴い、イスラムの自由で多元的な解釈が消滅し、不毛で不寛容な解釈にとって代わられた。1980年代にアフガニスタンにおけるソ連との戦いが宗教色を帯びるにつれ、聖戦の原理が広まった。多くの場合、イスラム原理主義はイスラムテロとなった。
イスラム過激派との対立恐れるサウジ
「9.11」以降、サウジは方針を変え、イスラム過激運動に対するサウジ政府の援助をやめた。David Petraeus元イラク駐留米軍司令官によれば、彼の司令官時代の最も重要な戦略的転換は、サウジが聖戦グループの暗黙の支持者から積極的な敵になったことであった。しかしパキスタン、インドネシアなどのイスラム過激派に対するサウジの支援は終わっていない。
サウジ政府は反動を恐れてイスラム過激派と対決したがらない。現在サウジのソーシャルメディアで最も人気があるのはワッハーブの説教者や過激派の理論家で、彼らはイランとの闘争の一部として、反シーア派の教義を広めている。
基本的なジレンマは、もしサウジ王室が倒れれば、とって代わるのはリベラルや民主主義者ではなく、イスラム主義者、反動主義者である可能性が高いことである。イラク、エジプト、リビア、シリアを見てきた経験から、防衛、石油、金融で安定した同盟国サウジを不安定化させるわけにはいかない。
サウジ王政は自らとイデオロギーの輸出を見直し、改革しなければならない。米国は、サウジを孤立させ苦しめるより、サウジに関与した方がサウジは改革をしやすい。米国はサウジに対し道義上の勝利を得ようとするのではなく、サウジの抱える諸困難を受け入れるべきである。
出 典:Fareed Zakaria ‘Saudi Arabia: The devil we know’(Washington Post, April 21, 2016)
https://www.washingtonpost.com/opinions/saudi-arabia-the-devil-we-know/2016/04/21/2109ecf6-07fd-11e6-b283-e79d81c63c1b_story.html
米・サウジ関係には最近いくつかの綻びが見られますが、当面最大の問題は、米議会が「9.11」へのサウジの関与疑惑を追及しようとしていることでしょう。
相互不信に陥った米・サウジ関係
サウジはジュベイル外相を密使としてワシントンに送り、もし米議会が「9.11」に関してサウジ政府の責任を問うことを可能にする法案を成立させれば、サウジが保有する7500億ドルに上る米財務省証券を売り払うと脅したと報じられています。実際にサウジが米財務省証券を売り払うのは困難とみられていますが、この逸話はサウジがこの問題をいかに深刻に考えているかを示すものであり、米・サウジ関係が困難に直面していることは明らかです。
米国はシェールオイルの生産増で、サウジの石油に対する依存が大幅に減り、米国にとってのサウジの重要性が低下したとみられます。
現在の米・サウジ関係を特色づけるものは相互不信です。
ザカリアはこの状況を憂慮し、いろいろと問題はあるものの米国はサウジとの同盟関係を維持すべきである、と述べています。その通りでしょう。
憂慮すべき最大の理由はサウジ政権の安定性です。サウジは油価の大幅下落で、財政困難に直面しています。サウジの新体制は、石油への一方的依存を見直し、歳入の多角化を図ろうとしていますが、これがうまくいく保証はありません。下手をすると、政府が国民にあらゆる福祉を提供する代わりに、国民は政府に服従するというこれまでの王室と国民の社会契約の維持が困難になりかねません。そうなればサウジ建国以来の危機です。
ザカリアはもしサウジ王室が倒れれば、とって代わるのはリベラルや民主主義者ではなく、イスラム主義者、反動主義者である可能性が高いといっています。この見通しは当たっていると思います。
米国は、サウジが基本的問題を抱えていることを理解し、忍耐強く懸案の一つ一つに対処すべきであり、サウジはサウジで、自身の直面する体制の潜在的危機を認識すべきです。
もっとも米・サウジの相互不信と言っても、サウジの対米不信は対オバマ不信であるかもしれません。その場合は、オバマ在任中は、サウジ側から関係改善のイニシアティブが取られる可能性は低いです。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6828
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