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トランプ旋風「アメリカ大統領選」最新現地リポート
http://president.jp/articles/-/17788
2016年4月19日 PRESIDENT
「メキシコとの国境に万里の長城をつくる」。そんな不動産王の人気に、米国政治が戸惑っている。急進の影にあるのは、有権者の「怒り」だ──。
■「アウトサイダー」に中高年の白人が期待
2月23日夜、ラスベガスのカジノ兼リゾートホテル「トレジャー・アイランド」では中高年の白人有権者が長蛇の列をつくっていた。アメリカ大統領選挙のネバダ州共和党党員集会で圧勝したドナルド・トランプ氏(69歳)の勝利集会に参加するためだ。
(写真=時事通信フォト)
「腰痛持ちだから」と言ってスロットマシーンの椅子に腰かけて入場の順番を待っていたラスベガス出身のアデル・プールさんは「彼なら、政治家が解決できない問題を解決できる」と話す。
「みんな、彼に首ったけ。知的でパワフルで、有能なビジネスマン。政治家はウソばかりで、もううんざりよ」
列に並んでいたラスベガス近郊に住む教師のイボンヌ・ジャイルズさんも、党員集会でトランプ氏に一票を投じた。
「外交政策や移民問題に通じ、『イスラム国』もコントロールしてくれる。『米国を再び偉大な国』にできるのは彼だけ。クリントンにも勝てる」と「トランプ大統領」の誕生に期待する。
この日、トランプ候補は、2位のマルコ・ルビオ候補(44歳)に20ポイント以上の差をつけ、45.9%という得票率で圧勝した。さらに3月1日の「スーパーチューズデー」でも11州中7州を制覇。泡沫候補として消えていく「はず」だった同氏が一大旋風を巻き起こし、快進撃を続けている。
こうした「トランプ旋風」とは、いわばトランプ氏を「アウトサイダー的世直しヒーロー」とみなす動きだ。
トランプ候補は既成の政治家を激しく批判する。いわくワシントンの政治家は、ウォール街からの政治献金で操られている。民衆のための政治ができるのは、大金持ちの自分だけだ――。
「不法移民」を標的に怒りをかき立てる
さらに中国や日本、メキシコを「敵」に見立て、「敵」から米国を奪還できるのは自分しかいない、と訴える。富裕層に所得が集中する経済格差に「怒り」を持つ有権者は多いが、その矛先を外国の「敵」に向け、そして自分が大統領になれば、「米国を再び偉大な国にする」と連呼する。
米民間世論調査機関ピュー・リサーチ・センターの最新調査(3月4日付)によると、有権者がトランプ氏を支持する最大の理由は「政治家ではない、アウトサイダー性」。そして、「有能なビジネスマンであること」「自分の考えを歯に衣着せず話すこと」「移民問題」と続く。
米国の雇用はかなり改善しているが、中間層はオバマ政権が喧伝する景気回復の恩恵とも無縁だ。米政府は、ウォール街やシリコンバレー、大企業の利益を優先させ、製造業軽視の政策を推進。「持つ者」が「さらに持つ者」になるなか、中間層は弱体化の一途をたどっている。環太平洋連携協定(TPP)も、さらなる雇用喪失につながるという危機感が広がっており、トランプ氏は「TPP反対」を打ち出す。
仮にトランプ氏が大統領になっても、グローバル化の反転など無理な話だが、「『怒り』をかき立てて票につなげるのは効果的な選挙戦略だ」とカリフォルニア州ロヨラ・メリーマウント大学のマイケル・ジェノビース教授は言う。
「トランプ旋風」を支えているのは、主にブルーカラー層の白人有権者だ。ジェノビース教授によると、米国では、歴史的に少数派がスケープゴートにされる傾向がある。1920〜30年代はアイルランド系とイタリア系の移民。そして今、トランプ氏が狙い撃つのはメキシコ系移民だ。
「自分たちの問題を誰かのせいにするやり方だ。白人有権者の間で、米国が非欧州系移民の手に落ちてしまうという『怒り』が渦巻いている」
人種的反発を支持の背景にしているのはトランプ氏だけではない。トランプ氏に次ぐ勢いのあるテッド・クルーズ候補(45歳)は、保守派の草の根運動「ティーパーティ」の支持を受けている。「ティーパーティ」は参加者の多くが白人で、医療保険制度改革「オバマケア」の撤廃を叫ぶ。2009年にはオバマ大統領への人種差別的な誹謗を行うなど、偏狭な主張で知られている。
「トランプとクルーズが代表するように、今年は『アウトサイダーの年』だ」(ジェノビース教授)。
「怒り」に訴えるトランプ氏の戦略は、グローバル化やIT化から置き去りにされた白人中高年の心をわし掴みにした。ネバダ大学ラスベガス校のポール・デービス教授は「(大統領選候補者としての)イデオロギーがゼロでも、『怒り』を代弁してくれるトランプに有権者はひかれる」と言う。いわばトランプ氏は最後の「希望」なのだ。
2月17日、サウスカロライナ州予備選に先立ち、ニッキー・ヘイリー州知事はルビオ氏の支持を表明し、メディアも大々的に報じた。だが、その3日後の予備選で、同候補はトランプ氏に10ポイント差で破れている。「インサイダー」からの支持は、もはや負のレッテルでしかない。トランプ氏も今年1月にサラ・ペイリン元アラスカ州知事から公式に支持を受けたが、スーパーチューズデーの同州選挙ではクルーズ候補に負けている。「共和党主流派から支持されればされるほど、その候補者は『主流派』とみなされ、有権者から嫌われる」(デービス教授)。
これは米国の象徴だった「二大政党制」の崩壊とも言い換えられる。
一般党員の心掴めずジリ貧のルビオ候補
共和党の主流派は、トランプ候補でもクルーズ候補でもなく、「共和党のオバマ」とも呼ばれるルビオ候補を推している。ルビオ候補はネオコン(新保守主義)で、オバマ大統領の最大の功績の一つである「イラン核合意」の撤廃を主張しているが、その一方、キューバ系移民2世でもあり、不法移民問題には寛容。トランプ陣営と違い、外国メディアの取材にも協力的だ。
だが、今回は4年前とは異なり、ルビオ氏のように穏健な共和党主流派は分が悪い。党員集会直前に開かれたルビオ候補とトランプ候補の集会の規模を比べても、主流派の劣勢は明らかだ。ルビオ氏は「『怒り』は問題解決にはならない。最も声が大きい人ではなく、勝てる候補者を選ぶのが選挙だ」と訴えたが、会場の熱気は今一つだった。カリフォルニアから妻と駆け付け、ルビオ氏とトランプ氏の集会に出たロブ・ダムウィジクさん(60歳)によれば、トランプ氏の集会には8000人が押し寄せたという。「トランプ氏は『ミッシング・リンク』。『米国を再び偉大な国に』という主張に真摯さを感じた」。
ミッシング・リンクとは、人類の進化における空白の時期を指す。
今回の予備選では、これまで民主党より低かった共和党の投票数が、多くの州で大幅に増えている。ネバダでは今年7万5000人が投票したが、前回の12年は3万3000人だった。一方、民主党は08年に比べ約30%減となった。デービス教授は「トランプ効果だ」と指摘する。
投票数の多さは主流派の推すルビオ候補には逆風になる。3月15日のフロリダ州予備選で圧勝しなければ、撤退を余儀なくされるだろう。ネバダ大学ラスベガス校のデービッド・ダモーレ准教授は「(ルビオ候補は)多くの大物議員から支持を取り付けたが、ネバダでも敗れた。主流派と一般共和党員との溝が広がっている」と分析する。
「オバマ旋風」と相似本選でも勝てるか
前出のデービス教授は、11月8日の一般投票でも、民主党の指名を勝ち取るはずのクリントン候補を、トランプ候補が破る、と予想する。ヒントは、08年の「オバマ旋風」である。
まず共通するのが、「投票とは無縁だった有権者が一票を投じた」。オバマ氏は「希望と変革」を、トランプ氏は「米国を再び偉大な国に」をキャッチに、選挙戦を政治的ムーブメントにつなげた。また、いずれもメディアの注目を集め、「実像以上に存在が巨大化している」。そして、どちらも「政治経験に乏しいアウトサイダーである」。「あのときとそっくりだ。トランプが本選で勝つと私が予想する理由は、そこにある」(デービス教授)。
米国では、党ではなく、「候補者」を選ぶ傾向が強まっており、今や大半が無党派層だ。トランプ氏は共和党から立候補しているが、共和党の価値観とは相いれない。トランプ候補の勝利は「米国政治の変容、共和党の終焉を意味する」とデービス教授は言う。
「新勢力、新政党が生まれ、二大政党制の終わりが訪れる。党のインサイダーに候補者を決める力がないとしたら、もはや党として意味をなさない。今回は主要な『変革の選挙』になるだろう。歴史を振り返ったとき、『あの年、すべてが変わった』と」
スーパーチューズデーの夜、トランプ氏はフロリダでの記者会見で、自らを「ユニファイアー(統一する人)」と宣言し、自身への批判を繰り広げる共和党議員への配慮をみせた。
「共和党、そして、すべての人たちが一つになるよう望んでいる。そうすれば、われわれは無敵だ」
米国の「融合」を訴えたオバマ氏を思わせる口ぶりで大統領指名候補への道を突き進むトランプ氏――。共和党崩壊のXデーが迫りつつある。
在米ジャーナリスト 肥田美佐子
東京都出身。「ニューズウィーク日本版」の編集などを経て、1997年渡米。米系ケーブルテレビネットワークなどでの勤務を経てフリーに。マンハッタン在住。
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