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※日経新聞連載
[時事解析]日本の情報機能
(1)安保環境、不透明に 体制整備遅れ 顕著
日本周辺地域の安全保障環境が不透明さを増し国際テロの脅威も増大する中で、政府のインテリジェンス(情報)機能の強化が課題になっている。
一般にインテリジェンス活動は、(1)人的情報を中心とする国外情報(2)信号・通信情報(3)軍事情報(4)偵察衛星による画像情報(5)メディアなどの公開情報――の収集・分析や、外国スパイ対策に分けられる。分野別に専門機関を設け、連携させる「情報コミュニティー」を形成している国が多い。
日本では(2)の一部と(3)を防衛省情報本部、(4)を内閣衛星情報センター、(5)を一般財団法人ラヂオプレスなど、スパイ対策を警察の公安部局と法務省の公安調査庁が担っている。
ただ、(1)の機能を担い、国外に直属担当者を大規模に展開している情報機関はない。昨年、公安調査庁の情報収集に協力していた複数の日本人民間人が、中国当局の締め付け強化のあおりで相次ぎ身柄を拘束・逮捕された。国外での人的情報の収集をいかなる体制で進めるべきかの検討は急務になっている。
インテリジェンス問題に詳しい落合浩太郎・東京工科大教授は最近の論文で、国外情報機関に関して「新設の必要性についての議論は出尽くした感もあり、具体論の段階に入っている」と指摘した。
日本のインテリジェンス機能が立ち遅れている問題は、日本だけの問題ではなくなっている。ある主要国の関係者は「日本に国外情報の専門機関が存在しないことは、他国にとっても情報交換などの面で非常に不都合だ」と語る。
(編集委員 高坂哲郎)
[日経新聞4月12日朝刊P.28]
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(2)幻の構想、実現した機関 成否分けた「時代」
国外で人的情報(ヒューミント)を収集する専門機関としては、米国の中央情報局(CIA)、英国の秘密情報部(SIS、通称MI6)などが知られる。これらの機関との情報交換相手として日本には内閣情報調査室(内調)がある。ただ規模が小さいうえ警察の出先機関という色彩が強く、米CIAや英SISとは性格が大きく異なる。
内調の前身である内閣総理大臣官房調査室の発足に関わった当時の吉田茂首相や緒方竹虎副総理は、同調査室を拡充して「日本版CIA」に育てる構想を持っていたが、実現しなかった。
一方、画像情報(イミント)分野では内閣衛星情報センターが短期間に実現した経緯がある。画像情報では長く米国に依存していたが、1998年8月に北朝鮮が本州越えミサイル実験を実施すると、独自の衛星による探知能力を強めるべきだとの世論が高まる。2001年4月に同センターが発足した。
内調が本格的な国外情報機関になれなかった理由について、社会学者の吉田則昭氏は著書「緒方竹虎とCIA」の中で「最も致命的だったのは、当時の政治状況であり、吉田(茂首相)の政治的求心力の低下であった」と指摘する。戦前に報道統制を担当した緒方に対する戦後の報道各社の警戒は強く、国外情報機関への理解は浸透しなかった。
これに対し、衛星センターが短期間で誕生し得たことは、戦後の国際情勢の変化の中で、自前の情報能力を持つことへの国民の理解が徐々に広がってきたことを示しているようにもみえる。
(編集委員 高坂哲郎)
[日経新聞4月13日朝刊P.26]
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(3)国外・通信の専門機関、焦点 縦割り弊害除去を
日本のインテリジェンス(情報)活動は、あらゆる分野で改善が必要だが、早急に対処すべきなのが「国外情報」と「通信情報」の2分野だろう。
日本政府は、5月開催の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)や、2020年の東京五輪をにらみ、外務省、警察庁、防衛省などのスタッフでつくる「国際テロ情報収集ユニット」を昨年12月に新設した。設置先は外務省だが、事実上の首相官邸直属機関として機能し、テロ関連情報を集める任務を帯びている。
こうした試みが将来、本格的な国外情報の専門機関に発展するかが注目される。
様々な通信などを傍受する信号・通信情報(シギント)機関を増強すべきだとの声もある。
自衛隊が冷戦時代から取り組んできた外国軍などの通信を傍受する活動が「伝統的シギント」だとすれば、テロ組織関係者などのメールやネット閲覧状況の監視は「新型シギント」といえる。米国では国家安全保障局(NSA)、英国では政府通信本部(GCHQ)というように専門機関が担当している。
警察庁出身の茂田忠良・日大教授は「(新型シギントの領域で)優れた能力を持てば、外国機関との情報交換で有利になるし、情報要員の人命損失のリスクも少ない」と指摘する。
今後、国外情報や新型シギントの分野で機関を新設する場合、一つのひな型となりそうなのが内閣衛星情報センターだ。防衛省や警察の出向者らでつくられてはいるが、関係者によると縦割りの弊害が比較的少ないという。
(編集委員 高坂哲郎)
[日経新聞4月14日朝刊P.27]
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(4)政治家の資質も課題 活動監視に不可欠
インテリジェンス(情報)活動は「政権中枢による情報要求→専門機関による情報収集・分析→報告→次なる情報要求…」というサイクルで進む。ある政府関係者は「安全保障政策の司令塔である国家安全保障会議とその事務局の国家安保局の発足後、良いサイクルが回り始め、専門機関も活気づき始めた」と話す。
ただ、先々政権が変わるなどして、流れが変わる可能性もある。過去には非常に大ざっぱな形でしか情報要求ができず、関係者を大いに戸惑わせた首相もいたとされる。
金子将史・PHP総研首席研究員は、共著「インテリジェンスなき国家は滅ぶ」の中で「政治指導者がインテリジェンス・リテラシー(知識)をいかに身につけるかが、わが国最大の課題かもしれない」と指摘した。
米国では、議会の情報特別委員会が政府の情報機関の活動をチェックする役割を担っている。同委員会には情報機関に必要な資料の提出を強制できる強い権限が与えられており、過去にはテロ容疑者収容施設での虐待行為などを明らかにした。
一方、現在の日本の国会には米議会のような強制権限がない。日本の場合、各政党の安保政策の差があまりに大きく、情報漏洩を恐れる政府機関が開示に積極的になれない面もある。英国は、信用できる議員を集めた組織を議会の外に設け、議会への報告の代替策としているとされる。
今後、民主主義国家である日本がインテリジェンス活動を強化する際には、こうした工夫が参考になるだろう。
(編集委員 高坂哲郎)
=この項おわり
[日経新聞4月15日朝刊P.27]
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