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5月3日、米国インディアナ州の共和党の予備選挙で、ドナルド・トランプがライバルのクルズらに圧勝した。米大統領選挙は、まず2大政党がそれぞれの統一候補を夏の党大会で決めた後、11月の最終投票で2人のどちらかを選出するのが事実上の制度だが、トランプは7月の共和党大会の代議員を決める各州での予備選挙で勝ち続け、5月3日のインディアナ州で全代議員の過半数がトランプ支持者で占められる状態にした。これで、トランプが共和党の統一候補になることが確定的になった。ライバル候補だったクルズとカシッチが相次いで敗北を認め、立候補を取り下げた。トランプは、すでに1050万人の共和党員に支持されており、最終的に共和党史上最多の支持を集めることが予測されている。
(How Trump Won?and How the GOP Let Him)
(Trump To Get More Primary Votes Than Anyone In History)
党内民主制度で勝った以上、トランプが共和党の統一候補になり、トランプへの不支持を表明する者は離党するのが筋だが、それは簡単に進んでいない。共和党の上層部の大半は、これまでトランプを落選させようと動いてきた。911以降、共和党の上層部は軍産複合体系の勢力が席巻し、中東での連続的な戦争やロシア敵視策を進めてきた。だが、トランプはこれらの好戦策を採らず、日韓や欧州からの米軍撤退、ロシアとの協調など、むしろ軍産を潰す策を掲げている。
(世界と日本を変えるトランプ)
トランプは、リーマン危機後の米当局による金融延命策に反対で、任期が来たらイエレン連銀議長に辞めてもらうと言ったり、米国債をデフォルトさせるかもしれないと示唆したりしている。彼は、軍産を懐柔するためか軍事費の増加を提唱しているが、その一方で大減税を主張しており、米国を財政破綻に誘導している感じがする。
(Trump would replace Yellen as Fed chief? That's a big red flag)
(Donald Trump's Idea to Cut National Debt: Get Creditors to Accept Less)
('Unpredictable' Trump Sends Mixed Foreign Policy Signals)
大金持ちのトランプは、自己資金で選挙戦を進め、他の候補たちのように党の資金に頼っていないので、党上層部は、カネを使ってトランプを従順にさせることができない。米国では、911以来の好戦策と、リーマン以来の金融延命策(金融界だけ助けて一般市民の生活は悪化)に対し、米国民が不満をつのらせているのに、共和党も民主党も上層部が(軍産や金融界からカネをもらっているがゆえに)国民の不満を無視して好戦策や金融延命策を続けている。だが、好戦策も金融延命策も、もう限界に達し、破綻しかけている。トランプはこの状況を見て選挙に参戦し、米国民の民意に沿う形で好戦策や金融延命策を潰す姿勢を打ち出し、大成功している。
(ニクソン、レーガン、そしてトランプ)
(Trumped! Why It Happened And What Comes Next)
マスコミや専門家(彼ら自身、軍産や金融界のカネで生きている)は、ムスリム入国禁止論や移民敵視など、本質的でないところでトランプを酷評してきた。軍産への従属を国是とする日本でもマスコミがトランプを誹謗中傷し、日本人は軽信的なので、多くの人がトランプを嫌っている。しかし実のところ、トランプが共和党を制したことは、米国の民主主義が、意外にも健全さを失っていなかったことを示している。
軍産と金融界の影響下にある共和党上層部は、トランプを党の主導役として受け入れることが困難だった。党内最高の有力者であるポール・ライアン下院議長は5月6日に「まだトランプを受け入れることができない」と表明した。党内勢力の一つであるネオコンのウィリアム・クリストルは、党内の保守主義者を集めて脱党し、第3政党を作る方針を模索し始めた。
(Donald Trump's Warning to Paul Ryan Signals Further G.O.P. Discord)
(GOP luminaries pick sides on Trump as party rift widens)
とはいえ、共和党上層部のほとんどの勢力は、自分の党を分裂させて壊すつもりがない。共和党の上層部は、米国が2大政党制だからこそ、強い権力を持ち続けられている。彼らは党を割りたくない。トランプを「まだ」支持できないと言った下院議長のライアンもその一人だ。共和党内は近年、金融界を敵視する茶会派の草の根からの台頭などで分裂傾向が増し、ライアンは分裂をうまくまとめる技能を評価され、46歳と若いのに昨秋から議長をしている。うまくやれば彼は2020年の大統領候補になれる。
(Treading Cautiously, House's Ryan To Meet Trump)
(Donald Trump, Paul Ryan To Meet To Work Out Differences; Party Unity Top Priority)
米国は11月に大統領選と同時に上下院議員選挙も行われるが、共和党は多数派(下院の与党)を維持できそうで、ライアンは議長の座を守れそうだ。そんな彼が、トランプと決裂したいと思うはずがない。ライアンはむしろ、自分が党内の反トランプ派のまとめ役になってトランプと交渉することで、既存の党上層部とトランプを和合させたいように見える。ライアンはトランプに面会を申し込み、2人は5月12日に会う。両者の交渉は一度で妥結しないかもしれないが、7月の党大会の前までにまとまるだろう。
(It's Donald Trump's Party, Not Paul Ryan's)
不動産事業で大儲けしたトランプは2011年まで、共和党より民主党に多く献金していた。その後は共和党に強く肩入れしたが、それは自分が大統領になるための動きだった可能性がある。草の根の支持を集めて民主的に共和党を乗っ取り、既存の党上層部に自分を支持しろと迫るトランプは、共和党に対して「敵対的企業買収」をかけて成功した感じだ。トランプにとって、共和党は自分が大統領になるための買収先でしかないが、ライアンやその他の共和党幹部の多くにとって、共和党は自分たちの人生そのものだ。トランプのせいで共和党が分裂解体すると、トランプ自身は大して困らないが、ライアンら議員団は非常に困る。
(Paul Ryan is bluffing with no cards, and Donald Trump knows it)
(Donald Trump - Wikipedia)
(Republican Party Unravels Over Donald Trump's Takeover)
既存の共和党上層部は、敵対的買収を受けて陥落した企業の経営者員たちと同様、草の根の従業員(党員)の士気を気にして強気に振舞うが、裏では買収屋にすり寄ってと何とか折り合いをつけようとする。すでに、ジョン・マケイン上院議員、ディック・チェイニー元副大統領ら、ゴリゴリの軍産複合体の共和党の重鎮たちが「誰であれ、党内選挙で勝った人を大統領候補として支持すると、私は以前から言ってきた」という言い方で、トランプ支持を表明している。ブッシュ家は元大統領の父子がそろってトランプ不支持を表明したが、これは共和党を分裂させる目的でなく、むしろブッシュ家が政治から手を引く宣言をしたように見える。一つの時代が終わり、次の時代が来ている。
(McCain supports Trump for President)
(Bush 41, 43 won't be endorsing Trump)
共和党が分裂せず、米国の2大政党制が崩れないなら、トランプ化する共和党を離脱して新政党を作っても、2大政党以外を強固に排除する米国の選挙制度に押しつぶされ、ほとんど政治力を発揮できない。ネオコンのクリストルたちは「真の保守主義者(のふりをした守銭奴)」たちを誘って党外に出ることで、共和党浄化作業の「ゴミ箱」として機能しようとしている。
(Conservatives Are Taking The Wrong Lessons From Trump's Success)
トランプ支持を表明した人々の中で私が最も驚いたのは、マケインやチェイニーでない。ラスベガスなどのカジノやリゾートを経営する不動産王で、共和党に巨額の献金をしてきたシェルドン・アデルソンが、5月6日にトランプ支持を表明したことだ。ユダヤ人である彼は、ネタニヤフ首相らイスラエル政界とつながり、米共和党に対し、親イスラエルの政策をとり続けることを強要してきた。
(Sheldon Adelson backs Donald Trump, says he's good for Israel)
(Casino magnate Sheldon Adelson endorses Donald Trump for president)
アデルソンは、イスラエルで最大の部数を持つ日刊紙(フリーペーパー)のイスラエル・ハヨム(Israel Hayom)も経営(所有)しているが、同紙は「ネタニヤフ新聞」と揶揄されるほど、ネタニヤフや与党のリクードについて好意的に報じ続け、イスラエルの言論の極右化や、09年からのネタニヤフ政権の長期化に貢献してきた。共和党を含む米政界は911以来、軍産複合体とイスラエル右派が合体した「軍産イスラエル」の強い影響下にあるが「在米イスラエル右派」として大きな力を持つアデルソンは、共和党が軍産イスラエルに対して従順であるよう仕向けてきた。
(Israel Hayom - Wikipedia)
(How Sheldon Adelson is burnishing Donald Trump's image in Israel)
そんな軍産イスラエルの黒幕であるアデルソンが、軍産の共和党支配や、米国の覇権主義を破壊しようとするトランプに対し、支持を明言したのは驚きだ。トランプは昔から親イスラエルで、彼の娘のイヴァンカはユダヤ人実業家と結婚してユダヤ教徒に改宗している。だが、トランプが大統領になって主張通りの世界戦略をとり、米国が覇権を減退させて中東など世界各地から軍事的に手を引いたら、イスラエルは窮乏する。昨年末、アデルソンが共和党内でトランプを攻撃中傷する運動に資金を出しているのでないかと分析者の間で推測されたが、その後アデルソンがトランプに関して好意的にコメントし、イスラエルの自分の新聞ハヨムにトランプ批判を載せることを禁止し、むしろハヨムに親トランプ的な記事を書かせていることがわかった。アデルソンのトランプ支持は長期的なものだ。
(Sheldon Adelson's Israeli Newspaper Has a Crush on Donald Trump)
(Republican donor Adelson and Trump may be aligning on Israel)
民主党ではクリントンが好戦派を演じ、親軍産・親イスラエルを強くかがけている。好戦的な米国がイスラエルを守ってくれるという従来の構図を維持したければ、アデルソンはトランプ支持を表明せず、クリントンを財政支援するのが良い。しかしアデルソンはトランプを支持した。これはイスラエル右派がトランプを支持したのと同じだ。
(Clinton denounces movement to boycott Israel)
米国とイスラエルの関係を見ると、すでに現オバマ政権が、イスラエルの仇敵だったイランに対する核兵器開発の濡れ衣を解いてイランを台頭させ、シリア内戦の解決もロシアに任せてしまっている。イスラエルの周辺では、シリア、レバノンが露イランの傘下に入り、エジプトも親米より親露に傾いている。米国の中東支配が崩れ、イスラエルは米国に頼っても意味がなくなっている。クリントンが次の大統領になっても、この傾向は多分あまり変わらない。むしろ、建前だけ2国式解決(パレスチナ国家創設)のパレスチナ問題で、米国は、解決する気がないくせに人権問題やユダヤ入植地建設反対を言ってイスラエルを非難し続けそうだ。
(シリアをロシアに任せる米国)
(イランとオバマとプーチンの勝利)
イスラエルとしては、いっそのこと米国に頼らず、ロシアのプーチンと話をつけ、パレスチナ問題で黙っていてもらうと同時に、イランやその子分のレバノンのヒズボラがイスラエルを攻撃しないようプーチンから圧力をかけてもらう方が効率的だ。ネタニヤフは最近足しげくモスクワを訪問し、プーチンと長時間にわたって会談している。ロシアの中東支配が安定すれば、いずれプーチンの仲裁で、敵同士だったイスラエルとイラン、イスラエルとサウジアラビア、サウジとイランなどが和解できる可能性が増し、イスラエルは国家存続できる。米国(軍産)は長年これらの敵同士の対立を煽ってきたが、プーチンは対照的に中東の安定を重視している。軍産にすり寄るクリントンはロシア敵視を繰り返し表明しており、彼女が大統領になったらイスラエルはロシアに接近しにくい。対照的にトランプは、プーチンを評価しており、イスラエルのロシア接近をむしろ喜ぶ。
(Russia seeks bigger Middle East role through alliance with Israel)
(国家と戦争、軍産イスラエル)
(イスラエルがロシアに頼る?)
トランプが共和党を制した直後、イスラエル政府(法務相)は、これまで軍事占領地としてイスラエル軍による軍政が敷かれてきたヨルダン川西岸のうち、パレスチナ人の人口密度が低い「C地域」(広さとして西岸の60%、砂漠が多い)について、これから1年かけて、軍政下の占領地から、国内法が適用されるイスラエル国内に転換していく法的措置をとっていくと発表した。国際的に批判されているユダヤ入植地のほぼすべてがC地域にある。イスラエルはこれまでC地域からパレスチナ人を追い出す作戦を続けてきたが、それでもC地域に住み続けるパレスチナ人にはイスラエル国籍が与えられ、イスラエル国民の2割を占める「アラブ系市民(2級市民)」の仲間入りする。
('Israeli annexation bombshell imminent')
(Shaked move towards 'settlements annex')
この動きは、イスラエルが2国式を破棄し、西岸の60%の土地を国内に併合することを意味している。イスラエルが西岸併合に向かっていることは以前から感じられ、私も3月に記事にした。西岸併合の正式表明が、トランプの共和党制覇の直後であることが重要だ。西岸をABCの3地域に区分したのは95年のオスロ合意で、AとBがパレスチナ人の人口密集地(Aはパレスチナ自治政府の自治地域、Bは自治政府とイスラエル軍の共同管理)で、それ以外がCだ。パレスチナ人の大半(280万人)はAとBに住んでいるが、ABは飛び飛びに存在し、都市間にあるC地域(パレスチナ人口30万人)がイスラエルに併合されると、残りのAB地域だけでパレスチナ国家を作ることが地理的に不可能だ。
(West Bank Areas in the Oslo II Accord)
(西岸を併合するイスラエル)
パレスチナ人は今後、四方をイスラエルに囲まれた、アパルトヘイト時代の南アフリカの黒人ゲットー(ホームランド)と同様の、都市や農村の体裁をとった収容所で永久に過ごすことになる。ひどい人権侵害が続くことが確定的になったが、オバマ政権は大した反応をしていない。ムスリム排除を掲げる親イスラエルなトランプや、人権を問題にしないロシアのプーチンは、この新事態を看過してくれるだろう。トランプはイスラエルの西岸入植地の拡大を支持している。このように見ていくと、アデルソンのトランプ支持が理解できるようになる。
(Trump to Israel: Keep Building Settlements)
(Sheldon Adelson - Wikipedia)
(西岸と隣接する元米英傀儡国のヨルダンでは最近、アブドラ国王の権力が強化され、彼は独裁的な力を手にした。米露が了承しないと、この変更は実現しなかった。もしかするといずれ、イスラエルやロシアやトランプは、AB地区に住むパレスチナがヨルダンに移住することを隠然と奨励し、これをパレスチナ問題の最終解決とするかもしれない。すでにヨルダン国民の6割はパレスチナ人で、ヨルダンの最大野党はパレスチナ人のハマスの系列だ。今後パレスチナ人の割合が増えてもヨルダンが「民主化」されぬよう、国王の権力を強化したのでないか。ヨルダン国王は、自らの権力増大と交換に、パレスチナ人の追加受け入れを了承した可能性がある。中東民主化の時代は去った)
(Jordan King Abdullah set to consolidate executive power)
(中東問題「最終解決」の深奥)
イスラエルだけでなく、中東諸国の多くの指導者が、中東を混乱させることしかやらない米国に愛想を尽かし、モスクワを頻繁に訪問し、プーチンにすり寄っていると、オバマ政権の元中東担当責任者であるデニス・ロスが指摘している。大失敗した中東民主化策を推進したブッシュ家(パパは穏健派だったが)は、トランプの台頭、中東民主化策の完全破綻とともに、政界を去る宣言をした。サウジでは、対米自立をめざす30歳のモハメド・サルマン副皇太子が、王政内の対米従属派と暗闘を続けている。モハメド・サルマンが進めるサウジの対米自立も、トランプが大統領になったらぐんぐん進む。サウジの軍事的な対米依存を批判してきたトランプは、サウジの自立を支持(黙認)するだろう。
(Middle East Leaders Give Up on Obama, Turn to Putin - US Diplomat)
(サウジアラビア王家の内紛)
トランプが席巻した結果、共和党で見えてきたのは、これまで合体して共和党や米政界を支配してきた「軍産」と「イスラエル」が、別々の道を歩み出して分裂している新事態だ。軍産はNATO延命のためロシア敵視の道を暴走しているが、イスラエルは隠然と親ロシアに転じている。この事態は、米国がイラクやシリアやエジプトで戦争や下手くそな民主化扇動をやって失敗し、イスラエルがそれに迷惑するようになった数年前から始まっていたが、トランプの台頭で顕在化が一気に進んだ。この傾向は長期的なもので、今後さらに常態化する。軍産イスラエルが米国を支配した時代の終わりが来ている。トランプは、軍産イスラエルのプロパガンダ力の低下を見破り、大統領に立候補して国民の支持を集め、軍産を破壊した。米国は民主主義が生きている。私はこんな米国が大好きだ(皮肉でなく)。
軍産複合体は、もともと英国が冷戦を起こして米政界を牛耳るために作られた。冷戦終結後、英国は金融重視になって軍産を見捨て、軍産は弱体化(亡霊化)したが、90年代後半にイスラエルが軍産の皮をかぶって(軍産に背乗りして)米国支配に乗り出し、クーデター的に起こされた911事件を機に米政界を席巻した。こうした経緯を見て湧いてくるのは「軍産は、イスラエルが抜けた後、再び亡霊化して消えていくのでないか」という予測だ。イスラエルが軍産抜きで存在し続けるのと対照的に、軍産はぬいぐるみの「皮」でしかなく、誰かが黒幕として動かしてくれないと消滅していく。日本が黒幕になればいい、と対米従属の人は思うかもしれないが、アングロサクソンやユダヤといった、米国内に強い勢力を持つ英国やイスラエルと異なり、戦後の日本は米国内に勢力を持っていないので無理だ(戦後の日本政府は、米国に忠誠を疑われぬよう、日系人と縁を切った)。
イスラエルについて延々と書いたが、そこから読み取れるもう一つのことは「クリントンは勝てない」ということだ。クリントンはもともとリベラル派なのに、軍産イスラエルにすり寄って大統領になるため、無理をして好戦派としてふるまい、人権侵害だらけのイスラエル極右を大げさに支持してきた。クリントンは、軍産イスラエルの米国支配が今後もずっと続くことを前提に、大統領選を展開してきた。しかし、トランプの台頭と、アデルソンのトランプ支持表明が示すとおり、クリントンの戦略はもはや時代遅れだ。共和党では、もともと草の根の茶会派(孤立主義)だったランド・ポール上院議員がイスラエルにすり寄って大統領選に参戦したが、トランプに負けることが確定して敗退している。
(Rand Paul Will Endorse Donald Trump, the Least Libertarian GOP Nominee in Decades)
オバマ大統領は3月、雑誌アトランティックのインタビューの中で、クリントンの好戦性を何回も批判している。オバマは、サウジやイスラエルの対米依存を批判する一方でロシアを隠然と持ち上げており、事実上の姿勢がトランプと似ている。オバマは、アトランティック誌に記事を書かせることで、自分がトランプ支持・反クリントンであることを(わかる人にだけわかるように)示したと思える。そのオバマ政権が運営するFBIは最近、クリントンが国務長官時代に私的なサーバーで国家機密を含んだ電子メールのやり取りをしていたことの違法性を捜査している。クリントンにとって選挙戦で最も大事な最後の半年間に入った今、オバマがFBIを使ってクリントンの選挙戦を妨害するかのように、メール事件の捜査が本格化している。クリントンがトランプに負ける公算が高まっている。
(FBI Investigation Of Hillary Clinton May Involve More Than Her Emails)
(軍産複合体と闘うオバマ)
トランプの席巻とともに、世界中の対米依存(従属または牛耳り)の諸国が、米国依存を低めていく「B計画」を強化している。イスラエルやサウジはロシアに接近し、英国は6月末の国民投票を経てEUとの一体化を強めようとしている。ドイツやフランスは、米国が覇権を低下させてNATOが形骸化したらEUの軍事統合を進め、ロシアと和解できる。トランプはNAFTAにも反対なので、カナダやメキシコは様子見に入っている。
(Ron Paul, Secretary of State?)
韓国は近年、米国と中国の間のバランスをとっており、米国が駐留米軍を撤退すると中国依存が強まる。在韓米軍の撤退には、中国が主催する6カ国協議の進展による米朝対立の解消が不可欠だ。トランプは、中国に圧力をかけて6カ国協議を進めさせる策を表明している。北朝鮮はその時に備え、中国風に背広を着て金正恩が登場する党大会を開いたりして、新たな宗主国である中国に配慮しつつ金正恩の独裁を強化している。米国が新政権になり、北の独裁強化が一段落したら、6カ国協議が再開されるだろう。協議が成功すると、朝鮮半島は米国の覇権を離れ、中国の覇権下になる。この覇権転換は、10年以上前のブッシュ政権の高官だったコンドリーザ・ライスが表明していたシナリオだ。
(North Korea ready to improve relationships with 'hostile' nations)
(北朝鮮の政権維持と核廃棄)
(日米安保から北東アジア安保へ)
対米依存諸国の多くは、対米依存以外の「B計画」がある。それが全くない数少ない国の一つが、わが日本だ(ほかは米国に近すぎるカナダぐらいだ)。トランプは、日本だけでなく、韓国、ドイツ、サウジなど米軍が駐留するすべての国に対し、駐留米軍の経費を全額地元国で払うよう求めている。日本以外の国々は、全額払ってまで米軍にいてもらう道理がない。たとえばドイツの米軍基地は、米軍のアフガニスタン占領の経由地として使われ、ドイツの基地がなければ米軍のユーラシア支配が不可能になる。ドイツの米軍基地は、ドイツのためでなく米軍のためにある。ドイツには「不必要なロシア敵視ばかりやる米軍は、ユーラシア支配をやめて出て行ってもらってかまわない」という世論がある。
(Japan ambassador takes veiled swipe at Trump's 'America First' stance)
このような他国の状況と対照的に、日本だけは「米軍がいないと中国の脅威に対抗できない」「日米同盟が消失(希薄化)したら日本はやっていけない」という、対米依存の見方しかなく、米国に依存しない国策が皆無だ。中国に対する不必要な敵視をしないなら、米軍の西大西洋戦略は、グアムとハワイだけで十分に機能する。日本はこの10年ほどかけて、対米従属を続けるため、尖閣問題などで中国との関係を意図的に悪化させ、中国を深刻な敵国に仕立てた(対照的に、カナダは深刻な敵国を作っていないのでB計画がなくても困らない)。米国の衰退(自滅)傾向は、03年のイラク侵攻あたりから見えていたのだから、日本はオーストラリアや韓国、東南アジア諸国と同様、米国と中国の両方とバランスをとって協調する策をとるべきだった。08年の鳩山政権はそれをやろうとしたが、対米従属プロパガンダ(官僚機構傘下のマスゴミと、その軽信者たる多数の国民の世論)に負けて潰れた。
(尖閣で中国と対立するのは愚策)
(多極化への捨て駒にされる日本)
(Japan and the rest of the world ignore Donald Trump at their own peril)
この状況下でトランプが大統領になり、公約通り日本にも米軍駐留費の全額負担を求めてくると、まず日本は全額負担に応じようとするだろう。日本政府は思いやり予算として、すでに米軍駐留費の半分以上を負担している。これを全額にすることは、財政難の日本にとってつらいが、不可能でない。しかしトランプ政権は、在日米軍駐留費を再試算してふくらませ、まだ全額でないぞと言ってきそうだ。トランプの真の目的はおそらくカネでない。世界を対米依存からふりほどき、国際政治の構造を転換(多極化による活性化)し、それによって自国の政治体制を再浄化(軍産を破壊)することが真の目的だろう。
日本に対してだけ対米従属を認めると、そこから軍産が蘇生・延命しかねない。日本の対米従属は、トランプが進める米国と世界の政治浄化作業にとって邪魔者だ。米政府は、日本に対する嫌がらせを延々と続けるだろう。他の国なら、米国による嫌がらせが反米ナショナリズムの扇動につながり、対米自立につながっていくが、日本では、米国による嫌がらせを無視するマスコミや教育の体制が昔から確立しており、いくら米国が嫌がらせをしても、日本人には全く何も伝わらない。
しかし米国には、一方的に在日米軍を引き上げる手がある。トランプは、財政赤字の急拡大を打ち出す一方、米国債の債務不履行を示唆し、米連銀によるドル延命策にも否定的だ。1971年のニクソン政権による金ドル交換停止のように、トランプ政権は米国の財政破綻を意図的に演出する可能性がある。そうなると、米政府は緊急策として在外米軍の完全撤退を発動するだろうから、日本がいくら思いやり予算を出しても在日米軍の撤退を止められなくなる。
(Great, Donald Trump Threatened To Default On The National Debt)
在日米軍が撤退し、日米同盟が形骸化して対米従属ができなくなると、日本はゆるやかに対中従属に転じていくだろう。昨年、オーストラリアの潜水艦を日本が受注しそうな件を機に、中国の影響圏に隣接する西太平洋地域に、日本が豪州やフィリピンなどと一緒に独自の影響圏を作っていく「日豪亜同盟」のシナリオが見えかけたが、それは豪州が潜水艦を日本でなくフランスに発注することを決めたため消えた。日本はこの10年、世界情勢の全体を見据えた上で自国にふさわしい対米従属以外の国家戦略を練る必要があったが、日本の趨勢は逆に、政府も民間も国際情勢に対する誤解と無知と無関心を増大してきた。
(◆潜水艦とともに消えた日豪亜同盟)
(見えてきた日本の新たな姿)
日本が対米従属をやめたら自前で核兵器を持って中国に戦争を仕掛けるという懸念が国際的に存在するが、これは今のところ杞憂だ。日本は以前から国内的に、米国に頼らず自力でどこかの国と対抗(競争、論争、戦争)する気力を国民が持たないようにする教育的な仕掛けが作られている。日本で権力を握る官僚機構は、好戦性や闘争心をできるだけ削ぐ教育を長く続けており、日本は自力で外国と能動的に対立できない国になっている。喧嘩や論争を好む若者は昔よりはるかに少ない。喧嘩や議論が好きなのは、官僚が無力化教育を開始する前に大人になった中高年(じじい)ばかりだ。この無力化の教育策は、対米従属の永続を目的としていたのだろうが、米国が覇権を失って中国が台頭する中で、日本を中国に立ち向かわない、中国やその他の国と競争・論争・戦争できない国にしている。これは「平和主義」でなく「従属主義」として日本で機能している。
中国は、日本のこうした状況を分析しているだろうから、日本のプライドをできるだけ傷つけないようにして、日本人が中国に感謝するように仕向けつつ、日本が中国にゆるやかに従属する体制(半鎖国・半従属)に移行させようとするだろう(ヤマトの琉球王国化)。官僚機構は、自分たちの権力が維持出来れば「お上」が天皇だろうが米国だろうが中国だろうがかまわないので、中国が日本の官僚隠然独裁を容認することを条件に、中国の策略に喜んで協力するだろう(売国奴)。官僚は、日本がどこかの国に従属している方が国内で権力を保持しやすい。国会でなく官僚が実質的な権力を握る限り、日本の真の民主化や国際的な自立は、この先も半永久的に起こらない。
(民主化するタイ、しない日本)
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