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政治に関しては門外漢の経済学者としても、米国のトランプ氏の発言など気になることが多い Photo by Keiko Hiromi
トランプ現象は他人事?日本にもポピュリズム破綻のリスク
http://diamond.jp/articles/-/91763
2016年5月24日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■米国経済のためになるとは限らない
トランプ氏の「アメリカ・ファースト」
足元の経済・金融市場はほとんど硬直状態というところだが、米国の大統領選挙や英国の国民投票など政治にまつわるトピックはそれこそ枚挙に暇がない。政治に関しては門外漢の経済学者としても、米国のトランプ氏の発言など気になることが多い。
最近のトランプ氏の発言を見ると、「アメリカ・ファースト(米国の事情が最優先)で、海外からの輸入品には高関税を課する」としている。そうすることによって、米国内の労働者を保護すると主張する。
しかし冷静に考えると、米国企業が海外で生産した製品を米国内に持ってくる場合、高関税が課されるとなると、米国の消費者はその分の関税を負担することになる。米国企業としても、海外の安価な労働力を利用するメリットを放棄せざるを得ない。
米国ほど大規模な経済になると、経済を巡る様々な要素は複雑に絡みあっており、同氏が想定するほど簡単なことではない。少なくとも、同氏の不動産ビジネスのように単純にはいかない。
また、米国をはじめ世界の主要国が自国の利益ばかり追い求めるようになると、様々な問題を巡って国際協調体制を作ることが難しくなる。その結果、主要国がメリット・デメリットを分け合いながら世界的な問題に対処することができなくなる。それは、世界の政治・経済にとって大きなマイナス要因だ。
卑近な例で見ると、わが国では舛添知事の公私混同問題が取り沙汰されている。これも政治家が担う責任の一つだろう。今後、政治家が背負う責任は一段と重くなるはずだ。
■必ずしも米国だけではない
ポピュリズムへ旋回する主要国の政治
トランプ氏が、共和党大統領候補になることがほぼ確実になっている。今のところ大統領選挙の本選になると、民主党のクリントン氏が勝利するとの見方が多いものの、最近の米国の世論調査では、トランプ大統領誕生の可能性を無視することはできない。
トランプ氏は、これまで「米国とメキシコの国境に高い塀を作って、密入国者を取り締まる」などかなり現実離れした主張を行ってきた。
当初、共和党の内部でも「いずれ脱落するだろう」との予測が多かったのだが、あっという間にライバルが次々に脱落して、同氏が共和党の大統領候補の座を手にすることになった。
米国のアナリストの友人にヒアリングすると、「トランプ氏は稀代のポピュリスト=大衆迎合主義者で、複雑な経済運営を行う能力があるとは思えない」と厳しく批判していた。特に、同氏の経済政策に関する発言は、経済合理性に乏しいものが多い。
それにもかかわらず、トランプ氏が大方の予想を覆して大統領候補になった背景には、米国民の反ホワイトハウスの感覚があるようだ。その根底になるのは、米国政府が適切な政策運営をしなかったために、米国の労働者が海外からの輸入品のおかげで職を失ったとの考え方だ。
トランプ氏は、そうした国民の不満を上手く使っている。トランプ大統領が誕生すれば、「アメリカ・ファースト」の理念に基づいて、輸入品に関税を課して、国民の労働機会を増やすと主張している。その主張は、一見、国民にとって不満の解消法に映ることだろう。同氏は、まさに国民の不満を解決するスーパーマンのような存在に見えるかもしれない。
問題は、そうした保護主義的な貿易政策の実施が困難であることに加えて、中長期的に見ると輸入品の価格が上昇して、必ずしも国民の利益に結びつかないことだ。
■短期的には心地のよい
ポピュリズム政治の行く末
ポピュリズム政治は、国民にとって一時的に心地のよい状況をもたらしてくれる。聞こえの良い主張が繰り返されることで、多くの人は、少なくとも短期的に希望を持つことができるからだ。
しかし、単なる聞こえの良い政策で、本当に国民が幸福になれるわけではない。政策の効果が持続して経済全体が活性化されなければ、国民が抱いた希望は必然的に失望へと変化する。
例えば、わが国の今夏の選挙で、ある政党が「年金交付額を2倍にする」と公約したとする。その裏付けとなる財源があれば、その公約は果たすことができる。しかし、しっかりした財源が確保できないと、当該の公約は単なる選挙対策のウソであることが露呈する。
国民がそうしたポピュリズムに騙されると、最終的にはかなり悲惨な状況になることが多い。かつてギリシャはEUに加盟したことで、借り入れコストが大きく低下した。それに味を占めた当時のギリシャ政府は、典型的なポピュリズム政策を実施した。
具体的には、公務員を増やし失業者を減らした。また年金制度を改正して、55歳の選択定年、しかも年金代替率90%以上(年金給付が勤務時の給与の90%を超える)という、常識的には考えられないほど手厚い仕組みを作った。
問題は、その財源が借金=国債の発行によって賄われていたことだ。その仕組みが続くと、国債発行残高が増加することは避けられない。その国債は、ドイツやフランスなど海外の投資家に購入してもらっていた。
やがてギリシャの国債発行は限界点に至り、国債を返済することはできなくなった。ギリシャ危機はそこから始まった。最終的にギリシャは、IMFやEU諸国からの援助によって財政を切り盛りする一方、厳しい財政再建策の実行を飲まざるを得なくなった。それは、多くの国民に大きな痛手を与えることになった。
■政治は長期的な視点で行うべき
ギリシャが犯した間違いを繰り返すな
ポピュリスム政治が破綻したケースは、ギリシャだけに留まらない。アルゼンチンなどの南米諸国の中にも、ポピュリズム政治の失敗によって、国民に塗炭の苦しみが及んだケースは見られる。
政治家が政治家でいるためには、基本的に、国民から支持を受け選挙で当選しなければならない。激しい選挙戦に勝ち抜くために、どうしても有権者に聞こえの良い、それこそ美辞麗句を並べ立てることはあるだろう。
しかし、実現可能性の低い政策などを吹聴したところで、本当の意味で国民に幸福をもたらすことはできない。むしろ政治家諸氏は、短期的には痛みを伴う政策であっても、それを完遂することでより大きな幸福を国民にもたらすことを理念として持つべきだ。それを分かりやすく説明することが重要だ。
人間はとかく短期的なメリットに目を奪われ、長期的なプラスに目がいかないことが多い。行動経済学では、そうした人間の特性を“マイオピック・ロス・アバージョン(短視眼的損失回避)”と呼ぶ。
政治は、そうした特性を持つ多くの人々を正しい方向に誘導する機能を持つべきだ。決して、ギリシャなどが犯した間違いを繰り返してはならない。
安倍首相が第二次政権を作ってから、既に3年余りの時が流れた。その間、黒田日銀総裁の積極的な金融政策によって、円安を加速し、株価を押し上げることに成功した。しかし、肝心要の3本目の矢=成長戦略が本格的に飛ぶことはなかった。
わが国の多くの企業は、円安の追い風参考記録で高い収益を上げることができた。しかし、円安傾向に変化が見られる現在、わが国企業の実力が試されることになる。
政府は規制緩和などを積極化し、官民挙げてAI(人工知能)やフィンテックなど新しい産業分野を育成する政策を実施すべきだ。それができないと、ポピュリズム政治に失敗した国と同じ道を歩むことになりかねない。
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